軍の魔女14
生き物のようにうねりながら、巨大な触手は南を目指した。
それはもはや大壁やダグナマンバさえ歯牙にもかけなかった。
あまりにも大きすぎて、軽々とその頭上を越えてしまえるのだ。
大壁にぶつかる必要も、要塞を突破する必要もない。
ただ、悠々と、当然のように通過してしまえばよい。
大壁もダグナマンバも、運悪ければその途上で偶然轢き潰されるであろう、ただの虫に過ぎなかった。
しかし、壁の上は大混乱だった。
恐慌と言ってもいい。
三本の、国そのものよりも大きな触手が自分らの方をめがけて迫るのだから当然だろう。
さきほどまでの雄叫びもむなしく、そこかしこで腰を抜かす者や勝手に後ずさる者、逃げようとする者が続出した。
指揮官たちがそれを奮い立たせようと怒号を響かせるが、彼らとて平静ではないのである。
必要以上の大声となり、それらが更に兵たちを混乱させた。
壁の防備は、崩壊寸前だった。
皆が正気を失い、取り乱し、狼狽し、絶望していた。
『どうした! 投炎機は動かんのか!』
ヘリルメリアも叫んでいた。
発射命令は既に下し、クロスも合図を送ったが、投炎機は一発放ったきりで沈黙していた。
大要塞の内部とて、大混乱だったのである。
突如として山よりも巨大な触手が現れ、向かって来たのだから当然であろう。
その混乱によって、既に発射準備が完了していた一射目以降、完全に機能不全を起こしていたのだ。
そして、一射目は確かに氷の触手に命中はしたものの、触手の大きさに比べればあまりにも小さな炎である。
しかもその炎すら、周囲の氷が隆起してドーム状に包み消してしまった。
もはや、何もかもが通じない。
通じるはずがない。
ただ、蹂躙されるのみだ。
ダグナマンバは終わりだ。
その絶望と痛みが、ただ一人を除いた全員の心を満たしていた。
クロスすら、ひたすら圧倒され、勇気よりも諦めが優っていた。
氷の触手が迫る。
『ちぃっ!』
ヘリルメリアが、大壁の縁から大きく跳躍した。
突然のことで、クロスは「メリアさッ」と途中まで言葉を絞りながら手を伸ばすことしかできなかった。
ハンターは跳躍力にも優れる。
擬皮の中で体を折りたたむ都合上、関節の構造が最適化されており力も強いのだ。
助走なしでも6m以上跳ぶことが可能であり、20m先の獲物を一跳びで仕留めたという記録もある。
ヘリルメリアは、老いたとはいえ鍛錬によりその領域に達していた。
氷の触手の一本。その先端部にしがみつくと、氷の上を駆ける。
落ちないよう、鋭い突起を突き刺して固定しながら、平野がごとき氷原をひた走った。
目指すは、火炎弾の炎を閉じ込めた氷のドーム。
覆われて空気を遮断され、炎は消えただろうが、熱自体はまだ残っているはず。
それを使えば触手の内部を溶かし進み、両断することができるかもしれない。
その希望にすがったのだ。
だが、それは確実に無謀な希望だった。
確かに熱は残っているだろう。ドームを砕けば利用もできるだろう。内部を掘り進むこともできるだろう。
しかし、あまりに敵が巨大すぎる。
丸太に裁縫針を落として切断しようとするようなものだ。
ドームの中に残った熱で与えられる損傷など、表層のさらに表層、腕のうぶ毛一本程度だ。
しかし、やらねばならなかった。
他に、方法も、戦う足を支えておける理由も無いのだから。
駆けるヘリルメリアに立ち塞がるように、足下の氷が隆起する。
意に介さず飛び越えると、隆起した氷は後ろで弾け、無数の"地走り"と化して彼女を追った。
(エレメンタルの生成、それも一度にこんなに!)
