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この街は今日も語る  作者: 紫芋
Spring hour 桐江准は普通でありたい

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感情の扉

颯悟くんはな、インパクトが足りんわ。


あの子素やと優しすぎる、甘々やでぇ〜。

 入学から数日経った四月十二日。


 新入生というレッテルがまだ貼られているものの、少しずつクラスの空気感や学校の雰囲気に慣れ始めだした頃。


 僕は三者三様、ミニ聖徳太子のような真似をさせられていた。


「───でだよ、准!俺が何が言いたいか。それはな⋯⋯女の子は水着着用で登校する事を全国的に認めるべきだって話だっ!」


 睦生嶺二は女子は身近に居るミニスカガールの影響で頭がラリってしまわれたようで⋯⋯。


 ミニスカートという通気性特化の下着丸見え事情に対して異議を唱えていたのと言うのに、話が進むと様々なバリエーションと見せても良い下着という名目でスパッツを蹴っ飛ばして水着着用を推し進めようとしている。


「───それでね、桐江くん。『空弩街七不思議』の中にある【焼けの胎《はら》】はやっぱり実在した事件なんじゃないかな?って言うのがお爺ちゃんの見解だったんだけどね!それで───」


 祟良把《たたらば》杏《あん》はこの街の奇々怪々な伝奇や噂話を調べる学者を祖父に持つ孫娘であり、亡くなってしまったお爺ちゃんの話を聞くのが子供の頃は好きだったと語った。


 ここまでなら涙ぐましいエピソードで収まるというのに、ここから暴走を始めてしまい、自身もその伝奇について調べていたりと語ってくれてはいるのだが⋯⋯普段とテンションが違いすぎて、正直ちょっと怖い。


 お勧めは『空弩街七不思議:その五【零山灯明】』なのだとか。


「───てな訳だから〜、私にそのハンバーグを渡さなきゃならないの!寄越せーー」


 睦生六華は⋯⋯⋯⋯ただの我儘だから語る事もないな。


「ちょっと!絶対その目は絶対に馬鹿にしてんじゃん!」


 何故こうなった⋯⋯。


 くっ、僕はそんな万能な脳と口と耳はしてないんだぞ。


 何したってんだよ⋯⋯僕が⋯⋯。


 普通に嶺二と食堂行って、普通に食べてたら祟良把に会って一緒に食べる事になって、この馬鹿が来て、この有様だ⋯⋯。


 なに、密かに僕を虐めてるのか?


 だったら僕は僕で何しちまったんだよ。


「准!」


「桐江くん!」


「准!」


 真正面には睦生、その隣に祟良把、僕の横に六華。


 凄むように前屈みになり、僕を睨み付けるようにして口にした。


「「「どっち!?」」」


「⋯⋯⋯⋯⋯やべ、聴き逃した」


 何この地獄⋯⋯大人しくハンバーグカレーを食べさせてくれよ。


 カレーのトッピングとして乗っけられたそのハンバーグは皿に盛られた当初は冷めているものの、湯気が立っているカレールーに少し漬けておくだけで食欲を活性化させると魔性の食べ物に変貌する。


 つまり、卓上に置かれたカレーを美味しく食べる秘訣は敢えて待つ事にあり、カレーを頼み食し始めてから五分強。


 時は来た!───。


「貰いね!」


 僕の箸がハンバーグへと向かう丁度同タイミング。


 隣から突如襲来したフォークは侵略戦争の前段階と言わんばかりにハンバーグをぶっ刺し、連れ去り、小さな口に放り込まれた。


 僕は絶句して、その主犯格を睨む。


 赤い髪、頭に巻いた黒い布は右側頭部付近で蝶の形にして結ばれており、紺色のブレザーと灰色のスカートに合っていないファッションをしている、陳気で、惨めで、馬鹿な女によって攫われたのだ。


