軍の魔女15
会議室の喧騒は廊下にまで響いていた。
やや手狭な部屋に詰めかけた大勢は、円卓の外側で常に何かをまくし立てていた。
卓についているのは各部門の責任者たちだが、今回は空席が目立った。
詰めかけている大勢も、いつもより人数は少ないはずであるのに、騒がしさは日常の数倍でもきかないほどだった。
そして皆が、上座につくヘリルメリアを注視していた。
彼女は卓の上に置いた手を組んだまま、目をつぶってじっと沈黙を守っていた。
そうやって話を聞いているのならばまだしも、この状態は既に10分は続いているのだ。
全員が焦れ、しびれを切らしていた。注がれる視線も言葉も、時間とともに激しくなっていった。
「諸君」
ヘリルメリアが、ようやく沈黙を破り小さく手を上げる。
彼女を注視していた全員が言葉を切り、動向に注目した。
その静寂こそ、彼女が欲したものだった。
焦れさせて自分に注目を集め、自分の言葉を聞く気にさせたのだ。
「一つずつ、片付けていこうではないか」
なだめるように、それでいて力のこもった声を部屋中に響かせる。
「ヤイレマック!」
そして、しんと静まり返ったのを見計らって、やにわに名前を呼んだ。
呼ばれた者はびくりと体を震わせたが、数秒後には先ほどまで自分がまくし立てていたことをそのままもう一度、ただし静かに話し始めた。
「地震で、居住区が崩れてしまって。寝床が足りねえんです。わしら男は身を寄せ合って何とか眠れますが、身重の女や子供らと年寄りには、あったかい寝床がねぇと」
ヤイレマックは避難民らの代表である。
近隣の村民は冬の間だけダグナマンバ大要塞に住むのだが、避難民という言葉で表しきれぬほど彼らの存在は重要だ。
春や夏の間は兵士が行なっていた雑役や農場労務を、冬の間は彼らが行うからである。
「すまんが居住区の再建は後回しにせざるを得ん。じゃが、第三郭部の四番食堂と第二・第三会議室を一時的な仮住まいとせよ。毛布の備蓄は?」
「4000名分予備があります」
ヘリルメリアの問いには、サイラスが即座に答えをもたらした。
それに基づき、司令官は決断を下す。
「よし、200人分を支給する。それで足りるか?」
「へえ、その、足りてはいませんが……」
「それで我慢してもらう他ない。予備の毛布はもともと病人やケガ人用じゃからな! 次!」
それで打ち切り、次の名前を呼ぶ。
すると、その者が続いて発言した。
「大壁の修復資材と人手が足りません! 夜の冷え込みの中では作業も出来ませんし、このままじゃ明日の攻勢までに間に合いませんよ!」
「資材は本丸の南側を切り崩してそれに充てよ。大壁の崩落部分は攻勢の間じゅう油火で燃やし、火矢とサティラッチャを集中して重点的に守れ。そうして攻撃を弾いた隙に少しずつ直していくのじゃ」
「そうなりますと投擲隊の油火投擲ができなくなりますが」
「致し方あるまい。大壁の修復が終わるまでは、投擲兵を全員修復に回す。次!」
「兵舎区画も被害を受けてる。地震による崩落もそうだが、あの、あー、なんだ、氷のうねうねが落ちてきて、第七区画は完全に使い物にならん。外に近い区画だったから、再建も春までは……」
「第四郭部の各トーチカの外側を土で固めて防寒性能を高めるのじゃ、それで300人分程度の春までの住まいにはなろう。さらに西の砦にも兵員を分散せよ。それらの指揮はスライセン、ハロ=マイヴ、ディトックウィゼルフ、モンに執らせよ。次!」
「医療物資が足りませぬ。薬も人手も、病床すら足りぬ状態で、救護所は限界を超えているとのこと」
