ここは奴の居場所(テリトリー)
自身の文章力に自信がない紫芋です。
今回は短めです。パパっと読めます。楽したかったからですね、慢心と自尊心による行いですね、はい。
よく修正点がない確かめまくって、合ってるか、間違っているかを延々とやっていますが、あくまでも、投稿は人に見せるものなので、注意はしているのですが、それでもミスりますね⋯⋯⋯。
という事で、この章が終わり次第、全話を一度改修しようと画策しています。
年末と被られるとコチラが困るので、手早く終わらせたいのは山々ですが、90話程あるのである程度はのんびりと加除修正を加えていく所存です。
これを書いてる時点で第一章の藍莉のお話は終わらせてますが、第二章以降はこの章が終わり次第、着手しようという腹積もり。
では、長々語りましたが、本編どうぞ!
鳴り響く救急車のサイレンの音は、胸を痛めた。
スマホからの着信音は身体をビクリと震わせる。
見る気にもなれない。見る気が起きない。
夜の『空弩街』──普通のこの時刻なら、まだ歩いている人は大勢居て、車も当然のように走っている。
退社したばかりのサラリーマンに溢れ、部活終わりに遊んだ生徒の数で埋め尽くされる。
自転車を漕ぐ人を居れば、騒ぎながら友人と一緒に走り出す者も居た───けど、今現在でそんな人は誰も一人として居ない。
テナントビルは小間切れ肉のようにサイズが疎らなまま倒壊。
看板は大雑把に三分割されてしまい、道路に投げ出されている。
辺りは瓦礫と血の溜まりで埋め尽くされていた。
鉄骨が道路に向かって歩道を遮るように伸びている建築物は誰も手を付けずに放置の状態。
多くの住民は避難所として指定されている学校や市民館のような場所へと移動している。
だから、誰も居ない。夜の人気の無さは度を越して自然と身体を冷たく感じさせた。
無音という訳では無い。決して虚空の中、独りっきりでは無いって分かっている。
だけど、視界に移るその景色には誰も居ないし、誰も姿を見せようとはしない。
知っている筈の街。過ごしていた日常の箱庭と、その景観はあっという間に別世界に移り変ったように惨劇と地獄の痕を遺した。
泣いてる人の声がする。呻き声を上げて、そんな人を支えようと声を掛ける人の声もした。
僕は、そんな人達を全て傍目で見るだけで、朝倉拓也に言われた東地区にある『象願林』へと脚を動かし続ける。
着ていた服は処分した。腹部辺りにある血痕と穴が寒さをより増させるだけだから⋯⋯。
新しく着たシャツに身を包み、僕はトボトボと歩くのみ。
胸につっかえたこの感情を諌める方法は何なのだろうか。
それを教えてくれる人は何処に居るのだろうか。
責任とはどう果たせば良いのだろう───。
その一切が僕の頭の中を駆け回る。
泥濘に脚が沈んだように思考がずっと前に進まない。
進んだとしても、泥を跳ね飛ばして汚れだけが忌々しく残る。
ずっと、ずっと、僕は、僕のやる事、成す事に『正しさ』を求めだす。
肯定の言葉が欲しかった。間違っていないと、否定も淀みもない、そんな心が晴れ晴れとなるような言葉が欲しかった。
赤いサイレンの音色は何時までも鳴り続ける。
豹変という言葉が正しく機能する光景を今日、自分の自宅で目撃し、戦慄して、恐怖した。
掛けなければならない言葉はもっといくらでもあったと、今更になって──冷静になり始めてから気付いてしまう自分が嘆かわしい。
自分で自分を殴るなんて真似が出来る程、自分の事を間違ってはいなかったと思い込みたい。
『甘え』というものだろう。結局、自分が可愛いんだと、心底納得させられる。
それが『許せない』という感情も自分の気持ちと思考から舞い込んでくるのも、また事実。
僕は僕が分からなくなっていく。
舞喜を助ける手段はもう無い。舞喜に声を掛けても、それはアイツにとってどう思うのだろうか。
罵倒や謗りをこれ以上なく投げられる──それは良い。
問題は、舞喜が元に戻ってくれるのか。
この一点だけにある。
豹変したのなら戻らなければならない。
こんな景色は間違ってるし、元の生活に戻りたい。
