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この街は今日も語る  作者: 紫芋
夏休みシリーズ 大洲藍莉と夏を謳歌したい

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僕は彼女と夏を謳歌したい⋯⋯

大州藍莉って章名に書いてあるのにフォーカスが当たっていない、可哀想なヒロインこと、藍莉さんは私のお気に入りではありません。


一番のお気に入りは逸花とトッキーと颯悟くんです。


だってあいつら居ると話作りやすいしね、仕方ない。


ですが!ご安心をッ!


『都市伝説』はちゃんとまだ残しているので、話自体は書けるんですよ。


まぁ、アレいっつも即興で内容適当だけど!


今度はちゃんと考えみよっと。


では、本編どぞ〜!

 あれから街に棄てられた遊園地を出た僕達。


 笑撫さんを一人置いて、行きの道には居なかった骸魅ちゃんを新たにパーティに加えた上で、帰路を歩く。


 既に時刻は深夜帯。


 人気は無く、虫の鳴き声と僕達の帰る足音だけが鳴る。


 最初に帰って行ったのは牧原だった。


 彼女の自宅には詩葉がいる。


 最近会って居ないが、今度会いに行ってみようか、そう考えながら、牧原の小さくなっていく背中を見つめた。


 次に軽井とサナだ。


 親が心配する為、多少駆け足気味に帰ろうとする軽井と僕に大振りで手を振るサナに対して、僕も手を振り返して、彼女達の自宅近くで別れる。


 そして、残った僕と骸魅ちゃん。


 会話する内容も話題も全く充填されていない中、どんな弾丸を撃ち込んでやろうかと考えていたのだが⋯⋯。


 その時には自宅近くまで着いてしまっており、アパートの前には僕を待ってくれていた藍莉が立っていた。


 そして僕に気付くなり、泣きそうな顔をしながらも駆け寄ろうする。


「っ!あ、じゅ──ん?」


 駆け寄ろうとした藍莉の歩幅が一気にゼロになった。


 それどころか、怪訝さを滲ませた表情で一歩、後退。


 そして、彼女は顔を覆い隠すように両手を添えて叫んだ。


「寝盗られた!」


「違うよ!?!」


「初めましてこんばんハ。桐江お兄ちゃんを寝取っタ、骸魅喜雨だヨ。イエ〜〜イ」


「お前止めろ。火に油注いで何が楽しいんだッ!」


「安心して、油に火を宛てがうのがワタシだから」


「マジシャンみたな芸当してんじゃねぇよ。ほら、真実語れ」


「ここデ?」


「⋯⋯⋯⋯自宅で」


 露骨に落ち込む藍莉は悔しそうな顔をしながら、僕と骸魅ちゃんの間に割り込んで、腕にしがみ付いてくる。


「いい准?!せめて浮気するなら一声掛けなさいよ!」


「いや、それ浮気って言うのか?⋯⋯⋯⋯因みにそれ肯定すんの?」


「何言ってるのよ────貴方を殺して私も死ぬ。決まってるじゃない。ね?」


「愛が重いッ⋯⋯」


 藍莉さんってこんな子だったっけ?


 僕ちょっと不安になってきた。


 自宅に戻ると頭に大きめの絆創膏を付けて舞喜のスマホで楽しく動画鑑賞に勤しんでいる蒼太と、その様子を遠巻きで見ていた舞喜と名無しが出迎えてくれた。


 舞喜も蒼太も隣に居るヤバい女の子を見て、唖然とした様子ではあったが、名無しのみが平然としている。


 名無しの辿った未来でも僕はコイツと出会って、何かしらの形で家に出迎えていたのだろう。


 そして、あらかたの事情と経緯、結果を説明して舞喜には基本的に骸魅ちゃんが傍に居る事が確約され、僕達の平穏はある意味では帰ってきたのだと⋯⋯そう思っていたのが、その日までだ。


