The words of death invite one's own death
どうも、執筆が一番ノリノリの時期が、眠たくなり始めてからの十分間程度というカップラーメン約三個分、カッコイイ言い方をすれば銀色の巨人の活動時間約三倍!
バカな紫芋です。(誇張抜き)
謎でもなんでもない謎を出して遠回りしていますが、放っておいてください、仕様です。
1.台詞から書こ!
↓
2.文字数が足りないなぁ、語り増やそ。あ、台詞足そ!!
↓
3.文字数、足りねぇ。台詞足そ。あ、語り増やそ!
↓
4.2~3をループ。まだ舞える!まだ飛べる!まだ上昇!!目指せ、オゾン層越え!
↓
6.やべぇ、文字数多くなり過ぎた⋯⋯。
前回はこれがモロに出ましたね。
こんな感じを永遠繰り返している為、最重要伏線以外は割と雑。
ですがご安心下さい!多分死ぬまで治りません!
誤字脱字が未だに直って無いのに、全て上手くいく訳ないんだよなぁ⋯⋯。
それでは前書きはこの程度で、本編どうぞ!
大城豊はごねた。我儘な子供のようではなく、ひたすら視線を浴びせてテコでも動かないと長身を活かした抗議の行動を示す。
生徒会長の命令により退室する運びとなって、血走った目で必死の抵抗を見せていたが、莉緒、准、美羽の三人掛かりで応戦した結果、頭から扉を飛び出し、顎は床へ打ち付けながら退室した。
チラッと振り返り、梓へと視線を向けて潤んだ瞳で動揺と慈悲、哀れみを誘おうとするも、彼女の手により扉は閉まり、シャットダウン。
莉緒はそんな声にならない声を発声する豊に同情しながら、部室へと戻って行く。
応接室に残ったのは准、美羽、梓の三人となった。
准、美羽と向かい合うように座り込んだ梓は話を切り出す。
「何故、加鍋先生との話し合いが必要なのか、ご説明頂けますか?何かあったのはお見受けします、しかし、コチラとしても、多忙な教師に迷惑は掛けられません」
「あ〜、それは──」
「ねぇ、お前。まさかと思うけど、全部話すの?」
訝しむ目をした美羽が准の腕を爪で摘み、指摘した。
美羽にとっては梓はただの一般人Aという立場と然程の違いはない。
過去に二人が接点があろうとなかろうと、そこは揺らぐ事は決してないのだ。
「多分、理解してくれる。『現象』に巻き込まれた側の人だし」
だが、准からすれば、先程まで話し相手をしていた豊と比べても話がスムーズ進む事は間違いなく、現状を知って貰えば、事の運びが容易くなると判断して一から十まで話そうとしていた。
「だとしてもね⋯⋯」
「あくまで、加鍋先生と話をさせてくれるだけでいいんだから、そこまで問題じゃないだろ?」
「そうだけど⋯⋯内容絞りなさいよ?」
「はいは〜い」
美羽の言葉を軽く流すようにあしらうと咳払いをして梓の方へと顔を向けて話す状態に入る。
(大丈夫かしら?)
何処か不安が拭えない美羽はチラッと隣に居る准の様子を確認しているが、少年は至って冷静であり、真剣な眼差しだった為、梓の方へと視線を向けようとしていた時の事だった。
「えーとね、僕、明日死ぬんだって?」
空気が一瞬、静寂に呑まれて、梓は瞬きの回数が増す。
美羽は口を開けたまま唖然としてしまい、准は満足そうに笑っていた。
「⋯⋯⋯⋯ふぁ?」
ひょっとこのような口元、驚きで首はゆっくりと緩やかに首は傾いていき、梓は瞬きを忘れていた。
「お前ぇぇぇー!つい、五秒前の会話が頭に入ってないのか!?内容を絞れって言ったでしょ?!」
完全なる期待の裏切りに激怒した美羽は准頭をヘッドロックしつつ、脚を踏んづける。
「絞ったじゃん!?」
互いが言わなければならないと感じた内容に齟齬が生じた結果であり、准も至って真面目なつもりだった。
だが、やはり美羽からすればふざけているようにしか見られておらず、強行に走る始末。
応接室は決闘場と化した。
「レモンの実を搾る事はあっても、皮を重点的に搾る馬鹿はいないの!」
「それ、例えになってるか?」
「煩ぁぁぁぁぁい!」
一方、たった一言で情報過多に陥った梓は呆然と二人の一方的にも近い決闘を見ているだけであった。
それから三分間の激闘の末、美羽が掻い摘んで話をする事となり、不服そうな准の脚を更に踏み、黙らせるまでには時間は要らなかった。
しかし、梓に今回の件を全て伝えないのにも理由があるのだ。
それは『被害者の数』にある。
『富宮奏海』の起す予定の事件は【四つの罪】という数が決まった殺人を起こすものであり、美羽に言わせてみれば、【一つの罪】で巻き込まれる形で『笠辺沙耶』が亡くなっているのを目撃しているのも合わさって、『時間跳躍』により過去を変える際の絶対厳守に抵触しないように巻き込まれる数は最小限に抑え込んでおきたいのが本音。
また、夜頃に准が何処かで何かをするという分岐地点も必須事項となっている為、かなりの管理が求められる。
そこに、予定外のチャチャを入れられては准、並びに舞喜がまた死にかねない。
それを避ける為にも話す内容を限定しつつ、『加鍋』との話を取り付けて貰わなければならない。
『富宮奏海』は一周目の時点で何かを悟った可能性があり、美羽達はその土俵に立てていないというのは、美羽達が同じ事の繰り返しを生むだけになる。
語った内容は要点を纏めて二つ。
・『富宮奏海』の姉である『富宮詩香』が加鍋と同じ部活動員あり、事件の関係者である点。
・美羽のみ『時間跳躍』で何度か同じ時間を経験しており、明日の夕方頃には『富宮奏海』が凶行に走るという点。
二つ目は本来話す予定ではなかったが、准が先走った為、美羽は仕方なく自身に憑いている【時計】についても掻い摘んで語った。
「つまり、桐江さんと妹さんが亡くなるのを阻止する為に常盤さんが頑張っている⋯⋯そういう事ですね?」
「まぁ、そうだけれど⋯⋯」
もっと言う事があるだろう、そう言いたい気持ちもあったが、深く詮索、追及はしなかった。
した所で何もならず、別段、どう思われても良いと冷めた感情にも似たものが湧き上がり、口は閉じられる。
「とにかく、僕達は『富宮詩香』について知らなくちゃならないんだ⋯⋯頼む」
「⋯⋯分かりました。それでは、職員室か部室へ向かいましょう。どちらかにはいらっしゃる筈ですので」
「ありがとう!」
立ち上がる梓は手をそっと扉の方へと向けた。
それを機に二人も立ち上がる。
「いえ、私に出来るのはこれぐらいのものですので。それでは退室をお願いします」
先頭に梓、その後続に准と美羽の二人が縦にも横にも長く広い廊下を歩き出す。
意気込んだ美羽はようやく事が進んだ事に多少の安堵があると同時に明日以降も生還出来る要素が足りていないか、不安にもなってしまい隣の少年へと視線を送る。
