【流れ子宮】
短めだよ。
次回に繋げる為に、区切りの良い所で切りました。
だから、見やすい方⋯⋯かな?
『デート』──その言葉一つで僕の鼓動は早鐘を打ち、収まる気配はなかった。
わざとらしく、あざといポーズを決めた六華から発されたその言葉に僕は『YES』か『NO』どちらの選択肢を告げなければならない。
既に奥底にある扉はひしゃげてしまい、中が露見しきっている。
悟られたくもない、気付かれたくもない。
理解したくなくて、察してしまうのが怖い。
自分の持つ感情を両腕に抱えて持つ事を恐れている僕は抵抗するように扉を押さえ付けている。
僕が目指すのは『普通』の人生であって、それ以外は望んでいない。
変わりたい⋯⋯、もっと皆のように普遍的な人間だと見られたい。
周りとの違いが、時として肌を刺す痛みとして表れる。
母さんは世間一般な母親とは違う。
父さんは世間一般の父親ではない。
だから、そんな間に生まれた僕もきっと違ってしまった。
だからこそ歪められて捻じ曲がった価値観や基準、生き方や在り方、存在定義すらも『普通』になりたい。
それ以外に縋れるものがない。
自分が生きていられる理由なんて、そんなもの。
一種の反抗期で抵抗。
反逆と言うにはみみっちくて、見栄を張っだけの子供の我儘。
声高らかに、お前らとは違う、と自己主張したいだけの子供の悪戯とも取れてしまう程度の機微から生まれた些事。
誰かにとっては当たり前の出来事でも僕にとってはここ大一番の正念場だ。
そんな価値観を扉をブチ破る勢いで壊してきた女が目の前に居る。
心が騒つく⋯⋯。
閉じ込めて、有り得ないと割り切っていた筈なのに、それが露見して垣間見えるようになると、途端に怯えてしまう。
相手は『龍』で強情で意地っ張り、自己主張が高くて自己顕示欲が溢れているクセに構って欲しくてすぐに近寄って来る、そんな馬鹿な子供のような二千歳の同級生。
我儘で愛想があり、すぐに喚いて泣いて、落ち込んで喜怒哀楽が溢れ返ってしまっている永久不変の可愛い奴。
当てられたのだろう。
こんな事なら、あの夜⋯⋯助けられなければ良かった。
そんな事を思ってしまったのは、流石に悪いか⋯⋯。
「⋯⋯⋯?」
様子のおかしい僕を訝しみだす六華は一歩、こちらに近付く。
──理由が欲しかった。
僕がコイツと隣を立てる理由が欲しい⋯⋯。
僕の悩み⋯⋯それは僕のようなものだけが理解出来る、自意識過剰が生んだ感情。
自分に自信がない。
何故、自分が選ばれたのか、本当に分からない。
コイツはクラスメイトとも打ち解けて駄弁ったり、遊んだりしていると聞く。
だからこそ、色々と理由を探りたかった。
どうして自分でなければならないのかを⋯⋯。
「准?」
首を傾げ、怪訝な顔をコチラに向けながら僕からの返答を待つ六華。
⋯⋯⋯⋯正しさのようなものが欲しい。
基準や価値観をある程度、決められていて欲しかった。
『YES』か『NO』のどちらが正しいのか、それは分からない。
基準と価値観が初めから決まっていたら、もっと素直に気持ちで口にする事が出来たんだろう。
「⋯⋯えぇ、と⋯⋯⋯⋯」
夕焼け空が赤い髪を優しく撫でる。
風が吹いた。だから彼女は髪を押さえて吹いた方向に向けて視線を向けた。
