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この街は今日も語る  作者: 紫芋
軽井椎奈は語り合う

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裏道話 朝倉拓也はやり過ぎる

余談のお話。本編の補足に近いのでスルーでも構いません。


はっきり言えば、自分でも設定をちゃんと理解出来てるかの確認で書いたに近いです。

 電話を切った後に急いで飛行して向かった。


 初めにした事は、学校の校門で影に縛られている彼女の縛りを解いてやる事だった。


 あれは捕縛が長すぎると生命力を奪っていく。


 早めに処理してやらないといけない。


 勿論、やった本人はその気はないのだろうというのは分かるが、せめて能力を理解出来るようになってから力は使って欲しいものだ。


 俺じゃないんだから。


 人差し指と中指を立てて、エンガチョ!とする。


 勢い余って倒れた彼女は自力で解けたと思っているようで、急いで校舎に走って行く。


 そうそう、それで良い。


「頑張れ」


 それだけ言うと、俺は一番面倒臭いであろう奴を探す。


 俺がではない。少年少女達にとって面倒臭いという話だ。


 何せ、基本見えない『幽霊様』でありますところで能無しの馬鹿で愚かな変態さん。


 上空百メートルから見下ろして、その存在を明確に探していく。


「⋯⋯⋯⋯居た」


 目標発見。と確かに心で呟いた俺は、転移移動して例の殺人鬼あほの背後にまで来た。


「サァァァァア〜、僕モ〜ッエ?!誰──」


 煩いからまた飛ばした。正直、下手に狂わせたせいでコイツが生きてるのは想定外だったんだが、まぁ良いか。


 その辺の処理そうじは俺の仕事と割り切ろう。


「えぇと、アイツは⋯⋯。幽霊って便利ね⋯⋯。三キロ先に飛ばしたのに、もう近いな」


 場所はグラウンド。


 溜め息を零して、また近くに移動する俺は、殺人鬼の背後にまた回り込んだのだが、それを察していたのか、殺人鬼はガラス片を持つ手を大振りで俺に向けて振るった。


「ほい」


「ハァァァ?!」


 手を払い、グラウンドに転がったガラス片を拾おうとする殺人鬼を蹴飛ばす。


 フェンスを突き抜けて、電柱に身体をぶつけてしまう殺人鬼。


 涎を垂らしながら、『幽霊パワー全開』とばかりに消えたり、現れたりをしているのだが、俺は普通に見えてるから関係ないんだよなぁ⋯⋯。


「お前、大振り過ぎるんだよ。やるならコンパクトにやれ。欠伸でそうになって、解説までしちまった」


「何言ッテンダァァァァァァ」


 そう言って、奴は全力疾走で此方にやって来る。勿論、消えたり、現れたり。消えかかってる蛍光灯かな?


「⋯⋯仕方ない。まだ時間はあるし⋯⋯遊んでやる。ご褒美だ」


 手を合わせた。合掌。その音は殺人鬼を静止させた。


 波長、身体の電気信号と呼ばれるものが生命体にあるように、『幽霊』にもある。


『心の波長』が。


 それを強制的に遮断して、動きと意識と精神を完全に分断、閉鎖の店じまいさせた俺は徐ろに近付いた。


 後、二秒で解ける。


 ほら来た。⋯⋯あ、倒れた。


 どうやら、肉体の感覚と意識の感覚がズレて倒れてしまったらしい。


 写真撮っとこ。パシャリと、スマホで撮った写真は殺人鬼が土まみれで間抜けにも、うつ伏せで倒れている姿を激写していた。


 週刊誌に売り込んだとして、幾らで売ってくれっかな?


