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この街は今日も語る  作者: 紫芋
Spring hour 桐江准は普通でありたい

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超越者

 空から突如として現れた男の出現は状況を大きく変える事になる。


 街に住まう二匹の『龍』は全身から噴き出した汗の正体を睨み付け、恐れる身体を動かそうとし始めた。

 

 既に『空弩街』は火柱が立ち上り、不吉な暗雲が稲妻を起こしていく。


 中央地区と南地区の境では【サタン】と【紅蓮の龍】が激しい攻防戦を繰り広げており、街は形状を崩れていた。


 超越者の男は状況を俯瞰する。


 初めに確認したのは、この世界に入った瞬間に感じた些細な違和感から。


 合計五地区でそれぞれに営みを構える街の造り、聳える山や、中央地区に建造された電波塔の中に居る人物達の悪意の漏れや、悲鳴や死者数。


 それら全てを一望出来る程の高さに居る男はこの世界に来る前に交戦した男の首をクルクルと髪を掴んで回し出す。


(この街⋯⋯なんだ?何かおかしい⋯⋯。!あ〜そういう事か。だからあんなものが出てきちまってんのか)


 男は東地区にある建造物を見つめ、納得したように頷くと一言。


「まぁ、神相手に比べれば、マシだな⋯⋯」


 上空には既に喇叭を持つ【七人の天使】が齎す新たな火種を投下しようとしていた。


 上空に羽ばたいている【七人の天使】に向かって振り回していた首を落とす形で投げたのを皮切りに戦闘は勃発する。


 振り回しつつも排除しなければならない存在とその順番を明確に決めていた男の最初の獲物は真下に浮かぶ【七人の天使】であった。


 落とした首には自身の魔力が籠っている。


 後は、起爆するのみ。


 グッと右手を握り締めた男は視線を上に向ける。


 そして、叫び声を上げようとしていた【七人の天使】は大爆発に巻き込まれ、手に持っていた大きな喇叭は粉微塵となって七人居た天使はあっという間にゼロとなった。


「取り敢えず、苗蒔きは阻止しないとな」


 身体に薄青色の魔力が輪郭を形成し、街全体が包み込まれるように拡大させてる。


 地面に蹲っていた少年は唖然とした。


 学校で巨大生物が現れた事により大騒動となっている生徒達も、街の守護と安寧を遣わされた一族も、まだ被害に遭っていないものの街の騒然とした様子に危機感を持つ住民も皆が、口をポカンと開けていた。


「何をするつもりだ⋯⋯」


 事件の首謀者にして、電波塔の展望デッキに居たプルトンは訝しむ。


「これ以上、この街を好きにさせるか⋯⋯潰す」


 学生を服を屋上で全て脱ぎ捨て、元の姿に戻ろうとするボブヘアの女子高生はそう吐き捨てる。


 そして、中央地区の郊外付近にて悲痛な叫び声が木霊した。


 傷を負って右腕は上がりにくくなっている中、内蔵が露出してしまい、頭に大量の血が流れている少女を涙ながらに抱き締める。


「しっかりせんかい!オイ!オイィィ!アカン、アカン、アカン、アカン!!」


 セーラ服を着た女子中学生の肩を必死に揺するパッツンヘアの女性は煤に汚れながら、必死に呼び掛ける。


【七人の天使】が奏でる喇叭の音色は『除者』のような耐性を求められる者や『怪異』という存在を除き、脳に強く影響を与える。


 そこへ重なるようにやって来た【サタン】の出現によって齎された建物が宙に描く放物線は少女の近くに直撃し、近くに居た友人数名を巻き込む形で被害に遭ってしまう。


 偶然、通り掛かった『除者』三人の内、女性が驚愕の表情と共に走り出し──発見してしまう。


「しっかりせんかい!おい!喜雨!!」


 灼かれた街には種火が巻かれたように影を殺していく。


 鮮血すらも色鮮やかに照らしていき、涙を枯れさせようと煙は立つ。


 三メートル程の長剣を乱雑に地面へ置いた男は、少女に駆け寄った女性の肩を掴む。


「もう無理だ!」


 誰がどう見ても助からない。既に死んでると傍から見ていて分かる。


 開いた瞳孔と何時までも送られない酸素。


 辺りに散らばる炎が生者か死者か、その判断を躊躇わせ、錯覚させてくる。


 しかし、瞬きを一切しないのならば話は変わる。


 明らかに傷口から漏れ出ている血液が致死量に達してしまっている事は女性すら、本当は知っていた。


 だが、僅かな可能性に縋りたいと必死に呼び掛けを続けていたのだ。


 肩に乗る手を力一杯に払った女性は叫ぶ。


「ざけんなや!ボケ!まだ終わっとらん!ウチの妹が喜雨がこないな所でくたばる訳ないやろが!ぶっ飛ばしたるぞ、ワレッ!!」


「⋯⋯⋯っ」


 嘆声《たんせい》の限り口にした言葉に、瞼を閉じ、無精髭を思わず触ってしまう。


 二人のすぐ後方でシャツを全開にした端正な顔立ちをした男性が結んだ後ろ髪を払うように首を動かしながら近寄った。


 そして、横たわったきりで動かない十三歳の少女の瞼をそっと手で閉ざす。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯諦めろ」