そんな事に気付いていない少年は赤いファイルを鞄から取り出して先頭を歩く梓へ手渡した。
「そういえば、澄桜。赤いファイルに書かれているこの頭文字の並び、何か分かるか?」
既に応接室で美羽が事情を語る時に、目を通している赤いファイルに再度目を向けるものの、口角は下がり、眉は八の字となってしまう。
「⋯⋯私も先程から気にはなっているのですが、残念ながら。力及ばず、申し訳ありません」
「いや、僕だって同じさ。そこまで畏まって謝らなくていいさ」
名前に該当しない頭文字の並びを即座に理解し、解名出来る人間という事は同属、同種の人間であるという証明でもあり、写真に写る五人と澄桜梓は全く別枠の人間だと准も思っている。
しかし、発想や転換点の差異はあり、そこに賭けてみたくなる気持ちもあった為、思わず聞いただけの事。
頭の良い人ならばなんでも答えられる──そんな安直な思考がそうさせたに過ぎないのだから。
「それにしても、長いわね。この廊下」
「えぇ、だから⋯⋯私は好きではありません」
「長いと疲れるものね」
同情的な視線と言葉を使い、寄り添う姿勢を見せるものの、耳打ちをするように准は美羽の傍により小声で言葉を掛ける。
「トッキー、違うって」
「え?何がよ?」
准の言葉は先頭を歩く梓には聞こえていなかったが、耳打ちをする理由が純粋な疑問として平時と変わらない声量で発した美羽の言葉一つで、彼女は察してしまった。
准はその当時そこに居た為、梓の気持ちが分からなくもなく、同情的になるものの、美羽はその当時は現場に居ない。
それが影響して齟齬を生んだ。
「ただの帰宅路だったのですけどね。いつの間にか、暗い場所と【シミ】は駄目になってしまいまして⋯⋯。生徒会に入ったのも、自宅で一人が嫌だという理由からです」
紛うことなき心的外傷、生活圏にすら影響が出てしまっている梓が越えに越えられない壁。
澄桜梓は二十時以降は部屋に篭もるのが日課だ。
たとえ、円盤型宇宙船の放つライトが街を包み照らそうとも、外出は決して、何があってもしない。
否、出来なくなってしまっている。
身体は一度、【赤いシミ】から這い出てきた血濡れた腕数十本に捕まれ、取り込まれる一歩手前で偶然的に助けた准達。
仮に助けが来なければ、梓は既にこの世にいない。
そんな危険な体験は夜二十時前後に起きてしまい、壁が赤色のペンキ、シミが円形の形で塗られていれば朝、昼帯であっても発作が起こるほど。
約一年ぶりに彼女と再会した応接室、窓際にあるカーテンはトイレへ向かう前と後とで、日差しの当たり具合が大きく違い、カーテンを動かした人物は目の前の人物を視界に収めると共に即座に理解してしまった。
「⋯⋯でも、そうなると帰り遅くならないかしら?」
「だから、皆で帰るんです。私がそうさせました。その方が落ち着くので」
ある者は構ってちゃん、仲良しこよしの生徒会、腑抜けの会長、そう口にする者もいる中、生徒会役員の誰もそれを卑下や嘲笑はしない。
彼女が優秀で頼れるからだ。
仕事の手は早く、迅速な対応が出来る彼女は近くでその様子を見れば完璧超人に片脚が突っ込んでしまっている為、彼女の弱味にも似た甘えは、それを傍で支える生徒会役員達にとっては嬉しい誤算でもある。
彼女は人に頼らなければ日常生活が送れない事を知っていて、役員達はそんな彼女の強さ以上に弱さを知っている。
即ちそれは、利害の枠を超えていた。
「夏休みでも生徒会の仕事してるのも、それが理由か?」
「はい。父に迷惑は掛けられません。でも一人で自宅に居るのは耐えられなくて⋯⋯。だから、大城くんを呼んで、先生に頼み込んで仕事を無理矢理作って貰ったんです」
心配の声色に呼応するように、安心させようと僅かに笑みを浮かべた梓だったが、当時の『現象』とその際の慌てふためきっぷりを知っている准からすれば、それが嘘だと丸わかりであり、より不安視するようになってしまう。
「あの、帰り一緒というのは駄目でしょうか?」
本日は准という、過去に助けてくれた張本人が居る。
これほど心強い話はないだろう。
「僕は良いけど、トッキーどうする?」
「お前は駄目。少なくても今日は」
しかし、そんな梓の提案はたった一言で簡単に砕け散る。
「妬いてらっしゃいます?」
煽りの意味もあったろうその言葉に美羽は動揺はしない。
する筈がないのだ。
本当に、本日七月二十四日は速達郵便の如く、迅速に准を自宅に帰さなければならない。
「妬いてないわよ。今日に限って言えば、コイツには今回の件で自宅に夜までには帰って貰わなくちゃならないの。何かある。じゃなきゃ、『富宮奏海』の姉の事も分かっていないまま死んだ事に説明が付かない」
「でも、今は理解していらっしゃいますよね?」
「今回は、ね?一周目の時点でも『映画研究部』に向かって、その時に知ったのよ。今回は経緯と日付けが違うけど⋯⋯」
一周目は美羽経由で『富宮詩香』について調べたのではなく、奏海経由で強引に映画研究部へ向かい、知った。
日付も本日二十四日ではなく、翌日の二十五日であり、時期もズレているが、誤差の範囲内に収まる程度だろう。
本当の問題は二十五日に起きる殺人の方だ。
ナイフで刺されたのを誤魔化す訳でも、当たり所と接触箇所に一縷の希望を託して車に轢かれに行くのと訳が違う。
内部からの炸裂は当たり所の話ではないし、刺さるを飛び越えて貫通してしまっている。
少なくても複数回現場に直面している美羽からすれば、回避方法が仮にあったとしても、死なせたと奏海に思い込ませて、准、美羽、舞喜、藍莉、蒼太の五人を生存させるなんて芸当は早々に思い浮かんではいない。
しかし、そんな愉快素敵なマジックショー級の芸当が出来なければ、本来起きなければならない出来事との齟齬が発生してしまい、異変は急激な加速を果たして、時間の流れが乱れてしまう。
そうなると、ゴールデンウィーク同様の人間、建物、大量消失が彼方此方に発生して、気候や時間帯すらも乱れる始末。
なんとしても避けなければならない事態なのだ。
「明日だよな?富宮が姉の事を知ろうとするのって」
階を上がり二階へ辿り着くと、ノーストップで長い廊下を歩き出した。
まだ、道中は続き、並べられた教室、窓、曲がり角を通り、空き教室、物理室等の学び部屋を通り過ぎて行く。
「えぇ、補習終わりのお前を連れて部室に向かったのよ」
「僕がお姉さんの事を知らない何周目かの時って、富宮はどうしてたんだ?」
それは四週目の時の事。
美羽はわざと准を自宅から遠くへと誘い、帰宅時間を大幅に遅らせて、家に帰っても外に出るなと忠告までして一件落着!
