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蒼い晩年集  作者: 昭司優
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第2話 私の運命、彼の選択

 30歳になるまで、わたしの人生は順風満帆だった。

 幼いころから勉強も運動もよく出来、学校の先生、両親、親戚、いろいろ人たちから「末は博士か大臣か」と言われて育った。もちろん異性からもよくモテた。


 初体験は高校1年の夏休み、相手はそのころ付き合っていた柔道部の高橋健という名のカッコいい男子だった。彼と付き合いたがっている女子はたくさんいた。しかし美男子はわたしを選んでくれた。


 背も高く、柔道家らしい逞しい肉体、もちろん学業成績も優秀だった。

 そんな高橋くんとわたしが交際することはまさに自明の理だった。

 でも高橋くんと付き合うようになって、わたしはひどくいじめられるようになった。殴る蹴るといった身体的な被害は受けなかったがけど、人間にとって最も残酷ないじめである「シカト」をされるようになったのだ。中学から同じ高校に進学した友達も高校でできた友達もはみんな離れていった。

 高橋くんと別れたほうがいいかも。

 そう考えるようになったわたしだったがそれはできなかった。やっぱり高橋くんが好きだったから……。


 高橋くんは3年生の時、インターハイで優勝した。そんな高橋くんの許へ全国の大学からスカウトが来た。

 わたしなんかとの交際に現を抜かしていたら、高橋くんは柔道家としてダメになってしまう。そう危惧した教師たちや他柔道関係者がわたしと高橋くんを別れさせる策略に出た。これ以上ないやり方で。

 某大学の柔道部のマネージャーをしている女子大生を高橋くんに紹介し、

「なあ、あんなやつ(わたしのこと)と付き合っていると腰抜けになっちまうぞ、高橋い、お前の夢はなんだ?」

 高橋くんは視線を落としたまま答えた。

「オリンピックで金メダリストになることです」

「だったらあんなやつ(わたしのこと)とは別れて面倒見のいい大学生にサポートしてもらったほうがいいと思わないか?」

「······」


 女子大生の名は岡田かおるといった。彼女は毎日わたしたちの通う高校に来、そうして高橋くんに迫った。

 しかしわたしの人生は順風満帆だった。高橋くんがわたしと岡田かおるを天秤にかけ、わたしを選んでくれたのだ。

 わたしと高橋くんは同じ大学に進学し、共にお金持ちの一人っ子だったわたしたちはすぐ、同棲を始めた。お互いの両親も応援してくれた。

 どうしてだろう? とわたしは思った。

 ふつう、全国制覇を成し遂げた質実剛健の一人息子を、文武両道だからといって、どこの馬の骨ともわからない女との暮らしを賛成するわけがない。それでもわたしは許された。

 大学4年間もわたしの人生は順風満帆だった。その一方で高橋くんは柔道で勝てなくなっていった。それでもキャンパスライフを存分に謳歌し、そうして卒業と同時に結婚し、子宝にも恵まれ、同じ企業に就職し、仕事も人間関係も順風満帆だった。

 が、30歳を迎えた時、わたしは会社で便失禁を犯してしまった。オリンピックの金メダルをあきらめてくれた高橋くんがそんなことでわたしから離れていった。


 わたしは自殺を決意した。

 しかしわたしは死ななかった。いや、死ねなかったのだ。首を吊ってもリストカットしても睡眠薬を多量服用しても、どうしても死ねなかった。

 そんなわたしを捨てるように高橋くんは二人の子供とともに、いなくなった。

 わたしは幸せな暮らしを送っていたマンションから飛び降りた。

 しかし意識は回復してしまう······。


 その時わたしは思った。わたしは死ねない星のもとにうまれたのだ、と。

 人は自殺しようとする人間に対して。

『生きたくても生きられない人がいるんだから自殺なんてバカなこと絶対しちゃダメだ』

 と当然のことのように口にするけれど、わたしは死にたかった。本気で。でも死ねない運命……そんな時、高校の柔道部の顧問から連絡が入った。

「高橋健が、自殺した」



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