34 夜道は危険がいっぱいだった。
祓い屋のお仕事
霊障の本番は夜だ。昼間よりも夜の方が霊障は強まるし、霊の存在は濃くなる。
日の光が霊の存在を拡散してしまうとか、人が寝静まっているから、邪魔をされないからなど諸説があるが。
『人目を気にしなくていいから、のびのびしているだけじゃぞ。』
「へーー。」
と本人から聞かされると自分の知識に不安になってしまうなー。
そんなことを思いつつ、俺たちは夜の街を歩いていた。家畜たちは厩舎へと帰り、ほとんどの家が灯を落としてるからから、昼間とは違って闇そのもの。数メートル先すらも見通せない闇の中を星と月の灯りを頼りにゆっくりと歩く。仕事経験から闇に慣れている俺ですらためらうほどの暗闇。それでもあえて灯はつけず、昼間に確認した足取りで放牧場を巡回していく。
目的は街を脅かしている幽霊の調査だ。
『人っ子一人いない。まさに暗闇じゃのー。』
「そだねー。」
1人と一体、気配を消してそろそろと歩いていく。目的は、この暗闇で悪さをしている何かを見つけ、あわよくば捕獲するためだ。どんな危険があるかわからないからタチアナさんはお留守番です。
『しかし、幽霊、動物の霊とはのうー。』
「そう見せているなにかってことじゃないのー。」
『うむ、おそらくは幻術に長けた魔法使いの仕業じゃ。じゃがそうなると人が倒れたことの説明がつかぬ。』
「そこに呪いの可能性があると?」
歩きながら、話すことは事前に相談していた今回の顛末。話を聞いた限りではその線が一番怪しいと思っている。だが、こんな夜道でわざわざそんなことをする輩がいるだろうか?
『魔法使いでなく魔道具の可能性もある。それとなくみせ、近づいたら呪いに触れてしまう。そのくらいならば、痕跡を隠すのは容易い。』
とのことだった。なので、この時間に出歩いても犯人と遭遇する可能性は限りなく低い。遭遇したとして。
『おったぞ。あれじゃな。』
「おお、まじかー。」
そんなことを考えていたエミリーから警告があり、あっさり遭遇してしまった。
『LA.ラー。RA。』
歌のような何かを口ずさむ白い人影とそれを取り囲む無数の白い塊。目を凝らしてみるとそれが羊の群れだと分かる。他に光源がない夜道を歩くそれは、白く輝きある種の神々しさすら感じる見た目だが。それを目にした瞬間、霊障に似た不快感を感じる。
間違いない、あれは霊だ。
「動物の霊じゃないな。アレはアレで一つの霊だねー。」
『なるほど、生前は優れた羊飼いといったところじゃろうか。』
霊の姿とは生前の記憶に由来する。例えば、傭兵ならば自分の顔よりも装備がしっかりと描写されることが多いし、女性の方が顔や手足がはっきりとしていることが多い。ほとんどが希薄でぼんやりとしたものだが、それが霊の生前の姿を探るヒントにはなる。
ならば、優れた羊飼いの霊の周りに、羊の幻影が見えるのも不思議ではない。同時にあれだけはっきりと見えれば、危険な霊であることも分かってしまう。
「とりあえず、捕まえるかー。」
『はっ、お主、マジで行っておるのか。』
驚くエミリーを無視して、魔力広げて羊の群れを包み込む。逃がさないように、被害を広げないように厚みのある魔力の壁で包み込み、それを縮めていく。
「ぎ、ぎぎぎぎ」
「ぎゃあああ。」
魔力を察知したのか、羊飼いや羊たちが騒ぎ出し、霊障が噴き出すが、リムーブで囲っているので被害はない。そのままゆっくりと押し込んでいく。
ただの霊ならば、このまま消えて終わる。
「ぎぎぎ、きさまーーーー。」
呪いならば化けの皮がはがれる。結果としては後者となった。
『羊を連れたヤギ頭。なるほどおとぎ話になぞらえてゆがめられたのじゃな。』
「どういうことー。」
『もともとはただの霊、あるいは真面目な羊飼いの霊だったのじゃろう。じゃが、生前か、それとも死後に思想をゆがめられて、呪いをふりまく悪霊に改造されたんじゃ。』
こちらを睨むヤギ頭の羊飼いを前に、エミリーの解説は続いた。
『霊とは希薄な存在じゃ、それゆえに外部の影響を受けたり、他の霊に取り込まれたりもする。それは知っておるな。』
「そうだねー、どちらかというと、融合して巨大化しているイメージがあるけどー。」
『あまり変わらないな。融合するのもされるのも意志の弱い存在じゃ。じゃが、呪いというのは、霊の意志に関係なくその形を変えてしまうのじゃ。』
「じゃあ、あれも呪いの一種ってこと?」
『そうじゃな。呪いの目的は痕跡の残らない嫌がらせと、マッチポンプのためのパフォーマンスだからな、あのように見た目をいじったものもいるということじゃ。』
「奥深いねー。」
まるで昔話にでてくる悪い魔法使いじゃないか。死人とはいえ、人間を材料にする手法は好きになれないな。
「は、はなーせー。」
ガチャガチャと身体を震わせて声を上げる羊飼い。リムーブによって追い込まれたことで、羊は解けて下半身はスライムのようにドロドロしたものになっている。それでも上半身は人のそれで、頭はヤギのそれだ。
ここに至っては、俺にできることはひと思いに消し去ることだけだ。俺は手を前に出して、握りつぶすイメージを強くする。
「リムーブ」
そのまま圧縮された魔力により、羊飼いの存在は、そのかけらも残さず消え去った。
『憐れじゃのー。死してなお身体を弄ばれる。そうなることをわかっていても縋らずにはいられなかったんじゃろうか。』
なんかエミリーが言っていたが、どうでもいい。俺は祓い屋で、祓い屋の仕事は霊を祓うこと。それ以上の感情をもつのは、ろくな結果にならない。
「それに、これで解決ってわけではなさそうだしねー。」
『そうじゃのー。呪いの核がどこかにあるはずじゃ。おそらくはこの近くに。』
あれだけ強力な霊ならば、それを作り出す何かがあったはずだ。というか、霊が消えたのに霊障が残っている。その痕跡を追っていけば、放牧場の真ん中に、掘り返されたような跡があった。何かが埋められているのは間違いない。
『ここじゃな。それ。』
掘り出す作業はエミリー乃さんの魔法でちゃちゃっと済んだ。ただ、出てきたものは胸糞悪いモノで、正直、今日一番の恐怖だった。
「人?」
『いや、人形じゃ。悪趣味じゃのー。』
土から出てきたのはリアルな人形だった。サイズは子ども程度であるが、土だらけの服についた手足は指の形がはっきりしていたし、頭はヤギそっくりなもの。いや、これヤギの頭に関しては本物じゃない?
『あんまり気持ちの良いいものじゃないのー。』
「続きは明日にしよう。」
これに何の意味があるのかは知らない。ただ、今日の活動をここまでにしようと思えるぐらい気持ち悪いものだった。暗闇でぼんやりとしかわからないのに、伝わってくるそのリアルさがなんとも言えない。
「リムーブ」
そこにある気持ち悪さを祓うためにリムーブをたたきつけ、ただの人形になったそれを持ち帰ることにした。
詳しい検証は明日、明るくなってからにしよう。
スカル 「後味の悪いことで。」
エミリー『あの国の連中はマジで最低じゃからな。』




