審判者の目認
「終わったぁぁ〜〜!夏休みサイコーって叫びてぇぇぇ!」
教室の廊下で准は背伸びをしながら、ようやく訪れた夏休みに浮かれ気分に陥っている。
時刻は十四時、担任の教師は一人、黙々と補習に使った教材を片付けており、その音が僅かに耳に入る中、それとは別の方向から声がした。
「止めなさいよね。お前、ダサいわよ?」
「あれ?トッキー何故に校舎にいやがる!まさか、補習?!」
「ナメんな!免除だってのよ」
「お前の場合は違うだろうが!」
『練馬功一』という常盤美羽がこの学校に進学していなかった場合の存在が叩き出したテストの高得点によって、事実上、補習の免除が言い渡された美羽に、納得のいっていない准は内心、不平不満が溢れていた。
そんな地頭がよろしくない少年の嫉妬心剥き出しの反骨精神は手で払えてしまえる程のものであり、美羽は一瞥だけして、背を向ける。
「⋯⋯⋯とにかく、着いて来て」
そう口にする美羽は急かすように准を背後に付かせて、歩き出す。
やらなければならない事が美羽には確かにあった。
それは──。
「⋯⋯なんで先輩居るの?」
紺色の髪は少し伸びて──以下略。
ロボット風の喋り方で他者を困惑させ、刀を握ってバッタバッタと『現象』を斬り祓う癖に『富宮奏海』相手には刀を抜く以前に収納している黒い筒から取り出す間もなく死んだ笠辺沙耶が、職員室から戻る最中の廊下で美羽の示し合わせにより鉢合わせが為された。
「君に会いに、来た!」
歯が見える程のにっこりスマイルを見せてもおかしくない台詞だと言うのに、それに釣り合わない表情筋の硬さに脱帽してしまう准。
だが、それはそれとして後輩がこんな都合の良い風に沙耶の元へ自身を連れて来る訳がない気付いている為、本題に持っていくべく、その流れをバッサリと切ってしまおうとする。
「本当は?」
「⋯⋯⋯⋯進路志望の紙、私だけ提出し忘れてた」
「なにやってんのよ、愚図ね」
軽蔑と憐れみを籠めた暴言が沙耶を襲う。
「ひ、酷い!なんでそんな事言う、の?」
顔付き等は変わっていなくても、動揺したような声色を発声させた事で、美羽目線からも心に多少なりとも傷を負った事に気付き、追い討ちを掛けてやろうかと画策する。
しかし、その気持ちを今だけは、グッと耐え忍ぶ事を選び、自己紹介へ。
「常盤家だからよ」
美羽がわざわざ、『会いたくもない笠辺家の人間』に会いに来たのはちゃんとした理由がある。
その一つが『除者』としての実力であり、肉壁役だった。
四周目で准宅で死亡した際に分かった事があり、それは──殺そうとするまでに会話を必ず挟む事にある。
厳密には独り言や自身の信念に基づいた哲学を語り出してから、攻撃をするという癖だ。
二周目、三周目の攻撃方法はまだ、解明出来ていないものの、『富宮奏海』の姿のまま、准達を殺しにくる際、必ず何かを喋り終えた後に内部を爆発している。
それは癖以上の弱点であり、大きな油断でもあると判断した美羽はいざとなれば『富宮奏海ごと』殺して貰おうという算段なのだ。
そして、それが叶わない場合、壁になって貰う予定でもある。
「⋯⋯ごめんなさい。貴女の事──」
「知らないんでしょっ?!知ってるっていうの⋯⋯」
「うん、知らない」
自己紹介からの知らないという流れは二度目であろうと美羽にダメージを与えて、堪える素振りを見せ始める。
そんな二人のやり取りを聞き、二人の関係がイマイチ掴めない事にヤキモキする准は、話し掛け易い沙耶へ声を掛けようとする。
「お前、富宮奏海とは会えたの?」
だが、それは本題によって遮断されてしまい、断念せざるを得なくなった。
「あぁ、会えた。近くのコンビニでな」
「お前、いい収穫じゃない!それで、何を話したの?」
初収穫に目をキラキラとさせた美羽はグッと拳を握る。
それを見た准も上機嫌になっていき、口達者になった。
「あ〜、僕とアイツ、昔馴染みだったんだけど、僕が覚えてなくて、富宮が逆にめっちゃ覚えててさ、仲直りして、家に泊めてる」
スンッと羨望の眼差しにも似た明るい瞳は陰りを濃くして訝しみのある表情へ。
しかし、准は気付かないままであり、美羽目線からは口達者は口走りへとジョブチェンジ。