 それは翌日、一つのインターホンから始まる。


 折角の夏休み、やはり何処かには行きたいと思い、寝付けない身体を行使しながら、藍莉のスマホを使って様々な旅行先を検索していた時の事だ。


 舞喜と蒼太は就寝中、骸魅ちゃんは基本的に睡眠を必要としないようでソファでゴロゴロと寛ぎ中であり、藍莉は朝ごはんの支度をしている途中。


 そんな折、最近では聞き慣れ始めたインターホンが鳴り出す。


 初めは藍莉が玄関へと出向き、しばらくすると僕の部屋へとやって来て、僕を呼びに来る。


「准、笠辺先輩が貴方に話があるって⋯⋯」


「先輩が?⋯⋯僕に?」


 何事か、そう思う気持ちもあるが、そもそもあの人はある意味では神出鬼没であり、気付けばお泊まりセットを持参して自宅近くに居るようなヤバい人だ。


 また良からぬ考えでもあるのだろうと、何気ない気持ちで僕は玄関へ脚を運ぶ。


「はい〜。笠辺先輩、おはようございます」


「おはよう。良い話と、悪い話⋯⋯悪い話しか無いけど、聞く?」


「悪い話?」


 相も変わらずといった様子で壊れ掛けたロボットみたいな話口調をする笠辺先輩。


 そんな先輩が早速不吉な事を言い出し始めた。


 なんだろうか。


 笠辺先輩にとっての悪い話というのが未だに想像が付かない中、僕にとっての悪い話と言えば一つ。


『舞喜の処分』という事なのだが⋯⋯。


「取り敢えず、入ります?」


「今日は、いい。手短に言う、から」


 普段こういった誘いをすると、問答無用で入り込もうとする先輩なのだが、今日はヤケに大人しい。


(あれ?)


 僕はこの時になって気が付いた。


 それは目の前にいる先輩の服装に関してだった。


(制服姿⋯⋯?なんでまた⋯⋯)


 この時期、学校に用事がある生徒となると部活動のメンバーだけで、等区高校の生徒会ならまだしも、僕の学校は夏休みに生徒会活動なんてものは行われない。


 先輩が補習⋯⋯という線は無いだろう。


 進路希望の紙を提出し忘れていたあの時がむしろ稀であって、笠辺先輩は頭が良い事は既に把握している。


 では、またなんで制服なのだろうか?


「あのね、落ち着いて、聞いて欲しい、の」


「は、はい」


 一呼吸置いた先輩は僕の目を見て、口にした。


「骸魅笑撫が、自殺した、かも」


「─────────は?」


 たった三秒程度の言葉は圧倒的なまでの情報を濃縮しており、一気に頭の中に叩き込まれていく。


 当然、処理に追い付かなくなって、理解するまでに幾分かの時間を有した。


(何言ってるんだ、この人⋯⋯)


 あの人が自殺?そんな訳がない。


「何言ってるんですか?先輩。大体、なんで僕があの人と知り合いなの知ってるんですか」


 昨日の昼に知り合って、殴られて、その日の夜にマトモに会話した程度の仲。


 勿論、口外なんてしている筈もないし、笠辺先輩にも伝えていない。


 だというのに⋯⋯。


「笠辺家は、常に街を、見てる。だから、私の所にも、大体の情報は、入ってくる」


「⋯⋯⋯⋯それ、言い方変えると、舞喜達が襲われたのを知ってて何もしなかったって事ですよね?」


「⋯⋯そうなる、ね」


「⋯⋯⋯。そうですか」


 思わず絶句してしまい、落ち着きのないような子供のように脚が動く。


 冷静になれ⋯⋯この人だって、僕達を見殺しにするつもり自体は無い、と思う。


 きっと『笠辺家』の役人って人達との板挟みにあって、偶々身動きが取れなくなっていた。


 そう考えれば辻褄は合うし、そう思い込め。


「大丈夫?」


 どうしてだろうか、今の言葉は無性に腹が立ってしまう。


 大丈夫、そう言って欲しいのだろうか、顔をちゃんと見てくれ。


 自分でも分かる。


 動揺だってしてるし、何が何だか訳が分からない。


「⋯⋯⋯大丈夫に見えますか?僕、一応殺され掛けた側の人間ですよ?」


「⋯⋯そうだよ、ね。ごめんなさい、助けてあげれなくて⋯⋯。次から善処、するから」


「いいですよ、別に」


 小声で呟いたつもりだった。


 けど、目の前に居る先輩には聞こえたらしく、視線が露骨に逸れていく。


 そんな行動を起こさせたのが自分なんだと察して⋯⋯また自己嫌悪に陥った。


(マジで冷静になれ、僕。本当にこんな事で怒ってどうする。この人が優しい人ってのは、五月に会った時から知っていた事だろ。⋯⋯よく分かんない事情があって、不可思議な人だけど、味方なのは偽れない。⋯⋯⋯)


