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この街は今日も語る  作者: 紫芋
夏休みシリーズ 富宮奏海は罪を語る

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映画研究部

やべぇ夏休み終了までに話完結できるか、不安になってきた⋯⋯

「ねぇ?やっぱり止めようよ!」


 夕暮れの刻、動き疲れた身体は水分を欲するように汗をかいており、髪は水を大量に被ったように濡れていたが、そんなのは何時もの事。


 猛暑日の中、最高のコンディションに近付ける為、迫る日時に少しでも整わせる為の日々に、体力の消費は惜しまない。


 数時間前に発生していた陽炎は何処へやら。


 今では僅かに吹いた微風が肌を舐めて、帰宅しようとするものを優しく見守るばかり。


 そんな屋外を嫌ってか、建物の中に入り、二人の人物は話をした。


 以前から持ち上がっていた計画。


 二人が互いに幸せになる為の理想像。


 あまりにも滑稽で倫理的には外れているであろう物事に異議を申し立てた協力者は声を荒らげる。


「お前、俺の気持ちが分かってて、言ってるのか?お前だってッ!」


「⋯⋯そうよ」


 多少、臆した様子を浮かべて目を細める。


 揺らいでしまった信頼と関係性。


 打算的な思考は揺蕩うようであり、常識的、理性的な感情を押し殺していた自分を恥じて、目の前に立ち塞がった。


「呼び出したと思えば⋯⋯。お前、どっちの味方なんだ?」


「それは、あんたの味方だけど⋯⋯」


 嘘偽りはない。だからこその異議であり、改心と同時にやり直しの機会を与えたいと、心の底から望む協力者の表情には陰りが見えた。


 男にはその陰りがよく窺えた。


 夕暮れの陽射しは窓を強く差しており、協力者をオレンジ色に染めている。


 そんな中に見える陰りは裏切りの兆候ではないと分かっていて、それでも男は顔を顰めた。


「だったら、協力してくれ!俺はもう、我慢ならないんだ」


「でも、流石に悪いよ?こんな事、あの子も何言うか」


「大丈夫だ。きっと理解してくれる。俺にアイツが必要なようにアイツにも俺が必要なんだ!だから⋯⋯⋯⋯」


 身体は芯が発火したように熱く、熱く⋯⋯。


 焼いている感覚は、つい最近生まれたもの。


 今までの日常、常識、ごく当たり前だと信じて疑わなかったその関係性に突然舞い込んだ死神は晴天であった筈の青空から忍び寄り、大切な者を一人、丁重に攫って行った。


 男はそれが我慢ならないと、反旗を翻し正義の名の元に立ち上がったのである。


 協力者も同様、その姿に心打たれて立ち上がった。


 これからも共犯者。何処までも傍を歩き、永遠足り得る幸せに堕ちていくと信じて止まなかった。


「なんか、最近変だよ?どうしちゃったの?」


 だが、協力者は覚めてしまった。


 本当に求めていたものは変わらない。


 だが、道徳的な観点、異議を申して、反旗を翻してしまう事が如何に自身達を惨め、滑稽へと肉付けされていくのか理解出来てしまった。


 誰もが言うだろう。


『間違っていない』と。


『やっぱりそうでなくては』と。


『幸せであれ』と、活気喝采の嵐で何時までも永遠の日々を送ってくれる、と。


 それでも、そうだとしても協力者は覚めて、冷めてしまった。


 切っ掛けは単純な事で、後方から偶然見えてしまったその表情が何者よりも眩く、そして、そこに残影を求めてしまった自身の汚さが脳裏に過ぎり、今に至る。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯お前まで」


「え?」


「お前まで、俺を憐れむのか!!」


 映る光景に協力者はいない。


 過去の傷、屈辱と雪辱に塗れた旗が本当の象徴シンボルを象る時には男は歪み切った表情で協力者に詰め寄っていた。


 肩を掴み、誤認であると確かめるようにするも、あしらわれるように払われてしまう。


「ち、違う!違って!そうじゃない!いつものあんたらしくないって、そう思っただけで──」


 手に痛みが走る。数秒、間が空いた。


 協力者は引き攣った顔を浮かべて、男は目を見開いて払われた手を凝視する。


 重なる苦渋は心を騒めかせる。


 理想との乖離は薪を焚べた際に発生する発火音と弾けた音のように亀裂を広げて、芯は更に焼かれていく。


 ままならない現実との対比は、自身の人生の無価値さの証明へと直結していき、それを否定するように身体に力が籠められた。


「それが憐れんでるって事だろうが!⋯⋯なんで、いつもいつも上手くいかないんだッ⋯⋯」


 協力者は俯く。真から出た言葉は他人事として割り切っても良い筈だというのに、肯定と容認、許容の気持ちが昂っていく。


 だが、それは甘えだと同時に制して、グッと耐える。


「俺が何したってんだよ!アイツもそうだ!勝手に掠め取りやがって!俺のだ、俺の物だったんだ!なのに!」


 肥大化する欲望は止められない。


「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!なんで何時も上手くいかない!なんでどうして俺ばっかり、俺が何したってんだ!いいじゃねぇか!俺にだって幸せがあったって⋯⋯なんで、なんで、なんで、なんでっ!」


 協力者は知らない、その男の欲望の深さと浅はかさを。


 積もり積もっていくその欲望は黒く染まっていき、醜悪さが滲み出てくる。


 泥のように粘り気と触り心地が極めて悪い悪意の感情は憎悪と嫉妬で練り固めていき、歪な形へと成っていく。


「だから嫌なんだ、嫌いなんだ⋯⋯⋯⋯。そうか、アイツを殺したら、ははは!おい聞いてくれ!俺いい事を思い付いたぞッ!アイツが死ぬだろ?そうしたら、悲しむと思うんだ?そ、それで俺がギュッと⋯⋯な?いい考えだと思わないか?」