「⋯⋯私、それ知らないんだけど?」
「お前の知らない事を言わなきゃ駄目じゃね⋯⋯」
「そうじゃなくて⋯⋯。あーもう、いい。それで、大洲先輩と連絡は着いたの?」
「あ〜、今日落ち合う予定だ」
「自宅?」
「取り敢えず、僕達の教室にだよ」
「そう、なら行くわ。ほら、着いてくる!」
意気揚々と准の手を掴み、目の前に居る沙耶の腕を掴む。
「え⋯⋯⋯⋯、私も?」
沙耶まで強制的に引き連れて、いざ教室へ。
「当然でしょ?鼻たれ」
「⋯⋯この子、怖い」
お隣で共に連れられている准に話し掛けるように自身の感じた気持ちを吐露する沙耶だが、これまでの沙耶の言動、行動を思い返していた准は確かな同情を感じると共に沙耶を呆れた目で見つめる。
「先輩も大概ですよ?」
「⋯⋯⋯うそ、だ」
口をパクパクとしながら、悲壮感と驚愕を心に滲ませながらも、表情は一切変わらなかった。
二階に上がり、渡り廊下を通ってそのまま廊下を歩く。
「居ないじゃない⋯⋯。嘘を吐いたわね?くたばれ」
辿り着いた准達のクラス、教室には誰も居らず、鍵すら開いていない。
窓から不振者と思われても仕方ないと思われるぐらいに教室の中を覗き見し、最後に後方でそんな不振者を見ていた准を睨み付けた。
「お前、酷くね?何カリカリしてんだ、梅になるぞ?あ、既に真っ赤っかだ」
暑さによる影響は身体にも現れており、美羽の頬は僅かに赤らんでいたのだが、その比喩としてした言葉。
「あァ?!」
美羽の顔は更に真っ赤となり、准は萎縮。
しかし、忘れてはならない⋯⋯准の傍に居る人物が誰か!
ひ弱な生命体である准は美羽の威嚇に怯え、瞬時に沙耶の背後に隠れるような素振りをみせると、懇願した。
背後から肩を掴み、チラッと顔だけを覗かせた情けない少年と、背後から密着してくる事に心拍数を跳ね上がってしまっている沙耶。
「ひぃ!先輩!お助けあれ!」
「私、か弱いから、無理」
だが、たとえ心拍数がはね上がろうとも、いくら好意にしている後輩の頼みであろうとも、ずっとこのままを望もうとも、彼女は忘れてはいないのだ。
少年に先程言われた一言、恐怖の対象として見られている事があると知った沙耶のささやかな抵抗が始まる。
「なぁぁ!あんた、その気なったら人をボッコボコに出来る才能に溢れたスーパーガールだろうに!ここでそれを発揮しないでどうするんですか?!」
ジリジリと美羽が近付いて来る中、未だに沙耶の背後を離れようとしない准は見上げた沙耶の表情を窺いながら説得を試みようとするも、この女──表情筋は鋼の如き硬さ故に一切、変化を許さなかった。
「私、怖くないから、だから、戦えない」
「何言ってんの?!⋯⋯あぁぁぁ、もう来ちゃうぅぅぅ!」
諦めたように顔を覗かせる行為を止めて、縮こまり、沙耶の背後にピッタリくっ付く事で盾替わりにする事を選択。
「覚悟なさい⋯⋯。その干物みたいな顔を揚げ物みたいにしてあげるから!」
「ギトギトって事か!?ギタギタじゃなくて?!」
「違い、分からないっ──。引っ張らないで、私だって、恥ずかしさ、あるんだよ?」
「なら、顔に出してください。助けてくれないなら、察しませんっ!」
「それ、脅し、なんだよね?」
「はい、多分」
沙耶は迷った。比較的には脅しに屈する性格ではなく、なんならば、「先輩相手に何してるんだ!?」と喝の一つでも言ってあげたい所なのだが⋯⋯。
現在進行形で愛しの彼は背中にピッタリマーク。
左肩と右腕を掴んで、躙り寄るかのような速度でズンズンと歩き進めていく美羽から盾二しようとしている。
それが彼女的には「まぁ、アリかも」程度の認識であり、脅しに屈するように、美羽から距離を離しつつ肉体的接触を一秒でも多くしようと画策する卑しい女なのであった。
だが──それを偶然にも許さぬ者が居た⋯⋯。
「あ〜居たー。おーい桐江くぅーん」
「牧原?」
体操服に肩からぶら下げたリュックサック。
小走りで陽気な様子でやって来たのは『夢龍』であった。
何時もの彼女ならば、髪を結ぶ、アレンジするといった事はしないが、部活動の際は別であり、後ろ髪を一つ結びして、動きやすい髪型にしている。