そう思っていたが、実際はそうはならず、余裕綽々で死亡時刻となる夜中付近に准自宅へ向かい、寛いでいると、突然奏海が自宅にやって来て桐江兄妹を虐殺し美羽も巻き込まれて死亡という結果になった。
「⋯⋯⋯⋯確か、部室にお前とは向かってなかったわね。普通にお前は帰ったし、あの人は⋯⋯何処に居たのかしら?」
「部活だろ?」
「居なかったのよ。聞いたら皆知らないって言ってて⋯⋯⋯⋯」
四週目の二十五日に准達は映画研究部へ向かう事はなかった。
だからこそ、僅かばかりに安堵していたのだ。
そもそもの流れから逸脱しているとしても、切っ掛けそのものがなくなれば、どうとでもなると、そう踏んでいたから⋯⋯しかし、それは許されない。
美羽は気付いていない。
世界が修正力を発揮して、意図せず奏海が准の自宅に向かった事も、重大な伏線を良かれと思って弾いていた事も。
だから、失敗した。
その結果、美羽は改めて、今回は二十四日の今日、准を夕方頃には自宅に戻す手筈を想定している。
「そういえば、武島颯悟も居なかったわね。それに大洲先輩も帰ってきたのは朝頃だし」
「朝?!え?それって⋯⋯」
「朝帰りって事ですよね?不潔ですね⋯⋯」
「朝帰りって言うなら、私もコイツもしてるわよ?夏休み前に」
『常盤美羽消失事件』で夜空の下でお寝んねをかましてしまい、結果朝帰りという醜態を晒したのだが、准にとってはごめんなさい案件なのだが、美羽にとっては良かったね案件なのだ。
愛しい人の膝元でぐっすり夜風を感じてぐっすりスリープモード⋯⋯満更ではなかったのである。
「⋯⋯桐江さん?」
「いや、待て!誤解生むような事を言ってんじゃないよ、トッキー!!待って、違うから、不貞を働いたんじゃない、本当に『現象関連』だったんだってー」
軽蔑からの前進、長い廊下をひたすらに進む梓の背中には威圧感を漂わせられていて、言い出しっぺの美羽は知らんぷりを決め込む。
この場において、准に味方は存在しない。
━ ━ ━
等区高校のは職員室二階に存在し、丁度校舎の中央に位置する。
その左右には資料保管室と校長室という物々しい事この上ないフロアと化しており、廊下で待機している准は美羽から『富宮奏海』の当時の動向を深く聞きながら、職員室へ独りで入って行った梓の帰りを待っていた。
「じゃあ、トッキーが見た中では、富宮は姉さんの話はしてなかったんだな?」
「えぇ。恐らくだけど⋯⋯」
「恐らくってなんだよ?何やってんだい、トッキー、ちゃんとせい!」
「誰の為に──」
思わず叫びそうになる美羽であったが、その叫声は二人の真横にある扉の開閉音でキャンセルされた。
室内へ向けて一礼した梓はそっと扉を閉めて二人の方へと向き直る。
「職員室には居なかったです。そうなると⋯⋯部室ですね、案内しますので着いて来て下さい」
流れるように歩き出した梓とその後を追う二人。
三人の間には足音のみが奏でられて、それ以外は全くの虚無と化す。
いよいよ『富宮詩香が亡くなった事件について』知れると梓の後方を歩く二人の間にのみ緊張が走り始めた結果であり、美羽は意図せず鼓動が早くなり、准は流れ出した緊張感に耐え切れず、雑談の内容を考える始末。
「この学校、部活数四十あるって聞いたけど、本当にそんなにあるのか?」
「厳密には四十四ですね」
「よくそんなに部活数あるわね⋯⋯ギネスでも狙ってるの?」
「私ではなく、理事長に話をしてください。私は規定通りの人数と部活設立の際の方針がしっかりしていれば何個あっても苦ではありません」
部活動の数は、一般的な高校と比べてしまえば明らかに多いのだが、部活動設立には、生徒会長をはじめとする生徒会役員による満場一致の可決が必要となり、新設しようと申請した結果、認められた部活動よりも不可欠の意を示した数の方が格段に多い。
また、一定の実績を残さなければ、一年目は部費縮小となり、二年目からは半年経過しても見込めないと判断されれば廃部確定であり、シビアな面も目立つのも事実なのだ。
不平不満は当事者達にはあるが、誰も口にはしない。
等区高校とはそういう所だと、割り切った上で部活を設立しようとしているからだ。
「何処で『映画制作部』は部活をしてるんだ?」
「莉緒さん達が校舎にいらっしゃったので、今日はここを曲がった先にある奥の部室ですね」
等区高校の校舎は西側と東側とで階段が設置されており、昇降口は三つ存在する。
目的地は三階の一番西側、准達が校舎の中へ入る際に通った昇降口から最も遠い箇所。
西側の階段を上がり終えて、封鎖されている屋上までの階段を一瞥した准は、迷わずに先を進む梓と美羽の後を追う。
「映画関連の部活って隅に追いやられるのが常なの?」
「そちらも奥側なのですか?制作部は昔、映画作成の際に彼方此方に動き回りすぎて、他の部活に迷惑を掛けた経歴があったので、隅に部室を置いて纏め易くしたんですよ。丁度、美術室が近いというのもあったので都合は良かったようですけどね」
人の往来は生徒数が多ければそれだけ増して、人口密度も増える。
そんな中、廊下を人一人分程の大きさをした機材やら道具を持って、廊下の真ん中を我が物顔で突っ切って行くかつての映画制作部の部員達。
当然、反感を多く買い、遂に機材が偶々通り過ぎた生徒と接触した事で機材は壊れて、人は怪我を負う事件が起きてしまい、機材の安否よりも人の安否の方が重大である事と、日頃の厚顔無恥な態度が薪となり、焚べられていき、最後には炎上。
結果的にコンクールでも実績を残し、世間からの見た功績も優秀の一言であった為、廃部こそ免除されたが、代償として隅に追いやられてしまい、細々と活動をしなければならなくなった経歴がある映画制作部。
そんなアグレッシブな部活動を行っている部室前まで辿り着いた准と美羽は梓の合図を待つのみ。
「ここです。入りますね」
静かに頷く美羽の表情には緊張感が増して、苦虫を噛み潰したようなものに近くなる。
准は急ぎ鞄から赤いファイルを取り出していく。
そして、梓の右手はドアへと向かう。