 瞼が閉じた少女の頬に手を添える。


 煤で汚れ、血は滴って、買ったばかりのスマホは砕け散って足元に落とされていた。


 ただの学生、ただの子供であり、ただ普通の人間が辺りを見渡すと百は倒れている。


 そんな光景を濡れた視界で見つめるばかりの女性は少女の胸元に頭を置いて、また泣き始めた。


「ぅぅぅぅぅぅ。なんでこないなんねん。まだ、中学生の女の子やで?⋯⋯⋯⋯不条理やろがッ!」


「⋯⋯⋯⋯」


 長剣を手に持ち、五キロ先で交戦中の怪獣共を睨む。


 すぐ近くに居るようにも見えてしまう距離感がバグり散らかした存在に立ち向かえる術は彼等は持っていない。


 だから、剣先が音を響かせながら地面に着いた。


「なぁ!答えろや!なんで、この子死ななあかんかってん!答えてみろやぁぁぁ!」


「⋯⋯それが、僕達の世界だからだ」


『除者』とは生者を救うのを第一としている。


 担当を受け持った中央地区は既に惨劇と形容する事すら烏滸がましい程に事態が悪化していた。


 中央地区の郊外と電波塔周辺、北区寄りの建築物以外は全て壊されてしまっており、辺り一面は禍々しい真っ赤な炎のカーテンが仕上がっている。


 男達は動かなければならない。


 目配せをし、頷くと、女性の腰を無理矢理抱えると、急ぎ後退していく。


「あぁぁぁぁぁーーーッ!離せ、離さんかい!あんなとこで寝かせてどないすんねん!女の子やぞ!離せやァァァァァァ!!!」


 少女達学生が倒れる位置に火が灯る。


 火柱は尚街を制圧しようと躍起になっていた。


『Gaaaaaaaaaaaa〜〜ッッ!!』


【サタン】は尚、雄叫びを上げて【紅蓮の龍】と交戦中。


 人が建てた建造物はただのオブジェクトであり、どこまでいっても小石程度のもの。


 声を荒らげ、街を震撼させていき、それが耳に届いた者は悲鳴と恐怖で否応なく縮こまる。


(⋯⋯⋯⋯⋯来た!)


 飛来するは街を縛り付ける種だった。


 苗が生えて、人を養分とする選別の為に遣わされた天使の残業。


 既に存在自体が街から消え去った天使達。


 男は一歩遅かった。だから、リカバリーを最速で行う。


「ふっ!」


 街を包んだ男の魔力はレーダーそのもの。


 空から降るその小さな種を明確に潰す為⋯⋯そして、街を侵食する悪魔の業火を鎮める為、男は両手を強く握り締め、魔力を蓄えた。


(⋯⋯⋯よく分からん火はもう少し待ってくれ⋯⋯⋯⋯。必ず何とかする)


 右手を空に掲げるように上げた。


 見計らうように、測定し、拡大させ街を覆った魔力の範囲内に種が侵入。


 次の瞬間、一筋の閃光が上空に駆け上がった。


 嘆きと呻きが渦巻く街の上空に静寂の光が真っ直ぐと打ち上げられる。


 種は均等に、そして狙いを定めたように空気抵抗を受ける事もなく急降下。


 その種と男が放った一閃が垂直に位置した時、光は拡散した。


「な、なんだと?」


 プルトンは見た。元々場所を指定したのは本人だった。


【馬】も【天使】も【紅蓮の龍】も【悪魔の王】も【苗】も全て。


 最も街に人的被害を出すと判断した男は【苗】を真っ先に破壊した。


 青い花火が上空に花開き、余波で暗雲と立ち込めた曇天を晴らしていく。


「なんだあれはァァァァァァ!?」


 予想外の人物、予想外の事態、予想外の対処法にプルトンは次第に絶句したように口を大きく開けて固まった。


 そんな彼の事をスルーし、今尚下手くそなプロレスごっこをしている二匹の怪獣へと視線を送る。


 すぐさま移動し二匹の間に割って入る形で肉薄した男。


 体格差どころか、二十メートルと三十メートルという巨大生物と男では比較になりようがない。


 間に割ってやって来た所で普通は意味を成さないのだ。


 だが、二匹は明確に攻撃も防御も止めて、徐ろに後退った。


 男は【悪魔】の方へと目を向ける。


 ターコイズブルーが暗く光る眼光は男を映す。


「次はお前だな、悪魔くん?エロイムエッサイムって言ったら、仲間になってくれるかい?」


『Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


「あぁ、駄目そうね、こりゃ」


 邪悪で白く鋭利な爪が男に向かって走る。


 風は迫り、吐かれる吐息は喉を焼きそうになる程の熱を帯びていた。


 振り下ろされた爪を男は掴み、ゆっくりと空中を歩くように【サタン】へと近付くと胸元に右手を当てる。


「じゃあ、死ね」


『龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』ですら、傷が蘇生した強靭かつ不死身の肉体。


 それにぽっかりと小さな穴が空く。


 男の右手には掌サイズの心臓があった。


 誰のものか?────【サタン】のものである。


 しかし【悪魔】とは本来心臓と呼ばれる急所は存在しない。


 脳に至っては潰されても思考がブレるだけで活動は停止しない。


 では、何故心臓があるのか?


