裏道話 到着十分前
朝倉拓也が来る五分前。
つまり、本編とは無関係です。
戦闘多め。次回も多め。ごめんね、書きたいの。
『ミクパランチ』
上部は円状のドームに包まれており、生活圏として居住者が住み、下部はゴテゴテとした物が多く搭載されており、推進スラスターとナノマシンを用いた自己プログラムが搭載されて常に安全な飛行を可能とした円盤型の住処。
『地球という限られた資源のある星を克服する』
そういった名目で造られた運用試験も兼ねたコロニーであり、地球人の第二の惑星であると同時に宇宙を漂う船舶大陸。
規模はロシアと同等の面積を誇り、地球では大きい部類、宇宙規模で考えれば小さい規模感でしかない。
そんな『ミクパランチ』のに住む現在の人口は約五千万人弱であり、当初の三千万人から考えれば進歩が目覚しいのだが⋯⋯。
「潰すか⋯⋯」
そう言った男が上部にあるドームをカッターで割いたように真っ二つにしてしまい『ミクパランチ』に居る生命体は宇宙へと全て投げ出されてしまう。
これが全ての切っ掛けであった。
宇宙空間は宇宙服無しで生身の人間が漂おうとするとその時点で死ぬのは確定している。
だが、この男はイカれていた。
宇宙空間でも地球で活動している時と同じように息をして、吐き出して、鳴る筈のない音を出す事も容易である。
なんなら、タップダンスを踊ってやる事も簡単だった。
そんな彼は漂流者を装い『ミクパランチ』の中にある探し物を回収しようとしていたのだ。
しかし、彼は知ってしまった。
『ミクパランチ』とは早い話で言えば百年前、人類同士で争った結果、選別によって選ばれた人類が地球を棄てた側の人間の総称である事。
地球には現存する地球人は存在しない事。
そして────二十年前に『ミクパランチ』に居た人類は滅ぼされてしまい、成り代わったように侵略を起こした地球外生命体によって使われているだけだという事。
それらを聞いた男は納得したように一言だけ。
「なら地球人名乗んなよ、エイリアン。母星ごと絶滅させんぞ」
挑発か、ハッタリか。エイリアンこと『ミクパ星人』は思慮深く判断した結果──。
ハッタリだと判断した。
理由はナノマシンによる生体情報機能を男に流した時点で非力で無力も同然だと認識したからだ。
『キュキュキュ』と可愛く笑う反面、灰色の素肌、尖った耳と後頭部は後ろに少し伸びており、クリっとした瞳は顔の大半を埋め尽くす程に大きく、キモイで有名な宇宙人は余裕を見せている。
その結果──。
次空間を強制的に開いた男はゲートを空間内に形成。
開かれた空間に映る『ミクパ星』を大々的に見せびらかした後、掌をその星目掛けて向けると一射、魔力の塊を撃ち込む。
地球の四倍ある緑と水色が美しい星は簡単に砕け散ってしまう。
当然、彼等も黙っていなかった。
武器を持ち、地球産の物質では生成出来ない武具を取り出して挑み掛かろうとしたが⋯⋯⋯⋯。
その間に上部のドームは切り裂かれ、約五千万人という人口は絶滅し『ミクパ星人』は事実上の絶滅危惧種となったのだった。
これ程の蛮行を誰が許すか?
彼自身が許す。
地球という生命体を名乗った別の生命体というのが彼にとってはあまり面白く無い話であり、訳ありで移住して同居したと言うならば筋が通っていたのだが、侵略で奪ったとなれば話は変わる。
侵略で奪ったのなら、奪われるのもまた侵略である。
『なんと言う蛮行だ!この猿め!』
「ありゃ?今更お出ましか⋯⋯」
だが、彼自身が許したとしても『神』が許さなかった。
濃い青色のベリーショートの髪、青い瞳と尖った目尻にティアラを飾り付けている女神。
黄金の縁取りが成された青の完全武装をしており、警戒心が見て取れた。
更にその後方には緑色の髪色に長いストレートヘア、桃色の瞳と垂れ目が特徴的な女神が居る。
彼女もまた、長すぎるマフラーを首に巻くようにして純白の羽衣を纏い、薄緑色のあらゆる加護を備え、蓄積、そして随時付与が出来るチート級の衣服をしていた。
『貴様。ミクパ星人を滅ぼしたな?何故だ!』
「要らんだろ。あんな寄生虫」
『寄生虫だと?あの生命体達は独自の進化を遂げて、宇宙の今後の発展が見込まれていた。貴重な存在だった!それを⋯⋯⋯⋯』
苦虫を噛み潰したような表情で睨み付けた青の武装をしたら女神。
だがこの男にとって、他世界の種族がどれ程減ろうとも、絶滅しなければ問題ないと考えている。
完全な価値観の相違であり、在り方の違いでもあった。