「軍議が終わり次第、残った会議室全てと応接室を緊急の救護所とする。ムシロと予備の毛布を好きなだけ使ってよいから、それで緊急の病床を作るのじゃ。人手は、少しでも医療の経験がある者を兵と民から募る他あるまい。布切れを絞って病人の額に置いたことがあるだけの者すら、今は使わねばならぬ。とにかく人数を集めて、適した労務を割り振ることで専門家連中の負担を少しでも減らすのじゃ。労務の割り振りと追加人員の管理はセレンダ、ノーグリア、そしてサイラス、お前に頼む」
「それはよいのですが、薬や包帯はいかがいたしましょう」
「情けないが工夫を凝らし、節約せよ、としか言えぬ。外部からの補給は雪と寒さのせいで困難を極めようし、コー・ナイルからの運搬に成功したとして、届くのは少なくとも一ヶ月は先じゃ。次!」
「連絡通路と大壁への地下道が地震のせいでまずいことになってる。大部分が崩れて、完全に埋まった地下道もあるんだ。これじゃ大壁への展開速度に支障が出るし、何より東西の砦が維持できなくなる」
「東西の砦への連絡通路は地上の一本を重点的に修復せよ。資材が足りなくば空中通路を壊しても構わん。大壁の地下道はひとまず被害の少ない"エイダ"、"カルート"、"モニカ"、"ヴェス"、"ジェニー"の確保に注力し、他はひとまず捨て置け。柱と梁を増やして補強するんじゃ」
「木が足りませんぜ司令官」
「崩れた篝火台や櫓の廃材を再利用せよ。それでも足りなくば食堂の床板を剥がせ! 次!」
次々とぶつけられる問題を御免とばかりに斬り捨ててゆく。
問題の多くは、皮肉なことに氷の触手よりも地震によってもたらされたものだった。
大要塞の施設全体が大きなダメージを受け、本丸の人員にも多くの負傷者が出たのである。
本丸は前線への火力支援と、兵站・医療等の後方支援が主であり、本丸の人員が不足すると軍の機能そのものに支障が出る。
更には、地震による崩落は通路を塞ぎ、蜘蛛の巣状の緻密な連絡網と交通を寸断した。
迂回路を設定したところで、人の流れが局所的に集中して混雑する地点がどうしても出て来てしまう。
それぞれの持ち場への移動にも時間がかかるようになれば、緊急時の配備すらまともに行えなくなるだろう。
生活圏も半分以上が倒壊し、兵や民の生活の質は大幅に低下することになる。
汚損された物資も数多い。武具や油、食料に医療物資、衣服や寝床や建材まで、あらゆる種類の物資が大なり小なり失われた。
しかし、ダグナマンバにとって最も深刻な事態は、それらのどれでもなかった
「レレザル」
ヘリルメリアがついにその名を呼ばわる。
普段、軍議に参加しないレレザルの姿が、円卓の席の上にあった。
呼びかけられ、かすかに顔を上げてヘリルメリアの顔を見るが、結局口を開くのは彼本人ではなく後ろに控える部下であった。
彼は手元に太い木簡を携え、それに視線を落としながら話し始めた。
「パイプが200ヶ所破断しています。しかも、まだ全部調べられていないので、まだまだ増えます」
単刀直入に、そして簡潔に、彼は述べた。
「第五郭部の保温パイプと融雪パイプはほとんどやられました。破断箇所から外の冷気が侵入し、凍結して、中の湯がどんどん凍りついたせいです。供給を止めて水抜きをしたので機関は凍らず済みましたが、加熱を止めたので凍結範囲は広がりました。しかし機関部も地震での損傷がかなりひどく、修理がおっつかない状態です。特にろ過槽と冷却機構がほぼ全滅。貯水槽に間に合わせのろ過構造を取り付けてだましだまし生活用水を確保してますが、ろ過した澱と汚れは貯水槽の内壁に付着し、堆積するでしょう。性能も低く、ろ過能力と効率は従来の12分の1程度でしょう。冷却に至っては完全に壊れていて、温泉の温度調整が利きません」
「つまり──」と彼はいったん息を吸い込んだ。
決定的な言葉を放つに際して、緊張しているようだった。
「温泉水の運用が、一切できません」
源泉のお湯は、そのままでは毒性が高く、温度も高すぎる。