 協力者は身動ぎした。狼狽え、純粋な悪感情が身体を絡み付くようなものへと変わっていく。


 歪さの露見。誰もが持っているイドの源水は溢れ出して、行動力へと還元されようとするその様子に後退り。


「俺さ、最近のアイツが妙に気に食わないって思ってたんだ⋯⋯。俺の物を掠め取ろうとするなんて、盗人猛々しいだろ?アイツなんて、俺より何もかも下で、きっと皆に聞いても同じ事言うんだよ。なのに、俺が、俺が、俺がいっちばん!欲しいものに限って盗りやがった!許せねぇよ、許せる筈ない。っ殺してしまえば良いだけなんて、なんで気付かなかったんだろうな⋯⋯。はっははは、そうだそれでいい。やっぱり俺は天才だ。おい、そうと決まれば協力しろ。お前は呼び出してくれるだけで──」


「⋯⋯ぁぁ」


 限界点は過ぎてしまった。幻想であって欲しいと心の奥底から望んだ理想の彼は既に死んでしまい、怨嗟にも似た醜すぎた嫉妬心で焼かれてしまっている。


 その不敵な笑みには悪意が全面に出ており、瞳の奥は黒く染まり、純粋な好意と善意は露と消えていく。


 それは一つの豹変であり、映し込まれるその男の姿は冷めきった愛情の証左へと繋がってしまう。


 説得が出来ない。少なくても自身にはそれが不可能なのだと、理解してしまった。


 泣きそうになる目頭は抑えきれず、真横にある階段で一階に降りて説得が唯一出来る人物へと会おうと、脚が動いてしまう。


「おい、何処に行く?⋯⋯おい!」


 その怒声は響き渡る。僅かに向いた視線に映った男の顔には激昂を称しており──理想が砕けた音が心中に哭いた。


 そして──────。


「っ!!おい!」


 身体は意図せずふわりと浮いて、目の前には段差が迫り、体感は長く、瞬間は永遠であれば良かった──が、それは叶わない。


 騒がしく音を鳴らしながら、階段から滑り落ちてしまった協力者は動かずにいた。


 ひたすら無音を貫き通してしまうその協力者を唖然とした様子で見下ろすだけの男の身体は震える。


「っ⋯⋯⋯⋯嘘だろ?!冗談だよな?死んじまったのか?んな馬鹿な⋯⋯。また、俺の前で人が死んで⋯⋯ぁぁぁあ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 刺激される感情は唸る悲鳴を発生させた。


(冷たい、痛い⋯⋯。嫌だ、死にたくない⋯⋯パパ、ママ⋯⋯。助けて、助けてよ───)


 一粒の涙は過去の残影へ手向けた。


 幸せの絶頂期──惑う暇すらない光に満ちていた幸福と僥倖の日々へと送る。


 刹那、ノイズが走った──。


 意識の遠のきは現実的なものだと気付いた時、協力者は瞼を閉じた。


「俺は悪くない、悪くない、悪くない、悪くない、悪くない、悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない。──っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 叫声が齎したその悲劇をある人物が駆け付けた事により、露見へと至る。


 建物全体に響き渡る程であった為に、近くを通った者ならば嫌でも耳に入ってしまい、思わず見に来てしまった。


「どうしたの?⋯⋯⋯⋯っ!嘘でしょ!?」


 切望とは、いつだって危機的な状況から始まる。


 逼迫と切迫を押し殺して、それでも止まない本心は積もりに積もり、街は今日も肩を貸す。


 理想的な思考の限界、現実と恒久の乖離。


 わだかまりと小さな齟齬、そして奏られた呼び掛けと叫び声を胸に押し当てられながら、赤い血溜まりは海のように広がっていく。


 スクリーン上のように浮かび上がったその光景を影はひっそり嗤う。


 増えた──。何もしなくても勝手に増えた。


「⋯⋯っふふ、もっと増えてね。私の子供達」


 窓を思わず眺めたその人物は夕焼け空を眺めつつ、立ち上がって、鞄の中から一つの小さな箱を取り出すと、その中にあるマッチ棒を一本摘むと、強く滑らせた。


 ボンッ!と、確かに鳴ったそれは、揺らめく小さな灯火と変わり、息を吹き掛け四葉の葉へと成る。


「あの子の名前は⋯⋯【怨讐の十字(クローバー)】そう、あなたの名前はソレ」


現象こども』に乾杯。


人間しげん』に乾杯。


わたし』に乾杯。


  ━ ━ ━


 ここで、今更ながら僕の通う学校について詳しく説明しなければならないと思い、語らせてもらう。


 まず、校舎は二つ、渡り廊下を経由するか一階にある扉でどちらにも入る事が可能なごく普通の高校。


 部室棟が僕達の教室がある校舎の一階からならば昇降口を通らずとも行ける仕様となっており、道もコンクリートで敷かれている。


  僕達の教室がある校舎を普段、僕達は『メイン校舎』と呼称しており、移動教室や空き教室、補習等で使う教室がある校舎を『サブ校舎』と呼ぶ。


『メイン校舎』に生徒会室、保健室が設置されていて、『サブ校舎』には職員室、校長室、図書室や資料保管室が置かれている。


 体育館、食堂、多目的ホールがくっ付いている設計で、窓の先にはベンチとグラウンドが広がっていて、小さいながらも農園エリアもある始末。


 グラウンドは『メイン校舎』の正面玄関からも『サブ校舎』の正面玄関からも同じぐらいの距離に作られており、校舎の真横にドン!と広がっている為、校舎が敷地の奥にあり、間に部室棟、体育館、その手前にグラウンドという順番と言えば分かりやすいだろう。


