間にて
衛兵に先導され、三名は採掘地区に足を踏み入れた。
山の根元に並んだいくつもの、坑道への入り口。
トロッコを押す坑夫、鋤で鉱石をかき集めて次の工程へ割り振る労働者、ゴザの上で鉱石を選り分け積み上げる選鉱婦、入り口脇に山と積まれた鉱石を背負いカゴで運ぶ人足、梁や枠脚をこしらえる大工、皆が機械の部品のように働いていた。
だが、鉱石の山の一つに人だかりができていた。働く手を止めて人の輪を囲む人の輪。その重なりを衛兵たちが押しのける。
そこにあるのは、にぶく輝く鉱石の山──から覗く、人間の顔だった。
表情に生気なく、顔色に血色なく、鉱石に押されて軽く噛み締められた顎にしっかと閉じられた目。
そのような男の顔が、鉱石の山の中にあって鉱石の一つであるかのようなさり気なさで混入し、姿をさらしていた。
「はい、あの、山をちょっと崩しちまったら出てきて……」
そばでは第一発見者と思われる労働者に衛兵が聞き込みをしている。
心底まいったという表情で頭をかきながら証言している様子を見るに、埋まっていた死体を偶然、掘り起こしてしまったのだろう。
「導師殿をお連れしました」
聞き込みをしていた衛兵に敬礼が向けられる。
彼は「ああ、ご苦労」とだけ応えると、ついてきた三人の方を見た。
当然、違和を覚えないはずはない。やってきた衛兵にひとまず聞き込みを交代すると、顔をしかめながら歩み寄る。
「導師殿、これは一体? 確かにお呼びつけはしましたが」
そこまで言ったところで、言葉が止まった。
アイランが帽子のつばをつまんで一礼し、薔薇の紋章を見せたからである。
「はじめましてぇ、アイラン・ヘルゼンデルと申しますわぁ。後ろのでっかいのはバケツのデイジー」
そして、猫なで声を一撃。
冷や汗を垂らす相手にずいと体を寄せ、無理やり握手をして二撃。
それですっかり、主導権は彼女が掌握してしまった。
「わたくしたち、シヤナ導師様のお手伝いをするよう協会長様に仰せつかってますの」
離した手を肩に回し、体を密着させて耳元でささやく。
取り囲む人の輪が一瞬ざわついたが、衛兵たちによって制された。
「だ・か・らぁ、あなた方に協力してあげても、よくってよ?」
衛兵がシヤナ導師に目配せすると、彼は小さく頷いた。
その様子をアイランもしかと観察しており、頷きにあわせて猫のように速やかに離れる。
まるで体を寄せていた時間など存在しなかったかのように。
それで、衛兵もようやく正気と現実の感覚を取り戻したようだった。
「わ、わかった、協力に感謝する。いや正直なところ我々も手詰まりの状態で……」
汗を袖で拭う彼の前を通り過ぎて、死体の方へ歩く。
屈み込んで、鉱石の山に埋もれる顔をまずは覗き込んだ。
その隣に、シヤナ導師が座り込んだ。
「すでに七人目です」
鉱石の山に手を置く。
「この二十日間で七人、殺められました。一体なにが起きているのか、誰もわかりません。わたくしもただ魂の痕跡を見て『何もありません』と告げるばかりです」
「七人ねぇ、これだけ人口があればそれぐらい殺されたりは普通にあるんじゃなぁい?」
「いえ……亡くなっているのは皆、聖職者です。天核教、カーギ・カリン、ドライード、ヤザレの拝火教、様々な立場の者が……」
少し間を置いて振り向き、衛兵に向かって「何もありません。遺体をお運びしますのでご協力を」と告げる。
衛兵たちが一歩前へ進み出るが、その歩みは一歩でとどまった。"兵の魔女"が「まだよ」と遮ったからである。
「そこのあなた」
そして、指差した。
第一発見者だった労働者の男を。
彼は頓狂な表情で自分を指差したが「そ、あなたよ」と続き、手招きされたことで「はぁ」と呆けたまま衛兵たちより前に出た。