走りながら、飛びかかる"地走り"を背中や腕の突起で弾き、砕き、切断する。
脅威の大きさに改めて歯噛みしたが、驚きはしていなかった。
世界そのものに匹敵するほどのバカバカしい魔力量。エレメンタルの瞬時生成などお茶の子さいさいというわけか。
そのような納得もあった。
囲んで並走し、一斉に氷の槍で攻撃される。
走りながら跳び、身をよじって避けても、その先に新たな敵がいる。
そいつに攻撃されるよりも早く突起を突き立てると、それを手掛かりに再び跳躍。
空中で擬皮を羽のように広げ、風を受けながら滑空して距離を稼ぐ。
しかし、着地点では新たに生成された氷の巨人たちが待ち受けていた。
そのただ中に飛び込むのは自殺に等しい。羽を畳んで滑空を中断し、手前に着地。
氷の巨人たちが一斉に向かって来るが、これを迂回する余裕はない。
後ろからは、まだ"地走り"どもが追いすがって来ているからだ。
『──』
祈りの言葉すら出てこない。
ただ信じて、突き進むのみ。
ハンターの狩りがごとく、一人だけで。
その時、目の前の氷の巨人たちが炎とともに爆ぜ砕けた。
ヘリルメリアの体が爆風に煽られるが、とっさに伏せてやり過ごす。
だが後方にいる"地走り"たちは爆風をまともに受けて吹き飛ばされた。
(これは)
後ろを振り向き、目を凝らす。
その先にあったのは、ダグナマンバ大要塞だった。
「どんどん放て! 照準などつけるな! 安全手順も今は無視しろ! 装填と発射以外何もするな!」
本丸を預かるサイラスの声が、投炎機の下でこだまする。
彼は本来の役目である混乱の収束と軍全体の統制の回復をひとまず捨て置き、投炎機の機能回復を優先していたのだ。
現場で直接兵たちを励まし、士気を引き出させて運用を再開させていた。
「逃げ場などないぞ! 後ろでも横でも前でもない、その場に! 踏み留まれ! お前らはあの老いた幼子よりも臆病なのか!?」
大壁の上では、トッテンバットが叫んでいた。
氷の触手は既に壁の上を通過中であり、一部が大壁を部分的に突き崩していた。土の上を歩くことで、図らずも草を踏みしだいてしまうかのように。
しかし、ヘリルメリアが単身でその上に乗り込み、奮闘する様は一部の兵を奮い立たせ、士気を回復せしめた。
その灯火を、クロスとトッテンバットが急いで広めていた。焚き付け、煽ぎ、心の火を兵士たちに広げていた。
絶望は極限に達すると、極限の暴力へと転化する。
重要なのは、その暴力の矛先を敵に向けさせることだ。
燃え上がった黒い炎の風下にあるのは、敵でなくてはならないのだ。
わけのわからぬ、奇声とも咆哮ともつかぬ絶叫をあげながらも、兵士たちは戦いを取り戻そうとしていた。
武器や物を手当たり次第に触手へと投げつけ、子供の喧嘩のような無駄な抵抗を続けていた。
しかしそれが敵に向けられている限り、軍の完全崩壊という崖の際には踏み留まれていた。
それに大壁の上には、ぼとぼとと新たに生成された氷エレメンタルどもが降り注いでいた。
人間の、動物の魔力に惹かれて、磁石に近づいた砂鉄のように壁上へと墜落してくるのだ。
それらへの対処も、兵士たちは心に灯ったやぶれかぶれの黒い炎によって行なっていた。
現場指揮官の指示のもと、急造の隊列を組んでひたすらぶち当たり、恐慌状態のまま暴れ続けていた。
まさに、それは阿鼻叫喚、混沌の乱戦地獄だった。
しかしそれでも、間違いなく、確かに、このバカバカしく神々しい進撃に対する人間の抵抗だった。
『まったく』