 答えは至ってシンプルだった⋯⋯。


 徐々に塵と化していく【悪魔の王】。


 膝が地面に着き、男の方へと身体は向かっていく。


 それを脚で邪魔だと言わんばかりに蹴飛ばして上半身が吹き飛んだ悪魔はそのまま消滅してしまった。


 それに伴い掴まれた心臓は鼓動を止めて塵となっていく。


「フッ」


 男は頭が良くない。理論や数式や合理性よりも身体で覚えて実践していくのが性に合っている気質である。


 男にはトラウマがあった。


 それは【不死身】と【征服】である。


 ラスボスが持っているように性能が当たり前のようにポンポンと誕生しては力を付けて来る世界に生まれてしまった男は多くの仲間を失った。


 男がまだこの全能的力を獲得するよりも前、非力であり、学生であり、今のような旅をなんてものを、ご当地をロケ取材して出張するものだろ?程度に考えていた頃──ある時は親友、ある時は盟友、ある時は愛友、ある時は英雄を⋯⋯。


 他にも見捨てた数だってある。


 その殆どが自身よりも強く、孤独で太刀打ちして辛くも撃破というケースが多く、男は植え付けられる結果となった。


 それがトラウマ。


 だからこそ、万能感に溢れる今の自分が、かつて出会した【不死身】【再生持ち】【無敵】【無限の命】【超常的な存在】【地球にいる限り死なない】等などに、再び相見《あいまみ》えた時、その厄介極まりない扱いの対処に最も有効な手は何か、それを考えた結果───。


 弱(・)点(・)を(・)自(・)ら(・)作(・)る(・)という手段を思い至る。


 男にとって生命体とは『生』と『死』を持ってこそ生命体であると考えている。


 だが【サタン】には『心臓』がない。


 そして不死身であり、存在そのものが死の象徴。


 ならばと『心臓』を体内に生成すると同時に一つの概念を加えた。


 それが『心臓を持つ者は何時かは死ぬ』という概念である。


 結果として『心臓』がある=生命体としてカウントされる=必ず『死ぬ』という図式が完成された。


『──────?ッッ!』


 塵と化し、消えゆく悪魔。


 涙はなく、慟哭もなければ命乞いすらなく終わった瞬間的殺害。


 そんな光景をただ臆して見ていた【紅蓮の龍】は悩んでいた。


『龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』を吐き先手を打つか、自慢の翼で飛翔して逃げるか、を。


 男は振り返り、龍の黒い瞳を見つめる。


 ワインレッドにも似た赤い鱗、長く伸びた髭はさながら長寿を体現しているようであり、強靭な脚は胴体を支えて二足歩行。


 尾は地面に向かって垂れ下がり、余ったケーブルのようだった。


「八匹目。次はお前か?模造品の龍?」


『千里眼』で事のあらましを知った男はそれが造られた存在であると看破し、言語が何故か理解出来てしまった龍は翼を羽ばたかせる。


『uuuuuuuu』


 一気に飛翔した胴体が齎したのは、空を衝く程の加速だった。


 初速だけでマッハに至る【紅蓮の龍】を黙って見逃す──訳がない。


 むしろ、思い出し笑いをして俄然やる気なった男は浮いていた身体に魔力を籠めて、一気に上昇した。


「チェイスでもしよってかい?いいねぇ!ゴンと遊ぶ時を思い出すぜ!」


 男が消えたように上空へと向かった三秒後、衝撃音が鳴り響く。


 既に辺りの建物は倒壊済みであり、吹き抜けるように准の身体へやってくる。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 男の初速は未知数。自身でも知らないし、試す理由がない為、詳しく理解出来ていない。