 今は使われていないテニスコート、弓道場もグラウンドの隅にあるのがうちの学校であり、一つのウリとなっている。


 そして、この学校のスローガンは『自由な校風』を掲げていて、部活の設立も入部希望の際の理由も比較的に甘めであり、一律で規定人数となっている五人という数さえ居ればすぐに作れる。


 昔は『ノタマッち部』なんて言う掌サイズのゲームで遊ぶ為だけの部活があったらしく、流石に定員割れを起こしてしまい、潰れてしまったが、それほどに自由にやれというのが滲み出ているのだ。


 そして、ぼくたちが今向かう『映画研究部』も定員割れを起こしていない為、当然存続中であるが、活動記録はここ五年無し──というのが現状。


 部室は『サブ校舎』の二階の奥にある空き教室の一つを占領する形で使われていて、今尚、何か喇叭の音が扉を貫通して漏れている。


 決して、吹奏楽部が吹いている訳ではない。


 奴らは三階にある音楽室を使っているが、今日は部活がないようであり、普段から放課後に聞こえてくる金管楽器や木管楽器の音色が聞こえないのは、いい証拠だろう。


「音楽鑑賞でもしてるのか?」


「ん〜、どうだろう。まぁ入れば分かるって」


 ノックとは普通、指を使ってドアを叩くものなのだが、富宮に限っていえば、そうではないらしい。


 最初はグー!次に小指側を扉へと向けて、最後に乱打!!


 圧倒的なその打撃音は五回ほど行われ、僕もトッキーも引いてしまって、思わず目が合ってしまう。


(ヤバい奴じゃん。知り合いと思われたくねぇ⋯⋯)


 そっと一歩、後退り──したのだが、時すでに遅し。


 映画研究部の部室の扉が開かれてしまった。


 徐ろに僕達の方へと富宮は歩いて行き、擦り付けるように少し後ろに下がる始末。


「何?!煩いんだけど!⋯⋯⋯⋯誰がやったの?」


 出てきたのは、眼鏡掛けている茶髪の男子高生。


 大人な顔付きに細い体格、シャツのボタンは全開でズボンに巻き付けているベルトの端は垂れていて、少しだらしない格好にも見受けられる先輩だった。


「ん⋯⋯」


 そんな先輩相手に富宮が指差したのは、まさかの笠辺先輩であった。


 コイツ、よく見てやがる。鋼鉄かと思うほどの表情筋の硬さに話し方はロボット風の人なんて、傍から見れば変人だろう。


 擦り付ければ、説得力は増す。


 けど、やっぱりコイツ狡いな。


 僕もトッキーも笠辺先輩へと視線を送っているのだが、笠辺先輩は部屋から出てきた男子生徒を注視していた為に僕達の視線には気付かずにいる。


「笠辺さん。こういう悪戯、止めて欲しいんだけど?」


「え?⋯⋯⋯⋯なんで君達、私を見る、の?」


 ようやく視線に気付いた時には、既に悪者状態。


 追加とばかりに「言ってやれ、言ってやれ」と富宮が小さく呟く始末。


(コイツ、将来屑になるんじゃねぇの?)


 素質は花丸級。よりにもよって初対面で地主とか何とか言って持ち上げていた人物にこの仕打ち。


 ハッキリ言って屑でなければ出来ない所業だ。


 流石に可哀想だと思い、僕は先輩の名誉を守る為に名乗りを上げようとする。


「あ、あの⋯⋯実はぁぁぁぁあッてぇぇぇ!」


 太腿の肉を思いっきり摘まれてしまい、痛みで叫んでしまう。


 誰がやったとばかりに後方を見ると、富宮が僕を睨み付けていた。


「お前、なにがしたいんだ?」


「良いから本題に行って!」


 なんで小声で返してきたのかを聞いてる猶予や余裕は太腿の痛みによって阻まれてしまい、むしろ怒りの方が湧いてくる。


「君、何話してるの?」


 先輩の名誉と僕の脚。一体どちらが大事か?


 問うまでも、もはやなかった。


「ぇぇ、秘密の座談会?ですかね?」


(さようなら、先輩。貴女が変人であった事は金輪際、一生涯、忘れません⋯⋯)


 流石に馬鹿にするような言い訳だったろう。


 予感は見事に的中して、明らかに不審者を見るような視線で僕と富宮を凝視していた。


(僕は無罪、冤罪だ!DNA鑑定を希望する!)


 今尚、僕の脚は富宮によって制圧されてしまっており、痴漢に間違われて罪を擦り付けられそうになった者のような抗議を脳内でするしかない。


 声を出せば、更なる罵声と共に報復絶倒という名の理不尽によるはっ倒しが、僕の心身に待っているであろう事は簡単に予期出来てしまったからだ。


 何それ、酷い⋯⋯。抱腹絶倒であって欲しかったと切に懇願するも、多分無理だろうと諦める。


「用が無いなら帰ってくれ」


「あ、あの」


「⋯⋯⋯⋯なに?」


 完全に迷惑な客として僕達を見限ろうとする先輩に笠辺へん──先輩は、声を掛けた。


 明らかに不審者扱いされている眼差しだったが、人柄が元々良いのが幸いしたのだろう。


 何も言わずに部屋に入ってしまうという人ではなかったのは幸いの限りだ。


「実はこの『映画研究部』に、昔在籍していた人を、調べてて、それで⋯⋯」


「誰を?」


 言われてみれば、僕は知らないぞ?