「オ前、ナンナンダ!何シタ!?僕ニィィィ!」


 言ってもいいが、コイツ程度では対処出来ないだろうに。


 それに、俺としてはそんな事よりも話したい事がある。


「⋯⋯暇潰しに駄弁らない?」


「ハァ?!」


「いやぁ、今、校舎ではお前のお友達が仲良く少年少女と遊んでんじゃないかな?って思ってな。だから、まぁ。問答しようと思ってな。⋯⋯駄目か?」


「意味分カンナイ事言ッテンナヨ!」


「そう言うなよ?芸術好きなんだろ?色を好めよ」


「僕ハ、絵画ヲ描イテンジャナインダヨォォ!!」


 殴り掛かられたので避けた。右ストレートは俺の顔を左に逸れて行き、不細工な顔が前に来たから、右手でビンタしておいた。


「ウバァ〜〜ッ!!」


 パシン!といい音が頬から鳴り、クシャッとなった顔は泣きそうなのが窺える。


「しっかりしろよ能無し。こんなんじゃあ、最高傑作の完成には程遠いぞ〜」


「⋯⋯ッ!僕ノ何ガ分カルッテ言ウンダ。知ッタヨウナ口ヲ聞クナァァァ!」


「分かるさ。鍋に食材ぶち込んで、調味料無しで料理してるようなチンケな作品しか作れない下手くそだろ?」


「⋯⋯ナンダト?!モッカイ言ッテミロ!僕ノ芸術、作品ノ何処ガチンケダッテ言ウンダァ?!」


「チンケだろ?個性ないもん」


「⋯⋯ハァ?」


 さっきまで叫んでいた声が嘘みたいに収まった。


 もしかして、コイツ自身も内心わかってたりするもんなのか?


「お前の作品ってさ、どれも材料(ひと)をそのままに解体して、見せびらかしてるだけで個性ないんだわ。子宮燃やしてるのは男の方だろ?解体してるのは元々の趣味だろうし⋯⋯。バラしたぐらいで芸術家名乗れるんなら、誰も苦労しねぇよ。恥を知れ、化生エセめ」


「ナ、ナ、ナ、ナ、ナァァァァァァァ!ブッコロシテヤルゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」


 駄目っぽい。駄弁る事も拒否られて、そろそろ近付いてくるこの世界では強い部類の反応が来てる。


 終わらせないと面倒そうだ。


「喚くな」


 蚊を払うように手を払った。


 グラウンドのある砂や小石は一気にはるか遠方へ散っていく。


 そして、遅れて轟音が哭いた。女の身体の右下には大きな凹みを形成されており、身体は踊った。


 女の首は飛んで、身体の動きが止まる頃にもやのようなものになっていき、消滅する。


 単純な作業。簡単な動作。魔力を空気に漂わせて、圧縮と同時に奴の首に当てるだけのお仕事。


「なんだ、踊りの方が得意そうだったじゃないか⋯⋯」


 普通はここまで『幽霊退治』は楽では無いのだが、まぁ良い。


 問題は今から来る彼女の方だ。


 ご当主様は俺の存在を忌み嫌う。だから、戦力的に勝ち目のありそうな奴を宛てがった。


 まぁ、それは良い。


 問題は、その彼女が少年にとっても世界にとっても必要で不用意に傷付けられない事にある。


「見つけた⋯⋯」


「見つかっちゃったぁ〜」


 紺色の髪を後ろで括り、戦闘服なのだろうか、白と赤が基調の巫女服みたいなものを着てやってきた。


 まさかと思うけど、外にいる時、ずっとその格好だった訳か。恥ずかしくなかったのか?JK。


「『幽霊退治』?貴方らしいかな?どうだろ?」


「⋯⋯そんなに俺が良い奴に見えるのか?ん?それだとしたら眼科行け。⋯⋯それに、負けるのにわざわざ来ちゃって〜」


「勝つ」


「無理だ。勝てるなんて烏滸がましいまであるぞ。こちとらお前以上の技量があって経験と知識と自負がある。刀一本で抑揚が変わるとかいう有り触れた設定の小娘一人で何が出来る」


「独りじゃない⋯⋯。皆居る」


「うん?⋯⋯あらら。ボッチじゃないのか。学校と違って⋯⋯」


 完全な予想外。そう言われれば、そうだな。


 爺の方には、俺の強さをある程度見せた事があったな⋯⋯。


 弱った、全員寸止めで倒す?それとも気絶?