「この死体、どんなふうに見つけた? 何があって見つけたのか、状況を順番に話してちょうだい」
「え、あぁ、30分ぐれー前に、俺ぁ押木を運んでたんだけどよ、その端っこが山にぶちかってちょいと崩れたんだ。この山ぁ全部崩れったらえっらい危ねぇーんで、回り込んで見てみたら、顔がこのまんまで埋まってて、俺ぁおったまげて叫んじまった」
「はい、ありがとぉう」
にっこりと微笑み、男を抱き寄せて頬に口付ける。
顔を離した時は驚いて固まっていたが、美人から突然キスをされたことを理解するととろけたように表情も緩んだ。
そのまま放心しかけるが、当の魔女本人に微笑まれたまま突き飛ばされたことで、気を取り直す。
それでも不機嫌になることはなく、キスされた頬を手で慈しむようにさすりながら立ち上がって後ろに下がっていった。
無論、衛兵の一人がそばに張ってはいるが。
「この鉱石の山を管理してる現場責任者!」
次は周囲に向けて大声を張り上げる。
一度だけでなく、二度も。さらに「いるんでしょう!」と続けたところ、人だかりの中からひとつ手が挙がった。
「デイジー、連れてきて」
「んあ? あい」
デイジーがその巨体と巨木のような腕を差し込んで人波を割り、手を挙げた者を連行する。
と、いうより引っ張り出す。
よろけながら引き出されたのは、さきほどの労働者とさほど風体も変わらない、中年の男だった。
「あなたがこれの管理者?」
「ああ、そうだ」
少し機嫌が悪そうなのは、威厳を見せつけようとしているのだろう。
女相手にだらしない態度を取らないよう、己に戒めている、という格好つけがありありとアイランには嗅ぎとれた。
「この山っていつからこの状態なのぉ? 最後に空にしたり、入れ替えたのはいつかしらぁ?」
そういう相手には殊更に挑発的になりたくなってしまう。
抑えようとしても抑えきれない、煽るような楽しげな口調に自然となってしまう。
そしてそんな様子を、この中年の男は今度こそ不快に思ったようだった。
「おい、あんたなんなんだ? 俺たちはさっさと仕事を済ませたいんだ。調べるのなんざ後でいくらでもやっていいから早いとこ死体を片付けてくれ! ただでさえ今日は──」
彼の言葉が途切れたのは、アイランが抑えたからだ。
それも、手で、強引に、顔の下半分を鷲掴みにして塞いだのだ。
潰すような絞めつけはしなかったが、大の男の力でも跳ね除けられないほどの力を以って掌を押し付けてのけ反らせていた。
さすがに止めに入ろうとする衛兵もいたが、"兵の魔女"は指を一本立ててそれを制した。
害意はなく、すぐに済む、と。
「わたくしたちは魔女協会、ついさっき、衛兵の皆さんに捜査協力する立場となりました。よって、非協力的な捜査妨害は謹んでいただくようお願いします。もし捜査協力によってあなたたちに経済的損失が発生するようなら、その補填は魔女協会の方でさせていただきます」
「よろしいかしら?」と結んで鋭い牙を見せつけるように笑むと、男はこくこくと首を縦に振った。
「ご協力、感謝いたしますわぁ」
手を離すと、中年の男は後ずさりながら息を大きく吸い込んだ。
後ずさる動きはよろける動きにつながり、そのまま両膝に手をついて荒く息をつく。
その様をただ、アイランは見下ろしていた。にこやかで柔らかい笑みをたたえながら。
「はぁっ、はぁっ、その、山は、昨日の昼過ぎに、積み始めたもの、だ」
途切れながらの証言が絞り出される。
「それ以前は?」
「昼前に、一度空にした。確かだ、坑道を広げる作業をしたから……その間に背負子人足に全部運ばせた」