そんな身長百五十センチそこらの彼女はテクテクと准の所までやってくるのには理由があった。
「藍莉がね、舞喜ちゃんの体調が悪くなっちゃったから、一緒に帰って看病するって」
「舞喜が!?⋯⋯⋯⋯まだ、早かったのかな」
思わず沙耶から離れて、近付いた逸花の方へと向かう。
想定外──そう捉えても仕方のない事だった。
在学している中学校ならともかく、この高校ならば問題はないと踏んでいた准の情報不足による誤り。
勿論、准も知らなかった事実があり、それが影響した事は言うまでもない事だが、それを加味しても学校近辺に近寄らすのは、些か早計だったと言うまでもない。
「どんな様子か聞こうか?桐江くんまだスマホ無いでしょ?」
機転を利かせようと逸花がポケットからスマホを取り出して準備をしようとするも、准はそれに対して首を横に振る。
「いや、良い。帰って直接聞く」
「良いの?聞くだけタダよ?」
背後に居た美羽が心配そうに声を掛けるが、准本人は不安そうな顔色を誤魔化すように平然とした様子を見せた。
「どの道、藍莉に聞かなきゃなんない事もある。纏めてしまった方が早い」
「そう⋯⋯⋯⋯。あ、そうだ。あんたの写真ある?自分が写ったものとか?」
大事な事を思い出したように振り返り、背後で事情が掴めていない沙耶を見る。
そして、スマホを手に取りタップしてロックを解除、そのままカメラのアプリを起動した。
「え?無い⋯⋯けど」
言質は取った!とばかりに一言。
「じゃあ、パシャリっと!」
フラッシュあり、縦に構えられたスマホは沙耶の全身を写した状態で白く光、目を見開いた沙耶を撮影。
「眩しい⋯⋯。何する、の?」
少し、語気に圧が掛かった声色で悪びれもなくスマホで撮った沙耶の写真を見て、クスクスと笑う。
流石の沙耶も勝手に撮影などされて、尚且つその写真を見て笑われれば、不機嫌にもなるというもの。
近付いて、スマホを取り上げようとする──しかし、沙耶の何気なく言ったごく普通の質問からの返答がその脚を止めた。
「え?作って貰うのよ」
「何を?」
「あんたを」
「⋯⋯⋯⋯はい?」
ごく普通に美羽の口からそう言われ、ますます謎は深まるばかり。
そもそも、何故自分を作るのか?作る理由は何処からあるのか⋯⋯そして、一つの結論に至った沙耶は顰め面を浮かべた。
(この子、笠辺家の禁忌に寄ろうとしてる。殺すしかない)
即断即決──、前方に居る准と逸花は話し込んでいるのも分かっていて、後になって厄介な事になるのは重々承知している。
それでも、沙耶にとって、最も他者が触れてはならないラインというものに指先一つ、爪も髪が僅かにでも触れる事を許さない厳しいポリシーがあり、役目があった。
(退学は必須⋯⋯かな)
淡々と、粛々と、平然に、流れる動きのまま、殺意を押し殺しながら、機械のレバーを引くように、ただ──人間の首をへし折ろうと腕を伸ばす。
「後、連絡先交換して?用事があってもなくても、来なさい⋯⋯⋯⋯。何やってるのよ?」
スマホを前に翳して、QRコードが映った画面を見せる美羽は、何故か自身に腕を伸ばしている沙耶を見て、首を傾げる。
「⋯⋯君、何しようと、してる、の?⋯⋯⋯⋯場合によっては──」
「⋯⋯出来なきゃ死ぬわよ?」
美羽も馬鹿ではない。笠辺家が『除者』としての活動を行っている事も知っていて、近頃では研究所の倒壊、街の一斉昏睡、北区にあるストリート街『食事処』で発生した謎の病死と様々な不可解事件が起きている中、死が身近にある実感をしない訳がなかった。
美羽は察してしまう⋯⋯今目の前に居る沙耶によって殺されてしまう可能性を。
それでも、美羽のやろうとしている事が失敗すればどの道死ぬという結末は変わらない。
だが、『常盤家の人間』が『笠辺家の人間』に頭を下げるという愚行もしたくない。
さながら、自転車のチェーンに全く油が注さっていないような凝り固まった思考が邪魔をして、目で訴えるような動作となってしまった。
しかし、目の前に居る女性も馬鹿な言動、行動をする事はあれど、それはあくまで准本人に対しての話。
普段はむしろ、冷静に物を見れる側の人間である。
美羽の瞳に垣間見えるのは、覚悟と死への恐れ。