 強すぎるから下手したら殺しちまう。


 生き返らせるのにも体力使うからあんまししたくないし⋯⋯。弱ったなぁ。


「後で死ぬほど謝る。だから、行くよ」


「やめろ」


 駄目だった。普通に鞘から刀を抜いて来た。


 けど、少年と接点がある分、まだ話は通じる。


「ふぅん!」


 頭を目掛けて振られた刀はすり抜けた。


 斬られてやる義理もない。だから回避に回った。


 空を斬り、スカった音が響いて、彼女の奥に居る男が驚いている。


「何処にっ!?⋯⋯あれ?本当に何処?」


 滑り込んだようにグラウンドの土を掻き分けて行く。


 そして、空へと急上昇した俺は彼女の足元を見て少し驚いた。


(ブーツって⋯⋯。まぁ、草履よりかは機能性あるかもだが、ヘンテコだろうよ)


 巫女服にブーツ、はっきりに言えばかなり変ではある。


 むしろ、衣服に頓着しない人間でも、『その組み合わせはないだろ』と、口を滑らせてしまう程には無い。


 完全に見失ってしまったご様子で、彼方此方あちらこちらと俺を探している彼女。


 慌てている間に他の連中を片そう。


 雑魚から始末した方が進めやすいって友人からも言われたし。ゲーム限定だけど。


 まずは三キロ先に居る『除者』を二人、背後に回り込んで、頭を小突く。


 一撃ずつ、肘で当てるぐらいでなきゃ多分死ぬからこれぐらいで良い。


「脳震盪で寝てろ⋯⋯。次」


 笠辺かさべ沙耶さやの背後に居る男。あれは父親。


 彼は一旦スルーして、校舎を囲んでる馬鹿共からやる事とした。


「さてと、南側から潰すか。玄関近いし」


 転移移動で飛んで、意識を向けさせる為に目の前までやって来た俺は驚く二人組の腹に拳を叩きつけて、グラウンドの方へと蹴り飛ばす。


 恐らく、彼女は気付いて受け止めようとする。多分。


 うっかり掴み損ねて首の骨折れましたはやめてくれよ。


「後⋯⋯、六人って所か」


 面倒臭くなってきた。まだ少年に声を掛けられていないから駆け付ける必要性も無いが、早いに超したことは無い。


 脚を地上から離して、上空を飛ぶ。


 高度六十メートル程度まで上昇した後、『視る』事にした。


 何で視るか?『千里眼』だ。


 過去未来現在、平行世界から億光年先とあらゆる万物を見抜ける故に、万能であるが、最悪中学生時代の黒歴史まで覗けるから注意が必要なちから


 それとご安心を。勿論、『千里眼』は自前だ。


 校舎東に三人、西に二人、屋上に一人。


 なるほど、なぜそのフォーメーションか俺には分からなんだが、処理しやすくていい。


 互いにカバーし合うのにも限度がある。


 ましてや相手取る奴とのポテンシャルが圧倒的に開いていれば、二人組であろうと無駄骨に終わる。


 手を翳して、六人に流れる『力』に捕捉させて、撃つ。


 綺麗な花火は上がった。


 青の閃光。煌めく夜空に一閃の眩さ。


 六人はそれを見る。彼女もそれを見る。


 けれど、もう遅い。


 一筋の光は破裂するようにして、六つに分裂した途端、一斉に穿っていく。


 発射から二秒後の瞬間砲撃。


 腕を損失させ、脚を抉らせて、顔を爛れさせて、腹を撃ち抜かれ、肩に穴を空けられ、背中を焼いた。


 校舎に直撃しそうなものは制御かに置いて、ぶつかる前に反らしてやれば済む。


 後、考える事といえば、無様に倒れてしまった六人組の転移場所のみ。


「グラウンドに集めといてやろうかな。処理めんどそうだし⋯⋯」


 両手の指を絡めて、交互に並べ、掌を叩く。


 合掌によって、六人全てが彼女と背後に居る男の間に横たわる。


 転移移動は自分だけじゃない。対象を選べるのさ!


 気付いたのは使い始めて数ヶ月後だけど。


 それとこの動きはブラインド。しなくても出来るが、カッコイイからやるだけで意味なんて強者の意識を誘導する以外に必要は無い。


 でも、仕方ない。実際騙された奴が居て、使えるぞ!って思っちゃったんだもん。


 さて、そろそろ戻るか。


 おっさんを殴り飛ばしてから会話しようとするべく向かう。


 一気にグラウンドに戻った俺は彼女の父親であろう人物の目の前に出現して、顔を手の甲で殴り飛ばしてフェンスを突き抜けて、道路の壁に激突してしまった。


 気絶させただけだと思うが、死んでないよね?