やり直しの機会はそうやって全て戻った後にしか訪れないんだと、深く痛感する。
けど、元に戻ってくれ、と投げ掛けても、分かった、と舞喜が口にするとは思えない。
治った筈の腹部から何故か痛みが起こり始めた。
ズキズキと腹部を集中的に襲う感覚、底から皮膚へと押し込んでくるような鈍くて酷い感覚。
「っ!⋯⋯⋯⋯⋯」
腰に備え付けた小さな筒。
中には一人の少女が封じられている。
彼女を戻す為にも、今は前に進まなければならない気がした。
それでも⋯⋯警鐘の合図はずっと───僕の心に鳴り響いていく。
━ ━ ━
『空弩街』の電波塔の内部は冷め切っていた。
照明は点滅すらせず、暗がりの景色を映し出して、設置された案内用の看板と一定の間隔を空けて設置されている展望鏡だけがシルエットとして分かる程度の暗さ。
その屋内、薄汚れた展望デッキの中で、帰らなかった者達を悼むプルトンは静かに手を合わせている。
バラストは『除者』の刀で薙ぎ払われてしまった。
ワノルは自ら呼んだ【サンダーバード】の雷に巻き込まれた。
アカールはワノルの凶弾によって無慈悲に脳を貫かれた。
ブリークは【刃龍】の赤い一閃で焼き付くされてしまった。
ウィリアムは強烈な衝撃によって飛び散った【パンド】の木片に打ち付けられて原型を遺さないまま逝ってしまった。
皆が理想と平和を願い、それぞれの主張や権利を胸に抱き、この日本という地で終わりを迎える。
雄弁かつ達者な物言いは今更出来ない。
プルトンのみ、まだ肉体があり、魂が滾り、信念と果たしたい理想が迸ったように身体を熱くさせていた。
しかし、そこで問題になるのは朝倉拓也によって齎された『可能性』を断った一閃である。
マイヤが庇ったとは、プルトン自身には痛みはあれ以降も起きていない。
遅効性のようなものかと多少の恐れもあったが、依然として状態はクリーンである。
「『可能性』⋯⋯⋯」
『可能性』と呼ばれるものは多種多様。
様々な状況や意思表示によって変化するものである。
少なくても、何に関する『可能性』を断ち斬ったというのか、プルトンには見当が付かない。
『啓示の箱』は既に朝倉拓也によって分解されてしまった。
本来、トンカチやチェンソーで叩こうが切り裂こうともビクともしない筈のその箱は、いとも容易く破壊された事に関して、憤慨するなり動揺を酷く見せるべきなのだろう。
だが、プルトンは既に朝倉拓也が【悪魔の王】と【紅蓮の龍】を撲滅した場面や、その一部始終を目撃してしまっている為、嫌に納得出来てしまった。
ましてや、【刃龍】相手にあの立ち振る舞いが出来てしまう事にさえ、理解は出来ずとも納得はしてしまえて、嫌気が差してしまう程である。
「⋯⋯⋯朝倉拓也⋯⋯⋯⋯。アイツさえ居なければ⋯⋯⋯っ!クソ!」
立ち上がったプルトンはここから動く事は本来、許されない。
既に【婚姻】は済ませてしまっている身である為、【再誕】を待つしかなかった。
だが、その【再誕】すらも身に降りかからない。
それは即ち──『失敗』を意味していた。
「どうしてこうなるっ!!俺達の悲願。俺達の理想をどうして、どいつもこいつも邪魔するんだ!一個人の幸せを願う事の何がいけないんだ!」
『プルトン・ゾルディアス・Jr』。
彼は産まれた時から母親と呼べる存在も父親と呼べる存在も居ない、正真正銘の孤独だった男。
そんな彼にも野望にも似た夢があった。
いっそ宿願と言い換えても良い。果たさなればならないと胸に刻み込み、それを成し得なければ生きていけない男である。
誰にでもある欲求は彼にはなかった。
生きる理由と呼ばれる理由を、正しく持ち合わせず産まれてきた。
故に求めなければならない、そう心に植え付けて生きてきた人生だった───筈が、転機は訪れる。
男にも、愛したいと願う存在が現れたのだ。
自分が自分らしく居れる唯一の理由は、常にそこに置かれる。
自分の存在価値、価値基準も、全てが一人の女性によって一変した。
俗に言えば、心底惚れ込んだ。
悪く言えば、犬に成り下がった。
そう捉えられる事を出来る。
だが、男は誰がなんと言おうとも、その女性のみを見続けていた。
「⋯⋯⋯⋯⋯マイヤ。⋯⋯⋯?マイヤ?!」