 僕は深呼吸して、冷静さを取り戻そうとする。


 数度、吸って、吐いてを繰り返して、僕は改めて笠辺先輩を見た。


 本調子とはいかないものの、さっきの生意気な自分とはおさらば。


 ここからは、切り替えていかなくちゃならない。


「続けてください。本当に自殺なんですか?あの人のイメージだと、そんな事する風には見えませんでしたけど?」


「まだ確信じゃないけど、自殺って、判断された。場所は、潰れた遊園地の、隠し扉前の綱での首吊り、らしい。私は、現場に行ってない、けど。耳に入ったから、伝えとこうって、思った、の」


 綱で自殺って⋯⋯あれは綱引きで使う綱ぐらいの太さをした物だ。


 いくらなんでも適してないのは馬鹿でも分かる。


 もっと細くて、首回りの良い物を使うはずだろう。


「本当に自殺なんですか?僕には殺された風にしか聞こえませんけど?それこそ、ちゃんと中見ました?」


「中って?」


「だから!隠し扉の中ですよ」


「⋯⋯⋯何言ってる、の?あの遊園地、電気付いてないから、隠し扉は開かない、よ?」


 蝉の鳴き声が聞こえ始めた。


 鳥肌が立ち、妙な悪寒に襲われる。


 全身にギュッと力が入って、一瞬息をし忘れた。


 震え出した唇を何とか開いて、言葉にしようとする。


「⋯⋯⋯⋯いや、え?あ、あの、いやいや。昨日入りましたよ?」


「ううん。昨日も、今日も、一年前からずっと、あそこは、電気が通ってない、よ?」


「じゃ、じゃあ⋯⋯昨日、僕達は何処で話したって言うんですか!?外でのんびり天体観測でもしてたって言うんですか!そんな訳ないでしょ!!」


 脚は自然と前へと動いていき、先輩の肩を掴んで必死に抗議する。


 確かに遊園地全体で見れば所々錆びていて、費用の高額さに根負けして設備の撤去もされていない過去の栄光のような遊園地なのは否定しない。


 けど、中に入れば照明も付いていたし、絡繰のような隠し扉だって作動していた。


「本当に隠し扉はちゃんと動いてたんです!信じてください!」


「⋯⋯分かってる。嘘を吐いてないって、ちゃんと、分かってる、から」


 動揺のせいか、それとも僕が先輩を信じれなくなっているのか、何時もなら言葉に含まれる感情の起伏である程度の気持ちを読み取れるというのに、この時に限ってそれが出来なかった。