「⋯⋯何をしたの?」


 突然現れて、父親を殴り付けた人物に対して言う言葉にしては随分と冷静な物言いだった。


 戦士してるなぁ、と訝しむ俺とは裏腹に、彼女は刃先を向ける。


「何をって⋯⋯当たり前のことだ」


「え?」


「言ったろ。勝てないって。加減してこれなんだ。今ならごめんなさいすれば何もせずに帰すぞ?なんなら、タッパーに入った肉じゃがあげるから夜食に食いな」


「な、なんでそんな物を私が⋯⋯それに太る⋯⋯」


「頼むよぉ〜、作り過ぎちゃって。相棒アイツも『飽きた』って言って食ってくれなくてさぁ〜」


「そんな事、どうでもいい。笠辺家の後継者として、私は貴方を倒す。それだけ」


 その言葉に思わず呆れてしまい、頭を搔く俺とは別で、刀を構えて、俺を穿つ準備と体勢に入った笠辺沙耶。


 以前、コイツの為に、手紙を届けてやった恩は無いらしい。


 無くてもいいっちゃ良いが物悲しいのも事実だ。


「無理だって言ってんだろ?わっかんねぇ奴だな⋯⋯。まぁ、子供の我儘を聞くのも大人の役目か⋯⋯。なったばっかだけど⋯⋯」


 二十歳なりたての大人の仲間入り。選挙に投票したくても、する前にやりたくもない旅を始めたのが俺である。


「ッ!」


 地面が蹴られた。踏み込んだ箇所は抉れており、砂が散り、吹き荒れる息吹の如き速度で目の前までやって来た。


(マズイ、コイツの場合、刀折ったら後に響く。どうする。殴れる位置が少ない)


 顔はアウト、肩は多分いけるが、最悪彼女の胴体がぶっ飛ぶ。


 なんで前のめりで一気に前に前進するんだ、普通もっと動き見る為に慎重になる所だろう。


 侍でもそんな大胆に突っ込んだりしないぞ。


「⋯⋯どーしよかな⋯⋯」


 食らってやるのも正直癪だと思った俺は、仕方ないと割り切った。


(殺して、蘇生させよう)