前へと向き直るヘリルメリア。
そこにあるのは、着弾した火炎弾の燃え盛る炎。それを覆うように形づくられつつある氷のドームだった。
『最低の戦じゃ」
ごちりながら、再び擬皮をまとう。
その場に屈み、左手で足下の氷にぴたりと触れた。
直後、炎を覆いつつあったドームが一瞬にして溶け落ちた。
湯気を上げながら沸騰し、氷が熱湯として炎に降り注ぐ。
だが炎は消えず、むしろ勢いを増しながら沈み始める。
周囲の氷を溶かしながら、氷の触手の芯を目指して一直線に掘り進む。
杭を打つように、手を伸ばすように氷を貫く炎の線と化して。
「トッテンバットさん! メリアさんが始めました!」
その様を望遠鏡で追っていたクロスが叫んだ。
トッテンバットは「やっぱりか!」と応えながら、大きな籠手を着けた拳でエレメンタルを叩き潰す。
「クロス! 合図したらとにかく全力で"尽きぬ種火"の熱を押し出せ! 誘導線は俺が作る!」
そして、右手のひらを氷の触手の下、底へと向けた。
目をつぶり、魂の集中を引き出し、籠手を通して己が魔力を空気中に滲ませる。
彼の籠手は二枚の板金の間を液状の魔力触媒が流れており、今は高熱を発している。
空気がないため燃えはしないが、そこを通った魔力は熱を帯び、火との親和性が高いものとなっている。
それを用い、氷の触手とクロスの間に、魔力誘導された炎が惹きつけられる導火線を張ったのだ。
「今だ!」
トッテンバットの合図で、クロスはありったけの魔力を絞り出してカンテラにぶつけた。
瞬間、カンテラは一つの火の玉と化し、炎の柱が氷の触手に突き立った。
クロスの手袋が燃え上がるほどの熱だったが、クロスが「あっ」と言って手を離す頃には、全てが終わっていた。
カンテラを、否、"尽きぬ種火"を中心に魔力の衝撃波が走る。
周囲の数百人もの兵士全員が転倒し、クロスも吹き飛ばされたが、それに押されるように巨大な炎そのものが触手めがけて発射された。
瞬きよりも速く、炎は触手に着弾。
全ての火の魔力を吸い尽くし、今度は彗星のように氷の中を突き進む。
まるで氷など無いかのように、その彗星は一瞬のうちにヘリルメリアが潜らせた炎へと到達した。
二つの炎は混ざり、溶け合い、呑み込み合い、溶岩を超える高熱、それこそ、空間を歪めるほどの熱量へと変じた。
行き場のない膨大な熱。それから生じる爆発的な圧力。
星の誕生にも似た現象が、空間そのものを膨張させる。
いくら巨大であっても、そんなモノに氷なぞが耐えられるはずがない。
閃光と共に、一本の氷の触手は爆ぜてへし折れた。
近くにいた者の鼓膜が破れるほどの、凄まじい音だった。
飛び散るのは氷の破片ではなく、お湯と蒸気だった。
切断された氷の触手。
その先端が大要塞と前庭に落下する。
大要塞の設備を、屋根を、そして人々が潰れていったが、兵士たちはその光景に歓声をあげた。
クロスは体を起こしながら、その様を見ていた。
「すごい」
思わず、呟かずにはいられなかった。
トッテンバットに急遽提案された作戦だったが、ここまでの破壊力だとは思いもしなかった。
クロス自身の魔法の腕前が上がったからこその大爆発であったが、"尽きぬ種火"の強大な力あってのものであった。
腕一本動かしただけで息が上がるような体をなんとか引きずり、カンテラを拾い上げる。
そのかたわらには既にトッテンバットが立っていた。
彼はクロスの腕を掴み、引っ張り上げて無理やり立たせる。
「どうだ!? まだいけるか!?」
氷の触手はあと二本あるのだ。