「今の半分ぐらいの大きさの山になるのに、どれぐらいかかったかはわかるかしらぁ?」
「昨日の夕方、仕事上がりの時だ。積んだまま、放っといてあったはず」
「ふぅ〜〜〜ん」
わざとらしく口に指を当てながらそっぽを向き、再び死体の顔を覗き込む。
シヤナ導師の言葉通りなら、この死体もおそらくいずれかの聖職者だろう。
「まっ、いいわ。死体を運びましょ。どのみち山を崩さないと運べないでしょうし、デイジー! 皆さんとシヤナ導師を手伝って死体を収容しておきなさい」
立ち上がり、デイジーにそう命令しながら歩き出す。
どこへ向かうともなく、人の輪を断ち割りながら。
「んぇ? 魔女さまぁ、どこ行くんだぁ?」
「帰るのよ。まだ荷ほどきだってしてないんだから!」
それきり、どこかへ去って行ってしまった。
ほぼ同時に衛兵が呼びかけて、労働者たちが鉱石の山を上から少しずつ崩し始める。
デイジーは少し釈然としないまま、命令には従った。
その巨躯と馬鹿力で山を崩せば、あっという間に鉱石の山は形を失っていく。
あまりの早さと力に、労働者たちはぽかんと感心するばかりで、一つにまとまっていた魔石鉱が次々とそこらじゅうに散らばっていく。
そうして、1時間はかかるはずだった鉱石山を崩す作業は10分程度で完了してしまった。
本来ならばデイジーの活躍が賞賛されるところではあるが、全員がそれどころではなかった。
「うっ」
「こいつは……」
「ムげぇ……」
山を散らしたことで、死体が露わになったからである。
その死体は、四肢と首が切断され、腹部がぐしゃぐしゃに潰されていた。
内臓と肉片と骨片と千切れた皮膚がかき混ぜられたモノが胴体部に置かれているという状態で、周辺の鉱石にも血と肉片が付着しているほどだった。
これらのうちの頭部だけが、山が少し崩れた時に露出したのだろう。
衣服の残骸が四肢と胴体部に少しだけ残っているが、血に汚れ、鉱石に擦り切られて、まさに残骸という言葉に適した状態である。
顔はそのままで残っているため身元はわかるだろうが、あまりに凄惨な光景に労働者たちどころか衛兵たちまで顔をしかめた。
中には人の輪から外れて嘔吐する者までいる。このような仕業、とてもまともな人間の所業とは思われなかった。
「では、失礼いたします」
だが無明派の導師にかかれば、全ての光景は「見えていない景色」でしかない。
一切躊躇することなくシヤナ導師は歩み出ると、ぐちゃぐちゃに撹拌された胴体部の塊に素手で触れる。
そのそばにバケツが置かれると、彼は両手で人間のジャムを切り分け、すくい上げ、入れた。
バケツはデイジーがそこに置いたもので、デイジーも手足を拾うと同じようにバケツの中に突き立てるように入れていく。
淡々と二人がそうするのを見て、また新たに体の奥底から込み上げてくる者たちもいた。
ざわつく者はおらず、周辺は静けさに包まれていたが、その静寂がむしろ人々の心情を言葉以上によく表していた。
「こんなところでよいでしょう。では、皆様、これにて失礼いたします」
最後に残った頭を持って、深々と頭を下げる。
そして、いつもと変わらぬ歩調で歩んだ。買い物を済ませて帰るかのような足取りで。
その後ろを、バケツを持ったデイジーがついていく。
数名の衛兵も慌てて後を追って行った。
その様を、全員が呆気に取られながら見送っていた。
「なぁなぁ導師さまぁ」
少し進んだところで、デイジーがシヤナ導師に話しかけた。
小脇に死体の頭を抱え、もう片手で杖を操りながら彼は「なんでしょうか?」と応える。
「この死体、どうすんだぁ?」
バケツを掲げてみせる。無論、その中の人間だったものをも。
「ああ、それは──」