ノックの音が鳴り響く──。
「失礼します。生徒会の澄桜です。加鍋先生、今宜しいでしょうか?」
ノブを握り、奥へ向けて腕を伸ばした梓は室内に入りすぐ真横にあるパイプ椅子に座っている男性に声を掛ける。
上下白色のジャージに靴下とサンダルという教師と言うよりもその辺を歩いている服に頓着が無い大学生という印象が強い男性であり、疲れと寝不足による濃い目元の隈が眼鏡越しに窺えるが、加鍋はそれを誤魔化すかのように、優しく頷いた。
「ん?あぁ、良いよ?どうしたの?」
「実は、彼らが先生にお話があると」
椅子から徐ろに立ち上がり、パソコンを使って作業を進める部員達に一声掛けると、梓に連れられるように部屋から退出。
そして、気怠げな感じが抜けないままだった加鍋だが、准、美羽を見るや否や、目付きが変わり、真剣な眼差しをして少し曲がっていた腰は伸びた。
「その制服、そうか⋯⋯」
「え?」
「話があるんだね?付き合うよ⋯⋯。少し長くなる。済まないけど、中に入って話を聞いて貰っていいかい?」
准、美羽はそれを了承するように頷くと、優しく加鍋は頷く。
一足先に中へと戻った加鍋は畳まれて立て掛けられていたパイプ椅子を二脚分用意し、後一脚分を探してキョロキョロと辺りを見渡していく。
「来飼くん。パイプ椅子、あるかい?」
「あ〜、そこに二つ⋯⋯使ってますね。⋯⋯僕が今使ってるので良ければ」
髪を横に流してワックスで固めている映画製作部部長の来飼は立ち上がり、座っていた椅子を丁寧に手渡す。
「済まないね、借りるよ」
会釈を軽く済ませ、立ち去る来飼を見届けた加鍋はそっと、腰を労るように座り始めた。
「っと〜。さて、何処から話したものか⋯⋯」
「あの、その前に一つ良いですか?」
考える素振りもそこそこに、准が小さく手を上げた。
部室に居る者、皆が否応なく聞こえてしまう会話。
加鍋が一体何を語るのかとソワソワとした様子を見せていた美羽は、准の空気の読めない行動により、呆気に取られてしまう。
「なんだい。えぇと名前は?」
「桐江准です。えーと、このファイルに見覚えは?」
表紙がバッチリと見えるように両手で掴んだファイルに加鍋の瞳は潤んでいく。
哀愁が滲むその表情は懐かしさと、深層に潜む後悔が垣間見えた。
「あぁ、懐かしい⋯⋯。俺達が詩香に言われて何気なく作った活動記録のファイル。そうか、まだ部室に残っていたのか⋯⋯。そうか」
ゆっくりと頁を捲り、二頁目に写る集合写真。
左端から長髪ロングのオタク臭がある男子生徒、若い頃の加鍋、故人の富宮詩香、おっとりとした雰囲気が醸し出されている女子、金髪に鼻ピアスの男子生徒の順で並ぶ写真のその下に書き込まれた頭文字の並びとそれを交えての文章。
それを、そっと目の前に居る加鍋へと見せる。
「この、『R・F』とか『S・O』って何ですか?名前の頭文字だとしたら、適合してないのもあって、途方に暮れてまして」
「これね、映画のジャンルだね。詩香は『R・F』ってあるけど、『ロマンス・フィルム』って意味でつまり、恋愛映画だね」
「好きな映画のジャンルって事ですか?」
「うん。折角作った部活だから特別感を出したいって、詩香が言い出したんだ。その時だったかな?この写真、撮ったの⋯⋯そっか。彼女、こんな顔してたね。あ〜、懐かしい。佐々木なんて大して映画好きでもないのに、卜部さんが好きで入ったんだったよなぁ。松井、今では何してるんだろ⋯⋯、前から言ってた映画製作会社に入れたのかなぁ?」
ゆったりと穏やかに語る口元は綻びを見せており、密かに聞き耳を立てていた映画製作部の部員でもあるボーイッシュな短髪女子高生の川戸彩世と冴咲莉緒は加鍋の元へ近付いて、徐ろに声を掛けた。
「先生⋯⋯」
「ん?⋯⋯川戸さん、それに冴咲さん。どうしたの?」
目を合わせて、言い淀んでしまう彩世。
それを気遣うように莉緒は口を開く。
「先生って、この学校に来てからこの街に来たって言ってらっしゃいましたよね?でも、今の言い方だと、前から居たような⋯⋯」
「ごめんね、先生、嘘吐いちゃった。本当は産まれた時から十七歳の時まではこの街に居たんだ」
柔和な物言い、穏やかな表情には悪意はなく、自然と周囲を朗らかにする加鍋の微笑み。
微睡みにも似た目元は細く、疲労が溜まった身体の使い方に、何処か気怠い様子を見せるものの、彼にとってはそれが正常で平常。
顧問として部活動に参加している為、部員は皆はそれが加鍋の素だと知っている。
しかし、准と美羽は違う。
彼の哀愁ある微笑みには懺悔に疲れた人のそれであり、積もり積もった疲れは心から身体へ浸透した結果の仕草や動作なのだと理解していた。
「なんで、そんな嘘を?」
「なんでだろうねぇ⋯⋯。もしかしたら、関わりたくなかったのかもね」
上を見上げて瞼を閉じる。唇をギュッと噛み締めるように⋯⋯。
帰ってこない青春時代、喪ってしまった時間と穿った日々。
紺色のカーテンが窓を覆い、照明だけで部屋を照らす中、明かりは加鍋のみを鮮明に照らしていた。
そんな光景が不思議の一言に尽きるというのに、准達はそれを受け入れている。
周囲の空間は揺蕩い、空気は重くなる。
「おかしな話⋯⋯この街で最後に通った学校は行きたくないって思ったのに、そうじゃない学校なら割と、平然だった⋯⋯。けど、街が好きかと問われたら、多分⋯⋯嫌いなんだろうね」
眉を顰める美羽、俯く准。
二人も似た感覚が心の何処かにあり、理解出来てしまう。
家族を喪った街、友人を喪った街、羨望や一縷の希望をへし折る事に於いてこれほどの舞台は存在しない。
『現象』の宝庫、国外でも曰く付きの箇所は存在しても、場所そのものが曰く付きとなっている『空弩街』は一度その『異端』を目撃すると、決して離してはくれない不可思議と常識の坩堝。
紅く散りばめられた髪を耳に掛けた梓は訝しみを隠さず、問い掛ける。
「では、この街に戻った理由は?」
「⋯⋯監視、ううん。まだ覚えてるぞって忠告する為、かな?」
(なんだ?どういう事だ?)