 しかし分かる事があるとすれば、既に【紅蓮の龍】の間近にまで男が迫っているという事と、何時でも殺せるという事のみ。


【紅蓮の龍】よりも高い高度を維持して、落下速度をある程度算出した。


「ダァァァッ!!」


【紅蓮の龍】の居る高度が千五百メートル程度なのに対して、男が居る高度はオゾン層を抜いて三千メートル付近。


 そして、一気に脚を前に突き出して急加速を掛けていく。


【紅蓮の龍】は知らない。既に真上近くから隕石以上に厄介な者が飛来してくる事を。


 魔力で落下位置を調整し、小さく見えていた龍のシルエットは大きくなっていく。


「じゃあなッ!」


『ッ!』


 龍が気付いたのは、男と龍との間が百メートル圏内という所だった。


 龍は鰐ではない。上を見上げようとするには首を動かすか身体の向きを変えるかの二択だけ。


『Baaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』


 ────爆発音が鳴り響く。


 大きな背骨を一瞬で砕き、胴体を突き破った男はそのまま縦に旋回し、痛みで絶叫する龍の頭部へオーバーヘッドの要領で蹴りを入れた。


 空気が圧縮して放たれたように、三重の層が高度千五百メートルの上空に広がる。


 首はサッカーボールのように飛んで行く事はなく、塵と化して地上に落下する事はなかった。


 三十メートルをも誇るその体躯はゆっくりと塵となっていく。


 貫いた胴体は徐々に速度を落としていき、海へと落下した直後、海面一帯が塵に埋め尽くされていった。


「⋯⋯⋯すぐ戻るか⋯⋯⋯なら、次だな」


 徐々に塵が海に溶かされていくように消失する様を最後まで見届ける事は無いまま、男はその場から姿を消した。


  ━ ━ ━


『空弩街』は既に日差しがよく当たり、火柱の痕跡と倒壊した建物の山、そして遺体となった者達で溢れ返っていた。


 そんな街の中心でありシンボルでもある電波塔の中で一人、苦虫を噛み潰したような表情で壁を殴り付ける者が居る。


「⋯⋯⋯⋯っ!なんだアレは⋯⋯。俺とマイヤの理想の世界がすぐ傍まで来ていると言うのに⋯⋯。なんなんだァァァァァ!お前はァァァァァァァァァァ!」


『啓示の黒い箱』から呼び出した【紅蓮の龍】と共に遥か上空へと飛んで行った男へ向けての怒り、慟哭、驚嘆が混じった雄叫びは街に響き渡った。


 感情を押さえ付けるよりも発露させてしまいたい気持ちに溢れ返り、激しく苛立つプルトンは壁を更に数度叩いた。


 そして────。


 男は街の中央地区の上空に佇み、黒く焦げた街を一望。


 男のやるべき事は次項目へと移った。


「さぁてと、次は被害者の傷を治して──」


 まだ『啓示の箱』は閉じ切ってはいない。


 しかし、一向に次が現れない事に余裕が生まれたと判断し、被害者の安全確保と遺体の確保を急いだ。


『そこまでだァァァァァ!』


「ん?」


 東地区方面の上空に白く長い蛇のようなものが浮かんでおり、それが超スピードで迫り来る。


 太陽の日差しに照らされ、黄色の瞳は黄金へと煌びやかに映り、白の鱗は光を反射する程の光沢を纏い、六本の脚と靭やかな尾。


 全長七十は下らない長尺の蛇のような龍が男へ向かって一直線にやって来た。


「白い龍?【黙示録】で白は『仔羊』か『馬』だと相場が決まってる筈⋯⋯。そうか、現生種か」


 模造品などではない。正真正銘の『龍』のご到来に少し胸踊らせた男はニヤリと笑う。


「⋯⋯ん?」


 だが、そんな笑みはすぐに消えてしまい、足元に広がる街を見つめた。


 街の各方面から小さな爆発音が鳴り響く。


 巨大な鷲のような稲妻を放つ鳥類が上空で旋回しながら、地面に転がる餌へ向かうように猛スピードで急降下を始めた。


「⋯⋯⋯【サンダーバード】?!⋯⋯いや、少しフォルムが違う。本物はもっとゴツかった筈⋯⋯。なんだありゃ?!」


 建物が上空に舞い上がる。


 薄緑色の葉が生えた細くて、そして長尺の樹木が一本、また一本、更に増え続けていき、街を侵食をし始めていた。


 それは聳え立つようであり、幹は白と黒の斑点のような模様と【数字が刻まれている】のだった。


「あの木って⋯⋯やっぱりアメリカ人か⋯⋯」


 その木は世界最古の生命とも言われる樹齢は最長八万年にも及ぶとされる単一生物【パンド】だった。


 静かながらも確かに聞こえる羽音が街を震わせていく。


「蛾?いや、違う」


 何かが街を襲っている。何かが街に居る人々を喰らおうとしている。


【刻まれた数字】の意味は生者の選別。


 それを理解しているのは、事件の主犯格と男のみ。


「おい、待て!やり合ってる場合か!」


 迫り来る『白い龍』へ手を向けて制止を促すも黄金の瞳は未だ、標的を定めたまま。


『ウゥゥゥゥ────』


『白い龍』こと【夢龍】は口元を僅かに開け、蒼い光が漏れ出す。


 世界は暗転した。白は黒に、黒は白へと変わり、男は右手に魔力を溜めた。


『ハァァァァァァァ!!』


 空気を焼き尽くす程の蒼い熱線──『龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』が男に向かって一直線に飛んでくる。


