32 ご当地グルメを食べたいのに、食べれないことほど悲しい事はない。
次のステージは、農場です。
のんびりとした旅路の先、たどり着いたその街は人よりも動物が多かった。
「すごい数ですねー。」
「オフツァーは、王国でも随一の酪農地域ですから。味も量も他とは比べられませんよ。」
確かに規模がすごい。どこまでの続いていそうな囲いによって仕切られた牧草地には、馬や鶏、牛や豚などが放牧されている。が、一番目立つのは白っぽい生き物の群れだった。まるで巨大な生き物のように群がっている4足歩行の生き物は片方は、モコモコの毛皮をもち、もう片方はシュっとした体毛をしている白い生き物たちはポツンと生えた低木によじ登り、まるで果物のように見えた。それが羊とヤギの群れだとは事前に聞いていたが、
「どっちが羊で、どっちがヤギだっけ?」
そもそも羊とヤギの違いがわからない。 目に見える羊の群れを前に俺はそんな疑問が浮かんだ。
『うむ、まずわかりやすいところとしては、毛の質じゃな、羊は全体にモコモコしているが、ヤギは短くまっすぐなものが多い。それと羊は草しか食べないが、ヤギは雑食じゃ。』
「なるほどー?」
『その食性の違いからか、肉や乳に関してはヤギのほうがたくさん採れる。対して羊は毛がたくさん採れるし、何より大人しい。』
「大人しい?」
『そうじゃ、ヤギはあれでなかなかに狂暴で俊敏でな、脱走することもあれば人の食べ物だって漁ろうとする、対して羊は臆病でな、餌と安全が確保されるとその場にい尽くし、餌を与える人間には懐くと聞く。』
「へー。」
『そもそもヤギは山で暮らす生き物ではな、切り立った岩肌などを飛び回り、生きていたものを、人間が家畜化したのじゃ。羊に関しても動揺じゃが、羊は」
「で、味は―。」
『お主・・・。』
いや、だって重要じゃないか。
「ええっと、街の特産はヤギのミルクで作ったバターですね。量は作れない代わりに牛のものよりもクリーミーな味で料理と合うそうです。アッ羊のバターも濃厚ですね。」
「それは楽しみだ―。」
ぜひとも食べ比べたい。なんなら牛のバターやチーズもきっとおいしいだろう。
『ちなみに、チーズはある時期までは、子羊の内臓を使って作られておってな。別の製法が見つかるまでは地元の人間しかた食べられない高級品であったそうだ。』
「ええ、旅のお供のチーズが。」
『そうじゃ。チーズを作るために子羊を殺し、その魂を使って作ると言われていたそうじゃ。実際は、子羊の身体に含まれる成分が、乳を変化させるだけじゃがな。』
「それは、初めて知りました。」
『そうじゃろうな。わっちにとっても昔話レベルの話じゃ。ちなみに今は。』
「はいはい、またあとでねー。」
門が近づくのでエミリーにはいったん黙ってもらう。言うまでもないが、他の人間には見えないように配慮するように説得はしてあるので、ふざけることはないだろう。
そんなことよりもチーズやバター、それに新鮮な肉だ。どんな依頼があるにせよ、腹が減ってはなんとやらだ。まずは食事を楽しみたい。
そう思っていたのだが。
「申し訳ありません。実はチーズは品切れでして。」
「ええーー。」
タチアナさんの知り合いという酪農家兼料理屋を訪ねた俺たちを待っていたのは、申し訳なさそうな顔で謝る中年夫婦だった。いかにも農家ですといった素朴なお二人なのだが、その表情が暗い
「デニスさん、イリーナさん。どういうことですか。一か月前は豊作になりそうだって。」
「タチアナさん・・・。すまないねー。せっかっくきていただいたのに。」
そう言って申し訳なさそうに首をふり、事情を話してくれた。
「実は、半年ほど前からこの街で幽霊騒ぎが続いていてね。ここ最近は人が倒れるぐらいひどくなっているんだ。」
「最初は、夜に見知らぬ人影を見たとか、家畜が怯えている程度で誰もきにしてなかったんだけど、だんだんと目撃者が増えて、中には体調を崩すものまででてきた。」
「でも、一か月前はそんな雰囲気じゃ。」
そういえば、タチアナさんが俺こと祓い屋を探す旅に出たのはそのくらいだった。もしかすると個々の噂を確かめる意味もあったのかもしれない。
「いや、それこそよ。その人に知られるのはねー。」
「ごめんなさい、できる限り内々に片づけようという話があって、相談できなかったんだよ。その時はまだ売り物も残っていたしね。」
ということらしい。まあ、幽霊だ、霊障だと騒がれていい気分にはならないだろうし、余所に知られたくないという気持ちもわかる。
「それで、商品がないというのはー。」
「ここ二週間ぐらいかね。家畜たちが何かに怯えるようになってしまって、乳がでなくなってしまったんだよ。うちは乳製品を取り扱う店だから、乳がなければ商売にならないってわけだ。」
「それは大変ですねー。」
大問題だ。すぐに何とかしないといけない問題だ。とりあえず。
『うむ、家畜の乳がでないというのは、餌がなくなったか、何かに怯えているかのどちらかじゃな。状況をみるに後者じゃろう。』
「え、それって。」
「お二人は、家畜の変化と霊の騒ぎが関係しているとー?」
「は、はあ。そうかもしれない程度には。」
「そうですかー。」
あぶねえー。
交渉はタチアナさんに任せようと思っていったが、俺は一歩前にでて夫婦に微笑んだ。
「それならお力になれるかもしれません。旅の傭兵ですが、霊を祓うのは得意でして。」
「そうなんですか。」
「ねー、タチアナさん。」
いきなり出てきた俺に不審な目を向ける主人を信用させるために、タチアナさんに水を向ける。事前の打ち合わせとは違う段取りになってしまい、しばしきょとんとした反応をされるが、彼女も気づいたらしく慌ててうなづいた。
「は、はい。このかた、スカルさんの腕前は父も認めています。紹介状もここに。」
「ロッド様がお認めに。」
「いろいろとありましてー。」
そのまま紹介状を見せて、確認してもらう。
その裏で、エミリーはタチアナさんに悪戯っぽく微笑んでいた。
『娘っ子よ、気をつけろ。わっちの姿と声は主らにしか届いておらん。不用意に会話すると疑われるぞ。こやつのように適当に聞き流せ、わっちも慣れとる。』
「は、。」
はいと返事をしようとして慌てて口を塞ぐタチアナさん。幸いなことにその姿は見られなかったが、慣れるまではもうしばらくかかりそうだ。
スカル 「羊と言えば、ジンギスカン。」
エミリー『ヤギは紙を食べるというが、あれは天然素材限定じゃぞ。』
次回、「羊は夢を見ない。」動物の霊感ってどうなんでしょうね?人よりも強そうなイメージ