群青色の瞳は夕日によって鮮やかに映り、僕に息を呑ませる。
睦生六華は────とても綺麗だった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
純粋に見蕩れて、見惚れて、身体に流れる血液は熱を帯びたように全身を熱くさせた。
夕焼け空である事に今日ほど感謝した事はない。
着崩した紺色のブレザーが風に当てられて少し靡く。
ミニスカートは翻ってしまいそうになるものの、手で押えてそれを防ぎ、隠れていた六華の左眼が露見する。
煌びやかに夕日すら反射する銀色の瞳。
作り物のようにも見えたその瞳は前髪の隙間を縫うように僕の視界に映り込み、目を奪われた。
「⋯⋯⋯⋯綺麗」
気に留めず、すっと出てきた言葉はか細く風に流れてしまいそうなぐらいに小さかった。
それを聞き逃す程、彼女は間抜けではなかったらしく、素っ頓狂に声を発した。
「え?」
「あ、いや⋯⋯」
「あ〜、この街の夕陽?見慣れてるでしょ?」
何を勘違いしたのか分からないが、取り敢えず助かった⋯⋯。
誤魔化しの利くように何とか立て直さなければ、そう思い頷く。
「なによ、変ね⋯⋯。────それで、来てくれるの?来てくれないの?どっちよ?」
「⋯⋯⋯⋯僕は」
「──まずは行ってみましょ!バス、来るわよ」
六華の背後から、確かにバスが近付いてくる。
けど、バスのフロント上部分に記されている番号からして僕の自宅に向かう経路を走るものではない。
乗らなければ、その五分か十分後には僕の自宅付近に向かうバスがやってくるだろう。
少し前を進み、乗り込む準備をする六華は僕の方へと振り返ると朗らかに笑った。
何がおかしいんだろう⋯⋯。
『龍』の感性がイマイチ掴めない。
一見すると『人間』と何も変わらなくて、社会に溶け込んでいる。
社交性だって下手をしたら僕よりあるだろう。
喜怒哀楽のプロフェッショナルであり、皆の注目の的⋯⋯それが彼女だ。
そんな彼女はバスに乗り込み、入口前で手を伸ばした。
僕を待つように、僕に期待するように、僕が乗ると信じて⋯⋯。
細くて娜なその手をそっと指先から僕の手を乗せると、ゆっくりと丁重に掴まれて、引き上げられる。
バスの段差を軽々と上がると、目の前には六華の顔が上目遣いで近くにあって、思わず視線が逸れた。
掴まれたその手はしばらくの間、離れる事をしなかった⋯⋯。
━ ━ ━
『とびっきりいい事』⋯⋯なんて言うが、向かった先は見慣れた場所だった。
この街で唯一の電波塔。
高さにして約三百メートルであり、一階には受け付け用のフロントと食事が出来るレストラン。
二階には『空弩街』のみのマスコットキャラクター『アクドヌ』という丸みを帯びたシルエットに目付きの鋭い黒と白の両方がメインカラーの小悪魔的見た目をしたキャラクターのグッズが置かれたショップが多数並べられている。
更にはこの電波塔でしか買えない靴やら服やらと言った商品もあり、観光客向けに重きに置いていた。
そんな中央地区にドンッ!と聳え立つ電波塔までやって来た僕は連れて来た六華に手を振られる形で中に入る。
まさか、ここに来て飯を食うだけで終わり⋯⋯なんて事はないだろう。
(電波塔なんて上った事ないけど、金掛かるよな?財布の中身あったっけ?)