「検視して領主様に報告する。ひとまずは、無明派の宿舎でな」
「んえぇ?」
代わりに衛兵が答えたが、デイジーは率直に疑問を抱いた。
そしてそれを心のうちに留めておけるような器用さは、彼女には無いのであった。
「どぉーして家に運ぶんだぁ? 魔女さまんとこじゃあ、死体は処理場とかお医者んとこに運んでたぞお?」
「それは……」
難しい顔をして口ごもる衛兵。
何か言いづらいようだったが、それを察するデイジーでもない。
「なぁなぁなぁ、どーして?」と体を揺すりながら衛兵に詰め寄る。
体を揺する度にバケツからこぼれた血が衛兵の服にかかり、彼はますますこらえるように逃げるように表情を歪ませた。
「それは、我々が唯一の中立であるからです」
見かねたのか──見えはしないのだが──シヤナ導師が口を開く。
「この町には医療所も遺体安置所も墓地もあります、しかし、いずれも何らかの宗教組織が取り仕切っているのです。それ故に、この事件に於いては、それらを軽々しく利用できぬのです。せめて遺体の身元を特定するまでは」
「なぁーんでだぁ?」
「なんで、でしょうかね」
しみじみとつぶやくような言葉だった。
「まあ、すぐお目にかけられると思います」
そう告げた時、ちょうど無明派の寄宿舎まで帰ってきた。
門の前では既に数名の僧侶が待っており、シヤナ導師と互いに無言の礼を交わし合うと、粛々と中へ誘う。
そこでは、既に検視の準備が整っているようだった。
物置収納用の木箱の上に戸板を乗せた簡易手術台に、解体のための様々な道具。
切り分けた部位を乗せる海銀製の皿も重ねて置かれており、ボロ布と手袋も大量に積まれてあった。
奥まったところでは掃除が難しくなるので、入ってすぐの広間で処置するのだろう。
ポールをかき分けたど真ん中で、待ち構えるかのように鎮座していた。
「やっ」
そしてそれらに囲まれて、アイランが寝そべっていた。
簡易手術台の上で、待ちぼうけていたように、手を挙げて一同を迎えたのだ。
「魔女さまぁ」
「検視を始める前に、一言言っておくわ」
体を起こし、手術台の上に座る。
両足をぷらぷらと投げ出しながら身を乗り出して話す様は少女のようであった。
「犯人は恐らく、あの場にいた」
一瞬、凍りつく。
戦慄したのではない。
言葉の意味を理解できなかったのだ。
「あの場に、いた。とは?」
その場で最初に訊ねたのは、衛兵だった。
「まだいるかもね〜。もしどんくさいヤツだったら、今から非常線張って怪しいのを100人ばかり捕まえておけば、その中にいるかも」
「今……? その、あそこに、まさについさっき、あの現場にいた、ということか!? 見たのか!?」
「見た……かも? まだはっきりはしてないわぁ」
「どういうことだ!?」
声を荒げながらも、ペースは完全に"兵の魔女"にあった。
彼女はにぃっと攻撃的な笑みを浴びせると、楽しげに話し始めるのだった。
大好きな趣味の話を得意げに披露するかのように。
「だぁって、変だと思わなぁい? あの死体は血色や腐敗の状態から言って、昨日の夜殺されたものだわ。殺されて、処理されて、鉱石の山の中に埋められた。なんのため?」
「それは、死体を隠すためだろう」
「でも死体はすぐに見つかった。それに、夜の間に半分の大きさの山に埋めて、次の日には倍の大きさの山になったのに、木材がちょっとぶつかって崩れた程度で露出した。つまり、初めからかなり浅めの場所に埋めてある」
「死体は、発見されるように埋めてあったということですか」
シヤナ導師も口を挟む。
衛兵、シヤナ導師、デイジー、今や全員がアイランを注視していた。
「ですが何故?」
「そぉんなのいっちばん簡単よ。死体を見つけて、私たちは何をした?」