 ずっと、富宮の姉さんとしか聞いていないから、名前を知らないでいる。


「⋯⋯名前なに?」


富宮とみや詠香うたか。今から八年前の生徒」


 八年前に高校一年生という事は、富宮妹が九歳辺りで富宮姉と死別したという計算になる。


 仮にお姉さんが生きていれば、二十五歳と大学卒業して院生になっているか、就職している年齢だ。


 それはそれとして、富宮の奴がさっきからおかしい。


「⋯⋯お前さっきからなんで小声なの?」


 露骨に人との会話を避けている。


 それだけでなく、まるで人に姿を見られないように縮こまっている風にも見える低姿勢。


「良いから、言う!」


 だが、それは姿勢の話であり、態度と言葉遣いは何処まで行っても背伸びしている程に高い。


 先輩と何かしらのしがらみでもあるのか、それとも何か別の理由があるのか。


 どちらにしても、今それを追及してしまったら、姉が生き返ったという『現象』に関して謎のままとなり、何故姉の生きていた頃に所属していた『映画研究部』に今になって訪れたのか、その謎も分からず仕舞いになりそうなので控える事にした。


「あ、あの、富宮詠香さんっていう人です。七年前の生徒さんで⋯⋯」


「⋯⋯富宮詠香?その人の事は知んないけど、八年前って言ったらこの部活が出来た年だね」


 この学校が建設された年と比較すると、最近作られた部活動であり、発足メンバーの可能性もある。


 そう考えてると、ちょっと興味も湧いてくるものだ。


「あ、あの。写真、残ってる?」


「⋯⋯というか、俺はむしろなんでそれを知りたがってるのかが、気になってんだけど?」


 ごもっともとしか言えない。いきなりの騒音ノックに四人での訪問に昔の部活動メンバーを知りたいとご相談。


 だが、さっきから話をしていた笠辺先輩も流石にこれは黙ってしまう。


 恐らく、理由を富宮から聞かされていないのだ。


 でなければ、先輩は理由を口にしてくれている筈。


 そして、僕もトッキーも『何故、姉の事を知りたいか』という事に深く言及もしていない。


 家族の事を知りたいという欲求自体は割と間違った事ではなく、『映画研究部』にその姉が居たという痕跡があるのならば、向かう事自体はなんら不思議もないのだが⋯⋯問題は、その『姉を知りたい』という欲求がどうして今なのか?という点だ。


『現象』で蘇ってしまって、つい最近まで姉の事を忘れていたのならそれを隠す理由が分からない。


 それとも、蘇った姉の対処方法が部活動にあると思ったのだろうか?


 ならば、なぜ僕を呼ぶのか⋯⋯。


 映研の先輩も僕達も皆、沈黙が流れてしまう。


 何かしらの弁明があると、期待していたのだろうが、それを裏切られたようにそっと扉を閉めようとする。


「どったん?」


 だが、それに待ったを掛ける者が現れた。


 扉からひょいっと顔を見せるようにして現れたのは、薄い生地の水色のパーカーを腰に巻いて、金髪のロングヘアに目付きが鋭く、少し肌が焼けている女子生徒。


 少なくても二年ではないのは分かる。


 だって、こんな人居たら目立つもん。


「紗央里。いやな、なんか昔この部活で活動していた人を調べてるっぽいんだけどさ⋯⋯」


「⋯⋯ん?あ〜!さややんじゃん。どったの?」


 僕達の右方向、見つめられる先に居るのは──。


『さややん』というあだ名の笠辺かさべ沙耶さや先輩だった。


 僕は驚愕してしまう。なんて事だと露骨に表情に表れてしまい、思わず口が開いてしまう。


「え?さややん?先輩⋯⋯友達、居たんです、か?」


 そう、まさかこんな不思議ちゃん枠にクラスとして入っててもおかしくない先輩にご友人が居た事の方が、僕はとてもじゃないが信じられなかった。


 てっきり、トッキーのように浮いてしまっているものかとばかり⋯⋯。


 だが、どうやらそれが不服のようで、目が少しだけ細まるのを見た。


「君、失礼⋯⋯。私にだって友人は、居る」


「あれぇ?というか、さややん、慕われてる後輩、居た、の?」


 今度は金髪先輩にも似たような事を思われている。


(やっぱりこの人、クラスで浮いてんじゃないの?)


 そう、思わざるを得ない。だが、少なくてもトッキーよりは馴染んでいるのだ。


「⋯⋯⋯⋯紗央里、私は悲しい」


 トッキーよ、見習え。これが僕がお前に求めた、あるべき姿なんだよ。


 あの互いに冗談を言える関係。あれをクラスで一人でも構築して欲しかったものなのだが⋯⋯トッキーは現在でも絶賛クラスでぼっち中。


 前に様子を伺った時なんて、弁当片手に何処へやらと思えば、真夏で人気のない屋上で陽射しに当てられながら、弁当を食す姿に僕は涙を禁じ得なかった。


 僕にすら嶺二が居てくれるのに、お前って奴は⋯⋯そう思い、その日ぼっち飯予定だった僕は一緒に屋上で飯を食べたのである。


 どうしてぼっち飯なのか、今度討論する余地が出てきてしまったようだ。


「あー、ごめん、ごめん!でも、珍しいからさー。で?さっきの騒音ノックもさややん?ダメだぞ〜、あんましデカイ音立てるなんて、ここは暇つぶっ⋯⋯ゴホン。映画研究部、立派な部の活動をしてる所なんだから!」


「今、暇潰しって言おうとした?ねぇ?トッキー聞いた?」


「聞いたわ。怠惰の集まる文化部とは聞いてたけど、ここまでなんて」


 それはちょっと知らない。


 怠惰が集まる文化部ってなに?駄目な奴は必然的に惹き付けられる性質のある部なの?