 瞬間。刹那。いずれの言葉でも良い。


 俺は、彼女の首から下だけ消し飛ばした。


 払った際に地面は抉れてしまい、フェンスは完全にひしゃげて、肉も衣服も全て余波で消し飛んでしまい、払った方角の家屋は丸々数キロ、ぶっ飛んだ。


 頭部は転がり足元に。


 刀はご丁寧に俺の後方に腕を遺して飛んでいく。


「やべ!?やっちまった!!時間戻して⋯⋯。お中元とか買っても怪しまれるよなぁ⋯⋯」


 こうして、吹き飛ばした集合住宅と恐らく巻き添え食らって死んだであろう人達を全て元に戻してから、俺は彼女の腕を拾いに行った。


  ━ ━ ━


 最初にした事と言えば、負傷させた奴を皆を昏倒させた。


 確実なのが催眠術。


「眠れ」


 これだけで済み、清々しいまでに眠りに着いた。


 そうしなければチャチャを入れられそうであったからだ。


 次にぶっ飛ばして首から下を消しちまった彼女を生き返らせて、服を元に戻した上で、小さな空間を作ってそこに放り込む。


 真っ白で出入り口の扉以外は何もない空間。


 それが物悲しいから、ちゃぶ台を亜空間から引っ張り出して、湯呑みを置いて準備完了。


 あ、座布団忘れてた。


 なんだろう。和室じゃないと、この光景は、異質だと感じ始めている自分がいる。


 あれほど好んでいた家具なのに⋯⋯。


 まぁ、いいや。仮にも校舎では今も愉快な会話が弾んでいる。


 悠長にもしていられないが、見られるよりは良い。


 仰向けで寝かせた笠辺沙耶を起こす為、俺はペシペシと頬を叩いた。


 流石女子高生。頬は柔らかい。


 高校生見てるとつい自分の高校時代とか考えちまう。帰りたくなっちゃう。


 ホントに早く終わらせたい。このゴミみたいな旅。


「おーい。起きろ、若輩、無能、弱き者〜、刀っ子〜。起きねぇ⋯⋯」


 意識を飛ばしたようなものではあるが、起きなさすぎる。


 仕方ない。あれを言うしか無いか。


「刀に握ると技名みたいなのが閃いちゃうミス・技っ子ぉ〜。⋯⋯無明天衣斬」


「うわぁぁぁぁぁッ〜〜!!誰?!⋯⋯なんだ、貴方か」


「はい、貴方ですよ。必殺獄連斬りさん」


「や、やめて⋯⋯。私、そんなの、知らない」


 無表情ながらも照れてるのが何よりの証拠。


 恥ずかしい技名考えてしまうのは癖なのか、教わった事なのかはさておき、本題に入ろうとする。


「悪いが今はここで待機して貰う。あの爺も俺に勝てると本気で思ってはいないだろうし、処罰もないだろう」


「⋯⋯どうして、『幽霊退治』を、してたの?私の、知る、貴方は、意味も無く、『幽霊』と、鉢合わせ、しない」


「その話し方どうにかなんないのか?抑揚というか、緩急というか。ロボットと話してるみたいでやりずらい」


「どうーして〜、ゆうぅれいぃぃ──」


「もういい。普通でいい」


 オペラ歌手みたいな話し方されたら誰だって諦めてしまう。


 如何せん、刀を握った状態の普通に話している彼女の言葉を聞いてる分、違和感が出る。


「はぁ〜⋯⋯。あの校舎には准坊が居る」


「⋯⋯私も、行く」


「お前は駄目。お留守番だ」


「また、彼⋯⋯、巻き込まれた、の?」


 不安そうな眼差しを俺に送るも、送るなら俺ではなく少年にして欲しいものだ。


「⋯⋯何が、あったのか、聞きたい」


「手短に言うぞ?」


 亜空間を背後に作り、手を突っ込む。


 弄るようにして、引っ張り出した。


 ホワイトボードを。


「さぁ、お勉強のお時間だ⋯⋯。あ、ペン無いわ」


 ホワイトボードはあっても、それを書くペンを出すのを忘れてしまった俺は、身を乗り出すように亜空間に入って、それを探す。


「あれぇ〜、前使った筈なんだけど⋯⋯。無くしたか?⋯⋯あれぇ〜?」


「早く、して」


「急かすなよ。お勉強を受ける態度に見えないぞ?」


 背後を向いている為、彼女の姿は見えないが、多分呆れられているのだろう。


 まぁ、良いんですけどね。


「駄目だ、無い。創造(つく)るか⋯」


「貴方、なに、してるの?」


 両手を合わせて、徐ろに広げていく。


 そして、ポン!とペンを創造つくり終えると、フタを外した。


「貴方、何が、出来ない、の?」


 よく聞かれる質問。けれど、俺に言わせればその時になってみなければ分からない。


 実際何でもできる力はあるが、何でもしようとは思わない訳で、その時点で何も出来ていないのと変わらないのだろう。


「出来ない事が出来ない。これ以外の答えが見つからない」


「⋯⋯⋯⋯。あっそ」


「なんだよ、冷めた目しやがって」


「もういい」


 そう言って、立ち上がった彼女は緋袴ひばかまを綺麗に伸ばして、正座して俺の話を聞く体勢に入った。


 それを見届けると、ホワイトボードに書き込んだ。


「良いか、そもそも今回、少年が巻き込まれたのは、二十八年前に起きた連続怪奇殺人の延長線のようなものだ」


「そんなに、古いの?」


「あぁ。切っ掛けはその事件において、最後の被害者でもある未環みたまき紗奈恵さなえっていう小学二年生の女の子が『幽霊』になっちまった事が始まりなんだ」