「おいテメェ!カレーの唯一無二的存在であるところの最大級にして最高級にチャーミングなミニハンバーグを掠め取ってんじゃねぇよ」


「なによなによッ!いいじゃないハンバーグくらい!」


「巫山戯んな!そのハンバーグ一つでゴネたんはお前の方だろうが!」


「ふんっだ!悔しかった私の皿から奪ってみなさいよ」


 コイツが頼んだは中華丼だ。


 美味しそうではあるが、ウズラの卵は既に食されてしまっていてハンバーグのように『一個を取る』という行為がしにくいメニューとなってしまっている。


 挑発的にフォークを振って、先端に刺さったハンバーグを見せびらかす。


「返せよ⋯⋯それは僕んだぞッ!」


「───え!」


 勢いよく隣の席に座る六華に近付き、頼んだ中華丼──にではなく、挑発的に見せていたフォーク目掛けて顔を向けた。


 そして、フォークに刺さったハンバーグをかぶりつく。


「あ、あ⋯⋯あぁ⋯⋯」


「ふん。僕のだ。泣くな」


 ドヤ顔で、お前のものはもう無い、そう誇張《アピール》すると、六華は泣きそうになりながら、前に設置された机に上半身を乗せて僕の真正面に座る睦生へ縋った。


「あ〜〜!お兄ちゃん〜!」


 脚をバタバタと水泳のように上下に動かしながら、両手を前に伸ばして兄に縋った六華の頭に睦生の手が触れて、優しく撫でられる。


 そして、大して怒っている様子もなければ呆れている訳でもない睦生は僕の方へ顔を向けた。


「准、確かにこの妹は頭が少しおかしいのかもしれない。否定はしないぞ」


「あれ?!ムッくん」


「だけどね、想像してみてくれ!こ(・)ん(・)な(・)妹でも、可愛いんだッ!つまり、神すら行っちゃいけない愚行も許されるって思うんだが、どうだろう?」


 こんな妹だから何とかして欲しいし、将来的に鑑みてもどうにかするべきだと思うのはおかしい事なのか。


「駄目に決まってんだろ」


 睦生の質問には即答で答えた。


 すると睦生は、後頭部を掻くように手を後ろにやり、軽く笑う。


「そっか駄目かー」


 朗らかな笑みで口にした睦生とは違い、依然納得のいかない様子を見せる六華は叫ぶ。


「なんでぇ〜!抵抗して抗議して勝ってよぉぉぉ」


「だって⋯⋯俺、口喧嘩、弱いもん」


 ジタバタし過ぎてただでさえ見えそうなパンツが本当に見えそうだった。


 カレーが乗ったトレーを使って、後方から覗き込もうとする者の邪魔をするべく六華の臀部近くにトレー持っていく。


(いっそこのまま、尻叩いてやろうかな⋯⋯)


 割といいリアクションが期待出来るであろう事は、もはや約束されている。


 問題はその後の対応な困るという事ぐらいだ。


 ⋯⋯⋯⋯やめておこう。


 一方、真正面に座る祟良把は睦生が妙なぐらいに苦笑いをする事に気をかけて、声を掛けていた。


「す、凄い哀愁がある、ね⋯⋯」


「うん、なんかね⋯⋯ドッヂボールってあるじゃない?『さ行のし』か『た行のち』で揉めてさ⋯⋯俺は『た行のち』って言ったんだけどっ⋯⋯知らない間に友人にその功績を掠め取られて、気付けば俺だけが間違えてた、みたいになっちゃってた⋯⋯。なんでぇぇぇぇ」


 子供の頃、よく間違えていたやつの代表のようなもの。


『ドッジボール』じゃなくて『ドッヂボール』


『ボーリング』ではなく『ボウリング』


 文字にすれば簡単に違いが分かるが、言葉のみでは違いが分かりづらい単語はたしかに存在する。


 地方等によって変わるイントネーションもそれをより面倒臭くさせているのだろう。


 だが、よりにもよって『ドッジボール』と『ドッヂボール』論争で全部の罪をおっ被される奴が居るなんて、聞いた事がなかった。


「お兄ちゃん、ザッコ。あ、ザ〜コ」


 何故か二回言ったか、この泣き虫雑魚娘(ざこむすめ)。


 一回目は素で言って、二回目はわざとらしく。


 もはや悪意じゃないか⋯⋯。


「味締めんな、雑魚」


「雑魚くないもん!最強だもん!」


 とはいえそんな兆候も事態も事件すら起きていない為に、それを確かめる機会がない。


 つまり、僕からすれば『最強ツヨツヨドラゴンちゃん(自称)』でしかない訳でして⋯⋯。


 ましてや、二千年も生きてるクセにパンツが見えそうなミニスカ履いて、可愛子ぶってるだけの赤い髪の女性に対して、憐れな顔は出来ても、睦生のように肯定マシーンになれはしない。


 だから、僕は鼻で笑ってやった。


「〜〜〜ッ!良いわよ!そこまで言うなら証明してやるわよ!私があらゆる英智を持っているからこそ出来る!──レスバってやつをね!!」


 立ち上がった六華は椅子に乗り、片脚を机にドンッ!と置いて躍起になったように声高らかに僕に向けて宣戦布告をしてきた。


「杏ちゃん!私達に議論の提供ぉー!」


「杏ちゃん?!」


 僕はまさかと思い、祟良把の方へと視線を向けると⋯⋯。


「うん、良いよ⋯⋯ちょっと待ってね。調べるから」


 まるで睦生六華の取り巻きAのようにボスからの指示を仰がれた事で実行に移す祟良把がそこに居た。


 だが大事なのは、この偏屈で自分勝手で我儘で強情で意地っ張りで見栄っ張りでありながらも角砂糖一個分程度の優しさがあるだけの見た目が良い致命的な欠陥モンスター相手と、特定のジャンル以外にはオドオドとしがちな祟良把が普通に仲良さげなのが気になってしまう。


 まさにそれは蟷螂《カマキリ》が蟻《アリ》と仲良くしているぐらい有り得ない⋯⋯。


「馴染んでる!?馬鹿な⋯⋯僕の計算では祟良把とこの阿呆が仲良くなれるまでに五年は掛かるッ!?そ、そう⋯⋯踏んでいたのに⋯⋯。貴様、まさかズルしたな!?」


 賄賂か?物を進呈でもしたか?