後ろポケットに手を入れて、黒い長財布の中身を確認しようとする僕は顰め面をした。
二千円ぽっちしかない。
バスは定期券を買ったから財布を覗く理由にならなかった。
ある意味ではデメリット⋯⋯。
「六華、ここまで来てなんだけど僕の財布の中身が無いから──」
「はい、チケット」
「⋯⋯⋯⋯え?」
駆け寄るようにしてやって来た六華の手元には端っこに空色の模様をした白い紙があり、僕は思わず手に取ってしまう。
「払うわよ。連れて来たの、私だし」
「え、いやでも⋯⋯」
料金表を見ていないが、多分千円とかではないだろう。
そんな軽々と、飯を奢る、みたいな感覚で言われても正直困る。
僕の表情を読み取ったのだろう、目の前の六華は少し不機嫌そうに口にした。
「良いのよ!どうせ一日二日じゃあ返せないでしょ」
正直、父さんのへそくりから取る事自体は出来る。
そこから捻出という名の徴収で六華に明日にでも渡す事は可能だろう。
だけど僕にもポリシーというか決め事のようなものはしていた。
あのへそくりは基本的に家に必要な物を買う時のみ使う、そう決めている。
気が引けるという面もあって、勝手に決めて勝手に守ってる事。
誰かに言われた訳じゃなくて、自分で定めたルールのようなものだ。
だから、今回のチケット代には父さんのへそくりはアテにしない。
「ありがとう」
「行こっ!」
僕達は今⋯⋯デートをしている。
生まれて初めての事で、ドキドキもしているし、不安もあった。
天井に垂れ下がっている看板を確認して、案内通りに道を進んで行く。
平日の夕暮れ近くというのもあって人はそこそこしか居ない。
高校生は僕達を除き、誰一人として居なかった。
大学生らしき若い人達はチラホラと居たが、皆何処か浮かれたような顔付きをしている。
アウェイな感じもして、大人の憩いの場という雰囲気が少し漂い何処に目を向ければ良いのか迷う。
手を繋ぐカップルが隣を歩く。
握られたその手は恋人繋ぎと呼ばれるもので、ルンルン気分で前後に少し揺れていた。
「私達を繋いでみる?」
「揶揄ってるだろ」
「うん」
だろうと思った。
声色が少し半笑いに近かったのがいい証拠だろう。
けど、悪い気はしなかった。
「あぁいうの、したいの?」
「え!⋯⋯⋯あ、えぇと、その」
「あっはっはっは〜、なにビクビクしてんのよ?はい、気分が良いから繋いであげるわよ」
揶揄うように高笑いをした六華はエレベーターの待ち時間の中、コチラに向かって手を伸ばす。
親指以外の指は綺麗に揃っていて、前列に並んだ彼等のような繋ぎ方は事実上不可能だろうと悟った。
⋯⋯⋯⋯物凄く緊張する。
バスの中でも確かに繋いだその手はまた僕の前にあって、でも確かに違うのは彼女の表情だった。
柔和にも似た微笑みが、僕の手を前に向かう事を躊躇わせる。
汗が凄い。何故か腕が震えて、視線も彼女ではなく別の方向へと向かいたくなった。
不審者だと思われても仕方ないぐらいには今の僕はヤバい奴になってしまっていた。
大きく息を吸う。
肺が攪拌したように震えて、喉が揺らぎ、唇が小刻みに動き、痙攣したみたいだった。
呼吸一つでこの慄きように自分でも驚いている。
細く、娜な指先に恐る恐る触れていく。
決して壊れてはならないガラス細工に触れるように丁重にかつ堅実に手を伸ばした。
ピンポン────エレベーターのチャイムが鳴り、緊張感は風船が破裂したみたいに身体をビクッと揺らせる。
すぐ横上にあるエレベーターの到着を知らせるランプが点滅しているのを見つめると、前列に居たカップルや僕達の後方に居る人達が、エレベーターガールの女性の誘導により、エレベーターに乗り込もうとする。
「行くわよ」
六華が伸ばした手は気付けば元の位置に戻っていた。
このなんとも言えない空虚感というか、取り零した感のある感覚が胸を締め付けられたまま、僕はエレベーターの中へと入る。
エレベーターの壁はガラス張り。
どんどんと上がる速度が上がるにつれて景色は遠くなると共に耳が詰まったような、劈いたような、そんな感覚に襲われる。
