第15話 初恋
余命宣告を受けたのは3日前のことだ。
あと1年、もっと早くなるかもしれない。
絶望だ。
だけどオレはこの歳になって初めて人を好きになる、ということを知った。相手はオレの命の期限を示した女医だ。
その女医はおそらくまだ20代だろう。きっとオレみたいな先の短い中年オヤジを診るのは初めてなのかもしれない。
『人は皆、生まれながらにして死刑囚だ』
誰の言葉だったかは忘れてしまったが、実に言い得て妙、だ。
でもそんなことはどうでもいい。大事なのはその女医が誰よりもオレを理解し、迷いをはねのけてくれ、勇気づけてくれることだ。
たとえ彼女がオレのことをどう思っていようと関係ない。
午前10時30分。いつもの診察の時間だ。
「今日のご気分はいかがですか?」
きれいな女医だ。ほとんど化粧をしてないのにほんとうに美しい。もしオレが患者ではなく、まったく別の出会い方をしていたら、オレの自慢の歌声で口説き落としてみせるのに。
そう、若い頃オレは歌をうたう仕事をしていた。もう20年以上むかしのことだ。デビュー曲は売れなかったが、2作目が世界歌謡コンテストで最優秀賞に輝き、3作目でチャート1位。オレの名は全国に広まった。
が、しかし、オレの歌は暗い、と酷評された。
オレは自分で作詞・作曲するようになった。
生きていること=死んでないってことじゃない
生きることは素晴らしいことなのに
この世界にはオレに他人のゲロを飲ませようとするやつが多すぎる
夢がほしい
ありふれた歌だな、とオレは思った。でもオレはオレの書く歌が好きだった。
虎視眈々と大きな夢に向かうんだ。
自分の言葉を自分のメロディーに乗せて自分でうたう。
それがオレの生き方だ。
入院が決まってまず自宅から持ってきたアコースティックギター。オレは初めて恋した女医のために歌を書いた。
愛する人よ
例えばぼくたちが出会うことがなかったとしても
地球の時間は予定通り流れていただろう
愛する人よ
でもぼくたちは奇跡のように出会えたね
この幸運を「運命」と呼ばすになんと呼べばいいのだろう
愛する人よ
ぼくたちは愛しすぎるほど愛しあったね
ああ、オレはもう死ぬのか。
そう思うと、涙が出てきた。
最後に泣いたのは、いったいいつのことか、そんなことどうでもいい、オレは幸せだ。
生涯1度きりの初恋。
本当の恋。
それが果たせたのだから……。