だが、朝倉拓也は何も価値観や好き嫌いだけで滅ぼした訳ではない。
そもそもの話、生命体は文明の開拓と呼ばれる行いを一度でもすれば、その進歩と発展を無条件に約束される。
地球人が絶滅した今、この世界で地球人はその枠から外れてしまった。
だが『ミクパ星人』は『ミクパランチ』という円盤型の快適空間を入手した後『ミクパランチ』を量産し、種族としての進化が促されない未来が確定してしまった生命体でもあった。
何時までも快適な生活に『ミクパ星』で不足していた料理という文化が更にそれを加速させてしまう。
本来、料理の文化は常に発展していくものだ。
だが、あの『ミクパ星人』に限って言えば、料理という文化で進歩を続けた生命体ではない。
主食は虫であり、好物は汚い部屋に住み着く茶色いカサカサと足音を立てて、雌だけでも繁殖が可能な触角の長いアレである。
言い換えると、あの円盤型の居住区の中にある一部の部屋を常に汚し続けていれば、無限に食料が手に入るという算段であり、合理的な判断だった。
そして、焼いて食べるのがオツらしく串刺しにして豪快に四匹纏めて食べるのが美味との事。
彼等に飽きるという発想や思考回路はない。
寿命も百六十年であり、毒や細菌への耐性も非常に強く、戦闘力が人に比べて少し強いだけの生命体だった。
ただ星の環境に甘えた存在、何時までも料理文化は発展せず、怠慢や停滞を余儀なくされてしまう。
朝倉拓也は『千里眼』で既にそれを見てしまっている。
『世界』に訳も分からず【執行者】が現れて消される未来か『朝倉拓也』によって無慈悲に消される現在を取ったかの違いでしかない。
「絶滅はしてねぇだろ?安心しろよ、まだチラホラいるぞ?まぁ、純粋種は消したけどな」
『お姉様。この野蛮な者は即刻、抹消でしょう、そうでしょう?』
顔を顰めた緑色の髪が特徴的な幼めの顔付きをしている女神は姉の少し前へ移動した。
(ん⋯⋯?ラカレア⋯⋯)
姉は気付いた。彼女の、妹の憤りを。
横顔が、身体から漏れ出る魔力が、一挙手一投足の全てが男への敵意と殺意に溢れている。
『⋯⋯ラカレア。お前珍しいな、そこまで気が立つなんて』
『ミクパ星人は私が最初に目を掛けた生命体。それを、あんなゴミのように⋯⋯』
「⋯⋯⋯⋯ゴミはどっちだか」
ボソッと聞こえないように口にした男の顔には乾いた笑みが浮かぶ。
実力的観点、価値観的な総評からすれば『ミクパ星人』という存在は欠陥だらけであり、男からすれば『ゴミ』でしかなかった。
だがラカレアからすればそうではない。
目を掛けた生命体の成長をある程度見守り、時に進歩を促すのは神の役目──少なくてもこの世界ではそれが普通の事であり、当たり前の役割。
逆にその目を掛けた生命体が滅ぼされてしまうと、目を掛けた神の評価は著しく低迷して、権能の剥奪すら有り得る。
彼女の権能は生命の恵と規定の権能を携えていた。
太陽による光が葉に養分を与えるように、自然の恵みが様々な生物に影響を受けるように設計し、秩序と悪の物差しを定めたとされる女神である。
『〜〜!潰します、そうします!』
ラカレアが携えるのは弓であった。
一見するとただの木の弓。しかし、男達の居る場所は宇宙空間。
当たり前だが、普通の木製では宇宙空間の環境には耐えられない。
左手に構えたラカレアの弓は男を定め、右手で神の力を用いて形成した緑の矢を作り、男へ向けて穿とうと構えた。
『死になさい、そうしな───』
力一杯に緑の矢を引き、そして指を離すという行為に五秒も必要としない。
だが、男にとってはそれは退屈で無駄時間である。
「遅い。待たせんな」
──ラカレアの首がもぎ取られた。
姉の女神は男を見失い、辺りを見回す。
当然だ、神智という正しく頂点に位置する知識を持つ神が訳も分からない移動方法で姿を消してしまったのだから⋯⋯。
「おい、妹だ。やるよ」
『え?』
青の武装をした姉の女神の胸元に投げ捨てられた首。
『は?⋯⋯⋯⋯は?』
困惑は思考を埋め尽くしていく。
ボールを投げられたように胸元にぶつかった自分の妹の首はまるで死んだ事に気付いていないように激昂した表情のまま、一切の動作を止めて、男の傍には弓を構える体勢のままの身体が漂っている。
最大の違いは『身体に流れる力』が完全に停止してしまい、深緑にも近い色をした矢が放たれる事を放棄して、消えている事のみ。
(なんだ?何をした?何があった?な、何をどうしたんだ?どうして、そうなる?)