混ざっている鉱物成分も多く、ろ過せずにパイプの中を流せばたやすく詰まるだろう。
故に、源泉の湯はろ過し、高温なものは要塞全体に巡らされた保温パイプと融雪パイプに送られ、暖房の熱源の一つとして使われる。
融雪パイプで溶かされた雪は別のろ過室で浄水され、貯水槽に溜め込まれるが、一部は冷却水としても使用される。
魔力液精製機関の冷却や水圧ポンプの圧力調整にも使われる水であるが、最重要の役割は、源泉の湯を冷やして薄めて、温泉として利用できるようにすることだった。
その最重要の機能だけではない。
上記の機構と機能、その全てが同時に故障した状態なのだ。
これには、ヘリルメリアの威に圧されて保たれていた静寂も破られた。
人々はざわつき、行く末を案じるささやきを口々に交わし合った。
この先、いったいどうすれば。
温泉の力によってダグナマンバは成り立っていた。
それを運用するための機関が、ほぼ停止状態にある。
要塞を温めることが、出来ないのだ。
「機関部の稼働人員は?」
それでも、ヘリルメリアは静かで鋭い声色を変えなかった。
「31人です。うち9人が調査に回ってます」
「全員機関部の復旧に回すのじゃ。最優先は融雪機構と温泉設備。魔力液精製機関は稼働時間を半分に減らせば、なんとか人力で運用できる。上下水道もひとまずは捨て置け。水は人間の手で運べるが、水そのものを人の手で作ることはできんからの。そして、ダグナマンバは今、温泉ではなく石炭の備蓄と魔力液によってかろうじて温められておる。温泉を蘇らせ、その湯を再びパイプを以って大要塞隅々まで届けねばならん。それが最優先じゃ」
「資材が足りません。パイプの損傷はどれも激しく、交換するしかない。しかし予備のパイプも、新しいパイプを作る材料も足りません」
「第五郭部のパイプを使え。壮健なものは流用し、使えぬものは西の砦の炉で溶かせ」
「そうなると、第五郭部のパイプは全て撤去ということに」
「構わぬ」
百人長たちはぎょっとした。
しかし彼らが何かを言う前に、ヘリルメリアは立ち上がった。
そして、この場に集った全員に向けて宣言するように、声を張り上げた。
「はっきり言おう、第五郭部は放棄する。以後、第五郭部はバカでかい資材置き場とその中身と思え。切り崩して物資を確保し、第四第三郭部の守りを固めるのじゃ」
最も外側である第五郭部は、最も範囲が広く、そして最も被害の大きい区画だった。
堅牢かつ重厚な外壁で幾度となく"つぶて"を弾いた盾であり、兵を並べ火矢と櫓とサティラッチャを据えたらば防衛線ともなる。
「防衛戦線は……」
「第四郭部に再構築する。壁をぶち抜いてサティラッチャを並べ、火矢の銃眼も開けるのじゃ。かまども置いて赤槍隊は1000人増員。排気口も第五郭部へ直接排気するよう早急に工事を進めよ。兵力を総動員すれば今日中にできるはずじゃ」
「それでは、前庭の盾隊への援護射撃に支障が出ます! 第五郭部が邪魔になり、展開も移動も射撃も出来ません!」
「だからその邪魔な壁を全部ぶっ壊すんじゃよ。第四郭部を外にさらすんじゃ」
「第四郭部の壁は薄い。"つぶて"の激突で破られるぞ」
「何より寒さを防ぎ切れない。温泉の運用再開のめども立ってない状況でそんなことをしては、兵全員が凍えてしまう!」
ヘリルメリアを除く全員が、異議を申し立てた。
本丸をまさしく丸裸にする、というのだから当然だろう。
しかしそれは、現在の危機的状況を正確に把握していない意見でもあった。
「諸君、わしらは今、全滅しかかっておる」
司令官は声を荒げはしなかったものの、その言葉は的確に急所を突いていた。
「大壁と本丸は半壊、東の砦はほぼ機能不全。無事な櫓はなく、投炎機も地震で倒壊し、修理もできぬ。兵力の2割強を失い、生活用の設備も無傷なものはほぼ無いという有様じゃ。もはや戦うどころではない、この冬を越すことすら困難極まるじゃろう」