背後に居た筈のマイヤが忽然と消えていた事に気付いたのは、朝倉拓也へ向けた悪態がある程度済んでからの事であった。
照明が何一つ灯される事の無い、展望デッキに一人残されるように佇んでいたプルトンは彼方此方に視線を向けて、マイヤの存在を確認しようとする。
しかし────何処にも居ない。
誰も居ない。全くもっての無人であり、存在感の感じない冷たい空気がジャケットに浴びせられる。
「可哀想」
「⋯⋯っ!!誰だ!」
女性の声が唐突に展望デッキに響いた。
その静寂をぶち破った者の声は、本当に憐れまれているのだと理解して、酷く琴線に触れる。
「可哀想とは何だ!姿を見せろッ!!」
「⋯⋯⋯あなたに私の姿を見せた事がある筈よ?もしかして⋯⋯⋯⋯⋯忘れちゃった?フフッ。可哀想」
「な、に?」
聞き覚えのない女性の声だった事はプルトンが肌で、耳で、脳で判断していた。
暗がりの展望デッキに潜む何者かを小走りで捜索を開始するプルトンの額には汗が流れる。
妙な感覚が身体を締め付けていく。
踏み進める足音は一人分。警戒心を大きくさせ、大袈裟に後方を確認しつつ、展望デッキを走り続ける。
視線が常に通う────そうではないとプルトンが気付いたのは、展望デッキを一周し終えた頃の事だった。
視線が離れないだけではない。向けられるその視線は常に一定の間隔、一定の位置、一定の数が常に付き纏うようにプルトン自身に向けられて、離れる事が無い。
周囲360度全てに、定点カメラのように展望デッキを一周したプルトンの事を観測しているのだと、そう気付いた時───。
「あなたは本当に可哀想」
真後ろから小鳥のような小さくか細い女性の声が聞こえた。
直後、狙い定めていたように、胸ポケットから取り出した拳銃を一丁、振り返りざまに引き金を引き凶弾を放った。
木霊する銃声と、薬莢が一発分、床に落ちる音が、展望デッキに鳴り響く。
「⋯⋯⋯⋯?!」
誰も居ない。それ所か、プルトンの居る位置が変わっていた。
展望デッキには空けられた壁が一つある。
それは以前、コナーによって空けられたものであるが、その空けられた壁を背にするように拳銃の引き金を引いた筈──。
しかし気付けば、プルトンの居る位置はコナーが空けた壁とは真反対の位置に居て、円柱のような形をしたエレベーターに一発、銃弾を放っていたのだ。
瞬間移動でもさせられたようで、自分の元居た箇所に比べても、光は通っておらず、視界が一瞬で暗くなる感覚に見舞われて、酷く動揺を見せるプルトンは後退りをし始める。
「⋯⋯⋯⋯はァ?」
理解は及ばない『現象』が身を染めていく。
左右に目を配り、壁を背にしようと後退していくプルトンの背中は壁とぶつかる。
────気付けば拳銃は、左手から紛失していた。
「⋯⋯え?な、なに!?」
ヒールにも似た音が耳に届く。上品何てものはかなぐり捨てたように、ステップを踏んでいるような、軽快な足音だった。
少女の笑い声が鳴り響く。
男性の雄叫びにも似た声が轟いた。
赤ん坊の啼泣がフロアを包み込む。
老人の喚き声を切っ掛けに劈き始める。
「な、何が!?な、なんだ!!なんなんだ!」
動揺を隠せないプルトンの影は蠢く。
静かに波間を持って、漣が無音のまま動き出して、黒い影がプルトンの背後に立った。
プルトンと壁との距離は僅か一ミリ弱。
人が入れるにしては薄っぺら過ぎるその間を、影が侵略する。
ガシッと、無数の手がプルトンの身体を抱き締める。
「っ!!!────っっなに!」
抱擁と言うには雑が過ぎていて、羽交い締めというには隙があり過ぎるその素人丸出しの動きにプルトンは慄く。
────影から伸びた手は、二本ではなかった。
赤ん坊の小さな手、結婚指輪を付けた女性の手、シワくちゃになった老人の手、ゴツゴツとした筋肉質な男性の手、ざっと数百本分という数の、千差万別の両腕が、両手が、プルトンの身体に纏わり着いている。
『ありがとう。【刃龍】を誘き出してくれて』
口元以外を侵略されていく。
蠢く無数の手はまるで品定めでもしているように、指を細やかに動かして、プルトンの身体をなぞっていた。