自分の左前に居た愛しい妹が瞬間的に殺された。
その事実以上に、その方法が一切浮かんでこない女神は狼狽する。
首をもがれた、それは分かっている。
問題は自身が目視で確認した分には、存在がピタリと消えて、気付けば傍目で視認出来る範囲に居た妹の少し後方に男が知らぬ間に立っていて、妹の身体が浮かんでいたという事実そのもの。
「天界に帰って泉に浸からせろよ。お前らはそれで蘇られるだろ」
『⋯⋯⋯⋯待て?加護はどうした?ラカレアは不死と無傷の加護が備わっている。死ぬ所か傷すら付けられない⋯⋯』
マフラーのように巻かれた羽衣に『未来予測』と『危機回避』が強制的に発動する神具である。
その為、普通は触れる事すら本来は叶わない。
更に使用者以外の者が触れた場合、生命を剥奪される効果がある為、触れられても余念はなかった。
だが、男は平然とそれを握っていた。
白い衣服は『無傷の加護』が備わり傷を一切負えない。
『不死の加護』は死ぬ事を許されない加護であり、不老長寿が約束されていた。
他にも『魔力増強』『森林天地』と呼ばれる宇宙を対象に星の中にある森林が豊かであればあるほど基礎能力が底上げされる効果や『事情改変』と言う結果の捻じ曲げすら可能な加護が備わっていた。
だが、結果としては首はもがれて、身体は宇宙空間を浮き凍り付き始めている。
妹は正真正銘の女神である為、人間のそれとは一線を画す程の実力差が明確にある事を加味して、有り得ない事態だった。
だが、女神の質問に男は軽く口にした。
「あぁ〜剥いだ。一発だったぞ。加護なんて過信するからだ。だからあんなノロノロな弓兵やってたんだろ?蘇ったら言っとけ。まずは基礎鍛えろってな」
『⋯⋯⋯⋯お前⋯⋯なんなんだ?』
「地球の日本で超健康良児として産まれた朝倉拓也ですぜ。覚えなくていい。妹を連れ帰ってすぐ忘れろ」
『朝倉拓也』──その名前に聞き覚えのある女神は戦慄したように数歩分、後退してしまい、口をパクパクと金魚のように開けたり閉じたりを繰り返す。
『⋯⋯⋯⋯⋯あの、神殺しか?』
拳が強く握られた。実際に会うのは初であるものの、噂は彼女の耳にも当然届いている。
ここ二年程で次空間を開けたり閉じたりしながら、他世界へとホイホイと移動する『超危険的存在』であり『抹殺対象』と認識されている男。
脅かす存在は同種族である人間に留まらず、何百億光年先の生命体にまで被害が及び、挙句神にすら手を掛ける怪物にして畏怖の対象。
「厳密には一柱も殺してねぇよ。封印は一神だけしたけど。ほらコレ。ここに入ってる。お前らよりも余っ程強かった奴がな」
腰に巻かれたベルトに引っ掛けるように掛けてある茶色のカンテラのような箱を数度手で叩く朝倉拓也はヘラヘラと笑う。
すると、今度は女神の目の色が突然変わった。
『ティアナーデだな!返せ!それは同胞だ!穢れた人の手で囲って置ける存在じゃない!』
数百年前、精霊または天使から昇格する形で神に選ばれた存在は現在から二年前に忽然と姿を消した。
当初、神々は役目を放棄したとも人の営みに身を投じて娯楽に勤しんでいる。
そう言われていた彼女は『大の人類抹殺肯定派』である事から、後者はないだろうと踏んでいた彼女も密かに探してはいた。
だが、今見つかった⋯⋯。合点がいったとばかりに目の色を変えたのである。
「⋯⋯嫌だよ。コイツともう少し旅するって決めてるんだ。それに、次悪さしたら、本当に殺さないといけなくなっちまう。⋯⋯⋯お前ら含めてな」
『ならば、力付くだッ!我が名はミュウレア!生命の海と運びの風を司る女神!───殺してやるッ!お前のような危険対象者はな!』
白銀の縁取りが施された青の剣を何処からともなく出現させたミュウレアは構えた。
臨戦態勢は既に整っている。殺せる自信も依然あった。
ミュウレアはラカレアと違い、戦というものに肯定的な思考をしており、自身の実力を驕った事は一度としてない。
完全武装は常の事であり、戦に身を投じる事もしばしばある。
慢心はせず、ただ一振の剣のみで猛者を屠ってきた実力者であり、女神の中でも異質の存在。
「うーん。どうせならもっと可愛く言いなよ。武人かお前は?」
『行くぞ!神速というものを見せてやる!はァァァァァ』
青い光が瞬間的に朝倉拓也の前方から迫る。
音はなく、傍から見た感覚としても僅かに何かが光って、目の錯覚を疑う程の俊敏性と爆発的な瞬間加速が朝倉拓也を襲った。
「おぉ、速い速い!」
それを身体を反らして、突き刺す予定だった剣は空振らせていく。
髪が僅かに靡き、突風というのも烏滸がましい程の嵐が朝倉拓也の身体に刺激を与える。
光速とも形容出来るミュウレアの速度は途端に停止して二百メートル先で立ち止まった。
朝倉拓也の後方へ居るミュウレアは自身の手の感触、剣に本来ならば付着しなければいけない血が付いていない事に唖然とした。