顔付きが変わった准、その表情を真正面から見た加鍋は申し訳なさそうに口角が上がる。
「済まないが、その人間の事は言えない。言いたくない。けど、君達が何しに来たかは、分かる。意外だったのは、奏ちゃんがその中に居なかった事、かな?」
「奏ちゃん?」
「富宮奏海ちゃんだから、奏ちゃん。桐江なら、分かるんじゃないかい?」
「え?僕ですか?」
思わず自身に指を差してキョトンと不可解な顔をする。
そんな少年の表情を意外そうに見ると、何かを納得したように頷く。
「⋯⋯そうか、分からないか。いや、うん。良いんだ、別に。聞かなかった事にしてくれ」
何かある──室内に居る加鍋以外の者達は思わず准へと視線を向けたが、当の本人は本当になんの事だ?と目を細めて、思い出そうとする素振りをしており、それが嘘とは思えないと判断し、再び加鍋の方へと顔を向けた。
「君達も聞いてくれ。俺が犯した罪を、ちゃんと聞いてくれ」
『罪』と言う単語は重く室内に鳴り、各々で驚くリアクションをする。
促した訳では決してない加鍋は生徒達の反応を一瞥していき、腰を曲げて腕を膝元に乗せ、思い返すように瞼を閉じながら語り出す。
「俺達部員は当時、詩香が中心だったんだ。部長こそ映画に詳しい松井だったけど、彼女がやると言えばやるし、嫌だと言えばそれはやらない。鉄則みたいなもんだった。でも、楽しかった⋯⋯本当に」
無邪気な物言いにも感じられる不思議な語り。
加鍋を知る生徒達すら見た事がないありのままでそっとしまい込んでいた感情の発露。
過去を語れば尽きる事はない感情の燃焼は、聞く者全てを不思議な気持ちに変えていく。
「小さい事ばっかり、大袈裟に言って、あの映画はこれがラストじゃなきゃ駄目だーとか、導入は良いのに、コマ割りが酷いって愚痴ったりとか⋯⋯」
准は赤いファイルに載せられた写真を見る。
五人の生徒、真ん中に立つ女子生徒が亡くなるなんて未来を当時誰も想像していない眩い思い出の一枚。
加鍋にとっての絶頂期にして、どん底の手前。
「でも、部活を作って半年経つ、ちょっと前。うん、そのくらいの時に彼女が部活を休みがちになってね⋯⋯」
「休みがち?前は違うんですか?」
「うんー。なにせ率先して活動してたよ。うん、本当に、いい人だった。付き合ってたけど、あの人以上に真っ直ぐな人は居ない⋯⋯。居なかったんだ」
苦しみと後悔、懺悔にも似たものが言葉に溢れ出し始めた。
「それで休みがちなった理由というのは?」
陰に沈んでいく思い出と戻る事のない現実は加鍋を徐々に落とし込む。
暗くなる表情は、聞く生徒達すら自然と伝わった。
加鍋の『富宮詩香』という人物が居た時代、終わりへ向けての転換期が語られるのだと⋯⋯。
「簡単な話をすると、立ち退き⋯⋯だね。彼女の自宅とその周辺丸々全部が⋯⋯立ち退きの対象になっちゃってね。自治体と揉めたんだよ⋯⋯」
「一人でですか?!」
「んな訳あるか!周囲って言ってるから、多分、近隣住民の方と手を組んだんでしょ?」
馬鹿な事を言うなとばかりに隣に座る准へ突っ込む美羽とそれを見た加鍋の苦笑が部屋を包む。
「そうだね。⋯⋯本当に俺があんな所に呼ばなきゃ良かったんだ。なんで、あんな事にっ⋯⋯」
語られた一つの真実──。
当事者だからこそ伝えられる悲劇の序章。
━ ━ ━
呼び出した理由は、諦めの言葉と励ましの双方。
待ち構えたのは黒い髪に青のメッシュに少しつり目の女子高生。
『空弩街』は山を切り拓く形で大きくなった街であり、都市とは名乗れず、田舎感がどうしても拭えない辺鄙な街。
そして、この当時もそれを払拭したい自治体は撤去、撤廃し、都市化を目指して、新しく建物を建てる事を繰り返すのだが⋯⋯その内の一つが悲劇を産んだ。
誰かにとって大事な場所であり、彼女にとっても有意義な場所、そして、歳の離れた妹にとっては唯一掛け替えのない場所を奪われそうになり、彼女は異を唱えると共に反旗を齎す。
募り集まった仲間は三十人弱と小規模。
代表者の名前こそ大人にしてあったが、実質的に活動を行っていたのは彼女のみであった。
そんな彼女は自宅に居る際に一つの電話を受け取り、向かってしまう。
胸ぐらを掴まれる男は自身よりも横幅の大きい大木に押し込まれる。
その必死そうな彼女の姿を見て、男は一切の抵抗はしなかった。
「あんた、何言ってんの?!冗談でしょ?」
人生で初めて恋人の意をへし折ろうとする言葉は失望と落胆に溢れた声で返された。
夏季の森林は蒸し暑く汗は滲む中、拭う事はしない。
唯一、人気もなく誰かに聞かれる心配がない秘密の場所であり、昔から二人で遊んだ場所。
懐かしさよりも飽きが参り込む感覚に近いその場所で男は諦観を促した。
「冗談なものか。頼む、諦めてくれ」
「ふざけんじゃねーよ!あんたはそれで良いのかよ?」
彼女の怒号は葉擦れの音に決して負けず、僅かに吹く微風は二人の仲を冷まそうとする。
けれど、人の肌は簡単には熱を離したりはしない。