 映画研究なんてちょっと面倒臭い印象もあるが、やりごたえもありそうなものなのだが、どうしてそうなった。


 眼鏡を掛けた先輩は部屋の奥へと行ってしまい、代わりに金髪先輩が門番として立ちはだかっているのだが。


 なんともラフというか、軽い感じがしてしまう。


 金髪で肌焼けというパッと見では怖い印象も植え付けられてしまいそうなものだが、先輩本人の雰囲気がそれを殺しているのか、凄いフレンドリーに接してしまいそうになる。


 言わば、魔性って奴かもしれない。


 シャツの第二ボタンも開けて、通気性を良くしようと試みているのだろう。


 そのせいで見えてしまう谷間を僕が思わず見てしまうのも、きっと魔性のせいですね。


 えぇ、そうだとも。


 そして、仲の良い友人なのだろう。


 笠辺先輩は先程の先輩と比べて、活き活きとした様子で事情を話していき、金髪先輩は聞き上手なのか、頷きながら話を聞いてくれていた。


「なるへそ、なるへそ。りょ!取り敢えず、部室の中調べるから待っててくんない?」


「うん、分かった」


「あ、あの!」


 僕は思わず、ビックリしてしまった。


 背後からどデカい声が耳を劈くように鳴り響き、思わず耳を塞いでしまう。


 本当にコイツは容赦以上に気遣いがない⋯⋯。


「ん?どったの?」


「私の姉なんです。探して欲しいのは」


「へぇ〜。そうなの?」


 確認のように笠辺先輩へと問い掛けると、先輩は頷く。


「うん、そう」


「なるへそ。⋯⋯⋯⋯じゃあ、いっその事、皆で入って探しちゃおっか?」


「え?僕達も?」


 正直、ある程度部室の中に仕舞われている物品に触れて、後になり、とやかく言われたくない僕は大人数での散策は避けたかった。


 それに、探すならば知ってる人間が集中的に探して頂いた方が早い気もしていたし、てっきり皆そのつもりだと思っていたのだが、肝心の笠辺先輩も富宮もやる気に満ちている。


「とーぜんっしょ〜。彼女さんでしょ?彼氏なら一緒にちょっちばっかしの苦労は背負ってあげなきゃあ」


 これはこれは、熱い誹謗中傷だ。


 熱愛誤報なんて藍莉に知られた日にはどうなるか知らないのだろう。


 僕も知りはしないがきっと大惨事だ、僕が。


 だから僕の名誉と肉体の為に、そんな嘘を広めるのは是非ご勘弁頂きたい。


「あ、じゃあ違うんで背負わなくて良いですね」


「ありゃ?違うの?マジで?こんなに密着しておいて?」


 そう言われて、富宮の方へと改めて視線を向ける。


 確かに言われてみれば、袖辺りにやたらと引っ張られる感覚と背中に息が掛かるとは思っていたが、気にする程でもないと意識外に放り込んでいたのだ。


 しかし何故か、富宮が小さく袖を摘みながら、僕の背中に密着しそうな程に近くにいる。


 本当になんで?


「え?⋯⋯⋯⋯お前、なんでそんな距離近いのん?さややんが怒ってるぞ?」


「良いから、行く!」


 僕の背中を押して部屋に入ろうとする富宮に抵抗するように脚に力を込めていく。


「流石に一人で入れよ!」


「良いから!言う事聞いて!」


「僕はお前の玩具おもちゃじゃねぇんだよ」


「なら、私も──」


 絶賛抗戦中の僕達、それに混ざろうとするように笠辺先輩も参加しようと近付いてくる。


「はい、じゃじゃ馬娘先輩は中に入りましょうねー」


 しかし、何処か嫌味ったらしい笑いを浮かべたトッキーは笠辺先輩を誘導するように、いや、もはや盾にするかのように背中を押していく。


 想定外の乱入が、笠辺先輩の隙を生んだ。


「待って、常盤さん。私じゃない。本当に、違うから⋯⋯。じゃじゃ馬娘って呼ばないで」


 気付けば、部室までの距離は一気にゼロになり、扉の真ん前まで来てしまい、抵抗するようにドア枠に手を掛ける。


「そんな女性アイドルグループの曲名みたいにゴネても駄目でーす」


 そして、トッキーの腰の捻りを余す活かして繰り出された飛び蹴りは物の見事に先輩のお尻に直撃し、小さな悲鳴と共に部室の中へと消えていった。


 極悪な攻撃をしたトッキーはご満悦とばかりと部室の中へと入っていく。


「僕達も行くか」


 抵抗する気概もなくなり、富宮にズルズルと押しされながら僕達も入室したのだった。


  ━ ━ ━


 映画研究部の部室は中央に机を四つ縦と横に並べて風車のような形で置かれており、意外にもキャスター付きのテレビ台に設置されたモニターでしっかりと何かの映画は視聴しているようで、黒板には注意点や改良点と言った具体的な内容が白、赤、黄のチョークを用いてしっかりと書かれていた。


 怠惰の集まる部活だなんて言われていたにしては、しっかりと活動をしているようにも見えた僕は思わず呆然となってしまう。


「はぁ⋯⋯紗央里。マジで探すの?」


 眼鏡を掛けた先輩の困惑が滲み出る言葉は僕の意識を向けさせた。


「うん、この子のお姉さんを探したいらしいの。ねぇ!お願い、協力してあげて!」


 手を合わせて、頼み込んでいた。


 本来、僕達⋯⋯もっと言うなら富宮が金髪先輩のように頭を下げなければならない立場なのだが。


 僕もコイツを連れて頭を下げようかと考えていた時、小さな溜め息が漏れる。


「⋯⋯はぁ、全く。なら、そこの棚だね。活動記録は纏めてあの棚の中にあるから」


「ありがとう〜!じゃあ、早速拝借、拝借ぅ〜」


「君はこの部活動のメンバーだろうに」


 勢いよく上がった顔からは満面の笑みがお出しされ、金髪先輩はそのまま富宮、笠辺先輩、トッキーに招集を掛けて、部屋の奥にあるロッカーと、その上にある引き出しへと誘導して捜索を開始した。