淡々と現実のみを並べ立てる。
その声は沈んでも絶望してもいなかったが、諸将の顔色はみるみる曇っていった。
「じゃが、戦わねばならぬ。ダグナマンバからの撤退は決して許されぬし、そもそも不可能じゃ。ここに留まる限り、わしらは戦わねばならぬ。そして生き延びるためには、戦うしかないのじゃ」
督戦でも激励でもない。
皆を奮い立たせるような意気のある嘘でもない。
残酷な現実だけを、ひたすらに突き立て続けた。
「わしらが『戦い続ける』という選択肢をとり続けること。それによって初めてダグナマンバは生き残る。そのためには第五郭部を捨てるしかないんじゃよ。そこまで事態は切迫しておるんじゃ。この戦いはもう、敵を弾き、国土を守るための戦いではない。わしらひとりひとりが生き残るための戦いじゃ。そのために──」
「──わしは、北へ調査に赴こうと思う」
だが、この言葉だけは、皆即座には理解しかねた。
円卓を囲む者たちだけではなく、サイラスですら目を丸くして司令に視線を注いだ。
「あの巨怪どもはポータルから現れた。北の彼方から光のような魔力が注がれ、原理はわからぬがそれによって開いたものじゃろう。直前に"界の魔女"より警告文も届いておった。あやつの専門は時空学で、主な研究対象はまさにそのポータルじゃ。『北の南に穴ひとつ』、原因は間違いなく北に──」
「ちょちょ、ちょっと待ってください司令。調査隊を送るんですか?」
思わずどもりながらも言葉を差し挟んだのは、サイラスだった。
「当然じゃ。地震、ポータル、巨怪ども、何が起きているかはわからぬが、原因は北にある。それを突き止めなくては、今度こそ我らは人知を超えた力の狭間で虫けらのように潰し殺されてしまうじゃろう。事態は既に、一刻を争うんじゃ」
「それに異論はありません、皆もさすがに納得してくれていると思います。間違いなく、大要塞の守りを固めるだけで済む問題ではありませんから。でも、その、聞き間違いとは思うのですが……」
「わし自らが行く。それが最も成功の確率が高いからの」
サイラスはひとまず「そうですか」と応えたのち、大きく息を吐いて、体を支えるように両手を卓につけた。
がっくりとうなだれ、必死に頭を回転させていることだろう。
どうすれば、やめさせられるだろうか、と。
「バカな! この緊急時に司令官が要塞を離れるなど!」
「自殺行為ですぞ! ダグナマンバ防衛軍そのものの責任問題にもなります!」
「兵たちの士気にも関わります!」
「野営陣地や哨戒網との連携にも乱れが生じかねません!」
しかし、大抵の理論は周囲の者らから噴出した。
当然、それらは──
「心配いらん、要塞司令官としての指示はもう全て出しておるし、わしがおらぬ間はサイラスが代理じゃ」
──ヘリルメリアの決意を、一毫たりとも揺るがしはしないのだが。
サイラスは頭を抱えた。ヘリルメリアが完全に、自分の悪い予感そのものの言動をとったからである。
それでも皆は「またあれが来たらどうすれば」「グラヤ・ナガもいるし」等々の抵抗を見せたが、それらも結局「そんなものわしがおってもおらんでも防げるはずないじゃろうが」と身も蓋もなく斬り捨てられてしまった。
「要は、あれらの攻撃でダグナマンバが破壊し尽くされるのが先か、わしが北でそれらを解決するのが先か、という話なんじゃよ。ならばもう司令官も兵士も関係なく、適材適所で全員が働く他なかろうが」
「しかし、いくらなんでも」
「しかしも何もない! 司令官といえどたった一つの命じゃろうが。大要塞と幾万の命には代えられぬ」
断固とした態度に、結局は全員が黙ってしまった。
この大要塞で最も強靭で、勇敢で、寒さに強く、体力もある兵士は誰か?