 焦った僕は先輩の肩を慌てて手放して、玄関口へと駆け込もうとする。


「待っててください。骸魅ちゃん連れてきます。あの子に話をすれば───」


「待って!」


「!」


 先輩の制止の声が響いた。


 僕は驚きで身体を揺らして、恐る恐るといった様子で振り返る。


「あの子は、ここに呼ばない、で。あくまで居ない体を、装って。あの子も、そうしてる」


「え⋯⋯⋯⋯?」


「あの子は本来、居ては、いけない存在。死人が蘇るっていうのは、生者の冒涜になる、の。『除者』は『生きてる人間』を助ける。だから、あの子は『抹殺対象』になってる」


『生きていない人』としてカウントされている骸魅ちゃんはつまり、『除者』と遭遇すると殺される⋯⋯そう告げられた僕は固まってしまう。


 それは笑撫さんからも聞いていない新情報であり、同時に僕が怯えてしまうには最もな理由だった。


「⋯⋯⋯⋯じゃあ、なんですか。笑撫さんは本当に爆弾を置いてった、と?」


「爆弾かどうかは、知らない。けどあの人が、軽はずみに『生者』の君に託すとは、思えない。何か言ったり、やったり、した?」


 それなりの信頼や信用のようなものが先輩から笑撫さんにあったのだろうというのは言い方として伝わってきて、僕は先輩から投げられた質問に頭をフル回転させる。


「えぇと、責任取れとか、藍莉と舞喜を襲うのを止めろ、とか。⋯⋯⋯⋯」


「他には?」


 他⋯⋯そう言われて真っ先に思い浮かんだのは『刃龍』の事柄だろう。


 あの辺から、笑撫さんの様子は少し変わった印象を受けた。


 彼女が自殺だと仮定するなら、それなりの精神的ショックが必要となる。


 だからこそ、敢えて口にしたくはなかった。


 先輩の瞳はじーっと僕を刺す。


 涼しかった部屋とは一変、生暖かい空気と風が玄関から吹き抜ける感覚が肌を刺激する。


 汗が妙なぐらい額から頬へ、そして顎先へと垂れていき、玄関口へと落ちていく。


 寒暖差による影響と信じたかった。


 心は何時までも騒ついて静寂を与えてはくれない。


 勇気を持て、恐れるな、間違ってる。


 きっと、何かの間違いだ⋯⋯。


「⋯⋯⋯⋯⋯『刃龍』は死んだ⋯⋯って事を、口に⋯⋯しま、した」


「それだね」


 即決だった⋯⋯。


 ある程度先輩は目星でも付けていたのか、それともいずれこうなると踏んでいたのか。


 どちらにしても主犯格に変更はない。


「⋯⋯あの人が『骸魅喜雨』と共に行動出来る最低限の条件が『生きる糧』があるかどうか、だよ。【悪魔】に縋ったんだもん。条件は着いて回る」


「⋯⋯つまり、なんですか。【悪魔】に妹を生き還らせる為に『刃龍の血』っていう旗《ゴール》を立ててたって事ですか?」


「そう。その目的が達成されないと契約者が思ってしまったから、強制的に【悪魔】に持って行かれた。魂じゃなくて、生きる活力そのもの、を⋯⋯」


 つまり⋯⋯【悪魔】の手助けをしたという事か。


 僕が交渉などと呼んで下手な闘論をした挙句に笑撫さんを死地まで押した。


 聞けば聞くほど惨めで愚かになっていく自分が居る。


 情けないぐらいに浮かれていた昨日の自分は、本当に何やってたんだ?