 なんともエネルギッシュなことだと、僕は風車状になっている机にしまいきれていない内の椅子の一つに腰掛けて、健気に頑張っている女性陣の背中を眺めるのみ。


 すると、訝しむような視線で黒板に書き足していた眼鏡先輩が僕の方へと歩いて来た。


 どうやら、作業は一時停止という事だろう。


 何故か部活メンバーの数も二人だけで、これ以上居る雰囲気もなく、モニターに映し出された廃墟のような場所も停止ボタンによって先には進めない。


「⋯⋯人数、居ないですね?」


「あぁ、夏休みは自由に部活参加だからな。残り三人は今日は来てない。代わりに明日来る」


「交代ばんこって感じですか?」


「いや、俺と紗央里は部長、副部長だから、必ず来なきゃ行けない。その他のメンバーだから許されてる暗黙の了解って奴」


「成程⋯⋯」


 サッカー部にそんなものを持ち込んだら、多分顧問か部長にどやされるだろう。


 この部活だけのルールで、夏休み限定の仕様とも言えるのかもしれない。


「ところで、君は探さないのかい?」


「えぇ、僕の姉ではないので」


「そうか⋯⋯。じゃあ、あの子か」


(そうそう、一番高飛車で僕の背中にくっ付いていたひっつき虫の方です)


 律儀かつ丁寧にロッカーから一枚一枚、何やら紙のような物を取り出した富宮の様子を見つめる。


 元々、体操服で長袖は日焼け対策の為に着ているだけの為、現在半袖の彼女はこの中だとかなり浮いていたが、同時に見分けが付きやすい。


 今日はトッキーも暑さに負けてしまったのだろう、後ろ髪を結んでポニーテール状態。


 ハッキリ言えば、服装以外はパッと見被る。


 だからこそ、服装判別しているのだ。


 あれから五分経ったが一向に見つかる気配はない。


 難航しているようで、同じ場所を探し始めているトッキーがよく目立つ。


 金髪先輩は健気というか、エネルギッシュというか、ロッカーの中にあるものを床へばら撒いて、座り込んで探しているのだが、正直効率自体は悪い。


 しかし、手伝う素振りを見せない僕がとやかく言うつもりもないし、ここで僕も参加すると、いよいよごちゃごちゃしだす。


 だが、僕が手伝わない事にお達しを申すように睨み付けてくる富宮の視線には敵わず、逃げるように目線を前から横へと逸らした。


 視界に入ったのは、モニターと停止状態となった映像。


 先程までは廃墟の画面が映っていたのだが、今ではDVD機器特有の黒い画面とロゴマークのようなものが画面を縦横無尽に一人旅している。


 最近の主流はUSBメモリーで保存してパソコンにモニターを接続して観るものとばかり思っていた。


 だから、今でもDVD機器で観ているのは、なんだか新鮮に感じてしまう。


「そういえば、先輩はさっきまで何見てたんですか?」


「他校の創作映画だよ」


「え?⋯⋯映画館とかで公開されてる映画じゃなくてですか?」


「本当はそうしたかったし、サボりたかったけど、珍しく顧問の若原先生が他校との交流を深めるって名目で暇な俺達にお鉢は回って来ちゃったんだよ」


「もう、サボる気満々だったんだ⋯⋯」


 この人ら、指示されないとダラけるタイプだな?


 僕と仲良くなれそうだ、是非盟友になろう。


「そりゃね?だって、その為に部活動に入る奴も居るよ」


「帰宅部じゃ駄目だったんですか?」


「うーん、微妙なラインだな。学校に残りたいけど、部活動の積極性は嫌い。運動部のあの感じとかね?そんなよく分かんない感覚に推されたんだと思うよ。まぁ、僕は先輩に誘われた側だから違うけどさ」


「学校に残りたいけど、家は嫌⋯⋯か」


 何となく、何となくだが分かってしまう。


 高校一年の転機が起こる前まではそれに近い感覚だったかもしれない。


 学校の方が比較的に自分というものを出せて、ワチャワチャと賑わう感じが好きで、強制よりも自由を求めて走っていた時期がそれだ。


 少ない人数で自分を出せて、一つのグループを形成。


 そして、その中で並行して歩く友人と仲良しこよしの毎日を過ごす。


 けれど、自宅ではまた別の自分を出して、なりたい自分を出せないから尚の事、求めてしまう。


 自宅では疎外感というよりも存在価値のようなものが薄れてしまう微妙な空気。


 居て当たり前、親の命令絶対厳守が当然で、家族なのだからというテンプレートでありきたりな言葉に押し負けそうになるのを、学校に行って、友人を作って乗り越えようとしている感覚。


