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この街は今日も語る  作者: 紫芋
軽井椎奈は語り合う

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14/15

鐘の音の下、幸あれ

七不思議に詳しく無い紫芋です。


今回も長めです。


ご了承の程をお願い致します。

空弩街あくどがい七不思議』


 日本では、本所七不思議や学校の怪談が有名所であり、世界基準ならば、ギザの大ピラミッドやバビロンの空中庭園、アクレサンドリアの大灯台等だろう。


 そして、この『空弩街』にも街単位で七不思議が存在しているのだが、不思議な事にそれらを調べようと現地入りした学者や物好きなオカルトマニアは皆、口を揃えてこう言う。


「空弩街の図書館に行けば普通に全容が載ってました」


 つまり、この街の『七不思議』は既に事実的根拠に裏付けまでされた扱いで、解明されている事となっているのだが、誰もそれを公表しないのが通例なのである。


 もはや、それすら七不思議に入りそうな事柄なのだが、残念な事にそれは入っていない。


 それでは僕がサイトで見た『空弩街七不思議』の七つ不思議をお教えしよう。


【一、焼けのはら


【二、七八区しちはっく


【三、象願林そうがんばやし


【四、夜勤教師】


【五、零山れいざん灯明とうみょう


【六、一命樹木いちめいじゅもく


【七、流れ子宮こみや


 僕は後に、この七不思議の全容を正しくご教授されたが、ハッキリ言っておこう。


「僕は■■■■■■が嫌いだ」


 これは間違いなく、本音である。


  ━ ━ ━


「笠辺沙耶先輩は何処いずこか〜ッ!」


 三年三組の教室の出入り口にて、臆面もなく声を出した少年・桐江きりえじゅん


 人目を気にする様子は、多少あったが、それでもこちらの方が、『逃げるに逃げられないだろう』と踏んで敢えてした事である。


「君、何年生〜?」


「二年です」


「そっか〜。あ、笠辺さんは今日早退したよ?」


「⋯⋯はぇ?」


 間抜けが声が少年の口から発せられた。


 そして、面も。それを見て薄ら笑いに近い声を発した三年生達を一体誰が責められようか。


 恥ずかしくなった准は、一礼だけして、そのまま自身の教室へと戻ろうとトボトボと歩き出す。


「めっちゃ、恥ずいじゃん」


 勢い任せにした事とは言え、まさかご本人が居ないというアクシデント。


 更に、スマホや連絡先も知らないという状況。


除者じょしゃ』を継いでいる彼女のお家事情に帰宅した可能性もあると判断した准は、そのまま何も言わずに階段を下って行く。


「桐江。ちょっと来て」


「は?」


 声を掛けたのは誰か?


