雨-After the rain
金曜21:00海岸
姉が携帯を切る。
「これから行くそうです、三鳥様」
大粒の雨が傘を叩く、風が無いだけマシだった。
「あぁ分かった」
短く答え、暗い海を見つめる三鳥様。
「どうして海なんです?三鳥様」
「特に考えておる訳では無い、ただ海が見たかっただけだの」
しばし3人で夜の海を見つめる。
ここは灯台も遠く、街灯も全くない。
漁に出ている船も無く真っ暗だ。
その時ぬるりと影がうごめいたような気がした。
「なんとまぁ、大当たりかの」
そいつは全身を覆う黒いフードを被り、黒い杖を持ち、顔も墨を塗ったように真っ黒だった。
(人間...か?)
そいつが目を見開く、闇夜にあってもその青白い光を放つ瞳が確認出来た。
「人間じゃない!?」
背負った刀に手を伸ばす。
聞き取れない言葉を放つ「◎△$♪×¥●&%#?!」やつの頭上に直径5m程の水球が現れる。
異世界の魔術師!
「実はの、ただ海が見たかったわけではないの」
黒い魔術師のそばに移動した三鷹様が海に向かって水球ごと吹飛ばす。
「すこし暴れたいと思っておったのよ」
三鷹様の右手に巨大な火の塊が生まれ、太陽のように闇夜を照らす。
黒い魔導士は三鳥様の火球であっさりと消滅する。
呆気に取られていると、
「ん、石を海の中に落としてもうたわ。あの程度なら問題なかろ?」
流石にございます三鳥様。
車に戻ってくる三鳥様、タオルで拭いて差し上げようと...全く濡れていない。
「ありがとうございます三鳥様」
「問題は無いの、まぁ...いや綾が帰ってきたら聞いてみるとするかの」
そういえば先輩、今回は期限いっぱい異世界行ってくるっていってたな。
ん?今先輩のこと綾って言った?
振り向いたわたしに向かってにやりと笑った。
なん...だと..?!
「そろそろ梅雨も終わりであるな」
「あら、誰かしら」
「夜分遅くにすみません、宜しければ手合わせ願いたいのですが」
「手合わせ?殺し合いではないのかしら?」
「いいえ、自分に貴女を倒す力などありません」
「無謀な事ね、何が目的なのかしら?」
玉座に座った彼女は呆れた顔をする。
「強くなるために」
右足を前にだし、斜に構え正中線を守る。両手は軽く開き肘の高さまで上げる。
「行きます」
30mをステップインで詰める。
ギリッと歯をかみし助走を付けての右足刀蹴り。
しかし結界に阻まれる。
(ここまで力がかけ離れているとは!)
全力で殴りつける、揺るぎすらしない。
(先ずは結界を何とかしないと)
全力で突き蹴りを繰り出す、1分程攻撃し続けただろうか。
「貴方つまらないわ」
こちらの左フックに合わせて彼女が右の手のひらを翳す。
結界に触れる直前、拳の先から肩までがはじけ飛ぶ。
「ぁっ..」
左肩を押さえて距離を取る。
「はぁ、はぁ」息が荒い。
魔法を発動、痛覚の遮断、出血停止、回復促進...全て無効化される。
これが西の魔王か。
「また...ぅぐっ、遊びに来ても良いですか...」
しばし考え込むように頬杖をつく彼女はどこか幼く見え、愛らしかった。
「...次は正門からきなさい」
「ありがとうございます」
転移で逃げる。
「よろしいのですか?」
玉座の間に声が響く。
「私が相手をするとは言ってないわ」
「承知いたしました」
声の主の気配が消える。
「あの狐の匂いがしたわ、面倒ね」
今夜はこんなにも月が綺麗なのに、ワインの1つでも持って来れば可愛がってあげたものを。
雲一つない夜空に浮かぶ月を見ながら1つ溜息をついた。
師の庵付近に転移した。
「うぅ...ぐううぅぅ...」
吹飛ばされた左腕が痛む、回復阻害以外にも何かをされているのだろう。
肩の傷口ばかりではなく、そこには無い失った二の腕から指先までが痛みを訴える。
(何故無くなった物が痛みを感じるのか、呪いか?)
フラフラと歩いていると空様が出迎えてくれた。
「お帰りなさい凪、どうでしたか?」
非常に楽しそうな顔をしていた。
「御覧の有様です、こちらの攻撃は1つも届きませんでした」
「そうですかそうですか、しかしこれは良い物を貰いましたね」
そういうと空様は右手で傷口を抉る。
「ああああぁ」
「痛いですか?でも腕1本で済んだのです、彼女に感謝なさい」
さらに強く傷口を抉る。
「あ”....ぐうぅぅぁあ」
「腕だけは治してあげましょう、私の大事な凪が隻腕になってしまっては可哀想」
空様が手を放す、あっという間に腕が再生する。
だが痛みは消えない。
「次の修行はその痛みを消す事です」
「治療して頂きありがとうございます、精進致します」
目を細めて此方を見つめる。
「治す事が出来るまで此方に来なくてもいいわ」
痛みで動けない自分を担ぐ。
「ただ暫くこれないのだから、私が寂しくない様にして貰おうかしら」