「何をって、死体を掘り起こして、回収しただろう」
「それだけじゃないでしょう? はいはい、もっと細かく思い出してはいはい!」
軽快に手を打ち鳴らして三人に促す。
遊びのようなその態度に衛兵は不快感を覚え、シヤナ導師は困ったように口を閉じ、デイジーはただ素直だった。
「人がぁ、いっぱいいたぞぉ。みんな死体とか、魔女さまをずっと見てた」
そのような彼女だからこそ、言葉の中身も素直なものだった。
衛兵が無言のまま呆れの表情を浮かべかけたが、アイランは舌をちらつかせながら笑った。
「そぉよデイジー、それが一番大事。死体を見つけて、人だかりができた。あの場に一体何人集まった? 100人? 200人? その状況こそ犯人が求めたモノ。そしてその状況が求めたモノであるならば! 犯人は間違いなくあの場にいた」
「バカな、他の可能性もあるはずだ。犯人に何か意図があるならば、死体や魔鉱石とか、現場にあるものが目的な可能性もあるし、怨恨や物取りの線もある」
「もしそうなら、昨日のうちに目的は遂げられるはずよ。犯人は少なくとも死体をめちゃくちゃにできるぐらいの時間的猶予はあったんだからぁ。でも、わざわざ人を殺し、死体を埋めて、見つけさせた。怨恨の線で死体を辱めた上で衆目にさらすっていうのはアリっちゃアリだけど、それなら死体は埋めて隠さない。堂々と道端に置いておくはず」
「捜査の撹乱を狙った可能性もある! 実際、そういう犯行は過去にもあった」
「ならぐっちゃぐちゃにすべきは腹じゃなくて顔よねぇ? あの殺人は隠すためにやったんじゃなく、隠さないためにやったのよぅ」
「なるほど、つまりは──」
シヤナ導師が杖を置いて、死体の頭を両手で持つ。
自分と向き合わせるように、それでも四つの目は閉じたままに。
「──犯人は、あの場で『何か』をしたのだ、と」
アイランはうなずいて、手術台から飛び降りる。
「何をしたのかはわからないわぁ。私を警戒して行動を控える可能性があったからその場を離れて遠くから観察してみたけど、怪しいのが5人ぐらいいて特定できなかったのよねー」
「そ、それを早く言え! おい! 残って検視を報告するんだぞ!」
「はっ!」
衛兵は部下に指図しながら外へ駆け出した。
今から、あの現場周辺を洗うつもりだろう。
もっとも──
「──んまっ、間に合わないでしょーけどねー」
目を閉じて肩をすくめる。
この殺人はかなり計画的だ。
であるならば、目的を遂げる手順も、完了し次第逃げる手はずも入念に準備してある可能性が非常に高い。
"兵の魔女"が現場に到着した時点ではもう全てが完了し撤収済みだった可能性すらある。
相当運が良ければ犯人を絡め取ることができるだろうが、あてにはできない。
だからアイランは見つけた怪しい者たちを追跡も捕獲もしなかったのだ。決定打がないままいたずらに動くのは、連衡にとって有利であり魔女協会には不利だ。
「とりあえず、今のところは以上よ。じゃっ、続けて?」
横に身を引いて仰々しく道を譲る。
簡易手術台の前を空けると、シヤナ導師──よりも先にデイジーがずんずんと歩み出た。
彼女はバケツを手術台の上に力強く据え置くと、左袖をまくる。
その動きは淀みなく、普段のにぶさは全く表れていない。
まるで熟練の職人のように、自信に満ち溢れ、また、なんでもない日常茶飯事であるかのようだった。
「"バケツのデイジー"、ようやく本領ね」
横で楽しげな声をあげる"兵の魔女"をよそに、まくった左腕の手首を右手で掴む。
そのまま左手の指を猛禽のように折り曲げた瞬間──
──指の根元の間から、血濡れた刃が伸び出でた。