 どちらにしてもコイツと祟良把では相性はそれほど良くない、そう思っていたのに⋯⋯。


「なんの事〜。私、知らないわ〜」


 上擦った声に視線の逸らし方、挙句の果てに汚ない音色の口笛を吹いて誤魔化す始末だ。


 明らかな嘘だと分かる。


 むしろ、見抜かれて欲しいのだろうかと疑った。


「お前、どんな裏の手を使った!何を犠牲にした、言え!」


「⋯⋯⋯⋯『室野《むろの》貴寿《たかひさ》執筆の怪奇小説シリーズ』⋯⋯四冊分ッ」


「ハァァァァ!?お、お前⋯⋯物で釣ったのか!?汚ぇぞ!」


 というか聞いた事すらない単語が飛んできた訳だが、室野貴寿って誰ですか?聞いた事ない子ですね。


 小説なんて普段読む機会もなければ趣向がそちらに向く事もない。


 マイナーなのか、メジャーなのか。


 それすら分からなかった。


 シリーズという事は『一冊完結型』の小説だろう。


 シャーロック・ホームズシリーズ的な⋯⋯。


「それ、高いのか?」


「うん、高いよ。一冊千円超えるしね」


「うわぁ」


 コイツあれだな、物で買収すれば一緒に心も買ったと思い込んでるタイプだな。


 憐れなり⋯⋯、こんな黒い下着を履いてやってる事はガキなんだよなぁ。


「ふっ。アンタには勝たせないわよ?私の四千七百六十円はそれだけの価値があるんだから!」


「おい」


「なによ!怖気付いちゃった?やだァ〜、こんなひ弱で脆弱な精神性で私に勝負を挑もうとか片腹痛いんですけどー!」


 高笑いが嘆かわしいぐらいに響く。


 現状の彼女はたしかにあのドレス姿ではない。


 が、あのドレスと同等くらいの短いスカートで片脚を机に乗せて腰に手を当て馬鹿笑いしてるコイツに皆が視線を向けている。


 特に男子の胸中で鳴り響く騒めきは収まらないだろう。


「何でもいいけど、お前⋯⋯」


 何がなんやらといった様子で首を傾げる可哀想な子に僕は事実だけを告げた。


「紐パン見えてんぞ」


「え?紐?⋯⋯⋯⋯」


 最初は頭に付けてる黒くて細い布に手を伸ばす。


 けど、僕が人差し指を上から下にすぅーっとスマホのスワイプのように流していき、六華の視線もそれに合わせるように落ちていく。


 足元へと辿り着くと瞬きを数度した後、僕の方を見ながら、顔が完熟トマトのように真っ赤っかとなる。


「〜〜〜っ!!」


 声にならない甲高い声を喉の奥から鳴らして、羞恥心に追いやられていくように六華は口をパクパクと鯉のようにさせた。


「へ、へ、へ、へへへへへ、変態!!」


 動揺して片脚を支えていた椅子から滑ると流れるようにこちらに向かって倒れ込む。


 僕はそれを───受け止める事はせず、身体を逸らして避けた。


「うぐっ⋯⋯」


「散歩終わりの犬かお前は⋯⋯⋯⋯」


「誰がお腹を冷たい所にピタってくっ付けて可愛いらしく涼んでるだけの愛くるしい超ド級生命体よ!褒めても何も出ないのよ!」


「何コイツ⋯⋯滅茶苦茶な解釈するじゃん⋯⋯。怖ァ。他所行こう」


 パンツは出てましたけど⋯⋯つか、黒の紐パンってなかなか攻めてらっしゃる。


 誰に見せる予定なんだろう。


 僕は再度、カレーが盛られた皿を持っていたトレーに乗せて他人を装うと歩き出す。


「っ待ちなさいよ!」


 しかし、踝《くるぶし》をガッシリと掴まれた僕はそれ以上に移動出来ず、抵抗を始めた。


「おい、離せよ。お前と同類なんて思われたくなんてねぇんだよ⋯⋯⋯⋯。ちょっ!離れないんですがッ!」


 蹴っ飛ばしてやろうか⋯⋯そう思ったが、多分カウンターが返って来る予感がした。


 だから、あくまでもジタバタと地団駄を踏むように対抗しているのだが、離れるビジョンが湧いてこない。


「六華は普通に俺達より握力強いよ?」


「何平然と言ってんだ!こんな枝みたいな腕でこの力は異常と知れぇぇッ!」


「逃げらんないわよ⋯⋯。アンタは私に戦いを挑んだ⋯⋯。それが今日、最大の敗北の理由ってここで知るのよ」


 コイツ⋯⋯今うつ伏せになって言ってるんだよなぁ。


 説得力というのが姿勢や体勢だけでここまで瓦解する光景はそうそう見れない。


「ダッサ⋯⋯。そのフレーズは英智の知識で得たんですかね?お前の言う英智の知識って漫画とか小説とかじゃないよな?」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 動揺したように目が見開かれた。


 何故知ってるの?!なんて言葉に出なくても心を読めたようにコチラに伝わってくる。


「図星止めろ!」


「だってだって!面白くて止まらなかったんだもん!仕方ないでしょ、月刊連載だってあったんだから!暇潰しに週刊見てたら、漫画買ってて、気付いたらその外伝の小説買っててぇぇぇ」