 街の温度が急上昇し、この街で最も空に近い電波塔に設置された避雷針は溶け始めた。


 男は舌打ちをして、右手を左肩の前にまで動かし──。


 灼熱の蒼熱線を日本海側へと弾き飛ばした。


 衝撃は街だけに留まらない。


 余波は日本全土に及ぶ。流星群でも見ているような青い煌きは太陽の下で疾駆する。


『なに!弾かれた!?こ、こんな意図も容易く!』


「チッ。もういい⋯⋯⋯⋯」


『っ!』


【夢龍】の眼前にまで突如として肉薄した男。


 右手はギュッと拳を作り、靭やかに伸びた龍の鼻元へ叩き込む。


『なァァッ!──』


 龍は自由を瞬間的に奪われた。


 砕けた鱗、無造作に動く延びた胴体と尾。


 だが、意識はまだある。瞬膜により瞬きが殆ど要らない龍にとって瞼を閉じるなどは愚行。


 見定め、狙いを付けて、明確に死ぬ瞬間を見逃さない。


『⋯⋯⋯何処に?!』


 そんな龍が男を見失った。


 大きく身体を動かし、首を最大限に活用し背後を確かめる。


 だが、居ない。逃げたか、そう判断しそうになった時、腹部に強烈な衝撃と痛みが起こり、龍を昏倒させようとした。


『ナァッ⋯⋯⋯⋯⋯?!』


「邪魔なんだよ。JK⋯⋯」


 突き出した拳は上へ向かい、強烈かつ怒涛に空を衝く。


 その振り上げられた拳は身に白い鱗を持つ『龍』へと浴びせられる。


『龍』という部類において華奢で長い蛇のような身体付きであっても、サイズは超巨大。


 人間からすればデカイ的である事に違いはない。


 いとも容易く腹部にクリーンヒットした拳は龍を加速が乗ったロケットのように上空へと舞い上がっていく。


『ど、どういう⋯⋯⋯はっ!』


 ほんの少しの余白の内に男は【夢龍】の真上を飛びながら、追尾していた。


 まるで瞬間移動でもしたように下に居た筈の男が地球を離れるように飛ばされた龍の真上で構えている。


「良いもんやるよ」


 左手には魔力の塊、それを押し出すように少し左手を前にして、魔力を龍の前方へと向かわせる。


 そして右手を手刀のようにして、押し出した魔力を引き裂いた。


 直後、魔力の塊は二つに別れると共に刃状となって龍へ向かっていく。


『っ!?クソめェ!』


 大きさは丁度、龍の顔一個分。


 体勢を立て直した龍は一気に加速し、左に流れようとする。


 だが、勢い付いた魔力の刃は速かった。


 正面から迫る二枚の刃。


 高速回転するその勢いは空を裂いているかの如く、甲高く、殺意に溢れた音を掻き鳴らしていて、いっそ耳を塞ぎたくなる程であった。


(『息吹《ブレス》』?!いや、間に合わない!)


 即断即決を求められた。


 右か、左か、どちらを犠牲にするか。


 利き手は右手。


 持久戦に持ち込むのは不可能、しかし、逃げる算段を立てるにしても利き腕の方が利を生む可能性があった。


 だから、左側へ避けた【夢龍】は右手側から迫る刃を回避。


 しかし、左側から刃は躱せず、頭部から尾まで綺麗に切り裂かれてしまう。


『ァァァァァァァーー。アァァァァ!』


 だが『龍』の生命力は身体の断面が見えたぐらいでは尽きたりはしない。


 激痛はある。脳と呼ばれる部分も分かたれ、鱗は街へ落ちていく。


 白くて長い髭は自由落下し、伸びた歯は砕け散り、致命傷と呼ぶに相応しい様子となった【夢龍】は目の前に居る男を恨み辛みを込めて睨む。


 一方の男は『龍』と呼ばれるものを知っている。


 元居る世界では戦った事こそ無いが、弟分として可愛がっている為、生態やどんな状況や状態が危険か、龍視点で様々に聞いていた。


 聞いているのだから、この程度で絶命する訳がないと理解している。


 男は右手をグッと握り、網を引き上げるような素振りをする。


『⋯⋯⋯ハッ!───うわァァァァァァァァァァァァ!!!─────────』


 回避した刃が戻ってきた。


 しかも、前方から迫った時以上の速度で。


 気付いた時には既に尾の左側に刃は当たっており、爽快感すらある程にスパッと顔面まで一直線に向かい、新たに断面を作るように引き裂いた。


 人一人分の大きさをした各断面。


 それを不敵に笑って一言。


「三枚おろしって奴だな」


 ご満足そうに口元を緩ませる男は指二本を立てて、三枚に断ち切られた【夢龍】へ向け、銃でも撃つ素振りをする。


「バーンッ⋯⋯はい、これで回復するね〜。良かったな、俺が龍に優しい部類で⋯⋯」


 落下していく。落ちていく。


 淡く薄青色の光が三本となった龍の身体に纏わり付きながら自由落下していた。


「⋯⋯⋯なんだ、あれ?」


 それを准は動揺と恐怖の眼差しで見つめている。


 太陽に照らされる白い鱗と共に大量の血の雨を降らしながら、龍だった何かとなった三本の長くて白い断面は無造作に地面に叩き付けられる形でピクリとも動かなくなる。


 既に街は阿鼻叫喚の嵐。偶々、准の居る箇所にそれがやって来ていないだけだった。


 見上げた空は晴天で太陽が健気に顔を覗かせている。


 なのにも関わらず、心は一向に晴れない。


「⋯⋯⋯え?」


 見知った人物の姿が窺えた。


 長くて赤い髪は後ろ髪をハーフアップにしており、黒と赤のドレスを着こなし、左右の脚に履いたソックスは長さが違うという特徴性しかない格好の少女。


 睦生六華がゆらゆらと腕を振りながら、不気味に前を歩く。


 瓦礫を踏み越え、不敵な笑みを浮かべながら真上を見つめる。


「六華?⋯⋯⋯⋯なんで?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 声を掛けるべきか、それとも恐怖心から見なかった事にして逃げるべきか。