「⋯⋯⋯⋯なに!」
『あなたに任せて良かった。あんなに近くに居たなんて⋯⋯。蛇は擬態も出来るのねぇ⋯⋯。ところで、あの男は何?』
あの男──それは誰の事か、プルトンには理解出来た。
それはアメリカからわざわざやって来たというのに、計画の要までぶち壊した『朝倉拓也』の事だと、すぐさま理解して、口を開く。
「俺にも⋯⋯⋯分からないっ!」
『⋯⋯⋯⋯そう』
精一杯の悲鳴にも近い解答に女の声はボソリと頷くような言葉を発した。
直後、プルトンの身体を無数に纏わり着いた手は背にある壁に向かって収納されるように移動を開始していく。
前屈みに倒れたプルトンは背後を向く時には視線は一切感じられず、冷や汗のみが、恐怖と畏怖感を物語っていた。
軽快な足音が鳴る──。
ポケットから取り出した小さな箱、その蓋を少しずらして、取り出した木の棒を箱の側面で擦らせる。
摩擦熱によって生まれた火は、影を色濃く映し出す。
カラカラと残り少ないその箱──マッチの本数を音で確認しながら階段を降りていく。
鼻歌混じりに左右に身体を揺らして踊る。
コレからの街に乾杯。コレからの日々に祝福あれ。
『綺麗ぇぇ。この火が消えるみたいに、【刃龍】。あなたも消えなきゃいけないの。この街で生きていくには、私に従わなきゃならないのよ。⋯⋯⋯フフフフフフ』
か細い吐息がマッチの火を消す。
瞬間、暗がりと共に、瞳は階段を包み込む影の中に無数に現れた。
この街は全て、彼女のテリトリー。
この街は彼女の箱庭。
この街は全て、彼女の為に生まれた厳選地帯。
だから、誰も逃げられない。誰一人として──。
━ ━ ━
気が付けば、体育館の隅で寝ていた。
それが睦生嶺二が起き上がって最初に気が付いた事である。
突如として起こった爆風と、強烈な衝撃が身体全体を襲い、僅かに目撃した巨大な龍の姿に慄くと共に、意識を手放した⋯⋯⋯⋯それが、彼の見た全てであり、受けた痛みの代償のようなもの。
それ以上の事は何も分からず、頭を軽く振って、辺りを見渡す。
子供を寝かしつけようとする母親の顔が心労が祟ったような面をしている。
明日の自分はどうなっているのか、それすら不安対象となって怯える老人。
外から帰って来た青年二人は、もう一人居た友人らしき人物に声を掛ける。
しばらくして、その友人は顔に手を当てて、嗚咽し始めた。
その様子から目を背けるように逸らした視線。
引き寄せられたように、釣られて泣きそうな顔をする嶺二は身体に掛かった毛布を払い除けた。
ゆっくりと歩き出し、街の事態が最底辺に陥っている事を改めて実感する。
「あ、睦生くん!だ、駄目だよ?今、立ったら!」
「⋯⋯⋯ん?祟良把さん、良かった」
小さなエチケット袋を手に持って、駆け寄った杏は不安そうな顔をさせながら嶺二の元へと歩き出す。
体育館の中には、事前に準備をしていたお陰──というのだろうか、光源となる物を予め準備している人がチラホラと居たお陰で杏の顔を窺えた嶺二は安堵する。
「頭打っちゃったんだよ?暫くは安静にしてないと⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯祟良把さんはどうして?」
「私はボランティアみたいなものだよ。皆が皆、正常で居れるとは限らないから、必要な人に渡そうとしてるだけ」
誰もが、この状況を、この事態を納得して、頑張ろう!となれる訳ではない。
立ち直るには時間が居るように、心の整理をする為の時間が求められるように、蹲っている内に身体に危険信号が鳴り始める者も当然出てくる。
祟良把杏は現状、それを介抱する為のボランティア中であった。
勿論、彼女にも出来ない事はあって、最低限の程度しか役には立たないのだろう。
それを事前に言われて、それでも彼女は立候補した。
「⋯⋯凄いね。俺には⋯⋯⋯⋯」
「ううん。出来る事をやってるだけ。睦生くんは暫く、休む事が仕事だよ?」
淡々とそう言い切れる杏に、何処か憧れのような眼差しを向ける嶺二は視線を下に落とした。
そして、なんとも言えない空気になった事で、それを瓦解されるように辺りを見渡して──気付く。