『避けられた⋯⋯⋯⋯』
決して神生で始めてという訳では無かった。
科学兵器を用いて動きをシュミレーションされ一度だけ躱された経験もある。
神同士の決闘ではそこそこ経験している事である。
だが、真に恐ろしいのは──。
(この男、魔力の発露が窺えなかった⋯⋯。まるで、能力無しで避けたようにも⋯⋯⋯まさかな)
人が目視で光速で動く物体を捉えられたとしても、身体はそれを捕まえようとすればブレやズレが否応なく生じる。
眼球から脳、脳の電気信号から四肢の動作に至るまでのラグがそれを引き起こしているのだ。
それを可能な限りゼロにするのが『魔力』だ。
生命には必ず流れているもの、少なくてもこの世界に限ればそれであり、身体的機能の強化や拡大、補正としても扱われ、技のような類いも存在する。
技──それは即ち『魔術』であり、多岐に渡ってその『魔術』は生命体によって編み出され、考案され、実案されてきた。
しかし神は違う。神に魔力は無い。
神にあるのは『神聖力』と呼ばれる魔力の完全上位互換。
同じ量で同じ距離、同じ物体に対して『魔力』並びに『神聖力』を放ったとしても『神聖力』の方が高威力であり、射程範囲や『魔術』の威力や効果、範囲に至るまで三倍差がある。
何よりの特徴としては──『神聖力』を持つ者でなければ『神聖力』は感じ取れないのだ。
一方の朝倉拓也は避ける際に『魔力』と『神聖力』の双方共に使ったようにはミュウレアは感じられなかった。
『⋯⋯⋯⋯っ!攻撃とは元来、二撃、三撃に比重を置くもの。次は避けられるかな?』
「なんでも良いけど、次動いたらお前、パックリだぞ?」
『何をほざいてい───っえ?』
朝倉拓也に再度迫り、次は連撃を加えようと脚を踏み出そうとした瞬間──上半身と下半身が別れた。
コレには朝倉拓也も額に手を押さえて首を横に振る。
「だから、動くなっつったろ」
『な、何を!どうして⋯⋯⋯』
「妹ちゃんの首切った時にはもうお前の身体に切れ目を作ってたんだよ。俺、二人の間を通り抜けたからさ」
ラカレアの首をもぎ取る際、ミュウレアは朝倉拓也の速度に対応出来ていないという事は朝倉拓也が二人に接近中に目視で二人を観察していた段階で理解出来ていた。
「光速で動いたら反動で切れ目が広がるに決まってるだろ。もっと労わってやんな」
『⋯⋯⋯⋯『ミャルマーヌの鎧』を貫通した?何故⋯⋯』
『ミャルーヌの鎧』はミュウレアが武装している鎧の名前であり、当然加護持ちの超チート級の物である。
『生命循環』と呼ばれる他者から生命の供給を自身の意思で行う事が可能であり、ドレインに近い。
だが、最大のチートは『神羅必罰』と呼ばれる加護である。
コレは自身よりも格下と『思い込む』事で事実上の無敵を得る効果であり、死なず、常に必中であり、装着者が触れれば強制的に相手は自身よりも現実として能力が下げられてしまう。
他にも『毒無効』『呪詛無効』『魔術無効』という初心者が裏ボスを倒しにいける摩訶不思議な武装なのだ。
つまり、本来は朝倉拓也の攻撃は事実上無効されてしまい攻撃が通らない状況が整えられなければならない。
だが、現実としてミュウレアは倒れている。
彼女は驕って油断など断じてしていない。
彼の一挙手一投足に目も配ろうとした。
それでもやられた。
「ティアナーデの『絶対防御』に比べたら、鼻くそみたいなもんだぞ?お前アレだ、口先だけだな」
単純な話、攻撃能力が落ちたとしても、それを上回る火力で攻撃をした。
たったそれだけの話。それ以上の事は何も無い。
朝倉拓也は旅をしている。それは朝倉拓也だから旅をしている訳ではない。
朝倉拓也がある意味誰よりも強かっただけの事。
そしてそんな彼とて回復は必要で英気を養う暇も必要となる。
だが『神聖力』も『魔力』も無限に即時全回復というチートを朝倉拓也は持っていない。
だから、ある事をして消費と燃費を抑えている状態であり、それが功を奏した形となったのだ。
『あ、ぁぁぁ』
「⋯⋯ん?お!」
上を見上げた先は赤い螺旋上の次空間の裂け目。
苦笑の表情を浮かべた朝倉拓也は反対側にある『ミクパランチ』の残骸の方へと進んで行く。
「さてと〜、俺は欠片の回収でも行くか」
『ま、待て!ァァッ!⋯⋯ァァァ』
『情けないぞ!』
野太い老人の声が轟く。
ミュウレアのすぐ正面に巨大な火柱が立ち昇ると中から黒の縁取りがされた真っ赤な鎧を装備した厳格な顔付きをした老人が姿を現す。
『⋯⋯⋯カウロス』
長い白髪の髪は腰にまで届き、鋭い目付きで情けなくも真っ二つとなったミュウレアを睨み付ける。
『油断するな、我はそう言った』
『っ⋯⋯⋯⋯』
ミュウレアにも言い分こそあった。
そもそも油断なぞしていない。
本気で戦った上でやられた、情けないとはなんだ。