 准は高鳴る鼓動をグッと抑え込むように右胸を手で押さえた。


「⋯⋯⋯⋯僕は⋯⋯⋯っ!」


 言い聞かせるように自問自答を脳内で繰り広げる。


 助けてくれた女の子。空をひたすらに見上げる少女が『龍《ばけもの》』である事を考慮した上で、瞼を閉じて、何度も何度も何度も言い聞かせていく。


『止めておけ』──と。


 不吉に吹く風は何かの前触れのように。


 耐えられなくなった瓦礫は音を立てて地面に落ちていく。


 崩れた街並み、崩壊と言っても過言では無い惨状と、そこに居る少女。


【悪魔】は消滅。


【紅蓮の龍】は砕け散った。


【喇叭吹きの天使】は爆散。


【怒りの苗】は地面に着地する前に空中崩壊。


 次は【裁きの業火】が落ちる番。


 既に投下は始まっている。


 雲は暗雲に包まれていく。


 雨が降り始める。雷が無造作に街へ落ちていき、悲鳴が至る所から鳴り響いた。


「⋯⋯⋯⋯それでも」


 准は目の前で何が起きて、何が齎されているのか、理解出来ていなかった。


 しかし、コナーの時と同様に死なせなくはなかった。


 たったそれだけの自己満足で大きく口を開き、距離がかなり空いた彼女へ張った声で呼び掛けようとする。


 その時───。


 赤い熱線は六華の口から放たれ、上空を突き抜けていく。


「はっ?」


 何を見て、何をして、何が起きたのか。


 准は思考を一瞬、放棄しそうになってしまう。


 見上げた曇天の空。既に赤い光は雲に隠れてしまいみえなくなってしまっている。


 禍々しい稲妻は空気抵抗などお構いなしに進んで行き、上空に居る男へ直撃した。


 衝撃は激しく、世界が苛立ったように曇天の中から赤い稲妻が降り注いだ。


 天変地異と錯覚しそうになる程の未知の光景が続いていく。


「⋯⋯⋯ハッハッハハハハハハハハ!死んでない!死んでないわぁぁぁ!最っ高じゃないのよ!欲しかったのよ!最高の遊び相手がァァァァァァァ!」


 声高らかにして叫んだ六華。


 高鳴る心拍は抑えられない。興奮は鳴り止まず、本能が刺激されていく。


 鎖で抑えていた衝動はまた、開花する。


「六華?」


「掛かってらっしゃい!相手は私よォォォォ!!」


 炎が投下されようとしている。


 北太平洋の真上の曇天雲から赤い光が顔を覗かせてた。


「⋯⋯六華?」


 そして、埃を落とすように手で肩を払っていく男は真正面から降り注ごうとしている赤い火柱を見つめる。


「チッ。【裁きの火】か。落ちるのは⋯⋯⋯⋯アメリカ大陸か。⋯⋯フッ。二つに別れてるもんな。面倒いから纏めて燃やそうってか───させっかよッ!」


 迸った魔力を体外に放出させていき、火柱の方へと一気に飛んで行く。


 それを見た六華は険しい顔を浮かべた。


「⋯⋯⋯コッチに来ない?なぜ?あんなの放っておけば良いのに⋯⋯。フフッ。ちょっかい掛けてやろっか〜。私を見るまではね!」


 口を開き、顔の前に赤黒く白い稲妻が流れ込んだ光球が形成されていく。


 徐々に溜め込まれていく力は留まる事を知らない。


【刃龍】は普段、力を溜めるという行為を行う事をしなかった。


 しなくとも倒せる敵しか存在しなかったからだ。


 初めての試みは胸を踊らせ、相手の反応を脳内で楽しんでいく中、大きく膨張されていく赤黒い球は上空へと狙いを定めていく。


(喰らえ)


 放たれた瞬間、酷く鈍い低音が耳を劈いていく。


 近くに居た准を始め、三十キロ圏内に居た人々は思わず目を閉じて、その不気味に感じた発射音に戸惑いを見せる。


「六華!!」


 地面に亀裂が走る。発射によって齎された勢いは車道に使われているアスファルトでは耐え切れず、決壊したように深さ五メートルのクレーターが作られた。


 大きく震える世界。見上げた空には赤黒く禍々しさが充満した光弾が上昇している。


「お・ま・け!」


 徐々に上昇する光弾を押し出すように、六華は『龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』を即時発射し、加速を掛けていく。


 艶めかしく、そしてうっとりした様子で曇天の空を見つめる六華の視線の先には何が居るか?