「惨めったらしい言い訳みたいなのはやめろ!月刊も週刊も罪はないだろ!償いたきゃ、僕の脚を今すぐ離して、教会に行って懺悔してこい!パンツ丸見えっ娘ッ!」


「なんでそんな酷い事言うのよーー!一緒に行って!パンツあげるからー!」


 本当に要らない物を口にされた。


 正直、コイツのパンツを欲するなら妹のパンツの方がまだ良い。


「要らねぇよッ!お前のパンツなんざ!」


「なんでそんな事言うのよォォォー!触った事も嗅いだ事もないくせに!」


「ある訳ないだろ!あった方が大問題だッ!」


「じゃあ、触ってみる?」


 今の僕が素直に抱いている感情をたった一言で纏め上げられる言葉が、そこにはある。


 それは冗談としても使う事がしばしば出来るものの、基本的にあってはならない言葉。


 そう──。


「⋯⋯⋯⋯死ね」


「な〜〜んでェェェェェェェェ!一回だけ!少しだけ!」


 肘と膝を使って、僕に向かって躙り寄って来る。


 何が悲しくてコイツのパンツなんざを触ったり嗅いだりせにゃならんのか理解に苦しむ。


 コイツも今は感情的になっている分、口走った言葉の類いであろう事は察しがつく。


 だが、それを加味しても余りある言動に僕はより一層の抵抗を強めた。


「離せよッッ!!!は・な・せッ!もう良いだろ!っ!⋯⋯止めろ!躙り寄ってくんなよ。芋虫か、お前は!」


「おいおい、俺の妹が虫な訳ないだろ?勘弁しろっての」


 涼しげに、そしてなんて事のないように椅子に座りながら僕達二人の様子を見守る睦生はそう口にした。


「お前は助けろよ!おい、止めろ!身体を押し付けて来んな、痴女め!」


 踝に繋がれるように掴まれた手は離れたが、代わりに全身を預けるように僕の身体に六華は引っ付いてくる。


 こんなイベント嬉しくない⋯⋯。


「痴女じゃないもん!可愛い可愛い女の子よ!」


「えぇい、クソババア!」


 実際に二千歳というのもあって出た言葉。


 だが、その言葉は六華の勢いを加速させるものとしかないとこの時の僕は知らなかった。


「〜〜〜ッッ!言っちゃならない事をォォー!このー!」


 右手にトレーを持ち、左手に六華のじゃれ付きに抵抗をする為に行使中。


 だが、僕の身体は六華の酷いスキンシップにより動く動く。


 トレーの底を掌で支えるように持っている為、カレー皿があらぬ方向に向かわないように即座に持ち方を変えたは良いものの、正直かなりキツイ。


「やめろー!じゃれ合ってる場合か!僕のカレーが落ちたり冷めたりしたらお前責任とってくれんのかッ?!」


 ピタッと六華の動きが止まる。


 今がチャンスッ!そう思い、六華から離れようとするものの掴まれている左腕と右肩は微動だにもしない。


 だが、明らかに六華の様子は変わった。


 恥ずかしそうに上目遣いでこちらを覗き込むように唇を震わせている。


 視線が右へ左へと旅行を終えてこちらを再度見つめた。


「⋯⋯それって結婚って事?だ、駄目よ⋯⋯。そりゃ、子供は産めない訳じゃないけど⋯⋯」


 僕は絶句した。


『龍』とは人間と違って思考の飛躍が悍ましく、そして恐ろしい。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「クソめが、爆ぜろ」


「酷くないッ!?」


 何が酷いってちゃんと想像しちまった事だ。


 毎日が騒がしくて、馬鹿煩い日々が待っている事は間違いない。


 きっと可愛らしいとか言って派手めのエプロンとか買うかもだし、好きな物には目を輝かせながら向かって行く。


 料理も美味しそうに食べるだろうし、感想も毎回くれる予期もした。


 愛想と親しみやすさだけは如何せんあるものだからご近所さんからの評判は悪くはないだろう。


 だが、コイツは自称『龍』だ。


 間違っても恋愛に発展させてはならない。


(コイツが『龍』じゃなくて、人ならまだ接しようもあるだがなぁ⋯⋯)


 チクリと何かが胸を刺す。


 痛みと言うには生易しくて、でも何処か落ち着かない感覚。


「准?」


 心配そうに首を傾げた六華。


 僕は堪らず視線を逸らした。


「あったーー!じゃあ問題出すね!」


「!」


 祟良把が僕達のじゃれ合いには意を介さず、ひたすらスマホと睨めっこしていたのだが、その時間も終わりを迎えたように勢いよく立ち上がった。


「杏ちゃん?」


「えと、いい問題持ってきたよ?」


 そう言えば、コイツ⋯⋯レスバするとか何とか言ってたな。


 六華もポカンと口を開けて、僕の腕と肩から手を離す。


 改めて座り直した僕達。


 ただ違うのは、睦生が僕の隣に座って討論に参加しようとしている事のみ。


「ゴホン。では問題!」


(あれ?レスバってクイズ形式だっけ?)