そう口にしたくてもミュウレアには出来なかった。
事実として敗北した結果は覆らないからだ。
唇を噛み締めつつ、ボヤけた視界に映る朝倉拓也を見る。
掌に淡い七色の光沢が詰まった鈍色の何かを掴むと、それはすぐさま消化でもされたように姿を消してしまう。
(アレは⋯⋯世界を縛る鎖⋯⋯そうか、ティアナーデ、お前⋯⋯均衡の鎖を砕いたのか⋯⋯)
僅かな笑みが零れた。ミュウレアの視線は朝倉拓也が腰に掛けているカンテラに向く。
自身でもした事の無い愉悦にも似た北叟笑みを最後に息絶えたミュウレア。
一方、朝倉拓也はどデカい殺気から逃げる術を模索する為、やってきたカウロスから距離を少し空けた位置に居て、老骨を酷使しにやってきた男を見つめた。
「お兄ちゃんかな?随分と⋯⋯ジジイだな」
『我は──』
「ん?」
『カウロス。火と厄災を司る神だ』
名乗る意味──それは何か。
妹のラカレアは即首を落とした為、その文言は聞けなかったが、姉のミュウレアが名乗ったタイミングからおおよその予想が着いてしまった朝倉拓也はつまらなさそうに口にした。
「あっそ⋯⋯。もう行っていい?」
『我がそれを許すと?』
「いやいや、まずは姉妹の身体直してやれよ。天界に帰って泉にチャポンと漬ければ済むだろ?こんな楽な事後処理ないぜ?」
神が不死の理由。それは強いからだけではない。
天界と呼ばれる神の世界の総本山であり、あらゆる世界と繋がっている神聖地。
神々は基本、その天界から派遣される形で他の世界へ降りてその世界を管理する役割を持つ。
つまり、派遣社員である。
そんな天界の中には生命体であるのならば、浸すだけで傷を癒し加護まで授かる事が出来るチート級の泉があるのだ。
朝倉拓也は過去二度、天界の神々を滅ぼした後、後から帰って来る神に蘇生を丸投げした実績がある為、泉の事は知っている。
その泉は腕一本、髪の毛一本の状態であっても元の状態に蘇生が可能であり、ラカレア、ミュウレアの状態からでも充分に蘇生は成せる計算だった。
『我が許せぬのは、人の身でありながら、神に対しての態度がなっていない貴様の存在そのものだ』
「はっ。自分を高く見積もるのは良いけど、自慢は毒だぞ?お爺ちゃん。それとも武勇伝でも聞いて欲しいのか?だったら、そこの二分割か首離れに聞かせてやれよ。お涙頂戴のお話しでも、喜んで泣いてくれるぞ?」
『戯けめ!』
両手を上げ、すぐさま振り下ろされた。
朝倉拓也を取り囲むように横幅は五メートル、高さは一光年先にまで届く距離にまで伸びたその八本の火柱。
火柱自体も回転しつつ、朝倉拓也を中心に八本の柱は右回転で火の粉を撒き散らす。
(ん?⋯⋯⋯⋯灼いてるのか?何度だろ、アレ。ゼットンの火球より熱いのかな⋯⋯?)
火柱が乱回転しながら朝倉拓也に近付く。
すぐさま隙間は埋め尽くされ、そして八本の柱は摩擦させながらぶつかり⋯⋯⋯⋯朝倉拓也を中心にビッグバンにも等しい超ド級の大爆発が辺りを包み始めた。
「⋯⋯⋯⋯⋯あらら」
朝倉拓也の丁度真正面には小さなブラックホールが形成され、思わず溜め息を吐いて、それを手で払い除けた。
(面倒だな。お爺ちゃんの介護ってのは⋯⋯)
一方、朝倉拓也の様子が大爆発と散らばっていく火の粉によって視認出来ずにいるカウロスは両手を前に突き出して、勢いよく合掌。
『人はコレを業火とも呼ぶ。または灼炎ともな。宇宙すら灼く炎、味わってみんかァァァ!』
大爆発の余波や火の粉、火柱の残骸は圧縮されたように中心点に掻き集められた。
出来上がったのは小さな灼熱の赤が煌めく光点。
球状のその物質一つで太陽の六倍もの熱を持つ光を浮かせ、辺りを見つめる。
『ん?!⋯⋯⋯何処に?!』
カウロスは訝しんだ。この程度で死ぬならば苦労しない。
だからこそ、この光点の球を形成し直接ぶつけてやろうとしていた。
そのぶつけるべき対象が見当たらない。
『⋯⋯⋯⋯まさか?』
そのまさかである。
朝倉拓也は面倒臭くなり、次の世界へ向けて次空間を開き、目的の探し物の旅を続けようとしていた。
現在、朝倉拓也のいる空間内は緑色と青色、白色の配色が為された不気味な空間であり、他世界と他世界の間にある歪みの中。
自由に行き来出来る朝倉拓也はなんの装備も無しに次の世界へ向けて空を飛ぶように飛行していた。
「ふぅ。面倒臭いなアレは⋯⋯。多分、関わるとロクな事にならない」
『─────待てェェェッ!!!』
後方から猛スピードで朝倉拓也に迫る影が一つ。
紅蓮色に近いオーラを放ちながら、先行して向かっている朝倉拓也へと着実に迫っていた。
「え?!嘘でしょ!?お前、そんなに高位の神なの!?」
『貴様に出来て、我に出来ぬと思ったかァァァ!』
血走った瞳には『逃避不可能』と言わざるを得ない程の執念深さを感じ取った朝倉拓也は先に進む事よりも停止して対峙する事を選択。