⋯⋯そして、助けを求める者の目をしていた事に伸びた腕は引き下がった。
「⋯⋯分かった」
そんな様子を遠くで見ていた逸花は胸を撫で下ろす。
沙耶が『除者』である事は初見時に看破こそしているが、出会った当時は『龍』である事を皆に隠していた時期であり、知っているのもごく一部。
悟られないように表に基本出ない事を心掛けているのが現状の中、沙耶自らが出した殺気に反応し、思わず視線を送ってしまっていた。
(あの小娘、何故常盤美羽を⋯⋯。まぁ、良いか)
人に手を掛けようとすると、敵意は前提にあるとして、殺気というものも溢れる。
あくまでも感覚の話であり、見える、見えないの類いでは決してない。
笠辺家の現当主、朝倉拓也が『狸』と呼ぶ老人すらも敵意と殺意を混ぜて動いてしまう。
殺意は敵意とは違い、攻撃性が高く、相手にも伝わりやすい。
故に動きが読まれやすくなる特徴がある中、それを完璧にコントロール出来る人間は、この世界では現時点では一人も存在しないのだ。
「あ、常盤さん!」
廊下の端、階段を上がって来た女性一人が美羽の名前を呼ぶ。
准もその声には聞き覚えがあり、振り返ると、そこには等区高校在籍の冴咲莉緒がやって来ていた。
「ようやく会えました⋯⋯。この学校、二つも校舎があるせいで迷っちゃいました」
等区高校の校舎は一つだけ。
長い廊下と並べられた部屋数に豪華なタペストリーがある等区高校の校舎は廊下にある特定の物を目印にしていれば迷う心配は基本ない。
だが、この学校に廊下にタペストリーや花瓶といった類の物がある筈もなく、更には初見だった莉緒は息を切らしながらも美羽と合流を果たした。
「冴咲さん。良かったわ。頼んだ件、どうだったかしら?」
「はい。大丈夫だと、映研の方から了承を得ました」
「ありがとう」
「後、ウチの生徒会長が美術部も派遣してくれるらしいです」
この言葉に光明が見え始めたとばかりにガッツポーズを小さくした美羽。
人手が多いに越した事はないのを前提に、美羽と等区高校の生徒会長である澄桜梓のやろうとしている事を鑑みれば、専門職に特化した者が手を貸してくれたという事は、予定よりも早くに作業は進み、より精巧な出来が期待出来る。
「でも、なんでこんな事を?」
問題は、美羽と梓の二人の画策の内容を共有せず、生徒会長権限をフルに活かした方法で活動させている事ではある⋯⋯。
その為、莉緒は二人の画策を理解出来ず、ひたすらに等区高校とこの学校を行ったり来たり来たりを繰り返しているのだ。
「命あっての物種だからよ」
一方、准は逸花との世間話に終わりを迎え、距離を空けた逸花は手を振る。
「桐江くん、じゃあ、私は帰るね〜」
「おう!気を付けて帰れよ」
『龍』である彼女に対して、その言葉は無駄な事と承知の上で口にした。
双方、それを理解した上で別れ、そして後からやって来た莉緒が気になり美羽達の方へと向かう。
「あれ?あんたは⋯⋯」
「冴咲莉緒です!名前、教えましたよ?」
不服そうなのが顔に出た莉緒。
手を合わせて頭を小さく下げた准は謝罪の意を込めた。
「あ〜、悪い。あの生徒会長と副会長の印象が強すぎて⋯⋯」
名前云々以前に、後から応接室で出会った大城豊と過去に『現象』で出会った澄桜梓の方が印象強く記憶に残っており、最初に等区高校の校門前で出会った二人の印象はかなり薄くなってしまっていたのだ。
わざと忘れるなんて芸当が出来る程、准の脳は器用ではないし、奇策な構造はしていない。
つもり、本当にただ忘れていただけ⋯⋯。
「澄桜会長と大城副会長と比べないでください。あの二人と比べられると、悲しくなります」
「まぁ、個性派だからな。どっちも⋯⋯」
意味深に准を見つめた莉緒。
荷物を持って帰って来た沙耶は、偶然ながら莉緒の視線を垣間見た。
そして、一歩退いてしまう。
ゾクッとした背筋、見開いてしまう瞼、荷物を持った手は強く握られて布地は皺を作っていく。
「全く〜。もういいです。常盤さん、終わったら連絡するんで休んでくださいね?なんやかんやで徹夜明けと聞いてますから」
不貞腐れるのはそこまで、とばかりに切り替えた莉緒は微笑んで、美羽を見た。
(あれ?⋯⋯気のせい?)