「⋯⋯⋯⋯俺は良い、と思う」
利便性が上がれば、比例するように街は過ごしやすくなる。
男は彼女の小さな我儘を無理矢理推し殺そうとしていた。
彼女にとっても、その妹にとっても大事な場所であると知っていて⋯⋯彼女の妹が今一番必要としている場所だと分かっていて、それを壊そうとしている団体に男は同調したのだ。
「⋯⋯最ッ低」
胸ぐらを離す代わりとばかりに力強く地面に投げられ、男は土に塗れる。
苦渋の表情と木の根が肌に擦れて、自然と赤い血が滲み出た。
「仕方ないだろ!俺達みたいな子供にどうにか出来る訳ないんだから!」
「だから!笠辺に居る大爺様に頼むんだろうが」
「笠辺家の奴なんて信じてどうする?あんなイカれた家族の手なんて借りてどうするんだ?お前だってこの街で生きてくなら、波風立てないで生きてた方が利口だって!」
「あーーッもう!あんたって本ッ当に情けない!私はもう行く!何度でも説得しに行く!」
頭を掻き毟り、ボサボサとなる髪を整える事もしないまま後にしようとする彼女の視線は目的地へと一直線。
男は察した。絶対に叶わないと、願ってはならないと⋯⋯。
「待てって!お願いだ!無理だって!お前一人で何が出来るんだよ?」
一人だった。そう、彼女と共に立ち上がった住民達は確かに一度は自治体に対して反旗を翻すように声を上げていたが、それも長くは続かず、本気で自治体を相手にしているのは、現状──彼女のみ。
周りに人は居らず、それにすら気付かない彼女は孤独となり、それを知ってしまったからこそ、失望する前に男は制止の旨を唱えていた。
「こんな場所に連れ出しておいて、何言い出したかと思ったら、これ!?⋯⋯待つなんて絶対無理!」
男も分かっていた。それでも頼み込む以外に手がなく、必然的に懇願していた自分を恥じたりはしない。
背を向ける彼女、近付く男は肩を掴み出す。
「それでも頼む!一生のお願いだ!」
「煩い!死ねぇぇ!」
抵抗し、藻掻いて、目的の場所へと行こうとする。
場所は森林地帯であると同時に傾斜の激しい山付近。
舗道もなく、設備も、明かりもない中、木々と雲に隠れた太陽は視界を悪くしていた。
だから──脚を滑らせてしまえば、大事態になるのは誰でも分かる。
「え?っ──」
急落下に近い勢いで、傾斜に落ちた彼女の最後は眉間に皺を寄せながら、手を前に伸ばす事もなく、落ちた。
高さ六メートル程の急斜面の崖、あるのは岩と硬い土のみ。
恐る恐ると顔を覗かせて、一気に身体が冷え込んでいく男は狼狽し、息を荒くする。
「あっ⋯⋯⋯⋯⋯⋯詩香?返事してくれッ!詩香ぁぁぁ!冗談だろッ?!だ、誰か、呼ばないと⋯⋯、くそ、何処に、誰に」
男は焦り、焦りが積み重なり、それでもまだ、生きている可能性に賭けて、人を呼びに森を降りた。
走り、転けて、躓いて血を流してでも、また走り、電波の届く地点までやって来て、警察を呼ぼうとする。
「──────っ、ぃぁたぁい⋯⋯⋯⋯たすけ、て⋯⋯⋯死にたく、ない」
後頭部を強く打ち、脳震盪を起こしていた彼女だが、まだこの時は息があった。
そう、あったのだ──。
男は一度として、落ちてしまった彼女に近寄っていない。
した事といえば、大人を呼び、その大人の言葉の通りに森林の出入口でひたすら待つのみ。
だが、遺体はおろか人影すらその日──発見するには至らなかった事で、イタズラとしてその日は幕を閉じた。
その三日後、彼女は全く別の場所で亡くなった事となる。
それはすぐさまニュースになり、新聞にも掲載され、男はすぐに悟った。
そして、夏休みを機に男は転校する事となり、『空弩街』を離れる。
これが男の語ったお話であり、美羽、梓、後に准が聞いた事件の一部。
だからこそ、美羽は疑問点が更に増えてしまう。
男は当時高校生であり、車の類いは年齢的に運転が出来ない。
しかし、遺体があった現場は男の言っていた現場からは十五キロは離れている。
そして、後頭部を複数回殴られ、乱暴された形跡すらない裸の遺体。
梓は悟り、准は俯き、美羽は狼狽えた。
真犯人は──まだ何処かにいる。
━ ━ ━
バスに揺られた僕の身体、視界はバスに設置された窓を一点に見つめるのみ。
隣の座席には誰も居らず、乗客は僕一人だけ。
トッキーは澄桜と映画製作部の皆様と共に等区高校に残り、何やらお話がある様子だった為、僕だけが帰宅する事となったのだ。
時刻は十八時を過ぎてしまい、いい加減に帰らなければならない。
舞喜は勿論そうだが、今日は蒼太が居て、藍莉は素麺から逃げたせいで晩飯は僕が作る予定となっている。
夏季の影響で窓に映る景色は未だに明るく、夕暮れの日差しが座席に座る僕を照らす。
嫌な話を聞いた⋯⋯そう実感しているけど、過去の話と割り切る事は出来ない。
あれから、幾つかの昔話を聞いた。
加鍋先生の口からは冗談のような内容が耳に飛び込んで来て、事実かを疑ったが、あんな嘘を吐く理由もないとして、鵜呑みにしてしまう。
