夜長月-崩
彩香です
自分の立場を忘れていた訳ではありません
考えないようにしていただけと思いたいです
終わりは唐突にやってきた、それも最悪と言っても良いかもしれない形で。
それはもう少し先の事だと思っていた。
でもそれは勝手に思っていただけ。
「あんたが鬼塚彩香だろ、オレは鬼頭潤。あんたの許嫁だ、ヨロシクな!」
教室がざわついている。
さっちゃんと霞がわたしを心配して見ているのがわかったが、顔を上げる気にはなれなかった。
「どーしたの?こっち見てよ、未来の旦那様が会いに来たんだぜー」
「鬼塚...」「彩香ちゃん」
顔を伏せたままだったが2人の視線の他に、鬼2人が睨んでいるのが分かった。
品定めでもしているのだろうか、よくは分からない。
それにそんなことはどうでも良い事だった。
「...すみません、そういうの学校では止めてもらえますか」
小さく呟くのが精いっぱいだった。
「彩香って呼んで良い?おれの事は潤でいいからさ」
楽し気に鬼頭潤は話す。
わたしは顔を上げる事が出来ない。
「んー初対面だし仕方ないっか。んじゃ交流を深めるために学校終わったらどっかいこーよ」
「すみません、わたしは家から事情を聞いてないのでよくわかりません」
「んじゃ鬼塚の本家にいこうか、お姉さんも一緒にさ」
「姉は仕事がありますので」
今の自分はどんな顔をしているのだろうか。
「それじゃおれの家の車でいこうか、いやー鬼塚の家なんて楽しみだなあ」
無邪気に笑う。
「センセー、オレの席は空いてるとこで良いの?」
「えぇ、そうですね開いている一番後ろに座ってください」
「どうせなら彩香の隣がよかったなー」
そういって鬼を引き連れ席へ移動していった。
その後のホームルーム中、ざわつきが収まることは無かった。
クラスの誰もがわたしと鬼頭潤の話をしている。
「はいはい!今日はもう終わりだからもう騒がない!」
先生が注意をする。
「月曜からはまた全員元気に登校する事!」
チャイムが鳴って日直が号令をかける。
「起立、礼」
「「「ありがとうございました」」」
「みんないつまでも休みボケしちゃだめよ」
「「「はーい」」」
先生が教室から出て行った直後、クラスの全員が祭りの様に騒ぎ出す。
「今時許嫁とかすげーなー」 「親同士が決めたってやつ?」 「いつから決められてたの」
「許嫁が居たって教えてくれれば良いのに!」 etc…etc…
そんな事を言われてもわたしには何もできない、その時だった。
コンコンッ、教室のドアをノックする。
「すみません、鬼塚彩香さんはいらっしゃいますか?」
ハッとして顔を上げる、先輩だった。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返る。
急いで席を立つ、自分でも顔がほころんでいるのが分かったが抑えることが出来ないのも事実だ。
「先輩なんでしょうか」
「いえ、朝からおかしな感じがしたので。彼ですか」
鬼頭潤を見る。
席を立ってわたしに近づき、
「彩香、こいつだれ?」
不機嫌な声をだす。
「3年生の「迎えが来たみたいだから行こうか彩香」
わたしの言葉を遮って強引に手を取り歩き出す。
「...待って、学校ではやめて、ください」
「なんで?良いじゃん」
「...カバン、取ってきます」
「ここで待ってる」
席に戻る、先輩の顔を見る事が出来ない。
鬼頭の所に戻ろうとする時先輩が鬼を指さし、
「ソレはキミのですか?こんな所でも大丈夫なんでしょうか?」
鬼頭はわたしの手を取って得意げに、
「そうだよオレのだよ、先輩」
周りの一般人には鬼の事は見えていない。
勘違いするように言ったのだ、わたしの事だと。
その後は鬼頭潤に引きずられるように階段を下り、靴を履き替え校門に行く。
道行く生徒達の注目を集めている。
白の高級セダンが2台止まっており30代の男が立っていた。
「お待ちしておりました、鬼塚彩香様ですね。どうぞこちらに」
後部座席のドアを開ける。
わたしと鬼頭潤が乗り、もう一台の方に鬼2人が乗る。
「彩香のご両親に挨拶しないとな」
満面の笑みでこちらをみる。
「彩香はさあ、オレと結婚するの嫌なの?」
心に刃が突き刺さったようだった。
「...もう少し後だと、少なくても高校卒業した後だと思っていました」
「んー結婚する前から仲良くなってけって事かなー」
「...そうですか」
「それにオレ彩香のこと気に入ったし」
出会って1時間、しかも会話らしい会話もしていないというのに。
「高校上がってすぐにさー、彩香の写真見せられて居ても立っても居られくなってさー」
膝の上で握った自分の手を見つめる。
「こっちに来るっていったらさー、転校とか住む所とかの手続きとかオヤジに怒られたりしたけどさー」
「やっぱり会いに来て良かったって思う」
顔を上げて鬼頭潤のを見る。
「やっとこっちみてくれたな」
すぐに視線を外す。
「...そうですか、ありがとうございます」
本家に着く。
相変わらずここは広い。
そしてここは鬼塚の村と言って良い、殆どがうちの関係者だ。
車からおりて玄関に向かう。
玄関で意外な人と出会う、分家のご当主の白木さん。
「お帰りなさい彩香ちゃん、お久しぶりね」
お帰りなさい、そう言われ抗いがたい感覚に襲われる。
「お久しぶりです白木さん」かすかな抵抗。
「鬼頭のお坊ちゃんとご一緒だったんですね、仲がよろしくて」
貴女が手配したのでは無いのですか。
「座敷に皆揃っていますよ、彩香ちゃんもお早くね」
皆とは誰が揃って居るというのだろうか。
「はい、では手を洗ってきますので」
落ち着く時間を。
1つ小さく息を吐き、向かう。
上座に当主である母、そして父祖父母、白木夫妻と墓地に居た白髪の女。
そして鬼頭潤に、隣は両親だろう。
鬼頭潤の隣に座布団が1つ空いていた、そこに座れという事だろう。
「お帰りなさい彩香さん」
やわらかい表情の母が言う。
「お待たせしました」
こほんと咳払いした父がわたしを見る。
「鬼頭潤さんとはもうお知り合いになったわね、鬼頭家のご当主の灯さんと義人さんです」
鬼頭家に向かってお辞儀をする。
「潤さんには彩香さんのお婿さんとして鬼頭家に入っていただきます」
有無を言わせぬ口調で言う母。
「学校を卒業してからのお話だと思っておりました」
一応非難をしておく。
「そのつもりだったのですが、結婚前に仲良くなっておく方が良いでしょう」
わたしが黙っていると父が、
「初顔合わせでなのだし、彩香も今日は泊まって行くだろう」
「ごちそうも用意してありますよ彩香ちゃん、他の分家も呼んでありますからね」
白木さんが拍車をかける。
わたしはささやかな抵抗として答えを口には出さず、頭だけを下げた。