今のは、大壁の真上を通っていた一本を破壊したに過ぎない。
その一本すら、確かに動きは止まったが、既に少しずつ再生し始めている。
そしてクロスは、疲労の極みにあった。
手足に力は入らず、呼吸は乱れ、目は霞む。
気絶する一歩手前であり、カンテラのもとまで這いずるので精一杯だった。
何せ会話すら出来ず、首を横に振ることすら出来ない。
立っているのも、トッテンバットに寄りかかってのことなのだ。
到底、無理だ。
それを痛感せねばならず、ボーグルの火術士は奥歯を噛んだ。
「ここまでじゃよ」
その背中に、幾度も聞いた声が浴びせられた。
振り向けば、やや焦げた煙を擬皮と服の端から立ち上らせるヘリルメリアがそこにいた。
大爆発の寸前に氷の触手から飛び降り、爆風を擬皮の翼で受けてここまで戻ってきたのだ。
「クロス、トッテンバット、ようやった。上手く合わせてくれたの。じゃが、ここまでじゃ」
その顔には、力の抜けた笑みが浮かんでいた。
それを見て、トッテンバットは悟るしかなかった。
もう、できることは何も無いのだと。
兵士たちは戦っているが、触手は既にダグナマンバ大要塞を越えつつあった。
「司令、俺たちは」
「最後の瞬間まで戦うとも。しかし、勝利のためではない。終わらせるためじゃ」
ゆっくりと、擬皮を脱ぐ。
戦いの姿は、まるで死装束のように厳かだった。
トッテンバットは俯き、絶望の味を噛み締めた。
ダグナマンバの歴史は、終わった。
そしてあの触手は、どこまで伸びるのだろうか?
世界を、現界を、魔界を。
カルエーネを、コギ谷を、ナッグを、タルギンを、モル・ニスを、ディゴ荒野を、コー・ナイルを、王都を。
そして、魔女協会を。
氷で覆い、暗闇に繫ぎ止めるのだろうか。
初めは、ただの振動だと思った。
戦う兵士とエレメンタル、氷が放つ魔力の圧、火炎弾。
それらで大壁が震えているだけだと思った。
しかし、それは規則的な揺れであった。
地鳴りと共に揺れは加速度的に高まり、深く大地そのものを震わせた。
「地震!?」
その揺れは表層のかすかな振動ではない。
大地そのものが、深い、深いところで揺れていた。
兵士もエレメンタルもまともに立っていられず、皆がよろけ、転んだ。
そして、山が、鳴った。
思わず、ヘリルメリアも肩を跳ねさせて耳を塞いだ。
トグナイア連峰が身を震わせ、揺れは極地に達した。
大壁は寒天のようにしなり、兵士たちは近くにあるあらゆるものにしがみついた。
氷エレメンタルは倒れ、かき乱され、そのほとんどは壁下に落下するか、幾度も叩きつけられて砕けた。
城楼と櫓は崩れ、大壁の内部では天井の崩落が相次いだ。
大要塞本丸も巨大な手で鷲掴まれ無造作にかき揺らされるがごとく乱れていた。
壁は崩れ、床は抜け、パイプの亀裂からは熱湯と蒸気が噴き出した。
遠く轟く、咆哮のような、山鳴り。
それは山の怒りを感じさせた。
空気が震え、大地が叫ぶほどの地震。
そのような経験など、誰も味わったことがなかった。
そして、氷の触手が止まった。
しかも止まっただけではない。まるで巻き上げられるように、急速にポータルへと押し込まれていくのだ。
風を巻き、悲鳴のような風切り音を響かせ、三本の触手は見る見るうちに吸い込まれる。
その最後の煌めきまでが呑まれた直後、光線は途切れポータルは閉じた。
空間の、かすかな揺らめきだけを残して。
直後に、地震も鎮まった。
氷の軍勢も、影も形もない。
ただ、広がる氷と雪、そして触手の残骸ばかりが残った。