イルミネーションと言うには不格好なこの街の光と地平線に消えようとする夕陽の合わせ技は、とてもじゃないが綺麗とは呼べなかった。
暗がる空と混み合う車のライト、ビル群に付いている無数の照明と奥にある遊園地の眩さがどうもを景観を台無しにしているように感じる。
祟良把のイチオシ『都市伝説』の【零山灯明】の舞台なっている山に隠れるように夕陽は隠れていく。
僕達の影が斜めに伸びる⋯⋯。
もうすぐ夜景のイルミネーションに変わるだろうこの電波塔は内部ではどうなるのか僕は知らない。
入ってからのお楽しみ、というものだ。
エレベーターの上がる速度が徐々に落ちていき、最後にはピタッと停止。
チャイムの音が鳴ると同時に背後にある扉はゆっくりと開いていき、あれほど静かだった空間にガヤガヤとした音が入り込んできた。
エレベーターが空いていく。
一人一人、十五人程度が定員オーバーの箱から降りて行き、六華も流れるように展望デッキに足を踏み入れる。
円形に広がる展望フロアの中心に居る僕達。
真上には巨大な円形の照明があり、当たりを眩く照らす。
その真下で待つ六華は僕に向けて静かに手を振る。
僕はここまで来てようやく彼女の意図を知ろうとして、歩み寄りながら聞いた。
「なんでここに来たんだ?」
「言ったでしょ?『とびっきりいい事』があるって」
その『とびっきりいい事』ってのが電波塔の展望デッキから見える、そう言いたいのだろうが⋯⋯。
目の前にある大人一人分の大きさをした望遠鏡。
家族連れで楽しく覗き込んでいるその後ろ姿を眺めている僕の肩を指でつついた六華はこちらに顔を向けつつ、身体は空いている展望鏡へ向けて歩き出していた。
その赤く煌めく髪をした彼女の背中を追うように駆け足で脚を動かす。
「六華⋯⋯その方角は大した物がないぞ?」
僕達の居る方角から真反対の位置には、北地区にある『食事処』と呼ばれるストリート街、中央地区に聳えるショッピングモール、西地区も微かに見えて遊園地の明かりが眩く見えて、子供含め人気スポットとなっている。
だが僕達が現時点で向いている方角、望遠鏡から覗ける所には、南地区、東地区方面はそういった華やかな施設や目立つ物はなく、質素で華やかさが欠けていた。
六華はそんな人気も少なく、大した面白味もないそんな方角が見える望遠鏡の前に立って、僕を案内した。
「私が見せたいのは街じゃないわよ」
「ん?じゃあなんだ?」
未だに彼女は自信に満ちた表情で展望鏡の側面に手を添えて僕に覗かせるように促してくる。
「はい、どうぞ」
「⋯⋯⋯⋯分かった」
促されるまま、僕は展望鏡のレンズに向けて顔を近づけると、急に六華が肩を掴んできた。
「六華?」
「良いから、これで見えるようになるの」
何が何だか分からない僕ではあったが、言われるがままに目の前にある展望鏡のレンズを覗き込んだ。
「⋯⋯⋯ぁぁ。なんだこれ?!」
驚きで一度レンズから遠ざかり、窓ガラス越しに映る景色を見て、現実なのかを疑うように確かめる。
けど、そこには薄暗いだけの光景が広がっていて、面白味なんて微塵もなかった。
「驚いたでしょ?」
「どうなってるんだ?!肉眼じゃ分からないのか?」
僕の見た光景──それは、夕暮れ時を少し過ぎ始めたこの『空弩街』の真上に、青緑色のカーテンが敷かれたように綺麗な光景が映っていたのだ。
レンズを再度覗き込んで、その光景をじっくりと眺める。
オーロラというにはドーム状で、けれど何故か恐怖心よりも何故これがあるのかという好奇心が先行していく。
大きさはこの街を包み込めるぐらいに大きなもの。
よく見ると、雪よりも青みがかった白い粉のようなものがゆっくりと落ちていき、暗がりの街へと姿を消している。
地面はどうなっているのか、触れてしまった人はどうなるのか、それここからでは分からない。
「これ、なんなんだ?」
「『空弩街七不思議:その七』【流れ子宮】ってやつよ」
「【流れ子宮】?」
祟良把が詳しいあの『空弩街七不思議』がここに来て聞く事になるなんて⋯⋯。
「杏ちゃんから聞いてたその話と照合の行く時間帯と場所ってここだから」
「どんな話なんだ?」