 僕の知ってるレスバって言葉の趣旨と少し違う気がする。


 だが、言い出しっぺの六華が大して気にしていない様子な為、口は敢えて閉ざしたままにして祟良把の言う問題に耳を傾けた。


「日本三大怨霊と名高いのは『菅原道真』『平将門』と──」


 隣で机を勢いよく叩き、自信満々な顔付きで祟良把を指差す六華の威勢はとても良かった。


「ハーイ、分かった!『崇徳天皇』でしょ!」


「ブブー。ちゃんと問題聞いてねぇ」


「えぇ、だって⋯⋯あの人⋯⋯」


 ここまで感情の起伏が激しい奴はそうはいないだろう。


 何が凄いって、本当に落ち込んでいる事にある。


 しょぼーん、と肩を落として机に突っ伏してしまった六華。


 だが、出題者の祟良把はそんな彼女の復帰を待たず、言葉を紡いだ。


「『平将門』と『崇徳天皇』ですが!最も最初に『怨霊』と呼ばれるようになった人は、誰!」


「し、知らねぇ⋯⋯古事記に勝手に書かれたんじゃないのかよ⋯⋯」


『怨霊』なんて単語、ゲームやら漫画でしか聞かない。


 つか、発祥とか初めに誰とかあるのかよ。


 そんな文句が出てきそうになる僕の隣に居る六華が、またもや机を叩いて声を上げた。


「分かったわ!『安徳天皇』でしょ!壇ノ浦で亡くなった!」


「ブブー。その方は答えの方の全然後の人だよ」


「うぅ⋯⋯」


「つか僕⋯⋯日本三大怨霊なんて呼び名すら知らないんだが⋯⋯」


「俺も知らない」


「だよな。何されちゃった人なんだよ⋯⋯」


 時間だけが過ぎていく。


 そもそも、なんでもっとカジュアルな問題出さなかったんだよ。


 完全に祟良把の趣味嗜好に走った問題じゃないか。


 六華のみが机をボタン代わりに叩いていき、答えを外していく。


 僕と睦生に関しては問題の時点で投げ出したようなものであり、考えるフリしかしていない。


「駄目だぁぁぁぁ。私の英智の知識を用いても分からないなんてぇぇぇ」


「お前の英智は紛いもんだろ、いい加減にしろ」


 漫画と小説読み漁っただけで英智の知識なんて笑わせる話だ。


 ネットで少し見た知識をさも自分が究明した知識のようにご自慢する奴並に恥ずかしいぞ。


「なによ。一回も挙手しない奴に言われたくないんですけど!」


「しないんじゃない。しても無駄なだけだ」


 遂に答えが入った箱の底が尽きた六華はギブアップを宣言した。


 手を挙げて、悔しそうに唇を噛み締めるその様は何処か子供っぽい。


 一方の祟良把はご満悦のようで、嬉々として答えを口にした。


「正解は『崇道《すどう》天皇《てんのう》』でしたー!」


 知ってて当たり前だよね、とばかりに笑顔だが、僕と睦生に関しては笑えなかった。


(⋯⋯⋯⋯⋯誰だよ)


 だが、六華だけは違うようで納得したように掌に拳をポンと乗せる。


「あー絶食で亡くなっちゃった人だ」


「そんなコンパクトに纏めて語るのはお前くらいのもんだ」


「たしか、淡路島に流されてる途中で、だったっけ?」


 待ちなさい、なんで睦生くんは知ってるんだい?


 歴史の授業に出てくるのかい?


 僕はまだ知らない人なんだが⋯⋯。


 誰それ誰べいなんだが?