「────っ!何!まだちょっかい掛けるのか!なんだあの構ってちゃんはッ!!」


 既に火柱の真下に居る男は日本という島国から駆け上がってくる赤黒い光弾に目をやる。


 そして、既に火柱を弾き飛ばす準備を整えていた男からすれば完全な不意打ちであった。


「⋯⋯⋯⋯⋯使うか」


 千五百メートル真下にはアメリカ大陸。


 火柱が落ちれば焼け野原は確定。


 加速は始まり、既に絶滅一歩手前まで差し迫っていた。


 日本側からは赤黒い光弾は世界を壊しながら上がっている。


 轍を残していくように空間をガリガリと音を立てながら削り進んでおり、本来見えてはならない次空間が垣間見えてしまっていた。


 弾くなり打ち消すにしても魔力の消費は免れない。


 一方、上空から迫る火柱の対処に使うリソースも残しておかなければならない。


 間違って対処してしまい、上下から迫る二つの光が四散して大陸に落ちれば、それだけで被害が出る。


 だから使うと決めた───。


 胸元に右手をグッと掴むような素振りをすると、鍵を開けるように、コンロの取っ手を捻るようにして──呼び出した。


「頼むぞ!ローシャァァァァァァァ!」


 振り払うように胸元に置いた手は振り払うように横へ。


 直後、猛々しい蒼炎が身体を包み、黒の魔力が発露していく。


 身体は黒に覆われたように、ロングジャケットが形成された。


 身体は蒼い輪郭に纏われ、靡く漆黒のロングジャケットは猛々しく揺れる。


 鋭くなった目尻は黒く縁取られ、目付きが鋭くなり、眼光が真上へと向けらていく。


 親指を噛み血は垂らす。


 そして、何処からともなく現れた二メートル越えの大刀を手に取ると、親指から流れる血を刀の刃に付着させていき、蒼炎が纏われた。


 燃え盛る蒼い炎は男の身体に圧倒的な力を与える。


「三分間⋯⋯⋯いくか」


 上空から迫る火柱に対して刀を構え、まだ距離があるというのに刀を薙ぎ払う。


 滑らかに走った蒼い炎は膨張していく。


 火柱を包む程の大きく、巨大な炎。


 それは火柱を押し出すように膨れ上がる。


 押し出された火柱はエラーを起こす。


 形は筒状のものから空中分解していき、火の粉へと変わっていく。


 それを蒼い炎が焼き払い、大気圏外まで一気に吹き飛ばした。


「⋯⋯次!」


 右手を勢いよく前に伸ばし、狙いを定める。


 定めて、把握し、ニヤニヤとする少女を捕捉した。


「何時まで笑ってんだ!小娘!」


「?え⋯⋯⋯何!?」


 突然耳元で叫ばれたように感じ、片目を閉じた六華は慄いた。


「何処から!?───え!うわァァァァァッ!」


 突如、身体は触れられている感覚もないまま、引っ張られていき、猛スピードで上空へと飛んでいく。


「なに!なに!なんなの!?」


 加速は付き、髪は後ろに流され、ドレスは激しく揺れ、向かう先である方角を群青色の瞳が捉えた。


「私の撃った奴!」


 赤黒く球状の禍々しい光へ脚から突っ込むように上昇していく身体は自身から制御が出来ずにいる。


「挟まっとけ!」


 すぐ耳元で男の声が響き、その方向へと顔を向ける。


 赤黒い光弾に追い付き出した頃、六華の真後ろに男が現れ、背中を思い切り張り手をするように右手が置かれた。


「なにを!?」


「責任は取れって事だ!」


 蒼炎混じりの魔力が六華の背中とゼロ距離で放たれた。


「んッッ!!!〜〜〜〜」


 身体を強く、激しく圧迫したように押し出されていく。


 自由の効かない身体はみるみる自身の放った光球へと近付き、板挟みになるように目の前に迫っていた赤黒い光弾と衝突した六華は声にならない悲鳴を上げる。


 そして──臨界点を越えて、赤黒い爆発が発生した。


 膨張するように拡大していく爆発。


 まだ千五百メートルも真上にあるというのに、海は大きく荒れ出し、アメリカ大陸は地響きに見舞われる。


 止まる事を知らないその未知の現象に世界は耐えられない。


 貼り紙が風によって剥がされるように世界の様相は姿を変えていこうとする。


 だが、爆発は徐々に蒼炎が包む。


 糸状になったその蒼い炎は爆発を縛り付け、抑え込むように拡大を阻止。


 糸はやがて大きくなり、螺旋を描いて膜となって爆発を完全に呑み込んだ。


 残ったのは僅かに蒼い火の粉と自身の放った光弾と火柱の板挟みにあった六華のみ。


 男の身体から蒼い炎は消え、元の状態に戻った。


 右手を確認するように開いては握ってを繰り返す事、しばらく⋯⋯満足そうに頷いて、正面へと顔を向けた。


「お前、何がしたいんだ?」


 煙が立ち込め、焼き焦げたように黒く変色した人型のそれは、目玉をギョロっと男へ向けると、真っ白な歯を見せながら不敵に笑った。


 蠢くように黒い人型は形を成していく。


 まるで草木が生えるように赤い髪が生え、ドレスは整えられ、肌は黒から脱却して、睦生六華が何事も無いように両手を前に差し出して恍惚とした表情を浮かべる。


「はぁぁー、最っ高ね。あなた⋯⋯本当に強いのねェ〜。嬉しいわァ〜、是非是非、アンタの臓物を覗かせて頂戴?」


「一応聞くが、大人しくしてくれるって事は無いか?出来れば傷付けたくはない」