「⋯⋯可哀想」


「そうだな⋯⋯でも、もう終わった事だ。気にしてもどうしようもない」


 未環紗奈恵。十歳にもなっていないその少女の担任教師と協力者の殺人鬼の手によって殺害された。


「待って、逆、じゃない、の?」


「いや、この時は合ってる。小さい子相手には担任の男が主犯だったんだよ。殺人鬼の方が結果的な数は多いが、担任も中々だぞ?」


 彼等の出会いや殺人の切っ掛けもあらかた知ってはいるが、今回は省こう。彼女には伝えなくても良い事だ。


 少女は『幽霊』となり、最初にした事は自分探しであった。


 見られない、触れられない、語り掛けられない。


 この三文句が少女の心を蝕み、酷く自身の行いを卑下した。


 母親との別離、父親に対する態度、殺人鬼に着いて行ってしまった後悔と解体による酷く滲みる激痛と懺悔の言葉。


 少女は後に考え込んでしまう。


『どうして自分だけなのか?』と。


 一年経ち、腕と脚を持ち帰った男が死んだ。


 それと同時に募り募った感情が発露するように、『怪異現象』が発動してしまった。


 それが幕開けであり、後悔の始まりだったのだろうか。


 情緒や感性、知性や知識、感情の発露といったものはまだ未発達で未成熟。


 被害者にして、加害者の仲間入り。


 殺人鬼は男によって殺されてしまったが、男が『怪異現象』により帰ってきた事で、連鎖的にやって来てしまった副次品のようなもの。


 わざわざ殺害に使われた裁ち鋏を携えて、奴は来た。


 公園は忽ち異界と化した。


 公園で失踪事件が流行り始めると、気味悪がり、人は寄らなくなっていく。


 そして、近隣住民は住まなくなってしまい、廃れて、校舎が建ち、二十年経った頃には百人程の被害者が出来上がっている始末。


 少女は無意識で発動した『怪異現象』の止め方を知らない。知らないから止められない。


 無意識に生んだ男と、釣られてやって来た殺人鬼は少女に命じた。


「下手な真似はするな」


 これだけだ。


 お転婆な年頃というのもあり、最初は被害者を助けようと活動的であったが、その気は徐々に失せていき、最後には事前に被害者を遠くに追いやるようになっていく。


 教わった怯えさせ方だけを駆使してのだ。


 だけど、それもバレた少女は誰も見つけてくれない教室の隅で泣いているのみ。


 男を消滅させるのは、その男に対しての恐怖心と畏怖感を克服して、向き合えば済む。


 けれど、それには時間よりも傍にいる人間が必ず居なければならない。子供一人で大人に立ち向かうというのは勇気がいる事であり、二十年経っても変われなかったのならば、別の選択肢も持たなければならない。


 一人で駄目ならば、二人で。


 つまり、そういう事だ。


 そして、現在。少女の『起こした現象(せんせい)』は肥大化して『特殊性質』を起こした。


 あれ程の巨大な体躯は『幽霊』と言うよりは『悪霊』の類いだが、元々が『悪霊』である故に手が付けられない怪力と性癖の肥大化があの爛れた姿となったんだろう。


 俺や彼女の刀でも無いと、普通に祓うのはほぼ不可能に近い。


「つまり、その、紗奈恵ちゃんは、耐えて、頑張ったって、事?」


「いやぁ〜、悪い言い方をすれば、他人に任せて、受けた痛みをお裾分けしてるだけだがな?」


「でも、可哀想」


「あの子、何気に校舎一帯を誰にも気付かれずに『異界』と化させてたって見方も取れるから、ポテンシャルはあるんだよなぁ〜。まぁ、情緒が育ち切ってない奴を利用するのも癪ではあるが⋯⋯」


「その⋯⋯貴方の、言ってる事は、何となく、分かりました」


 ホワイトボードに書き殴ったような文字と数字。


 それと俺の解説によりある程度の補足を完了させた彼女は頷いた後、言う。


「それで、どうすれば、その子は、成仏する、の?」


「成仏?お前の刀で済むだろ?」


「⋯⋯そうかも、だけど⋯⋯」


「ははぁん。お優しいねぇ。点玉滅殺突きさんは〜」


「や・め・てっ!!⋯⋯もう、帰る!」


「あ、おい。校舎には行くなよ?」


「⋯⋯嫌って、言ったら?」


「もっかい死んでもらう。今度は事が終わるまでは遺体はここで放置してな」


「⋯⋯⋯⋯悪魔」


 そう言って彼女は扉を開けた。


 これだけ脅せば学校には入ろうとはしないだろう。


 それに、今入っても恐らくボロ雑巾と化してる少年に会うだけだ。労力と時間の無駄は避けたい。


「行ってらっしゃい。⋯⋯俺も行かなきゃな〜」


 八分の短い時間。


 もう、そろそろ良い頃だろう。


 あの鏃。『怪異』や『幽霊』のような類いの能力や性質を強制的に断ち切るだけで、殺傷力の類いは無い。


「ちゃんと言ったんだけどなぁ⋯⋯少年」


 ゲートを閉じて、元に戻したグラウンドを見る。


 校門前には彼女とその愉快なお仲間達が帰ろうと車に乗り込んでいた。


「バイバーイ」


 手を振ったが帰ってこない。どうやら、昨日の敵は今日の味方というのは嘘のようだ。


 嘘吐きめ!


