表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

1. OLIVIAー1

{オリヴィアちゃん、どしたん?}

 頭を抱えるわたしに、上から声が掛かって、答える代わりにポテン、と後ろに倒れる。

 場所は我が公爵家のカントリーハウス。広大な敷地の裏庭に造られた池のほとりである。

 芝生に仰向けに倒れたわたしの視界に、空に浮かぶ美女が映った。

 我らが水の精霊王、麗しのマイムたんである。

「ヒトの世の、ままならなさについて、考えていました」

{あはは。オリヴィアちゃんは面白いねぇ}

 楽しげなマイムたんに苦笑を返し、さてどうしようかと思案する。

 ワンチャン同姓同名の別人ならそれで良いのだが、父母の名前も一致し、こうしてマイムたんの加護も得てしまった。近々、聖女認定予定である。

「こんな、いたいけな子供を捕まえて、聖女だなんて、横暴だと思いませんか?いったい、なにをやらせようとして、いるのでしょう」

{いたいけな子供は自分をいたいけなんて言わないと思うけど?}

「実年齢が、いたいけだから、良いんですよ」

 やめろ精神年齢の話をするな。

 実際問題、聖女認定は名誉なことだが、聖女になる以上、役目が与えられる。光や闇の加護の場合、大聖堂で世界の安寧を祈るなんて、ふわっふわの仕事でも良いらしいが、木や水や火や土なんて言う、物質的な精霊の加護を得た場合は、もっと具体的な仕事が与えられる。木や土ならば各地の豊穣を祈りに行脚するし、火なら国中の窯を祝福しに行く。そして水なら。

「日照りが続けば雨を降らせに。病が流行れば治癒をしに。災害があれば怪我人の治療。引っ張り凧ですね」

{嫌だった?加護しない方が良かった?}

「とんでもない!人助けは好きですし、マイムたんはもーっと好きですよ。大好きです」

 そう。ヒトの役に立つこと自体は嫌いではない。困った顔のヒトが減るのは良いことだ。聖女の奉仕とは言え、活躍すれば報酬は出るし家の栄誉にもなる。

 嫌なのは、感謝もされずに馬車馬のように働かされた挙げ句、襤褸雑巾のように棄てられることだ。

 そもそもなんで、皇族は聖女を毛嫌いしているんだったか。

 前作では皇帝は別に聖女を特に嫌っているなんてことはなかった。だが、続編では毛嫌いしていて、その理由はちゃんと小説内で触れられていた。

 確か、オリヴィアちゃんは全く悪くない、と言うか、聖女すら悪くない言い掛かりで、それもオリヴィアちゃんが不憫がられる理由になっていたはず。

 そう、確か。

「死んだからだ」

{うん?なにが?}

「あ、いや、ごめんなさい、独り言です」

 マイムたんに首を振って、起き上がる。両手で顔を覆って、記憶を探った。

 前作ヒロインは続編開始時点で死んでいる。これに対して、ヒロイン死んでんのかい!と言うツッコミはあったが、実は、あのヒロインあんま好きじゃなかったし惜しくないわと言う意見もあった。かく言うわたしもそのひとり。作中では天真爛漫と褒めそやされる愛されヒロインだったが、どうにも傍若無人な勘違いKY女感が強くて苦手だったのだ。

 と、それは置いておいて。

 前作ヒロインが死んだのは、皇子の出産時。あろうことか出産間際にずっこけたヒロインは、そのまま流産しかけて、なんとか赤子は無事取り出されたが、母体は助からないと言う、ドジっ娘ヒロインが行き過ぎた死因だったのだ。

 もちろん皇后なので、国いちばんの医師たちが尽力した。けれどそれでも、妊娠出産は命懸け。しかも馬鹿ヒロインが妊婦のくせにこけた。

 当然、前作ヒロインを溺愛する皇帝は大激怒だ。

 勝手に転んだのはヒロインとは言え、周りにいて支えられなかった侍女や騎士たちは軒並み処罰。力及ばず救えなかった医師たちもあわや処罰と言うところで、苦し紛れにひとりの医師がとんでもないことを口走った。

 曰く『聖女が駆け付けてくれさえすれば、皇后陛下は死なずに済んだ。出産間近の皇后陛下のために常に皇城へ控えているように通達していたはずなのに、なぜひとりもいなかったのか』と。