振り返り、老人の右手に持たれた赤い球に警戒しつつ、口を動かす。
「チッ。⋯⋯⋯⋯一つ言っとく!」
それは一種の情け。圧倒的な実力者故に許された特権であり、優しさのつもりで掛けようとしている言葉だった。
「本気で来るなら俺もそれに応じる。けど、せめて姉妹の身体を泉に漬けてからにしろ!それからなら応じてやる」
紅蓮に輝く赤い球を持つ男が天界に戻ってから再度ゲートを開き朝倉拓也までの所にやってくるまでにはどうしても時間が掛かる。
逆算した男は明らかに宇宙空間に姉妹を放置してここに来てしまった事に苦言を呈した。
『逃げる算段を立てたつもりか!我はそれ程甘くないのじゃ!』
「そうじゃねぇよ!」
『うおぉぉぉぉぉぉ』
雄叫びを上げながら赤いと金の縁取りが成された盾を出現させたカウロスは右手に持つ紅蓮の光球を朝倉拓也目掛けて投げようとする。
「クッソ!聞きやがらねぇ!」
魂と肉体の知覚。それを行う事により発動出来る朝倉拓也の移動方法。
『転移移動』を用いて一気にカウロスへ接近した朝倉拓也はカウロスの右手を目掛けて左拳を振った。
『何!?!』
盾で身体を守ろうとしていたカウロスからすればとち狂った行動にも等しい。
紅蓮の光球に衝撃を加えれば忽ち辺りは地獄のような炎に包まれる事を知っていたからだ。
だが、朝倉拓也の狙いは違う。
腕そのものにある。
へし折った右腕へ更に力を加えて、次空間の彼方へ吹き飛ばした朝倉拓也はそのまま腰を捻らせて、回し蹴りで一気に距離を空けた。
『なァァァァァァァ!我の腕が⋯⋯⋯』
血がドバドバと溢れ出るカウロスの欠損部。
朝倉拓也を殺す為に生み出した紅蓮の光球は目視では確認出来ない程に遠くへと右腕ごと吹き飛ばされてしまい、カウロスの怒りの沸点は限界に達した。
「後は⋯⋯⋯⋯天界に照準を定めて、腕と奴らの身体を⋯⋯送るッ!」
両手の指を絡め、掌を叩く動作をした朝倉拓也。
カウロス目線からは何をしたのかサッパリであり、理解に苦しんだ。
『っ!何をした?!』
「お前の腕と姉妹を天界に戻した。死んでも、髪一本あれば蘇れるだろ!」
一度魂と肉体を知覚した朝倉拓也はどの世界に居ようとも『転移移動』を行える。
対象は問わない。星に魂があるのならば星すら移動させられる超級ご都合能力が発動した。
そして、死して生き返られる保険を勝手に作られたカウロスは大変ご立腹であり、青筋を額に浮かび上がりつつ叫ぶ。
『情けのつもりか!』
「そうだ!幼稚園児で構成されたサッカーチーム相手にプロリーグに入ってる現役バリバリのサッカー選手達が試合する時、大人側が本気でやって勝ちにいくと思うか?馬鹿も休み休み言えって話だ!」
『それが、それがッ⋯⋯⋯⋯気に入らんのだァァァァァァ』
盾を投げ捨てると、次に取り出したのは槍だった。
矛先が鈍色に光り、赤い柄が三メートルもあるその槍を左腕で武芸のように華麗に振り回すと、隙を突くように一突き。
「おっと!───最終通告だ!今帰れば痛い思いしないで帰れるぞ!」
そして、顔へ突く攻撃をフェイントとして、身体を大きく回して回転斬りを放ったカウロス。
槍の尖端が激しく燃えていき、脚を一突きとする攻撃を躱されると、一歩踏み込んで振り上げるように槍を運んだ。
炎が空へ駆け昇るような綺麗な半月が発生し、身体を反らして避けた朝倉拓也も思わず拍手をする。
だが、カウロスの屈辱感は募り、意を決したように目を見開いた。
『ならば、これじゃあぁぁぁぁぁ』
大きく身体を捻じり、膝を曲げて、槍を後方へ向かわせると、左腕は腰に当てられた。
『神聖力』は『魔力』の三倍の威力を常に保有する。
そして、そこから放たれる『魔術』は絶大なものとなるのは必至。
カウロスの持つ槍は炎を帯びていく。
次空間にヒビが入る。行く予定の無い世界の風景が垣間見えた。
「⋯⋯⋯来いよ」
ここで中途半端な妨害を加えてしまえば、『魔術』が暴発してしまい、他世界が入り乱れる滅茶苦茶な世界が一つ出来上がってしまう。
そう判断した朝倉拓也の取った行動は受けて立つ事だった。
『ぬわぁぁぁぁ!』
咆哮を上げ、大きく身体を元の状態に戻すと共に槍を朝倉拓也目掛けて突き立てる。
瞬間、空間が殆ど埋め尽くされる程の超巨大な矢の形をした一閃が朝倉拓也に迫った。
熱は空間を軋ませていき、浮いているというのに身体は自然と震える。
「だりゃぁぁぁッ!」
次空間の色が赤一色に染まりつつある中、朝倉拓也は身体にある魔力を放出させていき放たれた赤い矢を蹴り飛ばしてみせた。
カウロスの放った一撃は発動した本人の遥か後方へと吹き飛んでいき、大爆発を起こす。
衝撃は二人の身体を大きく刺激して、熱風と炎の残滓が空間に透き通っていく。
依然、空間は赤い色を宿したまま、元の状態に戻る目処が立たない。