普段、祟良把からの『都市伝説』や『怪奇事件』など、話半分で聞いている事が多い。
けど、今は違う。相手はあの六華だ。
彼女がわざわざここに連れて来て見せたいものというのが、この『空弩街七不思議』に該当する『不可思議現象』ならば、聞く意味は十二分にある。
「子供が欲しいと思ってた女に子供がようやく出来たんだけどね、お腹の中でその子供が亡くなっちゃって⋯⋯。でも、女は生きてるって信じて亡くなったお腹の子供をずっと抱えたままにしてたら、病気になっちゃったの。そんなある日にね、夢に出てきた神が病気に罹っちゃった女に安楽の薬を渡したの。それでその粉状の薬を飲んだ女は死ねる!って思ったらしいんだけど⋯⋯」
「だけど?」
「なんと神は死ぬ薬じゃなくて、子供を取り除く薬を渡したの。それで天に昇って行く初めて自分の赤ん坊の顔を見た女は号泣して、目が覚めるとお腹に子供はいなかったの。その日から光と共に白い粒子が街に振るって話」
「昔話みたいだな」
御伽噺のような話を聞いているようだった。
科学的根拠や理論めいたものは何一つとして浮かび上がらなさそうなその話に僕は呆然としてしまっている。
「実は、続きがあるんだけど⋯⋯聞きたいでしょ?」
「続き?」
今のでも十分話として纏まっていた⋯⋯いや、違うのかもしれない。
纏まるようにしたんだろう。
比較的に物語はある程度都合の良い風に変えられていくものだ。
有名な『アーサー王伝説』だって、何人もの人間が後から書きまくったせいで、原典に比べてキャラクターが無駄に増えたり、変な要素が足されたりしまくっている。
あれだって著者の都合の方が比率としてはでかい。
この物語に限って言えば、除去したんだ。
都合の良い風に⋯⋯。
「その女の人、自殺したの。赤ん坊の顔を見て、余計に堪えられなくなっちゃって。それで、悲壮感と自分の身体の出来の悪さを呪った。家族を全員殺して⋯⋯。その日かららしいわ。この『現象』が発生したのは⋯⋯」
レンズの中に映り込むそのドーム状の光は怒りか、或いは嘆きなのだろうか。
いや、多分違う⋯⋯。
六華が脚色していないのならば家族を『悲壮感』と『出来の悪さ』だけで皆殺しにしたのなら、こんな色は出せない。
「泣いてるとか?」
「もしくは、同じ目に遭え⋯⋯かも」
そう何処か寂しそうに口にした彼女は夜空となりつつある夕暮れ時の空を見つめた。
細めたその瞼の中にある群青色の瞳は少し潤んでいるように見えた僕は、口をゆっくりと開いていく。
「死んだら子供に逢える⋯⋯だからこんな色なのかな」
「え?」
再度、レンズ越しでその現象を見つめる。
青緑色と思っていたそのドーム状の光⋯⋯。
よく見ると、淡く煌めく青い光が緑色に鮮やかに照らされる光を受け止めるように下に敷かれているようにも見えた。
現に青緑色の部分は僕達の居るこの中央地区辺りで終わっており、そこから街の端までは青色が続いている。
混ざり合う訳ではなく、あくまで寄り添うように⋯⋯そんな風に思える。
「なんか、良いなぁ⋯⋯」
「フッ。でしょ?感謝なさい」
「あぁ、ありがとう」
「───え!な、何よ!ふ、ふふ、普段、おお、お礼なんて言わないくせに⋯⋯」
何故か動揺した六華だが、僕は夢中でその青緑色の光のドームを眺めた。
決して、色鮮やかとは言えないだろう。
決して、優しい物語から生まれたものではない。
でも、何故か僕はそれに夢中になった。
今日のこの時にしか見れない『とびっきりいい事』──それは間違いなく事実なのだと、心に深く刻み込む。
六華と今日、これを見れて良かった。
「─────っ!?⋯⋯准!」
突然、僕の名前を叫んで呼んだ六華の方へと視線を向けようとする。
「ん?───うわっ!」
しかし、その時には脚は床を離れていて、身体は突然やってきた浮遊感と圧迫感の双方に襲われた。
驚いた僕の視界には白い何かが映る。
全身が覆われたように、肉眼で捉えられる範囲は全て真っ白に⋯⋯⋯⋯。
「ウワァァァァァァァァァ!」
僕は叫んだ。
訳も分からず、理解の出来ない突然の光、そして⋯⋯衝撃音と微かな痛みによって瞼を閉じてしまう。