「君も入る?」


 似た者同士故のシンパシーというのが先輩をそう言わせたのだろう。


 否定のしようはない。僕も昔はそうだったのだから。


「⋯⋯⋯⋯いえ、いいです。昔はそうだったんですけど、今は違いますから」


「⋯⋯そっか。なら良い。その方が絶対に良い」


 そう朗らかな笑みを浮かべる眼鏡先輩には少し悲しそうな雰囲気が漂っていた。


「そうだ、話のついでだけどさ」


 近くに置いてあった椅子に座った眼鏡先輩は、机に肘を付けて顎を手に乗せる。


「昨日、学校で事件があったらしいよ」


「え?事件?」


 流石に予想の斜め上の言葉が飛んできた。


 僕の興味は完全にそっちに流れていき、向かい合わせになるように僕は座り直す。


「うん。なんでも階段から落ちた生徒が居るらしくって、救急車に運ばれたんだって」


 少なくても、僕は十四時頃までは学校に居たが、特段、騒がしくなるような事は起きていなかった。


 言い換えれば、それ以降の話という事になる。


「それ何時です?僕、昼頃まで学校に居ましたよ?」


「夕方頃だから、君は知らなくて当然だよ」


「先輩は居なかったんですか?」


「救急車の音が聞こえた頃には、僕達は校門過ぎて、帰ってる途中だったね。聞いたのも今日で、バドミントン部の友人からだし」


 バドミントン部の活動時間は大して知らないが、かなり遅くまで練習をしていた筈だ。


 夕暮れ時が夏の時期は遅いというのもあってか、十九時台まで練習しているのは常であり、酷い時は二十時まで残る事もあった為、一年前に問題となったのが懐かしい。


「事故ですか?」


「さぁ?階段から落ちたって言ってて、生徒が二人救急車で付き添いに向かったらしい。顧問の先生は場を収めるのに忙しくて代わりに乗ったんだと」


「そっか、普通は大人が乗りますもんね?」


 本来、学校で救急車がやってきて搬送される場合、生徒ではなく教師が乗り込む。


 親御さんが病院に駆け付けた際、スムーズにその時の状況を話せる人間が求められるからだろう。


 まぁ後は、手術なんてなった時、夜遅くまで掛かってしまい、子供がそれに付き添いをしていた場合の送り迎えの手間を省くというのもあるだろうが⋯⋯。


 どちらにしても、学校で事件、事故で救急車沙汰になるのは大人も子供も避けて欲しい案件に変わりない。


 自殺現場の音一つでトラウマになる事だってあるのだから。


 ともかく、その生徒の安否は気になるところではあるが、他人ならあまり関わらない方が良いだろう。


 あくまでも世間話の一環。その程度に留めておく事にした僕は急に立ち上がった金髪先輩を目撃してしまった。


「あったぜぇぇぇぇーー!」


 掲げられる薄い赤色のファイル。分厚いそれを片手で掴んで天井へと捧げ出す。


 急なテンションの変わりようにトッキーも富宮も驚き、僕も唖然としてしまう。


「すまない。紗央里、テンションが上がると、あーなんだ」


「あ、いえ。面白い人とは思ってますよ?」


「それ、擁護になってないよ」


 どうやら、人生経験において、この人は上澄みのようだ。


「あ、ははは。⋯⋯⋯すみません」


 呆気なく底を見られた気になった僕は乾いた笑いを出すのが、精々なのであった。


 ファイルの中身は部活創設時の集合写真と共に活動記録を付けられているものであり、少なくても一年という短い期間の中でざっと八十近いページ数がファイルに納められており、その二ページ目に富宮と何処となく似ている人物が目に止まる。


「これが、富宮の姉貴か」


 五人のメンバーの中で真ん中でドヤ顔をしながら腰に手を当てている女性が一人。


 長い黒と僅かな青色のメッシュで遊ばせた髪、今の富宮のように腰元には濃い青色のパーカーを巻き付けて、青色のアイラインを施している。


 富宮に比べても大人っぽく、学生服でなければ多分大学生くらいには見える風貌をしており、見るからに少しキツイ言動をしそうな感じもするが、そこは想像の為、なんとも言えない。


 だが成程、発足メンバーというだけあって活気に満ちていたのだろう。


 真ん中のドヤ顔女子を除き、メンバーが皆、好きな作品を手に取って写っているのだが、左端からロン毛の男の人は特撮物を二種類、その右の好青年のようなキッチリとした男性は、洋画を手に取っており、今でもマニアがいる程の超人気大作。


 その次を飛ばして、右に居る女子はおっとり系という第一印象を抱きそうな方で犬猫が生まれ変わって別の飼い主に拾われるという二作品を手に取っており、一番右端の男性はチャラ男という印象が強く感じる金髪で鼻にピアスをしているのだが、持っている作品は宇宙戦争を描いた作品のもので、あまり映画自体に興味がないのだろう。


 何より、写真に写る人物達の後方にある机には大量のDVDが置かれており、現在のような閑古鳥が鳴きそうな感じはない。


「⋯⋯お姉ちゃん。あ、こ、この人」


 富宮が呟いた言葉に僕は思わず向いてしまう。


 誰の事か、目線で追おうにも分からない。


「先輩、写真撮ってもらって良いですか?」


「良いよ」


 笠辺先輩のスマホはすぐにそのファイルに写る生徒達を撮る。


「あ、あの先輩。この人と話出来ますか?」


 ファイルを持った富宮は金髪先輩にそう問いた。


 こちらからではファイルに指差した方向や箇所は分からないが、富宮の目的が何となく読めてきてしまう。


「⋯⋯⋯⋯この人、確か?⋯⋯『等区ひとく高校』の映作部顧問だったんじゃないかな?ちょっと聞いてくんね?」


「あ、はい!」


「ねぇ、みちちん──」


 眼鏡先輩、みちちんなんて呼ばれてんの?じやあ僕の場合なんて呼ばれるんだろうか。


 きりりん?⋯⋯それともじゅんじゅん?