「⋯⋯⋯⋯こんな時こそ、ネットだな」


 三十五歳という若さで無実の罪を着せられて、流罪の刑に処されて、一番長く苦しむ筈の餓死で亡くなった桓武天皇の実弟。


 桓武天皇も活動的というか、なにかせずにはいられない人だったらしく、


『羅城門の高さをもう一尺低くしろ』


 という言葉があるぐらい細かい人なのが分かる。


 だが、そんな人だからこそ二度の遷都の後、平安京がその時から千年の歴史を持つようになったのは間違いない。


 そんな人が子供である、後の安殿親王の為とはいえ、実弟を刑に処さなければならない時の気持ちというのは、どう言ったものなのか⋯⋯僕には想像が付かない。


  ━ ━ ━


 部活を未だに決めあぐねている僕に放課後が訪れた。


 部活一覧表のようなものを手に持っているのは多分僕ぐらいのものだろう。


 席を立ち、後ろにあるロッカーから鞄を引き出して肩に掛けた。


「あ、准帰るのか?」


「そりゃな。帰らないとそれはそれで問題だろ?」


「まぁ、それもそっか」


「サッカー部なんだろ?行かなくて良いのか?」


「行くよ、当然だろ。准もサッカー部に入ったら?」


 そうしたかった⋯⋯そうすれば、きっと満足だったんだろう。


 だがそうなると一つ問題が出てくる。


 昇降口に向かう僕と部室棟へ向かう道は違う。


 一年の教室は校舎の一階にある為、僕達は即座に別れるのだが、そんな時⋯⋯出会ってしまった。


「⋯⋯っ」


「チッ。あんたか、邪魔なんだけど?」


 富宮奏海。中学から一緒の腐れ縁で、どういう訳かコイツは僕に対してだけ気が強い。


 いや、どうだろう⋯⋯贔屓癖のある性格は当然難アリで度々同級生やら先輩と衝突する事もあったらしい。


 つまり、僕の事が心底嫌いなんだ。


「邪魔はどっちだよ。お前がどけば済む話だろ?」


「はァ?!何あんた、私に意見してんの?!」


 相も変わらず上から目線の高飛車のお嬢様気分で居るこの富宮はドスの効いた声に睨み付けるような視線を送る。


 けど、こんなのは既に慣れっ子で出会ってしまえば何時もの事だった。


「意見が嫌なら命令って言ってやろうか?指示待ち人間」


「〜〜!コイツ!こんのっ!この!死ねぇぇ!死ね死ね死ね!死ねぇぇぇぇ!」


「はっ!罵倒のレパートリーが少ないな。どうした?もっと言えないのか?」


 富宮お得意の『死ね死ね』連打、ダメージは0。


 当たり前だ、耐性はあるし母さんの罵倒に比べればカスみたいなものだ。


 心の籠り具合いは違う。


 母さんならもっと心に刺さる言葉を意図も容易く口にして、なんなら手が先に出る。


 嘲笑う事は当たり前、罵倒はコミュニケーションの一環で、自己顕示欲と自己陶酔に溺れきった醜い妖怪のような女だ。


 一方の富宮奏海はどうだ?


『死ね』という罵倒こそ言えるもののそれ以外は全くなく、中身の無い会話に必要性すら無い関係値に普段信頼し切っている友人に見せる優しい笑みが本性だと僕は気付いている。


 だからこそ、コイツのコレはある種の自己防衛にも見えた。


 早い話、僕の方が上でコイツは下なんだと否応なく意識させられる。


 眉間のシワは怒りの表れではあるが、何処か無理すらしてるように見えるのが、むしろ悲壮感すら湧いてしまいそうだった。


 だが、妥協はしない。


 たとえ僕より下と僕自身が判断しても、コイツに情けや同情、果てには負けを認めると付け上がりそうでならなかった。


 こんな野獣の牙を数本折っても、僕の心は痛まないし、痛む理由すら無い。


「ちょっと准、言い過ぎだって」


「言い過ぎなもんかよ」


「で、でも───」


 睦生は優しい。だからこそ分かっていない。


 コイツの優しさは皆に均等であり、誰に対してもこの態度なんだとこの数日で理解した。


 明らかに僕の方が傷付く言葉を言われているにも拘わらず、僕に制止を呼び掛けるのも、弱者の方へ寄り添いたいからだと思う。


 けど、そんな事をしてもコイツは絶対に付け上がるだけだ。


 味方が出来てラッキー!と勘違いしたコイツは二人で僕を責め立てる理由すら考えるだろう。


「うっ⋯⋯。死ね、死ね。なんでこんなヤツ⋯⋯」


「なに、泣いてんのか?良いよなぁ、泣けば誰か味方になってくれるもんな。羨ましいぜ、マジで⋯⋯。ほら、叫べよ、虐められました〜ってさ、ほら」


 奥にある教室の中にまで響くように敢えて声を張って口にする。


 その挑発的な言葉とある意味では最大の侮蔑を投げ掛けた僕にいの一番に反応したのは睦生だった。


「ちょっとちょっと⋯⋯准、挑発しすぎ──」


「んーーー!こっの!!」


 ドスドスと音が鳴りそうな足取りで僕の目と鼻の先まで近付くと、拳を握って胸を強く叩いてくる。


 一度二度ではなく、何度も、何度も、何度も⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「死ね、死ね!っ死ねぇぇ!うぅ、はぁ、はぁ」


 数にして十八回程度。


 息切れしてしまった富宮は呼吸を整えるように身体が動く。


 ここで僕が手を出しても、多分コイツは反応出来ずに倒れるだろう。


「くだらな⋯⋯」


 けど、殴るなんてナンセンスの塊だ。


 殴れば間違いなく僕の方が悪者になる。


 明らかに絡んで来たのは向こうからで僕からではないというのに、最終的に倒れた方が勝者になるなんて馬鹿馬鹿し過ぎる話だ。


 僕は富宮を鼻で笑い、わざと富宮の肩へぶつかって昇降口へ脚を運ぶ。


「逃げんなよォ。待てよ!文句あんならちゃんと言えよ!」


「ヤダよ。構って欲しいんなら、構ってくださいって言え。頼み事一つも出来ないのかお前は」


「〜〜〜ッッ!コイツ、コイツッ!なんでこんなヤツと、私はッ⋯⋯⋯⋯」


「どうした?⋯⋯奏海?それに⋯⋯嶺二。何があったんだ」


 すると、丁度通り過ぎたばかりの教室から誰かが駆け足で廊下を走り、先程まで僕が立っていた方へと向かった。


「颯悟⋯⋯なんでもない。うぅ、うぅぅ」


「え?⋯⋯え?嶺二どうゆー事だ?」


「あ、と⋯⋯准と揉めて⋯⋯」


「准?───あいつか」


 なんか、目を付けられたんですが⋯⋯。


 まだ昇降口まで距離がある。


 走ってしまうか?いや、それはそれでなんかプライドが許さない。


「ち、ちょっと、颯悟、待って何するつもりだよ」


「いや、何もしないって。話すだけだ」


 話すだけ⋯⋯⋯⋯。


 なら、乗ってやるのもいいかもしれない。


 僕は振り返る。


 僕の居る位置的にも距離が空いてしまっている為、睦生の話し相手へ向かって声を張るようにして言葉を発した。


「聞こえてんだけど?話ってなに?」


 その男は短髪の髪で長身だった。


 スポーツをしていそう、というのだけは雰囲気で察しが付いて少し威圧感のようなものも感じられる。


(意外とデカイな⋯⋯)


 僕の身長が178センチメートルだから、コイツは188ぐらいあるんじゃないか?