 この街は相も変わらず歪んでいる。既に八十を超える世界を見てきたが、世界単位で考えると、この世界は随分と歪だ。


 本来、『怪異』『不可思議』『超能力』『宇宙人』『超常現象』『魔法』といった要素がここまで絡み合ったら何かしらの時間軸で歪みを生んだり、別世界から悪用する者が居る筈だが、それがない。


 ましてや、この街は集中し過ぎている。


 俺は校舎へと向かおうとする際、ふと視界に映ったものを眺めた。


「あの()。やっぱりイカれてるな〜。本当に厄ネタの宝庫だな⋯⋯」


 昔の俺と違って、少年は頭も良くて、要領が良い。


 頑張ってくれないといけない。これからの為に。


 最後に二つ。


 一つは、少女の成仏の方法。


 あれは至極簡単でもある。視える人間ならばに限定されるが。


『肉体年齢相応』にする事。


 これが少女の成仏する条件だ。


 満たされてしまえば自然と消えるのみ。


 まぁ、成長しないのが『幽霊』の醍醐味だから、もう一波乱ありそうだが。


 そして、二つ目。どうして切られた腕脚は腐らなかったのだろうか。


 俺は予め知っているものの、少年は気付けるか。


 そして、気付いた時にどんな反応をするか。


 おー、怖い怖い。

朝倉拓也はまだまだ余力を残してます。


全ての実力を使い切る事、または、使おうとする事はこの作品ではありません。


つまり、基本裏方です。



余談というか、補足情報。


本来は本文に書き込んでやろうと思ったのですが、止めました。


殺人鬼と男についてです。


殺人鬼ことマッキーは女性であるのですが、トランスジェンダという設定です。女性の臓器を見る為に殺人を犯してしまったのは、男性と女性の内部の違いを目視で見たい為から始めたのがきっかけです。芸術云々は彼女の後付けで、継ぎ接ぎの理由です。


最初の被害者はマッキーと友人だった女性です。18歳の女性という設定です。


男と出会ったのは、殺害現場を見られた後、興味津々で駆け寄り、突然、子宮を燃やし始めた事を切っ掛けであり、自身と同類と判断したからです。


美大生であり、トランスジェンダであると自覚せずに世間とのズレに苦しんでましたが、親の言葉で壊れました。


恋人も居ましたが、正直に言えば寄ってこられたのは身体目的です。


分かっていて受け入れは一度しましたが、最終的に性行為はしてません。


遺伝子が社会に敗北した人物であります。


一方、男ですが、教師です。小学校の教師ですが、就いた理由は小さな女の子を真近で見る為。


実際に子供と接する態度は少し違っており、女の子なら、相談事をされれば長期間に渡って関われるようにする為に濁すような言い回しや、遠回しの解答をします。


男の子の場合は手短に済ませます。相談事は男子の方が多いですが、基本嫌な顔はしません。


マッキーの事は、イカれた女だなぁ程度にしか思ってません。


彼が関わり出してから、対象が小さな子へとズレた。


保護所にマッキーが入れたのも担任として見に行くと先生が学校側に言っておいて、車で一緒に乗って会いに来たからです。


本来、保護所では子供一人に担当者が着任のですが、その担当者と先生が話している間に唆したのがマッキーであり、公園で少女を気絶させてから学校に運んだのも、先生の趣味嗜好であり、子宮をライターで燃やすのは、大人の女性にさせない為です。(生前のみ)


先生の自室には直接関与した殺人の被害者の手脚が保管されており、ネームと年号が貼られて、時々思い返しては自慰行為に走る、ようは阿呆だと思ってください。


先生の死ぬ前に放った言葉は「お茶零した」です。


ねぇ?本文には要らないでしょ?

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