 どっちにしてもあまり周りには聞かれたくない気がするのは、何故だろう。


 会話をする二人は『等区高校』の顧問について話しているようであり、心当たりはやはり眼鏡先輩にもあるらしく、怪訝な顔はせず、頷くのみであった。


「この人、確かに『加鍋かなべ先生』だ。この人を探してたのか?俺はお姉さんを探していると聞いてたんだが⋯⋯」


「どっちゃでも良いじゃんよ〜。細かいと禿げるよ?」


「誰がハゲだ!まだ禿げてねぇよ!まだ!!」


 親御さん辺りを見て察したのだろうか。


 眼鏡先輩の苦労が滲み出た言葉が僕達後輩にも伝わって来てしまう。


「よっしゃ〜。じゃあ、早速『等区高校』へ行ってみよーーー!」


 意気揚々と歓喜の声を期待したのだろうか、腕を大きく上げて出陣!とばかりに脚を部室の扉へと向けていく金髪先輩なのだが、肩を押さえる形で眼鏡先輩が制止させた。


「馬鹿野郎。紗央里、お前な、急に来られても迷惑だろ?」


「んーー。じゃ、どっすんのさ?」


「急じゃなければ良いんだ。この映研が今扱ってる作品⋯⋯、何処からのだ?」


「『等区高校』でしょ?⋯⋯⋯⋯あ」


 閃きましたとばかりに口をポカンと開けた金髪先輩に頷く眼鏡先輩はキャスター付きのテレビ台の収納スペースにあるノートパソコンを見る。


「そう、俺達が今回の面倒臭〜い研究報告書を仕上げてしまえば、自然と学校に入れるんだよ」


「じゃあー!」


「でも、それには人が足りない⋯⋯」


「⋯⋯そっか〜。そう言えば、忘れちってたけど、私ら今、二人しか居ないじゃん」


「⋯⋯はぁ、明日仕上げに入って、明後日。それでいいかい?」


 部屋の隅側に居る僕達に顔を向けた眼鏡先輩は少し声を張ったように問い掛けた。


 僕達は目配せして、富宮が頷きで返した事で了承と判断し、僕は先輩に対して頷く。


「オケ!」


「君に言ってないよ。今どう考えても後ろにいる彼等に声を掛けたんだ」


 呆れた眼鏡先輩と依然ハイテンションな金髪先輩の間に起きた食い違いを間近で見せられる僕達。


 この人達仲良いなぁ、なんて感じていたが、本当のところ、金髪先輩に振り回される眼鏡先輩の構図が思い浮かんでしまい、少し同情的になってしまう。


「あと、二作品分もある。急がなきゃな⋯⋯」


「そんなにあるのかよ」


 一作品じゃなくて、複数作品あるなんて、余程熱心に作っているのか、それとも手を抜いているのか⋯⋯いずれにしても僕達は彼等に任せなければならない。


「一本の映画が一時間までと決めた上で制作されているからな。二時間、三時間も作れるほどの忍耐と費用はない。部活も費用が降りて初めて為せるものだからな」


 生徒会や費用の申請は学校の運営を伴っている人達の担当。


 この学校が自由を生業としていると言っても、ある程度の成果を示さなければ、金は落ちてくれない。


 だが、映画研究部と映画制作はまたカテゴリーが違う気もして、きっと前者には大した費用は必要ないようにも感じる。


 知識が物を言うのが研究ではあるが、遺伝子研究や生態研究なんてものは嫌でも遠出をしたり、高額な機材や道具を揃えなければならないが、映画研究部は知識と書き留める物さえあれば済む。


 そういう意味合いでも費用は大して掛からないリーズナブルな部活とも言えよう。


「取り敢えず、明後日来てくれないな。明日には必ず仕上げてみせる」


「分かりました。お願いします」


 頭を下げ、僕達は部室の外へと出ようとする。


 ここでの用事は済んだ。帰って夏休みである事に現を抜かして寛ぐとしよう。


「じゃあね、さややん。この暑さでぼぉ〜としちゃダメぞよ?」


「私、そこまでとろく、ない」


「あっはっはっはっ。言えてるぅ〜」


 こうして、僕達は校舎を後にした。


 真っ白な太陽は未だに上に聳えており、肌を焼こうと燦々と輝いていらっしゃる中、校門前まで来た僕は富宮に聞くことにする。


「なぁ、笠辺先輩ん家に泊まったらどうだ?」


 事情をある程度知ってくれていて、心強く、何より戦闘経験すらある為、護身にも打って付け。


 それに言えば快く泊まって良いと言ってくれそうな懐の深さもある。


 そういう意味でも僕の家に泊まるよりも先輩の家に泊まった方が良いと判断したのだが⋯⋯。


「嫌。先輩には迷惑掛けたくない」


「僕なら良いのかよ⋯⋯」


「当たり前でしょ?何言ってんの?」


「どうして言い切れちゃうの?怖い⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


 視線を感じた。誰の?トッキーだった。不審そうに見つめるその瞳は何処か僕達に危うさがあると感じさせていて、僕はそれが気になって仕方なかった。


「トッキー、なんだよ?」


「⋯⋯いえ、何でもないわよ」


 何かある言い方だった事はすぐに分かる。


 けれど、何をもってそうさせているのか⋯⋯。


 富宮なのだろう。今日の富宮は少しどころか、かなりおかしかった。


 部室に入る時もそうだったが、あれほどに謙虚である理由が謎で、隠し事も多いと感じる。


 けれど、口達者にベラベラと言うだけ言って問い詰めたとしても、『現象』には効かない。


 必要なのは、正しい解決のルート、手段、方法なのだから。


 中途半端に憶測ばかりで語って、富宮が要らない事をしだしたら、それこそお手上げになりかねない。


 焦ってはいけないと、語りたい口をグッと閉じた僕は富宮とトッキーと何故か笠辺先輩と共に帰るのであった。


 そう言えば、この人、刀持ってくる時、やたらと荷物多かったけど⋯⋯まさかな。

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