 睦生と仲良さげだったからサッカー部なのは間違いない。


 そんな長身男は僕の方へ駆け足で向かって来る。


 間近で見るとよりデカく感じるな⋯⋯。


 体格自体も恵まれてるっぽいし、スポーツではかなり優遇されるだろうな。


 昇降口付近まで来ていた僕に合わせるようにチラッと視線で誘導するように校舎の出入口を見た。


(あぁ、着いて来いって事ね、はいはい)


 促されるまま昇降口へ向かい、上履きを履き替えた僕と長身の男。


 そのまま出入口を出た先にある日陰に向かう。


 何が飛び出るか、何を言われるか⋯⋯。


「奏海がすまない。きっと八つ当たりしたんだ」


 手を合わせて頭を少し下げたその長身の男からは申し訳なさが伝わった。


 ここまでハッキリだと、僕自身⋯⋯素っ頓狂にならざるを得なくて、口にした男の言葉を思い返して復唱する。


「八つ当たり?」


「今日、ちょっと、教室で揉めてな。その女子同士で⋯⋯。その鬱憤が多分、お前に行ったんだろう」


「あ〜、何時もの発作か」


「何時もの?」


 同じ中学だったからこそ分かるものだ。


 流石に入学したてでクラスメイトになったばかりでは分からないだろう。


「同中って事だ」


「あ〜成程な。それで⋯⋯。何か対処法みたいなのあるか?」


「なんで?」


「いや、別に大した理由じゃないんだ。ただ、同じ事ばかり起きるとアイツもそうだが、受けた側も参るだろ?だから⋯⋯頼む!」


 富宮奏海の悪い所はこういう善人すら巻き込む事だ。


 全く無害で、なんだった利害すら起こりえない関係値のクラスメイトにすら悪影響を振り撒く。


 もはやバイオテロのようなものに近い。


 だからあくまでも、ここから話すのは富宮の為なんかじゃない。


 こうやってわざわざ頭を下げてまで、あの阿呆をどうにかしようとするコイツに酬いてやりたかったからだ。


「⋯⋯⋯⋯やってた事って言っても大したもんじゃないぞ?」


「ありがとうっ!」


 その朗らかな笑みには根明な感じが隠しきれずにいる。


 正直、苦手かどうかと問われれば苦手だ。


 そんな奴だからこそ出来る事ややれる幅の違いってのがあって⋯⋯期待したかった。


「仲良い奴を常に付けといて、話しとくんだ。嫌いな奴かどうかは露骨に態度が変わって見えるから、少し観察しとけば多分すぐ分かるようになる。まぁ、一週間間もあれば分かるようになる」