【悪魔】という単語が昨日飛び出した際には、危機感は当然芽生えた。


 けれど、それ以上に『除者』である笑撫さんの武闘派としての実力。


 大人としての経験値を間近で実際に体感して、何処かその危機感が欠如してしまっていた。


 なんで『対価』を聞かなかったのか。


 なんで『条件』を話すように誘導をしようとしなかった。


 思わず膝が崩れてしまい倒れ込む。


 それを笠辺先輩が受け止めた。


「駄目、気落ちしないで!【悪魔】に魅入られる」


「で、でも!僕、僕、そんなつもりで!」


「分かってる。誰も責めて、ない。アレは、契約した方が問題だから、君は悪く、ない」


 慰めなのか、事実なのか、判断に困る。


 確かに契約した人も悪いと言えば悪いのかもしれない。


 でも、仮に舞喜が死んだと仮定して、トッキーのような『時間跳躍』というチート持ちが近くに居なかったら、僕も似た手法を使っている自信がある。


 成功するとか失敗するとかの話ではなく『可能性』があるなら、縋りたいという純粋な願いの話だ。


 だから、僕は【悪魔】を妹に憑かせたと聞いた時、笑撫さんの執念のようなものを感じて、むしろ親近感のようなものが湧いていた。


 なのに、なのに、なのに⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「───っ!」


 振り返る、振り返ってしまう。


 居る。佇むようにそこに居る。


 玄関からリビングに続く廊下の奥、扉の真ん前。


 深緑色の瞳は座り込んでしまった玄関から木漏れ日のような朝日によって瞳を底が見えない程深く、不気味な程に鈍く、二つの眼光が僕を刺す。


「⋯⋯⋯⋯骸魅ちゃん⋯⋯」


 人形のような少女、骸魅喜雨。


【悪魔】に憑かれた少女。


 夏休みに不用心にも貰った忘れ形見。


 そして、最大級の爆弾。


 一切の笑みを見せず、瞳以外の身体は影に呑まれたように見えた。


 それが、不気味で堪らなかった。


 どうしてあの時、笑撫さんが自ら『刃龍』の話をしたのか、昨日は疑問にすら感じなかった。


 けど、今なら分かる。


 あの人が語ってくれた内容がそうだ。


 六華が小学生の子供相手に笑ったと、あの時そう口にした。


 けど、彼女は『現象』やそれに憑かれた者の顔を判別出来ない。


 つまり、六華の顔は本来識別出来ない筈なのだ。


 でも、笑撫さんは言った。


「──あの『龍』⋯⋯人の余生送っとるみたいに朗らかな顔して、その辺のガキに手振りよってな⋯⋯。近寄れんって思ってもうた。あれにちゃちゃ入れんのは、誘拐犯ぐらいのもんや」


 アレは識別出来てないと出てこない言葉だ。


 あの人は悟ってしまったのだろう。


『刃龍《りっか》』が『妹』よりも『人』らしく見えてしまった、と。


 悔しさもあったのかもしれない。


 それと同時に『骸魅ちゃん』の変質に耐えかねたというのも、もしかしたらあったのか⋯⋯。


 隣に居る妹は容姿が大きく変わり、笑わなくなり、そして【悪魔憑き】になって強制的に死体に命を吹き込ませて、その後に無理矢理にでも『刃龍』を求めようとした。


 朝倉さんが街から突き放した理由も『刃龍に関する事件』に巻き込まれては滅茶苦茶になる、そう言ってたが、そもそも『刃龍《りっか》』が死ぬ事自体がイレギュラーとも言っていた。


 つまり、想定では『笑撫さん』は今でも『刃龍』という存在に僅かばかりでも『龍の血』を求めて、彼女に期待を寄せられた筈⋯⋯そういう事ではないか。


 だとしたら、僕達がやった事って⋯⋯。


 ひたすらに追い込んで追い詰めて追いやって、殺したようなものだ。


 牧原の奴、写真を見た後に笑っていたが、アイツ⋯⋯さては気付いてたんじゃないだろうな。


『六華』が死んだって言い出したのも、口にしたタイミングも全部アイツからだ⋯⋯。


 二人が軽い口論のように何やら話をしていた時、笑撫さんは相も変わらずといった様子だったが、牧原はどうだったか?


 不敵に笑って、何処か余裕そうな表情すら見せていた。


 てっきり、藍莉が巻き込まれなくなった事への安堵からくる表情なのだと、僕はそう思っていた⋯⋯。


 けど、そうしゃない?そうじゃなかったのか⋯⋯?


 っ!駄目だ、呼吸が⋯⋯。


 なんでこんな事になる。


 ただ、藍莉と舞喜を襲わないようにして欲しかっただけなのに⋯⋯。


 あの時の彼女は何処か朗らかだった。


 完全に良い話のように受け取ってしまった僕は浅はかなまま、帰宅した事になる。


 なんで僕に託したんだ。


 嫌がらせ?それともなにか期待したのか?


 本当に舞喜の為?


 駄目だ、確信が持てない⋯⋯。


「大丈夫?!気をしっかり持って」


「───准?!どうしたの!?」


 焦りは声色に表れて、ドタドタと藍莉がコチラに向かって駆け寄って来る。


 背中を擦って、僕の顔色を窺うように覗き込んだ。


「⋯⋯⋯⋯藍莉。いや、なんでもない」


「なんでもない事ないでしょ!笠辺先輩、何したんですか!?」


「わ、私は何も⋯⋯⋯⋯ううん、いい」


「良いって何がですか?夏の暑さに脳みそ沸騰でもしましたか?ちゃんと答えてください」


 食って掛かろうとする藍莉の腕を押さえるようにして掴み、先輩の被害を最小限に留めようと躍起になる僕と抵抗する藍莉。


 しゃがみこんでいた姿勢を解除して、立ち上がった先輩はゆっくりと声を発した。


「⋯⋯大州さんを襲った女性、今日の深夜頃に、亡くなった、の。その報告って、だけ」


「⋯⋯亡くなった?⋯⋯⋯そ、そうですか。でも、なんで准がここまで⋯⋯」


 どうするか。伝えるか?