「⋯⋯そういえば、准は?アイツはどこ行ったの?⋯⋯⋯⋯まさか!」
「ううん!大丈夫⋯⋯⋯⋯だと思う。多分、だけど」
自信無さが言葉に表れ始める。
小さなくなっていく声のボリュームがそれを物語り、落ち込んだ様子を見せる杏を一瞥した嶺二は立ち上がった。
「探しに行かないと、六華も、准も⋯⋯」
不意に脚へと負荷が掛かる。
想像していた以上に身体にはダメージが残っていて、徐々に震え始めた。
「待って!駄目だよ」
支えようとする杏の腕にしがみ付くように傾いた身体に嶺二自身も驚愕し、膝を叩く。
「────外傷とかは無いけど、動いたら悪化って事もあるんだよ?」
見つめる視線は嶺二の後頭部。
二つの強大な激突とその余波により吹き飛ばされた事が災いして、崩れ落ちた瓦礫に背を打つと共に頭部に衝撃が加えられた影響を鑑みた杏の一般的解答は的を得ていた。
けれど、それでも嶺二は杏の腕から身体を離して、自身の震える脚でピンと、背筋を伸ばす。
ぎこちなくて、油が抜けた機械のような動かし方をした嶺二の身体は不安が垣間見える。
グラつく姿勢は見ている側を不安にさせて、当人ですら内心では危険だと判断していた。
けれど、それを勇気付ける為の裏付けは傍に居た。
嶺二にとってはそれだけで良い。
「⋯⋯⋯祟良把さんが頑張ってるのに、僕が頑張らない訳にはいかないでしょ。それに准も妹さんを探してる。僕はそれを手伝うって言った。放棄する理由にはならないでしょ!」
「⋯⋯⋯でも」
見窄らしい格好──というには語弊があるのだろうが、所々が破れた学生服は街の悲惨さを醸し出し、汚れた頬と身体に残る擦った痕は未だ健在。
寝ていても罰は当たらない。休んでいても文句は言われない。
それが睦生嶺二の現状である。
だが、それは同時に嶺二のみに言えた話ではない。
祟良把杏もまた嶺二と共に行動している時間が多く、衝撃によって吹き飛ばされて、ダメージを負った人物でもある。
そんな彼女が立ち上がり、自身よりも早くに目覚めて、他者の為に奮闘している中、自分だけのうのうとしている現状が気に食わなかった。
自分に向かって唾を吐くように胸中穏やかではない嶺二はゆっくりと歩き出す。
「僕は行くよ。朝には戻るから」
左脚は摺るように。負荷が脚から始まり、全身に作用しだす。
寝ていた事により、体力を僅かながらでも回復出来た筈だと言うのに、痛みだけはそれに正比例してくれない。
「待って、私も行く!」
後方から小走り気味に追い掛けた杏は、嶺二の衣服を摘むようにして動きを制止させた。
傍から見れば、痴話喧嘩の一環にも似ている光景に誰も耳を貸す事はしない。
誰もが困窮している身であり、誰もが明日を謳歌出来る状況には立っていない。
それだけの被害が出て、それだけの危険が訪れたという証明に他ならないのだ。
「祟良把さんはここでやる事やらなきゃでしょ?俺だけで大丈夫」
「⋯⋯⋯でも」
「⋯⋯大丈夫!行ってくる」
勇んだ心を武器に前へと歩き出す。刮目しろとは口に出来ない。
睦生嶺二の最初の友人、桐江准を探す為に奔走と言うには歩幅が短い足取りで歩き出した嶺二の心は高鳴った。
(父さんお母さんも心配だけど⋯⋯⋯⋯今は。────六華、准⋯⋯⋯⋯何処に居るんだ⋯⋯⋯)
ある種の信頼があった。両親ならば大丈夫かもしれないという驕りのような感情が突き動かされていく。
それが睦生六華の『暗示』による作用とも気付かず、独りっきりでの捜索が始まる。
睦生六華は『睦生家』に住み着く為に『暗示』を掛けた。
それはあくまでも自身が居ていいように、それが平凡で当たり前の日常と思わせる為の手段として行った事である。
けれど、彼女も知らない副作用はこうして幕を開ける。
いずれそれが牙を剥くとは露とも知らずに──。
前書きの所でも書きましたが、加除修正を加えて行く予定です。
この章が終わるのは10月初旬から中旬という目処を立たせてますが、一斉修正は12月中旬までには終わらせたい所です。
もう一年が二ヶ月もすれば終わる⋯⋯⋯。
短かったな⋯⋯。皆さんも病気や怪我に気を付けてお過ごし下さい。
それでは〜。