そんな中、カウロスは愕然としたように後方を見つめ、再度正面に居る『怪物』を見た。
冷や汗が流れる、動揺に手が震え、胸元を押さえ付けて無理矢理動悸を押さえようとする。
『な、何故⋯⋯そうなる?!当たる事が確定している『ルキシェラの矢』が何故だ!』
赤い槍から解き放たれた魔術『ルキシェラの矢』は必中と生命体殺しの特性を兼ね備えた灼熱の魔術。
大半の『神聖力』を消費して発動させたその魔術はカウロスの最高打点であり、以上のものはない。
「当たったさ。ただ、俺の脚に溜めた魔力の方が強かったらしいな。ふっ、所詮その程度さ、お前なんざ」
生命体殺しは触れなければ発動しない。
朝倉拓也が蹴り飛ばした脚には防護用に纏った魔力がある。
つまり、肉体に触れていない矢はただデカくて強力なだけの必ず当たる矢でしかない。
『ッッ!────ぬゥゥゥ』
「矢、返す」
指を鳴らす。たったそれだけで未だ爆発中の矢がカウロスの背中に刺さった。
空間が大きくヒビ割れ、次空間の流れが、軌道が変わっていく。
『ッッ。⋯⋯⋯⋯滅ぼしてくれるわァァァァ!』
「怒るなよ。皺増えるぞ!もういっぱいあるけど」
『〜〜〜!!!』
ようやく収まった矢は老人の背を大きく焦がし、煙が燻り立つ。
そんな身体で振り回す槍は非常にか弱く。
目視で避けられる程のものであった。
カウロスもそれは承知していた。
だがら、狙いを定めて槍を土壇場で捨てるように投げると、朝倉拓也からある物を掠め取る。
その行動は流石に予想外であり、動きを停止して、大きく後退したカウロスを訝しんだ表情で見た。
「っ?!おい、何故ソイツを取る?」
『この小娘が消えても我にとっては痛くも痒くも無いからじゃ』
それはカンテラの形をした封印の箱。
茶色く今でもある女神が封印されている物であり、拓也の旅同伴メンバー第二号でもある。
「はァ?お前ら神同士だろ?そりゃ、ティアナーデは爺のアンタに比べればまだまだ産まれたてのオタマジャクシみたいなもんかもしれないけど、仲間だろ?」
『関係ない!コヤツの魔力を還元し、我は貴様を葬り去る養分となればなァァァ!コヤツも本望というものだろう!』
しばし考える朝倉拓也。
そして、カンテラの中を開けようとするカウロスを前に一言。
「⋯⋯⋯⋯それは困るな」
その言葉を聞き、カウロスに余裕の笑みが浮かんだ。
目の前に居る男が敗北を喫する時間が訪れる事への愉悦。
それだけが、今の老人を朗らかにさせる術でしかない。
『フッフッ。怖気付いたか?憐れだな──』
「違ぇよ。お前相手に『ティアナーデ』の力が入り込んだ所で痛くも痒くもない。問題なのは、コイツが改心してねぇ事だ!」
『フォーリナー』本来は余所者を意味する言葉であり、正しくカンテラの中で封印された女神は朝倉拓也達にとってのフォーリナーであった。
自らそう名乗り、交流を深め、結果として世界のリセットを謳った彼女は最も交流していた朝倉拓也によって封印される形で幕を閉じた。
そんなフォーリナーことティアナーデは封印されている今でも、傷はそのままであり『神聖力』は総量の残り二割未満。
そんな彼女の『神聖力』を掠め取ったとしても、朝倉拓也にとっては蚊が少しデカくなり叩き易くなっただけに過ぎない。
しかし、朝倉拓也がわざわざティアナーデを連れて行くのは一つの理由があったからだ。
『人の尊さを知って貰う為』である。
一度人間に失望している朝倉拓也は力も無く、ウジウジと現状を非難し慟哭していただけの一般人達が立ち上がる様を見ている。
人の可能性を信じた瞬間であり、愛おしく感じた瞬間でもあった。
その感動と心に伝わる温もりをティアナーデにも知って貰う為に共に同伴させている。
カンテラを見つめた朝倉拓也は再度、カウロスへ視線を向けた。
「だから、まぁ。お前、一回殺させて貰う」
赤い光が宿る。
血のような真っ赤な髪色、靡くように逆立つ髪と赤い瞳、放たれるは神殺しの性質を持つ『刻印開放』を発動した。
神を疎んだ精霊の血の色とも呼ばれる髪色をした彼を見たカウロスは気付く。
『コレか!妹達の持つ加護と武装を無視して殺せた秘密は⋯⋯」
ラカレアの首を断つ際に『加護』と『神聖力』を貫通する事が容易な『刻印開放』となり、首を断った後、即座に元に戻る。
ミュウレアの身体に切れ目を入れたのも同様の理由から成せた事であり、元来の速度と合わさって消えたように見えただけの事だったのだ。
結果からすれば、最低限の燃費と消費で事を済ませられ、長期間の旅を大した不自由なく行う事が可能とした。
真っ直ぐ、向かい合う。
息を呑むカウロスは槍を強く握り、タイミングを見計らっていた。
「──死ね」
そう一言口にしたと共に前屈みとなり、カウロスに迫る。
カウロスは槍を構えた。
(⋯⋯⋯⋯?!お、遅い!?)