どうして彼女はあぁいう態度なのか、どうして言動があそこまでキツイのか、恨み辛みに満ちた怨嗟にも似た視線、その意味が、少し分かってしまった。
補習を目的に自宅を出てから十時間以上経過して、ようやく自宅に帰ってきた僕の心は意気揚々とはならず、穏やかではいられなかった。
この後、トッキーによれば僕と富宮にとって大事な何かがあるらしく、油断は一切見せられない。
玄関を開け、ひょこっと洗面所から顔を出した舞喜は僕の帰宅を見ると駆け出してくる。
「お兄ちゃん、遅くに帰ってきたって事はアタシの為に買ってきてくれたんでしょ?」
補習に行くと事前に連絡してるし、一週間同じ予定なのだから、何も持って帰ってない言葉はおおよその察しは付くだろうに⋯⋯。
「何をだよ?」
「素麺以外の物」
「僕が手ぶらなのを見ていてよく言うな」
「チッ。使えねぇ」
舌打ちをわざとらしく盛大に鳴らした舞喜はやれやれと身振りをするが、一瞥もせずにリビングへ向けて脚を動く。
考えなければならない事がいっぱいある。
トッキーが言ってた今日の分岐点だ。
あれはトッキーも大体の事しか分からず、何が起きるのかは知らない。
こればかりは僕が直接体験するしかないのだ。
今回、結局死ぬ事になっても、背に腹は変えられないがトッキーに伝えておくのも一つの選択だろう。
リビングに入ると、ソファに寛ぎながら舞喜が持っていた携帯ゲーム機で遊んでいる蒼太が、僕に気付いて手を振る。
随分と馴れ馴れしくなったものだが、幼い子供というのもあり、まだ許せる。
僕の腕を引っ張って駄々を捏ねる輩に比べれば⋯⋯。
「あ〜〜〜ッ。今日も素麺なの?嫌なんだけど〜?ねぇ〜?ねぇ〜?ねぇーーーー!」
「文句言うなよ。文句を言うなら、素麺に言え」
「代役でお兄ちゃんに当たり散らすって決めてるのー」
それはどういう事だい?僕はお前の都合の良いサンドバッグではないぞ?
パジャマ一丁でシャドーボクシングをして格好つけている舞喜は髪を靡かせながら拳を突き出すが、もみあげに生えた髪が自身の目元に直撃し、転げ回る始末。
こんな馬鹿な事してるけど、僕の妹なんだよな⋯⋯。
藍莉もトッキーも普段、こんな気持ちで僕を見てるのだろうか。
だとしたら、改めないと本当に嫌われそうだ。
すると、蒼太が近付いて来て、僕の制服の裾を摘んで見上げてきた。
目元が藍莉と似ているのもあって、ミニ藍莉を思い出してしまう僕だが、ふと我に返って摘んでくる手に応えるように頭を撫でる。
「ん?蒼太?どうした?」
「僕も、違うの食べたい」
どうやら、舞喜と僕の話を聞いていたようだ。
確かに主食が素麺オンリーというのは流石に可哀想にも感じる。
藍莉が今日、外食で舌鼓みを楽しむのなら、僕達も少しぐらいのズルだって許されても良いのではないのだろうか?
藍莉が帰って来るタイミングで僕達まで外食に行ってしまうと、今度は藍莉のご機嫌を取らなければならなくなる。
それは避けたい、避けなければならない。
「⋯⋯⋯⋯よし、任せなさい!」
僕は蒼太に向けてサムズアップ。すると、蒼太は両手を強く握り締めて珍しくガッツポーズを決めて、喜びを表現した。
普段の蒼太がどんな態度で藍莉や家族と接しているのか、僕は聞いた事もなく、此処に居る時も言うなれば、他人の家にお邪魔している時の為、蒼太なりに気を使っていたのかもしれない。
「あ、ズルい!アタシがあんなに言っても聞いてくれなかったのに!なんで蒼くんには甘いの!」
「ん?蒼くんって誰だ?福〇蒼汰の生まれ変わり?」
「お兄ちゃん、わっかんない?蒼太くんだよ?」
勿論、僕は分かっているのだが、舞喜の奴は本当に僕が分かっていないと思っているのだろう。
どう見ても、馬鹿にしているような表情で口角が妙に上がっているし、嘲る視線を僕に向けている。
どうしてこんな子に育っちゃったの?
「じゃあ、蒼太は舞喜の事なんて呼んでるんだ?マッキーとか?」
「舞喜姉ちゃん」
「⋯⋯なんだよ、あだ名で呼んでんのお前だけじゃんか」
「あだ名で呼んで貰えないだけだもん!こっから起死回生狙うもん!」
呼んで貰えないって⋯⋯遠回しに嫌われてない?
普段から舞喜は蒼太が来るとベッタリな辺り、いい加減、蒼太も気付いたのだろう。
僕の妹は中々に面倒臭い人種なのだと⋯⋯。
気に入ったものは構い倒すし、遊び道具の類いは使い潰すまでずっと一直線で他に目が向かない。
良く言えば、一途であり、尽くす。
悪く言えば、ウザくて、空気を読みたがらない。
読めない訳ではないが、優先順位のようなものに自分が常に上にある為、気分でどーのこーのといった事もな為、タチが悪いのだ。
とはいえ、これでも一年前と比べれば緩和された方であり、マトモ寄りになってはいるが、家族や見知った仲にはその傾向が出る為、この先が不安視される。
そういえば、トッキー曰く、富宮が僕達を殺す時、【罪の対象】が『僕個人』てはなく、『僕達兄妹』にあると言っていたが、舞喜はそもそも富宮を知っているのだろうか?