そう訊ねられれば、誰もが「ヘリルメリア総司令官だ」と答えるだろう。
全員がそれを確信してしまっているからこそ、黙るしかなかったのだ。
「せめて」
その中で、サイラスがなんとか絞り出した。
「せめて、伴をおつけください。いくら何でも、一人では自殺も同じです」
ヘリルメリアは一瞬表情を渋めたが、それが最低限の妥協点であることはすぐに察した。
小さく一度頷くと、「誰ぞ志願する者はおるか? 推す者はおるか?」と全員に訊ね掛ける。
多少はざわつくものの、皆は互いに顔を見合わせるばかりだった。
「あの巨怪どもが到来せし北への調査じゃ、覚悟ある者のみが同行せよ」
ヘリルメリアがそのように脅すものだから、余人はますます尻込みするのであった。
それを臆病と責めることは誰にもできないだろう。
「俺が行く」
しかし、沈黙が圧力となる前に手が挙がった。
一斉に注がれる視線。その先に立っていたのは誰あろう、トッテンバットであった。
「司令官一人だけなら片道切符だが、火術士が一人つけば、復路の船賃代わりにはなるだろう」
なんでもないことのように朗らかな笑みを撒く。
「ここに留まっても次の春までダグナマンバは保たない! どのみち死神に鷲掴まれるなら、にこやかに歩み寄って握手しに行く方が興も乗るというものだ!」
がはは、と笑い飛ばす彼の豪胆に追従する者はなかったが、それなりに弛緩した空気が漂った。
根拠などまるでない楽観と、冗談を交えた諦観は、場を和ませる役目を十全に果たした。
「要塞はどうする? 司令官と火術士を一度に失うのは痛手が過ぎる」とサイラスが問うても、笑顔を絶やさず即座に答えた。
「要塞火術士としての役目はレレザル一人と機関部の連中だけで十分以上に賄える。専門家として言うが、火術士レレザルの力量はピカイチだ! もし奴がいなかったら、俺たちはここでこうして話し合ってなどいない。地震から1時間で何もかも凍りついていたろうよ」
これは紛れもない真実であった。
地震による歪みとひび割れは要塞全体に及び、壁暖房床暖房用の温水パイプも多くが破断した。
それでも要塞が氷漬けにならず、第五郭部の放棄程度でとどまったのは、間違いなくレレザルの手柄である。
数千を超えるパイプの状態を全て把握している彼が、要塞全体の凍結を防ぐ必要最低限の温水循環ルートを再構築し、集中的な修理を15分程度で済ませたのだ。
さらに、この緊急循環パイプには備蓄ぶんの魔力液を流し、自らの魔力で着火。温度の調整は石炭式の緊急炉で行った。
このおかげで、パイプを循環する魔力液が燃え尽きるまでの2日間は、温泉の湯が使えなくとも要塞を最低限温められる見通しがついたのだ。
もともとは投炎弾に使うための魔力液だったが、どのみち投炎機は今季いっぱい使えない。
全てはレレザルの独断だったが、それが要塞にいる全ての命を救ったのである。
「決まったな」
ヘリルメリアの声が通る。
振り下ろされる判決が如く、固い決意とともに。
「サイラス、レレザル、百人長諸君、兵士諸君、避難民諸君──」
それはまるで打ち出された矢。
あるいは標的へひた進む、あらん限りの力で擲たれた投石。
それらが如く、力強い声だった。
「──要塞を、頼むぞ」