 実際、通達を受けて教会は、常に皇城に治癒特化の聖女がひとりいるよう心掛けていた。だが、折悪く長雨による災害が国内各地で多発していて、その対応のために聖女は飛び回っていて人手不足。それでも教会はひとり皇城に派遣していたが、そのひとりが過労で倒れ、代わりの聖女を手配しようにも皇都内で大きな火災と、川の氾濫が発生。事態の終息に駆けずり回った聖女は力尽きて動けず、休んで回復したときには、すでにヒロインは死んでいたのだ。

 コレ、セイジョ、ワルクナイ。

 むしろ聖女と教会にばかり災害対応を任せ過ぎな国の失策だろうがとわたしは思うが、相手は暴君皇帝とその息女子息である。見事に聖女を逆恨みして、オリヴィアちゃんの冷遇に至る。と言うわけだ。

 そんな国主で大丈夫かこの国。いやマジで。

 だってどう考えても、妊婦のくせに転ぶヒロインの過失だし。それわかってて転倒対策してない皇帝の過失だし。火事はともかく川の氾濫は、治水をしっかりしてれば防げたかもしれないし。

 さらに言えば、オリヴィアちゃんは当時六歳である。その歳で、しかも公爵家のお嬢さまで、それでも自分は聖女だからと、教会の指示を受け、公爵領とその周辺の災害対応に当たっていた。

 おかわり、じゃない、おわかり頂けるだろうか。

 オリヴィアちゃん、皇都から遠く離れた、公爵領にいたのである。しかも、全部の災害対応を終えたあと、過労でぶっ倒れるくらいには、死力を尽くしていた。

 オリヴィアちゃん、なんも、悪くない。

 だって、たった六歳のオリヴィアちゃんは、教会の指示に従うしかなく。その教会はオリヴィアちゃんに公爵領とその周辺の災害対応を指示していて。さらに領主夫人である母の補佐を受けつつも、オリヴィアちゃんは地域に聖女ひとりの状態で、その災害対応をやりきったのだ。なんにも落ち度がない。むしろ褒められるべきやつである。

 だと言うのに皇族は聖女を毛嫌いし、聖女だからとオリヴィアちゃんを冷遇、いや、もう虐待の域の扱いをするのだ。

 なんだそれ。なんだそれ。

 ふざけてるだろ。

 顔を上げて、正面を睨み据えた。

 わたしに加護をくれたのは精霊王だったが、高位精霊の加護を受けた場合も、聖女や聖人の認定は受ける。精霊の加護を受けるのは女性が多いので聖女が目立つが、男性の加護持ちもいないわけではないのだ。女のオリヴィアちゃんですら、襤褸雑巾にされた。忠臣のユステインですら、嫉妬で追放された。もし、この国に、聖人が生まれて、暴君共に目を付けられたらどうなる?

 それがもし、オリヴィアちゃんのように、幼くして聖人認定を受けた子供だったら?

 前作ヒロインと同じく、続編ヒロインも傍若無人な勘違いKY女だった。しかも子供好きで、聖女認定を受けるから教会に出入りする。子供の聖人聖女がいれば、間違いなく可愛がるだろう。

 それに皇子が嫉妬し、その子がひどい目に遭う。男の子だったら、よりひどい目に。

 そんなの、許せない。

 確かに、愛するひとを喪って辛いのはわかる。暴君に逆戻りしてしまうくらい、前作ヒロインを愛していたのだろう。暴君皇子だって、不遇な立場ではある。父からも姉たちからも、お前さえいなければと、お前のせいで皇后は死んだのだと、言われ続けて育つ。その反動で、暴君になり、聖女を深く恨む。可哀相な子供だ。それは間違いない。

 でも、それは他人を傷付けて良い理由にはならない。虐げて良い理由にはならない。

 そうだ。

「わたしは、知っている」

 まだ起きていないことを。

 小説では、過去回想であったこともあり、なにがいつ起こるかの、細かい日付までは記載されていなかった。

 だが、ひとつだけ、はっきりしていることがある。

 暴君皇子の、生年月日だ。

 帝国歴1837年8月16日。

 皇帝も皇子も皇女たちも、忌むべき日と語る、皇子の誕生日にして、前作ヒロインの命日。

 この日に前作ヒロインを死なせなければ、わたしが皇城に登城し、治癒すれば、少なくともそれが原因で、暴君が再来することはなくなる。

 好きではない、むしろ、大嫌いな部類の女だが。

 そいつを守れば子供が虐げられる可能性を減らせるなら。

 この、オリヴィア・ネーデルヴァルト、大馬鹿野郎な前作ヒロインを、救済して見せようじゃありませんか。

拙いお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