「お前、奏海の専門家みたいだな」


「⋯⋯嫌われてるから、逆に注意を払ってただけだ」


 嫌いで、嫌われているからこそ、お互いに意識が向いて、ぶつからないように注意を向けていたら、知れた⋯⋯たったそれだけの話。


 知識と言うよりも雑学のような感覚で手に入れたお手軽な対処法。


 授けるなんて厚かまして烏滸がましいまであるその富宮奏海専用の対象法をコレからコイツが実践していく事になる。


 そう思うと、味方が増えたようにも感じたし、ちょっと胸が踊った。


「そっか⋯⋯。俺は武島颯悟。本当にすまなかった」


「桐江准だ。気にしなくていい。慣れっこだからな」


「それは駄目だろ」


「え?」


「慣れると、傷の深さに伴った痛みが分かんなくなるぞ?」


 成程、コイツはやっぱり苦手なタイプだ。


 睦生と同じ善人で、睦生と違って寄り添うではなく前に来て引っ張ってくれる方だろう。


 気付けば前方に居て、まだやれるぞ!とエールを送りながら障害を一足先に砕いてくれる奴。


 つまり、良い奴って事だ。


「⋯⋯⋯⋯そうだな。肝に銘じるよ。ありがとう」


「おう!」


 そう、短く口にした言葉には威勢があり覇気があった。


 昇降口の方へと戻って行く長身の男子生徒、武島颯悟の背中は見えなくなった頃、僕は呟いた。


「あんな良い奴も居るんだな⋯⋯」


 世の中どんな奴が居るのか、分かったもんじゃない。


 あぁいう奴が『怪異』って奴に襲われたり、関わらないように生きて欲しいものだ。


 僕はそそくさと校門を抜けて、バス停へと向かう。


 前までなら祟良把も帰り道を同伴していたが、今日は部活がある為、時間的にも一人で帰る事は確定していた。


 たしか⋯⋯『オカルト研究部』っていう少人数の部活だったっけ。


 丁度、新入生の祟良把が入った事で新設された部活であり、来年度からはまさかの二年と二人っきり。


 規定としても部結成には四人は最低ラインの為、来年度からまた人探しから始まるのが確定している訳だが、その辺大丈夫なんだろうか。


 そうこう考えていると曲がり角を抜けて、バス停が目視で確認出来る距離までやって来ていた。


 肝心のバスが来るまでには、まだ時間がある。


 そんで帰ってもアレが待ち構えている訳で⋯⋯。


「やっぱり部活⋯⋯入ろっかな⋯⋯。何処にしよう」


 バス停に着いた僕は鞄を開けて、部活リストが記された紙を手に取ろうとしていた時だった──。


「へぇ〜、アンタどっかの部活に入るの?」


「え?!──六華か⋯⋯」


 まるで尾行していました、そう言いたげに帰路からしても逆方向であるこのバス停に居るこの女は⋯⋯何がしたいんだ?


「ん?あ、警戒してるのね⋯⋯。安心なさい、今日はね。とびっきりいい事があるからバスで向かうだけよ」


「とびっきりいい事?最強《マングース》対最強《ハブ》の戦いでも観に行くのか?」


「そうよ!マングースの方が強いって言われてるけど──って違う!なら機甲戦隊の方を見るわ!」


「ごめん、機甲戦隊って何?」


「し、知らないの?何ボルトか分からない電圧で焼かれたり、蒸発したり、胸を貫かれたりする──」


「何そのショッキングッ!きっと犯人は緑色の宇宙人だな」


「まぁ、合ってるわね。地球育ちだけど⋯⋯」


 宇宙人で地球育ちってなんだよ⋯⋯。


 遠い遥か昔に地球に飛来したは良いけどショックで記憶飛びました、とかじゃないと許されない設定だぞ。


 それ以上の展開がある筈がない⋯⋯。


「とにかくッ!着いて来て!⋯⋯一緒に来て欲しいの!」


「なんで僕?」


「むーー。黙って来る」


「えぇ⋯⋯」


 そりゃ、コイツの言うとびっきりいい事、というのに飛びつけば時間は潰せるし良い事尽くめなのは否定しないが⋯⋯。


 何故か焦燥感というか、妙なぐらいの危険信号が脳を駆け回っていた。


 何かを気付きたくない⋯⋯。


 そんな不安感とは少し違う感覚。


 なんだろう⋯⋯。


「ねぇ、准」


「ん?───、」


 それはきっと醜いものだ。


 本当の意味で知らなくても良かった感情で、夢物語のように御伽噺を聞かされた感覚のままでいれば良かった。


 だけど、それをこの女は扉を無理矢理こじ開けるようにして見せてくる。


「⋯⋯デートしない?」


 その華やかな笑顔は何処まで心を擽る。


 身体の後ろに腕を回して、少し前屈みになったその姿勢は上目遣いをより強調し、左脚を少し曲げて脚先が地面に着いていた。


 あどけなさや愛おしさが心を締め付けていく。


 魔性の龍にして、人を害する存在。


(⋯⋯⋯⋯最悪だ⋯⋯よりにもよってお前相手にこの感情を抱いてしまうなんて⋯⋯)


 僕はそんな龍に見惚れてしまっていた。



先に言っときますが、怨霊を私は信じてません。


だって、怨みや怒りなんて感情が長く続くと思わないからです。


まぁ、『罰当たり』なんて言葉があるぐらいですからね、拝んで帰るぐらいが一番ベストなんでしょうね。


つか崇道天皇、結局の所⋯⋯故郷に帰れてねぇ。


だから、恨んでたんじゃねぇの?なんて思ってんのが私です。


まぁ、桓武天皇のお母さんが朝鮮系の人ってのもあって、色々とあった結果天皇になれたんだから凄いんだなぁ⋯⋯って友人から聞いた話を丸パクリしてます。


ただ、遷都した時期に関しては


平城京︎(仏教徒邪魔だな⋯⋯)

↓

長岡京(ここ風水も良いし、宗教のしがらみねぇじゃん!よし、とりま遷都進めっぞ!)

↓

種継が長岡京でお仕事中に矢を穿たれて死亡。(平城京に帰ろうとしてたんですがッ?!)

↓

崇道天皇(早良親王)と他多数を流刑(淡路島へ島流しの刑)にする(やったんお前やろ?子供の為にも受け入れてもらうぞ!)

↓

淡路島に着く前に死亡(僕、何もしとらん⋯⋯。ざっけんなや、ドブカスがァァ)

↓

桓武天皇の身近の人が亡くなる(妻達が、母上が⋯⋯残されたのは我が子のみ⋯⋯)

↓

桓武天皇の実子である安殿親王が風病で苦しむ(人の心とかないんか?)

↓

和気清麻呂が進言して遷都を勧める(そこならどうっすかね?)

↓

長岡京から平安京へ遷都完了!(ありがとう、墓も立てるし、怨霊会もするし、贈位だってやっちゃうよ!)

↓

早良親王が崇道天皇と呼ばれるようになる。(実弟が怨霊って呼ばれてる⋯⋯)


という流れです。(曖昧ですが)



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