まるで朝倉拓也がスローモーションのような動きに見える。
何かの演技、そう疑った──次の瞬間。
『ッッ!!ガハァァァァァァァァ〜〜ッ!』
痛みが先に来た。そして、スローモーションだった朝倉拓也はまだ動こうとしている途中。
だが、途端にそのスローモーションだった動きは忽然と姿を消して、首を掴んでいた。
顎を突き出すように持ち上げられた身体。
槍は痛みが来た瞬間に思わず手放してしまった為、武装の類は鎧のみ。
だが『刻印開放』はそんな鎧に対しては特効が入る。
完全に詰んでいた。
(な、何が!?何故!⋯⋯)
朝倉拓也がスローモーションで動いていた?
否、違う。彼は普通にカウロス目掛けて脚を動かしつつ、一気に魔力を爆発的なまでに高めて近付いただけだ。
眼球から脳、脳から身体と送られる電気信号にはブレやズレがある。
朝倉拓也の動きは純粋に速すぎる故に遅く見えてしまっただけの事。
痛みに関しても身体は後から痛みだと認識する程である。
肉体と感覚や意識だけが乖離したような体感を味わったカウロス。
カンテラを握り返され、腰にまた備え付けた朝倉拓也の赤い瞳がカウロスの表情を歪ませる。
『ま、待て!待て!────』
朝倉拓也の掌に溜めた魔力がカウロスの首以外の部分を包み込む。
鎧は塵となり、身体は完全に消失。
残った首は中途半端に焼き焦げた長い白髪の髪を掴み、振り回すようにして変身を解いた。
「ん?チッ。ちょっと予定地とズレてやがる。アイツ、余計な事を。まぁ、欠片の反応はあるっぽいし、良いか」
悪態をつく朝倉拓也はカンテラにそっと触れる。
「⋯⋯お前を簡単には手放す気はない。俺の世界を滅茶苦茶にしたからな。だから、お前も勝手に離れようとしてくれるな」
言葉以上に何処か朗らかな笑みを浮かべた彼はカンテラを優しく撫でる。
中にいる女神はこの光景を見ている。
旅を同伴するというのはそういう事。
カンテラの中に居る女神との日々を思い返した彼は口にした。
「また、前みたいに恋愛相談乗って欲しいしな」
そして次の世界は何処へやら。
真正面に広がる世界の壁をぶち破った朝倉拓也は見下ろした。
「あァ?なんだ⋯⋯これ?」
首を持ち、カンテラを掛けた男は『空弩街』へやって来た。
超巨大な悪魔、赤い龍、足元付近には七人の天使、何処かか細く駆ける馬達、上空には苗床を求めて降り立とうとしている種が撒かれようとしている。
「まぁ、神相手に比べれば、マシだな⋯⋯」
カウロスの首を真下に浮かぶ天使の方へと手放すように投げる。
喇叭を吹き終えた彼女達が見上げた瞬間、慟哭しようと口を開く。
そして──カウロスの首諸共、天使は魔力による爆発に巻き込まれ、喇叭の破片が上空に散らばっていく。
「さてぇと⋯⋯⋯⋯やりますか」
気怠げに背伸びをした朝倉拓也に迫るこの街の力ある者達。
ある者は恐れ、ある者は本能で身体を刺激され、ある者は救世主がやって来たと喜ぶ者すら居た。
ボロボロの黒いジャケット、濃い緑色のズボンに茶色いブーツとカンテラを引っ提げて、青い瞳は街を睨む。
朝倉拓也が戦う相手は基本インフレの頂点に居そうな奴らばかりです。
だって傍から見なくても『ぼくのかんがえちゃ、さいきょーのキャラクタ〜』ですからね。
だから本編での主人公、准坊は力を手に入れる事はしません。
させませんし、あったとしても一時的かつデメリット込みです。
非力であってくれ、少年!
次回は朝倉拓也がまた主軸になるかな?
この時点ではまだどの段階で一話を区切るか判断していないので⋯⋯。多分、キリの良い悪いで文章が過剰に多くなったりするかもですが、ご愛嬌とご慈悲を。