 僕のせいで人を一人、死に追いやったと。


 牧原のせいにする?いや、そんなの駄目だ。


 アレはもうどっちかと言えば派閥論争の末の作戦勝ちのようなものに近い。


 アレのせいにしても、きっと藍莉が悲しんで牧原にはダメージゼロだ。


 それに、去年の夏の時点で失敗しているのは僕の失態でそれが起因している。


 明らかに他人事ではいられない。


「────君達、明日と明後日、予定空けて。絶対に」


 突然、何を言い出したのか、僕と藍莉は耳を疑った。


「え?」


「先輩───っ?!」


 先輩の目付き⋯⋯【五月病】と対峙した時のものによく似ていた。


 更に肩に掛けてあった黒い筒に括られている白い紐は僕達の預かり知らぬ間に解かれていて、何時でも抜刀出来る状態になっている。


「⋯⋯季節的には、まだ旬、だよ。海でも行ってきたら、良い。費用はコッチが、持つ、から」


「なに急にそんな馬鹿な事を言ってるんですか?!」


「⋯⋯大州さん。────お願い」


 危険信号のようなものが藍莉の頭の中でも鳴ったのだろう。


 一瞬、臆した様子を見せた後、僕の方へと視線を向ける。


『除者関連』の何かが起きた。


 そして、それが今近くに居て、僕達にも被害が出る可能性がある。


 しかも、わざわざ一泊しろと言っている辺りから、危機感のようなものが芽生えていた。


 藍莉は僕の返事を待っている。


 なら当然、頷くしかなかった。


 それに応えるように藍莉は不服そうながらも先輩の方へと向き直る。


「⋯⋯⋯⋯⋯明日と明後日ですね?」


「うん。友達も呼びたいなら、呼んで。今日の間だけなら、幾らでも、ねじ込めれる」


「分かり、ました⋯⋯⋯」


「じゃあ、行くね。君も、体調不良に、気を付けて、ね」


「あ、あの⋯⋯」


「なに?」


「最後に一つだけ、良いですか?」


 聞きたい事が一つあった。


 それは昨日あの部屋に入って最初の違和感。


 そして、知らぬ間に当たり前のようになって違和感が自然消滅してしまった事。


 けど、今回の笑撫さんの自殺でまた浮上してしまった。


 何故それを思い返してしまったのか、その理由は分からない。


 けど、今になって思えば不自然極まりないものだと、意識を向けるべきだった。


「隠し扉の先の部屋⋯⋯左右の扉がありますよね?」


「あるね」


「じゃあ、真っ直ぐな方向に⋯⋯⋯⋯黒(・)い(・)扉(・)ってありましたか?」


 先輩は既に刀を抜いている。


 表情は豊かな方へジョブチェンジの状態だった。


 ──先輩は純粋に驚愕した後、顰め面を浮かべていた。


「絶対に、無い」


 鳥肌が止まらない。


 震えが一気に訪れる⋯⋯⋯。


 身体を支えてくれている藍莉にも震えは伝播するようになって、強く僕の身体を掴む。


「だって、あの先は屋外だもん」


 そう言い、先輩は飛び出して行った。


「じ、じゃあ⋯⋯⋯⋯。二人は何処で戦ってたんだ?」


 黒い扉の奥は屋外。


 ならば、壁をぶち破って大穴を空けて、戦闘を繰り広げていた牧原と骸魅ちゃんはどうやってあんなドンパチと音を繰り出していた?


