第9話 小説家になりたかったぼく
ぼくが小説を書き始めて今日でちょうど30年。具体的にいつから書いているかといえば20歳の大学生だった頃からだから、今日でぼくは50歳になる、ということだ。
そんなに長い間芽が出ないんだったら小説家になる夢、あきらめたほうがいいんじゃない、と多くの人がぼくの生き方を否定するだろう。でもぼくに他にできることはない。
大学を卒業する時、ぼくはどこの企業からも内定をもらえず、浪人となった。で、時間を持て余したぼくは大量の小説を読んだ。大学で専攻していたのも仏蘭西文学だ。
これはぼくに限ったことじゃないと思うけれど、読書好きが昂ずると、自分でも小説を書いてみたいと思うようになる。しかも若くして芥川賞作家として華々しくデビューし、次々傑作を発表し、億単位の印税が当たり前のように入り、すごい美人でやさしい女性と結婚し、子どもをつくり、幸せに暮らす。
そんな生活を20歳のぼくは夢想していた。
しかし時はあっという間にすぎ、ぼくは30代の大台に乗ったが、小説家にはなれず、親の臑を齧ってなんとか生き延びてきた。もちろん、小説を書きながら……。
ぼくは小説を書く時、ショッパナからパソコンには向かわない。
まず、細かいことは考えずノートに向かってボールペンで思い浮かんだことを文章にする。それえが第1稿だ。そうして次に原稿用紙に推敲しながら第2稿を書く。そうして最後にパソコンだ。
ちなみに20~30代の頃はパソコンではなくワープロで最終稿を書いていた。
そして、できあがった最終稿を「公募ガイド」の様々な文学賞に応募する。
そんな暮らしをしていたある日、中学の同窓会の通知が来た。
やった!
ぼくはそういってガッツポーズまでした。
何故か?
それは中学3年間ずっと片想いしていた女子と再会できるからだ。
初恋の女の子。
ぼくはまだ童貞だった。初体験を初恋の女の子に捧げえる。これ以上幸福なことはない。ぼくはもう一度ガッツポーズをつくった。
しかしぼくは同窓会の出欠席の意志を示す往復はがきの「欠席」のほうをまるく囲って、自宅近くのポストに投函した。いや、してしまったといったところか。
その恋心を私小説風に書いて、とある小さな賞に応募したところ、なんと佳作入選した。
やっぱりぼくには小説を書く文才があるんだ。そう確信し、思った。
……同窓会出ればよかった……。
「今何してるの?」
その当たり障りのない質問など、当たり障りのなく、
「あ、うん、ふつうのサラリーマン」
とウソをつけば、何の問題もなかったじゃないか。
そうしてまた時は瞬く間に流れ、ぼく40歳になり、無職、ニート……、さらに10年をすごしてしまった。もちろん小説を書きながら……。
ぼくは50歳になった。
この30年の間に母がP.S.Pという難病を患い、3年間の闘病の末他界した。その7年後、父が多臓器不全で他界した。
両親ともに通夜も葬儀も行わず、ただ火葬して墓の下に埋めた。
50歳、無資格、三流大学中退……いまさらサラリーマンになんてなれない。30年続けてきた小説も今日であきらめる。
今、ぼくは睡眠薬を多量に服用し、死が訪れるのを待っている。
今、ぼくと同じように「死にたい」と思っているあなた。きっとあなたにもつらいことがあったのでしょう。
そうですよね?
もし、生まれかわることができるなら、今度は〝死にたい〟という思いとは真逆の感情を抱いて、生まれてきたいですね。
そしてぼくはできれば小説家になりたい。