「終わった、のか……?」
クロスを抱えてうずくまっていたトッテンバットが、きょろきょろと周囲を見回しながら立ち上がる。
冷たい輝きの陽光がわずかに差し、それが雪を焼く音すら聞こえそうなほどの静寂が戻っていた。
伏せていた兵士たちも恐る恐る立ち上がるが、状況を理解している者は一人もいなかった。
「今日は、まだ死ぬには悪しき日、か」
ヘリルメリアだけが、遠く氷原の彼方を見つめていた。
あの光線が飛来し、そして去って行った方角を。
「今日の戦いは終いじゃ。皆よう生き残った! 被害状況の把握と負傷者の治療を最優先、防備は今はかなぐり捨てよ、どのみちまともに機能などせん」
だが、直後には向き直り、指揮官たちに指示を飛ばしていた。
こんな状況でも伝令は走り、指揮官は安堵の息をつきながらも気合を込め直していた。
兵士たちはただ混乱し、空虚となった心を空中に漂わせていた。
現実とは思えぬような出来事が立て続けに起こり、それら全てが同時に消えたのだ。
まるで夢を見ていたかのような現実感のなさ。虚脱状態になるのも無理はなかった。
「銘々らよ!」
その中で、ヘリルメリアは立ち、叫んだ。
壁の縁、崩れた篝火台の上まで駆け上がって。
兵士たちは呆けた表情でそれを見上げ、注目した。
力のない目で、総司令官が次に何をするつもりなのか、ただ見た。
ヘリルメリアは一振りもしたことのない剣を抜く。
自分を見上げる、気の抜けた兵士たちひとりひとりに視線を送り、それから天高く剣を掲げた。
「勝利じゃっ!!」
そして、堂々と、自信満々に、口元に笑みすら浮かべてそう宣言した。
ひとさじの疑問もない瞳を輝かせ、確信に満ちた光を浴びせかける。
兵士たちは、ぽかん、と驚いていた。
しかし、篝火台の上で屈託無く剣を掲げる、我らが幼き司令官の姿を目の当たりにして、抜けた魂が再び戻ったような気がした。
やがて、ぽつりぽつりと勝ち鬨が上がり始める。
そして上がり始めれば、それはもう止まらず広がるのみだった。
勝ち鬨は広がり、やがて歓声へと変わり、雄叫びへと変じて壁の上を満たした。
先ほどまでの地鳴りにも負けまいとするがごとく。
勝利。
今は、それでよい。
ヘリルメリアは篝火台から降り、新しい伝令を手招きする。
「各責任者に伝えよ、2時間後、第一会議室で軍議じゃ。ただし特別に出席義務はないものとする。あくまで業務を優先させよ。手の余った者がおれば、デッタ、コノヴァーズ、ノレア、ヒーテッツ、ツヅリ、マヴノク、ツェーネンコーン、ムルーネン兄弟の隊に協力して大壁の修復に回れ」
命を受けた伝令が走る。
歓喜に狂乱する兵士たちの間を通り抜けて、冷徹なる指令を届けるのだ。
その様を見送り、ヘリルメリアは腰に手を当てて鼻で深く息をついた。
それから、トッテンバットを、否、彼に抱えられてぐったりと人形のように脱力するクロスの方を向いた。
「クロスはわしの部屋で休ませておけ、救護所は満杯じゃろうからな」
トッテンバットは頷き、階段の方へ急ぐ。
その振り返りかけた背中を、名前を呼ばわっていったん呼び止めた。
「丁寧にな」
トッテンバットは改めて頷き、揺らさぬよう、丁寧に階段の方へ歩いて行った。
物憂げなため息が、歓声にかき消される。
氷原の彼方へ向けられたその顔を見る者はいない。
それは将来を不安に思う憂鬱というよりは、残念そうに垂れた目尻であり、無念そうにとがった唇であった。
「もう、いいじゃろうが。もう……」
その呟きすら、歓声の波に飲まれてしまった。