寒気は去った。背筋を指先でなぞられた感覚は完全に消えていた。
一方の美羽は北叟笑みにも笑いで口角を上げて、親指で准を差す。
「えぇ、コイツん家で休む事にするわ」
「ん?なんで僕ん家?」
「なんでもよ!ほら、お前も来る」
美羽の見つめる視線の先は沙耶一人。
そして、バッチリとキメ顔(当人比)をした沙耶は荷物を両手に持って声を張る。
「その言葉、待ってた。行く!」
だが、美羽にとっては二度目でも准にとっては初見の光景がある。
それは、沙耶の持っている荷物の大きさと量だ。
黒い筒に白い紐で括られたそれが『刀』である事は既に認知しているものの、他は知らない。
それ以前に、准達が話し込んでる間に荷物を教室から持って来ていた事に驚きが隠せずにいる。
迅速な行動力と判断力に脱帽──なんて出来る訳もなく、大きな膨らみがある荷物を指差す准は問う。
「いや、その荷物なんですか?」
「乙女の秘密」
「胡散くせぇ」
准は知らない、それが布団一式とパジャマである事を⋯⋯。
完壁に迷惑の掛からないようにとシャンプーやボディソープ、タオルなどなどの完全お泊まりセット持参で今日も沙耶は准の家へと同行する。
━ ━ ━
舞喜と蒼太を准、そして藍莉の自宅、どちらに運ぶか悩んだ末、准の自宅を選択し、舞喜の部屋へと運んだ藍莉は看病に付き添う為、部屋に篭っていた。
車に自ら轢かれる選択を取った事、黒い泥にも似た何かを吐いた事、今まで普通とばかり思っていた舞喜の心境の吐露に彼女なりに頭を痛めながら思考して、疲れ果てて眠ってしまい、時刻は十五十半過ぎ。
ただでさえ昨夜、睡眠を取っていなかった事も合わさって深く眠りに着いてしまった彼女は舞喜が眠るベッドの隅で上半身だけ寝かせるようにして眠ってしまっていたのだが、姿勢が眠る体勢ではなかった事や家事等のやらなければならないノルマが彼女の体内時計を開花させ、瞼を開かせた。
「寝ちゃってた!舞喜ちゃんッ。⋯⋯良かった」
ベッドにてぐっすりと眠りに着いている舞喜、そしてそんな彼女の安眠用の抱き枕となって寝ている蒼太を見て、安堵する藍莉。
そんな時、丁度スマホに通知が鳴り、意識はそちらに持って行かれる。
バナーに映るメッセージとその送信者を見て、意外だと感じて口にした。
「常盤さん?」
内容は単調なものであるものの、送り先を勘違いしているのではないか、そう感じられるものでもあった。
『大州先輩、家には居ますか?』
しかし、文の冒頭にも自身を示す単語がある事から、送り先を間違えたという選択肢は即座に消えて、今度はその文の意味を思考する。
(どういう意味かしら?居る事に何か問題でもある?ううん、そもそも、私の家にって事?⋯⋯カマかけでもして確かめてみようかしら)
メッセージを打ち込み、送信ボタンを押す。
常盤美羽が藍莉に何かしらの用件がある際、必ず何かがある。
しかし、その用件の本題は文にはない。
これが気掛かりでしかなく、更に『家』という単語もある意味では曖昧であった。
常盤美羽は藍莉が准の家にも通っている事を知っている。
お隣であり、何時でもお泊まり可能な状況下の中、聡い部類の彼女が曖昧な文を送ってくる事に不審感があったのだ。
『家にいるわ』
『すぐに戻ります』
「え?!戻るって何?私の家にって事?」
あまりにも唐突な文章。切羽詰まったならまだしも誤字脱字の類いは見受けられない。
そして、藍莉はスマホの画面の上にある時刻を見て更に気付く。
「ん?!嘘、もうこんな時間!」
保険として逸花には准と出会った際に自宅に居るという旨を伝えてはいる。
しかし、本心としては補習終わり、予定通りに学校に戻り話をしようとしていたのだが⋯⋯。
睡魔が完全にその予定を崩したのだ。
「⋯⋯⋯やっちゃった。補習、終わってるわよね、これ」
時刻は既に長針が『九』の数字よりも上へズレた時刻。
こうなると、美羽が藍莉にメッセージを送った可能性として、隣に准が居る事が挙げられた。
急ぎ、メッセージを打ち確認を取り始めた藍莉の指は早かった。
『准と一緒に居るの?』
『はい。居ます』
「やっぱり、居るのね。じゃなきゃこんなメッセージ、送って来ないものね」
怒っているか、呆れているか、或いは両方か。
自身の事だけでなく、舞喜の件も追加で語らなければならない藍莉の気はかなり重かった。
目の前でそんな事とは露知らずの舞喜は今もグースカと眠り、蒼太を抱き締めて寝ている。
クーラーが効いた部屋で⋯⋯。