「ない、有り得ないわね。こんなリッチな餌が転がり込んでるんですもの」


 じーっと、少女を見つめた男はしばしの時間を有した後、思わず舌打ちをする。


「⋯⋯⋯⋯コイツ⋯⋯。死なせると面倒な事になるのか⋯⋯」


「アンタ、まだやれるわよね?殺される覚悟はある?死にたいなら何時でも言って?長く、長くて、長ぁぁぁぁい、地獄を味合わせた後に、殺してあげる」


「悪いが、その気はない」


 両手を勢い良く合掌し、赤黒い光弾によって傷付けられた世界は元ある色を取り戻していく。


 新しく貼り替えられたように、世界は元ある状態へと戻っていった。


「⋯⋯⋯アンタ、さてはアレね⋯⋯。超越者ね」


「なんだそれ?」


「フフ。知らないの〜?あらゆる世界で調停と維持、創造と破壊、輪廻転生とあらゆる事が可能な奴の事よ」


 思い当たる節があるように、顔を上げた男はゆっくりと首を縦に振った。


「⋯⋯それ目指しての、俺の片割れの方だ」


「片割れ?」


「⋯⋯⋯それに俺はそんなのになる気は無い。自己満足で助けてるだけだしな。調停とか管理みたいな事を受け持つ気はさらっさら、無い」


 男は旅人、目的は世界の平和。


 ただし、自分の世界に限っての話。


 助けたのも目覚めが悪いという善意であり、それ以上の事は何もない。


「まぁ良いわァ〜。やり合いましょう?」


「⋯⋯⋯。ローシャ、街の方へ行って、被害者の避難誘導をしろ。俺はコイツを落ち着かせる」


「⋯⋯?誰と喋ってるのよ?」


 困惑した六華は首を傾げた。


 それに対して笑みを零す男は腰に手を当てる。


「運命共同体、一蓮托生の相棒とだ」


 男の腰に掛けられているカンテラの中、封印されている女神が第二の旅同伴人だとするならば、ローシャは第一同伴者。


 男の居た元の世界で出会い、共に戦った仲間に近しい存在。


「へぇ〜、そんな奴いるんだぁ〜。弱そう」


 しかし、六華にとっては詰まらなさそうに目を細めて、視線を横へ逸らす。


「いやいや。地球に居る限り死なない奴で、アイスとジェットコースターが好きなだけの小娘だから、フルスペックなら、俺の次に強い」


 好奇に満ちた眼差しが男に向けられた。


 まるで遊び相手が増えて微笑んだように笑う六華は口早に男と会話を楽しむ。


「何それ?最高ねェ〜。そんな愉快素敵な万国ビックリなとんでも性能しておいて、どうして呼ばなかったの?」


「フッ。あいつは本来、夜行性なんだよ」


「一応聞くけど〜、さっきの蒼黒い奴になってくれないのかしら?私としてはなってくれた方が盛り上がるのだけど?」


 自身でも驚いた高火力な高出力の一撃。


 赤黒く白い稲妻を纏った光球はそれだけ価値ある収穫であり、それを無事生還しただけでなく、自身に手傷を負わせた存在が興味深くなっていく。


「アレは一日三分間だけの限定だ」


 男は指を三本立てて口にした。余裕を持って⋯⋯。


「な〜んだ。アレ強そうだったんだけど、じゃあ駄目ね。期待外れそう⋯⋯」


「勘違いすんな」


「ん?」


「アレになったのは、被害を最小限に抑えるって名目と、力の消費を肩代わりして貰いたかったからだ。本当になんでも良いなら、俺一人で済んでるさ」


 蒼炎は火柱を押し返し消失させた。


 蒼炎は爆発を閉じ込め、真下にある大陸の被害はゼロに済んでいた。


 それが全てを物語っている。


 切れるカードを切った⋯⋯たったそれだけの事。


「⋯⋯⋯つまり遠回りって事ね」


「そう判断するのか、お前⋯⋯。まぁ良いか。掛かって来いよ。遊んでやる」


 日本を上空から見つめる。


 既に『空弩街』では『除者』と『魔法士』同士が交戦を始めていた。


 険しい顔を浮かべた男は六華の方へと向き直り棒立ちで余裕綽々とばかりに笑ってみせる。


 それは挑発だった。


 あくまでも遊んでやる側は自分であると。


 間違っても、遊ばれる側ではないと誇張するように。


「⋯⋯遊ばれてあげるわ。根をあげるんじゃないわよ?」


 その挑発に乗った六華は不気味に笑い、手を変化させ黒い鱗を纏わせた。


 白い爪は鉤爪のようで、強靭かつ強固な武器と盾を交互になし得る取り扱い便利なその手を前に伸ばしながら、笑ってみせる。


「アンタ惜しいわねェ。フフ。初めての試みって奴、またやろうかしら⋯⋯⋯⋯。ねぇ、名前は?」


 自身に新たな試みを与え、高揚感を齎した男の名を問い掛けた六華は太陽に照らされた群青色の瞳で真っ直ぐに見つめた。


「⋯⋯⋯朝倉拓也だ。お嬢ちゃん」


 頂上決戦⋯⋯⋯⋯?否──違う。


 ここから始まるのは蹂躙である。


 朝倉拓也はフルスペックでの戦闘は不可能あり、信念としては不殺主義。


 一方、女は自分の愉悦の為なら殺人も厭わず、地球が生んだモンスター。


 連戦に連戦を重ねている男と昨日は悩み苦しみながらも身体は癒えている女⋯⋯⋯⋯⋯。


 どちらが分があるか、明白だった。

この話が投稿されている段階で既に3、4話先の話を作り終えている紫芋です。


全ての切っ掛けの話と後書きか、前書きのどちらかで書いた記憶がありますが、切っ掛けは始まっています。


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