 愉快に楽器でも弾いていたと?そんな馬鹿な⋯⋯。


 僕は後方に居る少女へ目をやる。


 首をワザとらしく傾げて、僕達を見つめていた。


 それがどうしてだろうか、気(・)色(・)悪(・)く(・)感(・)じ(・)た(・)。


  ━ ━ ━


 旅行の目的地は藍莉のスマホに添付される、そうメッセージに送られたらしく、僕達は自室で寛いでいた。


 本来予定や計画していたのとは大きく違う旅行。


 費用はタダで出費も抑えられてラッキー!と声を高らかにして喜びたい気持ちは──正直無かった。


 どう見てもアレは厄介払いに近いもので、藍莉も不安そうに僕の傍に居る。


「何か、あるのかしら?」


「分からない。けど、僕達じゃあ手に負えない事なんだろ?」


「⋯⋯⋯そうね」


 刀を持って一日で武勇伝が語り継がれる程の才能なんてものは、基本持ち合わせていない。


 平凡で非力な普通の少年として生きている僕だが、一つ分かった事がある。


『この街はやはり狂っている』⋯⋯という事だ。


 だからこそ、ある意味ではリフレッシュにもなると考えるように思考を切り替え、起き上がった僕は藍莉の肩を掴んで傍に寄せる。


「何があったか、気が向いたら教えてね。今じゃなくていいから」


 罪を告白するのは何時なのだろう。


 僕の気が向くというのには、制限時間のようなものはあるのか。


 言いたくないなら言うな、そう言われた方がマシだとすら思えたその言葉に僕は頷き返すしかなかった。


「⋯⋯⋯なぁ、藍莉」


「なに?」


「朝倉さんから貰ったアレ、まだ持ってるよな?」


 それは夢での会話。


 何故それを夢に見たのか不思議でならないけど、アレを持っておけとは実際に口にしていたし、罰は当たらないと思い、僕は口にした。


「持ってるけど、それがどうかしたの⋯⋯?」


 けど、夢で言われたから身に付けてくれ、なんて馬鹿馬鹿しくて鼻で笑われる。


 かと言って、口実の良い何かが思い浮かべられる程、僕の頭の回転は達者ではない。


 だから、ある意味では間違っていないし、正しいと思える事を僕は言葉にしようと決めた。


「何となくだけど。身に付けて置いて欲しい。似合うだろうし、見てみたい」


「⋯⋯そう、かしら?派手過ぎない?」


 赤い宝石のような首飾り。


 とても高校生が持っているような代物ではなく、骨董品とかオーダーメイド商品にも似ているその精巧な首飾りは確かに派手な気もした。


 けど、それでも良いと思った。


 藍莉の事だ、それに合わせてコーディネイトもお手の物だろうし、僕が見てみたかったという気持ちに変わりはないのだから⋯⋯。


「それでも⋯⋯駄目だったか?」


「それ、断る意思削ごうとしてるでしょ?」


「────バレた?」


「⋯⋯⋯うん、良いわよ。別に⋯⋯」


「ありがとう」


 肩を寄せ合う僕達。


 何気なしにベッドに倒れ込んで、藍莉もそれに合わせるように仰向けに倒れる。


 フカフカのベッド、という訳では決してないが、それでも固くもない微妙な布団に身体を預けている僕達はお互いを見遣る。


 赤い宝石の首飾りで思い出した⋯⋯。


 あの砂浜、結局どこにある海だったのだろう。


 潮風も気持ちよく、売店らしき所には、サーフボードのような物もあったから、レンタル出来るのかも⋯⋯。


 海、海か⋯⋯。


 僕は隣で一緒に横たわる藍莉の顔を見つめる。


 藍莉もそんな僕の視線に気付き、少し首を傾げるような仕草をして、言葉を促していた。


「───水着見てみたい」


「急⋯⋯過ぎない?」


「僕、昨日その為に頑張ったって言っても過言じゃない」


 割と本気でそう言える。


 どんな水着でもいい。


 派手でも地味でも、シンプルでも攻めたような格好でもなんでもいい。


 海に行って、二人でのんびりしたかった。


「過言であって欲しかったわ⋯⋯」


 マジか⋯⋯。


 かなり真剣に述べた言葉をバッサリ切り捨てられたように感じた僕は藍莉の方へと体重を掛ける。


「⋯⋯旅行⋯⋯⋯⋯二人で行くか」


「⋯⋯二人で良いの?」


 勘違いなのかもしれないが、少し藍莉は嬉しそうだった。


 いや、どうだろ。


 ただでさえ笑撫さんと牧原の読みに翻弄された僕の感性だ。


 当たってるかも今ではもう分からない。


 けど、嬉しそうで⋯⋯いて欲しかった。


「⋯⋯⋯⋯うん」


「分かった。本当に誰も誘わないわよ?」


 揶揄うような微笑みを浮かべる。


 僕も釣られて笑う。


 二日間の旅行。


 楽しみなのは間違いないが、短くも感じてしまう。


 いや、本来はそのぐらいがベストなのだろうが、何故か延長したくなってしまう。


 藍莉と二人だけの時間⋯⋯。


 思えばそんな機会は最近訪れなかった。


 ミニ藍莉の頃に二人きりになって以降、看病で一回、授業をサボって一回、消え掛けた時で一回。


 四回程度しか記憶に残ってないんだが?


