第12話 作家志望青年の末路
午後1時7分。
その時刻は街の女医が告げた母の死亡時刻だ。
「ありがとうございました」
そう落ち着いた声でお礼の言葉を述べたのは、父ではなく、弟の武だった。
その2年前、武は大学に通いながら作家を志し、毎日充実した人生を送っていた。うちは田舎町だが、武は大学入学を機に上京し独り暮らしをしていた。
そんな生活を送っていた武から電話がかかってきた。
『小説を自費出版する金が必要だから200万送ってくれ』。
しかし父にも母にも、わたしにも、そんな経済力はなかった。
「無理よ」
母が電話口でそう答えると、武は、
「じゃあ消費者金融で借りるからいい!」
と荒々しい言葉を残して電話を切った。
その3か月後『ぼくの愛した女たち』とうタイトルで武の執筆した小説が全国の書店に並んだ。
「お母さん、オレやったよ! ついに小説家になった‼」
武は燥いでこれ以上なく舞い上がった。23歳、武は次の芥川賞は自分だと信じて疑わなかった。
しかし武の小説はまったく売れず、借金だけが残った。……200万。
その借金を武が働いて返済すれば問題なかったが、武はまだ大学4年生(武は一浪だ)だ。そうしてさらなる問題が生じる。武はウツになり、200万の借金を背負って帰郷した。
そのころわたしと両親は、父と母の年金でカツカツの生活をしていた。わたしもわたしで、精神バランスを崩し、メンタルクリニックに通院する無職の長女だった。
そんな時の救済の連絡。
母がメディカルアシスタントとして65歳まで働いていた病院から仕事のオファー。母はふたつ返事で了承した。そうして翌日から働き始め、まったく売れなかった武の小説の借金を完済した。
しかし無理がたたったのだろう、母は身体を壊し、寝たきりになった。
それから2年、母は死んだ。
もうどうしようもない、父の年金だけで食べていけるわけがない。
わたしたちは、親戚中から借金をしてどうにか生活した。
だが神さまは非常だ。
今度は父が病に倒れてしまう。
わたしと武は懸命に父の介護をした。しかし東日本大震災の翌日、父も逝った。
わたしと武はもう完全に生きる術を失った。だが父の葬儀の際、和尚さんから、生活保護、といいうのがあることを教えてもらった。
翌日、わたしと武は役場の生活保護課を訪れ、生活保護の申請をした。
申請は通った。
わたしと武は姉弟ちからを合わせて生きた。
武は自分を責めた。
小説なんか書くんじゃなかった。自費出版なんかするんじゃなかった。お母さんに無理させて死なせたのは自分だ、と。
最低だがわたしもそう思っていた。武がふつうに大学を卒業してふつうにサラリーマンになっていたら我が家は、貧しくとも、平和に暮らしていけたのに……。
わたしは今朝、武の首を絞めて殺した。
午後1時7分。
わたしはこれから警察に自首をしに向かう支度をしている。