身体が冷え始めた藍莉はそっと部屋を出て、リビングにあるソファへと腰掛けるとメッセージを打ち込む。
『分かった。お詫びにご馳走様を用意するからって言っておいて』
『承りました』
「⋯⋯⋯⋯常盤さんだけよね?」
准は気付けば、人を呼ぶ。
交通事故に遭って三日後の退院時には沙耶を自宅に上げて、『幽霊騒動』の際は軽井とサナを招き入れ、『超能力者の一件』では詩葉と沙耶、逸花を呼んでいる。
ハッキリ言ってしまえば、常盤美羽だけが居るとは考えられなかった藍莉はスマホの画面に目を向けた。
『何人来る予定?ご飯を食べるなら人数分用意するけど?』
羊の「どう?」と言う台詞の入ったスタンプを込みに送ったメッセージの返信は、しばらくの時間を有した。
『私と先輩、バカな先輩の三人で帰ります。バカな先輩はご馳走になると息巻いてます』
(私、蒼太、舞喜ちゃんと准⋯⋯この馬鹿な先輩って誰?とにかく、五人ね)
頭で数え、該当する人間を思い浮かべていると、メッセージが送られる⋯⋯。
相手は当然、美羽からだった。
『やっぱり、私も頂きます』
「⋯⋯てことは、私、蒼太、准、舞喜ちゃん、常盤さんと、バカな先輩⋯⋯⋯⋯笠辺先輩じゃないわよね?まぁ、良いけど」
何かと准とベタベタしようとする沙耶に危機感が絶えない藍莉にとっての天敵。
かなりアグレッシブで活動的な泥棒猫に注意を向けなければならない事に多少の嫌気が湧いたが、グッと我慢してメッセージを送る。
『了解です。準備するから待ってて』
『はい!楽しみにしてます!』
そうと決まれば!とばかりにソファから腰を上げた藍莉はキッチンへと向かい、冷蔵庫の中身を確認する。
「冷蔵庫の中は⋯⋯⋯⋯無いわね」
そもそも素麺生活を送っている桐江宅⋯⋯具材よりも味変用の調味料がキッチンに並んでいるのが現状で、あるのはピッチャーに注がれている麦茶と青ネギとトマトだけで、後は飲料や冷凍室には大量の冷凍食品、これだけだった。
「家から持ってくるしかないか」
幸い、大州家の冷蔵庫の中身は潤沢にあるのが救いであり、キッチンを出て玄関口へ向かおうと脚が動き始めた頃──後方から足音が鳴る。
「おはようございます⋯⋯」
そこには眠っていた舞喜が起きて、一言。
眠気が抜けない彼女からはとても朝方に車に轢かれそうになったとは思えない程のぐうたらっぷりに、力が抜けていく藍莉。
看病が終わり、体調が良くなったら叱ってやろうとしていたが、その気も失せてしまったのだ。
「舞喜ちゃん、大丈夫?」
「はい。その⋯⋯⋯⋯あの、ご、ごめんなさい。藍莉さんまで怪我させるような事を⋯⋯」
「私は大丈夫よ?怪我はしてない。お風呂に入りたかったから、丁度──ではないわね。もう、あんな事しないでね?約束、出来る?」
「は、はい。本当にごめんなさい」
「もういいわよ。とにかく、舞喜ちゃんが無事で良かった。それだけよ」
「⋯⋯⋯⋯」
一向に気が晴れないといった様子の舞喜に、何か気が紛れるような事を言おうとするものの、その手の話題は脳内には浮かんでは来なかった。
だが、話題自体はあった⋯⋯何せ、今日はお客さんが来るのだから。
「美味しい物作るから皆で食べましょ?今日は准が人を連れて来るから。大所帯よ?」
「へぇ〜、お兄ちゃんが⋯⋯」
その後、家から食材を持って帰ってきた藍莉はキッチンへ向かい、何を作るか迷った末、余った素麺を根絶するべく、素麺を使ったアレンジ料理を作る事に決め、舞喜の提案の元、ピリ辛の素麺料理が出来上がった。
藍莉自身、客に辛さがある料理を出す事は基本しないが、その手の機微にまだ疎い舞喜からの提案を否定する事は出来ず、流れるように作っていると、玄関から音がする。
そう、帰ってきたのだ⋯⋯。
「ただいま」
「お兄ちゃん、おかえり」
出迎えるように舞喜が玄関へ向かって歩いて行く。
珍しい⋯⋯そう感じた准は玄関口で靴を脱ぎながらそう思う。
普段から出迎えるなんて事はしない妹の不自然な行動に、何かあったのだろうと察した兄は心配そうに妹を見る。
「舞喜、お前大丈夫か?」
「うん!軽い目眩みたいなもんだよ?」
「そうか⋯⋯」
信用はなかった。子供が咄嗟に嘘を吐いてしまったようなものに聞こえた准は訝しんだが、舞喜本人は至って平静さがあるのを見て、どう聞き出すべきか悩んだ⋯⋯そんな折、背後から玄関を開ける音が鳴る。
「お邪魔します」
「あ!常盤さん!お久しぶりです!」
一足先に舞喜の体調を気にしてアパートの一階から走り出していた准とは違い、階段を当たり前のように歩いていた二人は、ようやく辿り着く。