 蒼太や舞喜が嫌と言う訳ではない。


 けど、偶には気兼ねなくカップルらしい事もしたいと思った。


「ついでだし、その旅行先の宿泊終わったら、別の場所に泊まりたい」


「⋯⋯⋯本気で言ってるの?」


 かなりマジなのだが、伝わってないのだろうか。


 この街はおかしすぎる。


 流石に疲れた。


 今回の件もそうだけど、どうしてか長期間離れたくなってしまった。


 今年は五月から面倒臭い事が沢山あって、喪って、死にかけて、騙されて、殺されかけて、変な人種に会って、夢で過ごして、消えかけて、思い出して、人を殺して⋯⋯⋯⋯。


 濃密過ぎる。


 舞喜と蒼太は名無しに頼み込もう。


 アイツなら引き受けてくれる。


 それに、世話焼きが発動していつも以上に躍起になって面倒を見てくれるだろう。


「⋯⋯分かった」


「⋯⋯⋯ありがとう」


「なら、何処に行くのか、早く聞いた方がいいわね」


「そうだな」


 朝の静けさがここまで心地の良いものとは思いもしなかった。


 この感覚が素敵なものだと気付くのに、十七年経って初めてなんて、どうしても損した気分になってしまう。


 ベッドから立ち上がろうとする藍莉。


 朝飯の準備がまだ終わっていなかったのか、それとも終わったけど皿に盛り付けるのが途中だったのか、いずれにしても僕のやる事は変わらない。


「っ!」


 腕を引っ張って、藍莉の進行を妨げる事だった。


「准、朝ごはんどうするの?冷めちゃうわよ?」


 躙り寄るように藍莉の太腿に頭を乗せて、ゆっくり預けた。


 身体がどんどん重くなってく。


 眠気が凄くて、瞼が徐々に閉じられていくのを耐えるように目を凝らした。


「⋯⋯なぁ、藍莉」


「?──なに?」


「僕はもっと藍莉と夏を謳歌したいよ⋯⋯。このまま、ずっと何事もない日々で。気楽に⋯⋯ううん。いっその事、時間が止まればなぁって思える」


「⋯⋯⋯⋯私は早く季節が巡って欲しい」


「⋯⋯そうなのか?」


「だって、一緒に歳を重ねたいし、もっと頑張ったねって言いたいし、言われたい。だから、准──」


 頭を優しく撫でられながら、微睡みに落ちていく。


 耐えようとするものの、快適な部屋の温度と藍莉の匂い。


 そして、手の感触が気持ちよくて、瞼は自然と流れるように落ちていく。


「昨日はお疲れ様。よく頑張りました。⋯⋯⋯ありがとね」


 その言葉を最後に僕は眠気に負けた。


 ゆらりとした感覚と沈んでいく感覚が身体を包み込み、離れない。


 揺蕩いを覚えた身体は心地良さに身を任せて、静けさと温もりに身を落とす。


 こんな日々がずっと続けばいいのに、どうして⋯⋯。


 こんな辛い事ばかり遭うのだろう。


准くん視点だと常に誰かに転がされる。


それがこのお話の肝です。


基本的に准くんより、駆け引き上手いのは逸花と浩太郎、そしてもう一人名前しか出てないキャラです。


朝倉拓也は論外です。


アイツ、なんでもない見えるからインチキし放題です、仲間外れで除外してください。


さて、次回は過去編です。


合計三つ書ける過去編がありますが、書こうと思っているのは今の所は一つのみです。


四月、夏休み、ゴールデンウィーク。


どれを書いてやろうか⋯⋯。


まぁ、どれ書いても准くんが曇るだけなんだけど。


短編にして執筆しようと思いましたが、止めました。


あれ、私何時も諦めてね?


では、またお会いしましょう。

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