富宮は舞喜の事を、恐らく人伝ながらに知っている。
なにせ、一年前の春頃に舞喜がやらかしたとされる事件がかなり広まったからだ。
舞喜の通っていた中学も僕の通ってた中学と同じで、富宮が部活をしていたなら、その当時に世話した後輩から聞いていても何ら不思議はない。
だが、直接見た訳でも、話をした訳でも無いというのに、何故舞喜も【罪の対象】に入るのか、甚だ見当が付かないでいた。
しかし、『加鍋先生』の話から分かった事がある。
事件のあらまし、先生がその日に見た事故の現場と状況の他に僕は聞いている事があった。
それを再度、確かめる。鵜呑みにするだけでなく、確証を得る為に。
「⋯⋯早いうちに聞いとくんだけどさ」
「なに?」
「舞喜って小さい頃って何歳からの記憶がある?」
それは雑談や世間話としては唐突な、前振りのない内容だったと、理解していた。
けれど、聞かなければならない⋯⋯いや、違う。
きっと、何処かで否定してやりたかったんだ。
そんな筈がないと、薄情者に成り下がっているなんて、思いたくなくて⋯⋯。
「なに?いきなり⋯⋯多分、四歳かそこらじゃない?」
舞喜は現在十三で今年で十四歳。僕が知りたいのは、八年前──つまり、事件のあった年の事。
「例えば?」
妙な胸騒ぎが起こる。どこかで否定してやりたいという気持ちが、ここまで居心地の悪いものとは考え付かなかった。
募る不安感は舞喜の言葉でのみ、払われる。
即ち、他人任せだ⋯⋯。
「えぇ⋯⋯お兄ちゃんにお人形を取られた時にお母さんが偶々帰って来ちゃって、勉強してるフリしてるお兄ちゃんとか⋯⋯」
コイツ、結構ちゃんと見てるな⋯⋯。
けど、僕は覚えていない。舞喜の人形を取ったというのも覚えがなく、母親が帰って来た直後に勉強のフリだけする小賢しい子供だったと自覚はしてるが、試した記憶がないのだ。
「買い物して、アタシが迷子になって見つけて貰ったら、先に探してくれてたお兄ちゃんも迷子になったりとか──」
「僕、覚えてないなぁ⋯⋯」
「後、『かなちゃん』っていうアタシぐらいの歳の子と遊んでたら、お母さんに連れて帰らされた時とか、かな?」
来てしまった。いや、促したのは僕で、聞こうとしてるのも僕なのだから、きっとその表現は間違えてるんだろう。
けど、薄情者である事が⋯⋯善人ぶった仮面がベリベリと剥がされるような音が心境から煩く鳴り出していく。
(自分から聞いといて⋯⋯馬鹿みたいだな)
ツケが回ってきた、というのが正しいのだろう。
僕と富宮の付き合いは中学時代からで、初対面と思ってた体育会のリレーで隣だった時、やたらと挑発を掛けて来たのも、クラスが一緒になって睨まれていたのも、すぐに攻撃的になるのも、何か意味があると最後に考えたのは何時だったか⋯⋯。
もう、そういう人物なのだと割り切ってしまい、適当に富宮の行動一つ一つを流す動きが常套手段のようになって、向き合うというのをしてこなかった。
攻撃的な理由についても僕は真剣に聞いていなかったし、高校卒業後は別々の人生で完全な赤の他人として綺麗さっぱり忘れるのだと、確信すらしていた。
けれど、それは逃げだ──。
忘れていたのは確かで、苦手なのも本当だが、忘れたのはきっと僕が先で、他人として接したのも僕が始まりなのだろう。
現に『かなちゃん』というあだ名を舞喜経由で改めて聞いても、ピンとも来ない。
完全に僕自らが、捨ててしまった過去なのだ。
「⋯⋯⋯⋯どのぐらい覚えてる?」
「うーん。なんとも言えないけど、ブランコで遊んだり、一緒に鬼ごっこしたり⋯⋯。何時も、この辺をヘアゴムで結んでた子だよ。お兄ちゃん、覚えてないの?」
「⋯⋯全く」
両手で拳を作り、後頭部に二つここだと示す。
結ぶ位置が少し高めのツインテールといった具合いだろうか?
そんな子供、幼い頃には割と見掛けたし、特別感なんて何もない。
「『かなちゃん』のお姉さんも?」
確信的な人物が出てきた。もう、確定してしまったようなものだ。
姉の情報が出てきてしまえば、『かなちゃん』=《イコール》富宮奏海で間違いないだろう。
「どんな人だった?」
「すごい怖そうな人だったよ?アタシ、喋れなかったのにお兄ちゃん、その人にズカズカと話に行くんだもん。アタシと『かなちゃん』でアルプス一万尺とかして誤魔化してたけど⋯⋯」
「その場所知ってるか?」
「うーん。どこだっけ?でも、遠かったと思う、けど⋯⋯。分かんないや」
「⋯⋯⋯⋯⋯そうか」
実は既に場所は加鍋先生から一通り聞いていたのだが、確証は欲しくて舞喜に聞いたに過ぎない。
まぁ、確証は結果として得られた部分の方が大きいし、小さい頃に行った場所なんて覚えてなくてむしろ当然と言われれば当然だろう。
何より今日、僕が行くべき場所が判明した⋯⋯。
学校方面は昔、立ち退きがあった末に建物が取り壊されて別の建物に変わった地区なのだが、その場所は街全体で見れば山側にして、南東側。
かつては、のどかであるものの舗道がそれほど綺麗にはされていないのと、車一台分の道幅しかなく酷い道だったと、老朽化が進む家屋、閑古鳥が鳴り果てた末に閉鎖した老舗と辺りには何もなく、寂しい光景が道に沿って伸びていたのをよく覚えている。
それが何時からか、道は舗装されて、店は多く並び、家屋は綺麗で立派な建物が鎮座するようになり、当たり前となってしまって忘れていた。
当時十歳前後の年齢から僕は親に対して反感を抱くようになって、今に至る訳だが、その全ての切っ掛けとも呼べる出来事が一つだけあった。
あの日、僕は宿題も言われていた家事も全て済ませて、前々から予定していた遊ぶ約束へ向けて準備していたけど⋯⋯結局、母親は「あんな子と遊んでたら、迷惑になっちゃうでしょ?」と散々な事を言われて、その日の予定は事実上キャンセルになって⋯⋯。
待ち合わせ場所にバスを使って、謝りに行こうとした日には既に工事の手が入っていた。
そこは小さな公園だった気がする。
サッカーも野球も出来るような広いスペースもなくて、ブランコと砂場だけの小さな公園。
その場所に建てられた建設物は店を開いて、二年前ぐらいに閉店して、今はコンビニになったと聞いた。
富宮奏海はそのコンビニに居る⋯⋯僕にはそう確信的なものを感じて、財布を手に取った。
話さなければならない。
謗りと罵りは甘んじて受けなければならない。
僕が今日か明日、死ぬ理由があるとすれば、アイツの言葉通り、死に招かれるからだろう。
それでも、恨みもしないし、憎む事はきっと──ない。
どんな理由であれ、約束の反故を始めたのは僕からで、富宮には全く持って関係のない事なのだから。
スペース・オペラという言葉を聞いて、何故か最初に思い浮かんだのが宇宙戦艦ヤマトだった私は異常なのだろうと察した紫芋です。
蛇足感のあるお話が続きましたが、ようやくマトモに話が進みます。