共に准の自宅を知っている為、迷いなんて一切なく、開けておくように走り出した准に言っていた為、インターホンすら押さずに当然のように入ろうとする。
「久しぶりね、舞喜ちゃん。その様子だと大丈夫そうね」
「はい!お騒がせしました」
「あれ?誰その人?」
美羽の背後⋯⋯大荷物を両手で持ち、わざわざ小分けして玄関に置くのではなく、纏めて持ったまま玄関に入ろうとする阿呆の子の沙耶を指差す舞喜。
初対面では基本的に謙虚な態度をする舞喜ですら間抜けな事をしているとされる沙耶は荷物をバサッ!と音を鳴らす勢いで置くと自己紹介を始めた。
「初めまして、将来のお姉さんにな──」
沙耶の口元を力強く押さえ付けて、苦笑いを浮かべる美羽。
また馬鹿な事を言ってると呆れる准を他所に、意気揚々と考えていた自己紹介を封じられた沙耶はバタバタと抵抗の意思を示すものの⋯⋯。
「この人は笠辺沙耶っていう、変な先輩よ?気にしなくて良いからね?」
「あ、そうですか⋯⋯」
勝手に済まされた自己紹介、そして口元から手は離れていくと共に意気消沈した沙耶は肩を落とした。
「自己紹介が⋯⋯」
そんなこんなでそれぞれでやる事があるとして、美羽は沙耶に事情説明、舞喜は藍莉と料理へ。
准はソファに座っていた奏海へ声を掛ける。
「お前、どうしたんだ?」
「え?何もないって⋯⋯」
落ち込んでいる⋯⋯と言うよりは萎縮している様子を見せる彼女に思わず揶揄うような笑みを浮かべた。
「ははぁーん。さては大人数は緊張する派だな?」
「⋯⋯まぁ、そうかもね」
「安心しろって、藍莉の飯食べてたら、そんなの忘れっから」
そして、完成の合図は鳴った。
「はい!出来たわよ」
それを聞き付けた准は藍莉の居るキッチンまで移動し、皿が並べられているであろうキッチン台へ目を向ける。
「皿、持ってくよ」
「お願いね」
ソースを作った際に使用した鍋をお湯に浸す藍莉とピリ辛風味のソースが乗った素麺が盛られた皿を見た准は、当然のように口にする。
「あれ?藍莉、一人分足りないぞ?」
「⋯⋯え?嘘。誰の分?」
「誰って、富宮の分だろ」
「⋯⋯⋯⋯⋯え?」
その名前に藍莉は徐々に強張った表情を浮かべて、唖然とした。
准はシンクの前に居る藍莉の奥、リビングでソファに座っている奏海を呆然と見る。
「⋯⋯⋯っ」
気付き、勘付かれ、理解してしまった⋯⋯。
そう感じた奏海は逃げるようにリビングを出ようとし、舞喜が声に出す。
「かなちゃん!何処行くの?!」
誰も居ない場所で舞喜が名前を呼んでいる、そんな光景に藍莉は更に混乱していく。
「⋯⋯舞喜ちゃん、誰と話してるの?」
「大洲さん、彼女が見えないの?」
皿を運ぶのを手伝おうとする沙耶が思わず聞いた。
そんなごく当たり前の事のような口振りに、不快感が込み上げた藍莉は声を荒らげる。
「⋯⋯何言ってるんですか?笠辺先輩まで。奏海は何処にも居ませんよ?冗談は辞めてください」
「⋯⋯藍莉も何言ってるんだ?さっきから、ずっとソファに座ってたろ」
「⋯⋯⋯⋯嘘よ。だって⋯⋯」
シンクのお湯は鍋から溢れて、シンクに落ち、排水口へ向かう。
しかし、蛇口を捻る事はせず、理解不能の状況に置かれた藍莉は後退りをして、准の身体にぶつかる。
「トッキー、もしかして新しい『現象』なんじゃないのか?!」
異常事態が起きたのだと、状況整理を促す意味も兼ねて美羽に告げる。
だが、美羽は何処か苦い表情をしながら、キッチンへ向かい、脚を止めて口にした。
「⋯⋯私も初めから、見えてないわよ?」
思考がグラつき、思わず顰め面をしてしまう准は美羽を凝視する。
(何、言ってるんだ?⋯⋯⋯⋯)
そもそもの切っ掛け、起点は准からすれば美羽の行動から始まったもの。
その本人が見えていないというのは、准にとってはかなりの想定外な発言であり、口が空いてしまう。
「おま、お、お前、冗談言うなよ」
「⋯⋯冗談じゃないのよ」
「お前が言ったんだろ?『富宮奏海』は『現象』の影響で僕達を殺すって!」
「准!冗談でも止めて!」
目の前に居た藍莉が叫ぶ。だが、准は収まらない。
「冗談はコイツだ!おい、トッキー、どういう事だ?!」
「私は見た事、知った事しか伝えてない。お前に教えた事は全部本当なの」
「だったら、なんで見えてない事を言わなかった!」
現状、更なる混乱を招いているのは美羽の発言。
それを完結させるには美羽の言葉がどうしても必要だった。
「前、私が消えた『現象』があったでしょ?あれって二つの『現象』が影響して生まれたの。だから、最初は『私の中にある現象』と『富宮奏海の現象』の影響で私は富宮奏海が見えないのだと思ってたのよ。けど、大洲先輩も見えないって事は私だけがおかしい訳じゃないのね」
【時間の影響を受けた後の常盤美羽】と【八咫烏】の二重奏から生まれた『消失事件』は尾を引いて、今回の事件に関して美羽は勘違いをしていた。
『現象』に囚われて、残り続けるというの不思議な話ではない。
藍莉ですら、影には『ミニ藍莉』の残滓が残っており、【八咫烏】の『夢の世界』への招待をパスする事に成功している。
美羽に関しても、『並行世界の常盤美羽の意識』が詰まっており、事件を解決したからといって、全てが収まる事は稀なのだ。
その事を理解している美羽は『消失事件』の影響で『自分だけが見えない』と解釈していたのだが、事実は違う。
全く持って関係ない──。美羽の純粋な勘違いであり、思い違いである。
『時間跳躍』を名無しによってさせられた事がその勘違いは加速し、『自分だけが死しても情報を引き継げる』という特殊な立ち位置において、主観で『現象の富宮奏海』が見えませんというのは、ノイズでしかないと判断し、准達には語らなかった。
「嘘だよな?トッキー、お前。藍莉も!⋯⋯っ!」
実際、美羽は一度として『富宮奏海』を見れていない。
二十五日になってから一度も⋯⋯。
一周目時点、映画研究部に訪れた際も、美羽には奏海の姿を視認出来ずにいる為、切り上げる時間を准経由で聞いており、映画研究部の部員と話している際も奏海に話し掛けている准を見て、彼女の位置を把握していた。
准の自宅を訪れた際も、初めて殺された際も一切、美羽には奏海の姿は見えてない。
「奏海、何処に居るの?何処!」
「⋯⋯私の、前に居ます」
舞喜が奏海の腕を掴み、逃げないようにしている。
それに対する奏海の抵抗は一切なく、静寂の限りであった。
藍莉は舞喜の前まで移動し、その存在を確認しようとする。
「⋯⋯⋯⋯ない」
小さく呟き、膝が崩れる。
「見えない、居ない⋯⋯。何処にも、サナちゃんだって見えたのに、私には見えない⋯⋯」
決壊し、泣き始める藍莉に驚き、舞喜は起きてソファに座っていた蒼太に目を向ける。
「蒼くん、見えるよね?!」
「うん。見えるよ」
知り合いになったばかりの蒼太には見えていて、友人の藍莉には見えない特殊な事例。
准、舞喜、沙耶にも見えていて、美羽には見えない異常事態。
「どうなってんだ⋯⋯。これ⋯⋯」
叫び出しそうな気持ちが溢れる。
だが、それを静止するように傍に来たのは沙耶であった。
「落ち着いて」
「先輩」
「大事なのは、条件。『幽霊』は才能が、いる。でも、『現象』は、条件がいる」
『幽霊』の視認にはカメラのような機器、肉眼での視認には生まれ持った『才能』が必需となるが、『現象』は違う。
必ず見えるようになるには『条件』が必要となり、それを満たせば、赤ん坊であろうと、老人であろうと視認出来る。
「見える側と見えない側での条件⋯⋯」
考える⋯⋯准の知っている限りの必要事項を、探り当てようとする。
しかし、『現象』の数は多種多様で、それによる『条件』も多種多様。
一朝一夕に見つかるなんて事はない。
「トッキー、お前⋯⋯今日⋯⋯っ。富宮が会いに来たろ?事情を詳しく知ろうと、会いに来た、そうだよな!?」
「⋯⋯会ってない」
「富宮、会えなかったのか?」
舞喜の傍に居る奏海へ声を掛ける。
必死な少年に対する答えは頷きであった。
「会えた⋯⋯。あんたに言われた特徴通りの子、今そこに居る子に会えた⋯⋯」
「声は掛けたんだよな?!」
そうであってくれと⋯⋯嘘でもそうだと言って欲しかった准は苦い顔をして問う。
「掛けたわ。目の前まで来て⋯⋯。でも、なんにも反応してくれなかったから、諦めた」
「⋯⋯⋯⋯そんな」
実は美羽の視力がコンタクトレンズ、眼鏡の類いがなければならない程に悪い──そんな期待もしてみようとするものの、きっと無駄に終わると悟った准は唇を噛んだ。
「ごめんなさい。見える人、見えない人の条件は分からないけど、そういう人がいる事は何となく、分かってたの⋯⋯」
「⋯⋯。もう、どうすれば良いんだ⋯⋯」
三つの罪は未だ、健在。
『条件』は不明、『現象』が何を持って発動するかも謎。
そんな状況の中に准達は立たされているのだと、認識させられる。
准の夏休みは過酷なものであると、部屋の空気が語っていくのを、肌で心で、確かに痛感させられた。