 そう思い、二階にまで下りた辺りで、声をした方向を振り返った准はその人物を見て、心底嫌そうにした。


 青のシュシュで後ろ髪を結っている女子生徒であり、クラスメイトの一人にして、大洲おおしま戦隊ヤカマシンジャーの構成メンバーの一人。


「お前は本当に友達想いだな富宮とみや


 富宮とみや奏海かなみである。


 不機嫌そうに准を睨んでおり、その理由も察しが着いている准は歩き出す彼女の後を追うのであった。


 決して普段から怒る様子を見せない彼女なのだが、大洲おおしま藍莉あいりと付き合っていると発覚してから、彼女が少年に向ける態度は、三年前と比べて少し変化していた。


 連れ出された先は部室棟である。


 最後に少年が此処ここへやって来たのは、過去へと跳躍する前の時が最後であり、今の流れとなってからは初。


 准自身から見ても変わり映えの無い、普通の部室棟であり、面白味も何も無い。


 そんな部室棟の中に入ってすぐの廊下で立ち止まった彼女は振り向いたと同時に怪訝そうな顔で准を見つめる。


「アンタ、あれ何?」


「あれとは?」


「アンタ、食堂前で後輩と楽しく駄弁ってたでしょ?」


「何か駄目か?」


 奏海はそれを聞いて、頭を抱えるようにして瞼を強く閉じる。


 そして、憐れむように准を睨む。


 しかし、准にとっては見慣れた光景なのだ。


 彼女は中学校が准と一緒だった為、ある程度ながら彼女の事を知っている。


 そう。全てではなくても、ある程度は。


「はぁ〜。藍莉もそれ見てたの。心配そうにね。彼女だよ?分かってる?」


「彼女だろ?分かってるさ。別に夫婦じゃないんだから、違法でも違反でもないな」


「気持ちの問題って言ってんの。藍莉の気持ち汲み取ってやんなよ」


「その調子で僕の気持ちも汲み取ってくれ」


「はァ?アンタの事はいいのよ」


 呆れた様子で「馬鹿じゃないの」と一蹴した奏海。


「なんでだよ」


 納得のいかない准は億劫そうにしつつも、壁に凭れ掛かっている。


「私は藍莉の友達なの。アンタの友達でも無いのに、わざわざ掛ける情けがある訳無いじゃん」


 彼女の。奏海の悪癖が出たと、苦そうな顔をする准。


 超弩級の贔屓。彼女にとって、関わった事のある人間とそれ以外の人間の対応の差が極端である事が、准にとっては厄介この上ないのだ。


 あくまでも、彼女から見て、関わりが多いと判断して決める為、准との中学校時代はカウントされてすらいない。


 更に言うならば、彼女からすれば「みんな当然のようにやってるでしょ?」と口酸っぱく言う付録付きである。


 本誌も付録も終わっている場合どうするか。


 買った事を後悔するように、舌打ちをするのだ。


「じゃあ、彼氏彼女でも無いお前は、僕達の問題に関わってくるな。鬱陶しいだけだ」


「⋯⋯本当にコイツこういうのだから⋯⋯。なんで藍莉がアンタなんかと付き合ったのか訳分かんない」


 友達贔屓は止まらない。


 仮に最初に訳を聞いていれば、また准の対応も違ったのだろうが、もう遅い。


「聞けばいいだろ?」


「聞いたら、内緒って言われた」


「じゃあ、内緒だな⋯⋯。この話は終わりか?戻っていいよな?」


 一刻も早く緊急脱出を果たすべく、脚を動かそうとする准。


「駄目よ。私も話があるもの」


 けれど、それは出来なかった。


「藍莉?!」


「来ちゃったよ。戦隊リーダーが⋯⋯」


 奏海の後を追い掛けた藍莉がやって来たのだ。


 今日だけでなく、数回程、呼び出されては説教をする奏海と説教という名の拷問を受ける准。


 流石に気付かない訳が無い。


 大洲おおしま戦隊で気付いていないのは、紫島しじまりくぐらいのものだろう。


「ごめんね奏海」


「え?」


 遠くから聞こえる藍莉の声は近付いていき、奏海の傍に寄る。


「ちゃんと、私達は私達で話し合うから。奏海は気にしすぎないでね?」


「ごめん。⋯⋯もう行くね」


 申し訳なさそうに去ろうとする奏海とごく普通に当然のように去ろうとする准。


「貴方は残りなさい」


 しかし、逃げられない。


 レベルが足りないようだ。


 襟元を掴まれてしまっている准に手立ては無くなった。


「⋯⋯駄目かっ!」


「なによ?やましい事でもあるの?」


 揶揄うように微笑む彼女。


 怒っているというよりも、嬉しそうにも近いと感じた准は諦めた様子で藍莉へと向き直る。


「別にそうじゃない」


「じゃあ、ちょっとだけでも良いから、此処に居て」


 そう言われて、何故か部室棟の最上階まで上がり、階段に座らされていた准は、つい首を傾げてしまうも、藍莉は気にせずにスカートをきっちりと伸ばすようにした後、座り込む。


「ねぇ」


「⋯⋯何?」


 椅子と言うに冷たく固くて仕方ない。


 けれど、それらの文句は口には出さずに、ジッと准を見る藍莉。


 一方の准は、そんな彼女を直視せずに、曇りだして一雨降りそうになる空を見つめた。


「あの子はあぁ言っているけど、私は貴方と今一緒に居れる事、後悔してないのよ」


「知ってる。だから、余裕だった」


 事実なんの憂いも間違いも無いと信じている。


 だからこそ、軽い態度で問答をしていた。


「なにそれ。ふふ」


 少し嬉しそうにする藍莉。


 けれど、笑みはすぐに消えて、ほんの少し空いた距離を埋めるように、近寄って肩に頭を乗せる。


「どうせ、何か巻き込まれたんでしょ?あの黒いワンピースの女の子、周りも陸上部の人達も見えていなかったようだし⋯⋯。軽井さんに何かあったんでしょ?」


 察しの良さと不可思議な経験と体感が生きたのだろう。


 確信的な部分は分かっているように口にした藍莉の確認のような言葉は准には意味がないようにも思えていた。


「大丈夫だって。こういうのに一番慣れてる僕が適任だ」


「でも、貴方は普通の人間でしょ?それなのに、慣れてしまった為に、認識みえてしまっているのよ」


『心配無い』と思わせたくて准の左腕がそっと藍莉に近寄る。


「でも軽井だけじゃなくて、軽井の友人が二人、巻き込まれてる。もう、他人事って訳にはいかないだろ?」


「⋯⋯私も行く」


 伸ばして、寄せようとした左腕は止まった。


「駄目だ」


 決して怒っている訳ではない。


 けれど、気圧すようにしてでも阻止したかったのだ。


 一つのトラウマ。目の前で救えると思い上がって、約束までした結果、何も出来ず、話を聞くだけ聞いて、目の前で死なせた事実。


 決して、准のせいではなくても、それは心に記憶に抉り抜いて、治る事の無い傷が出来上がっていた。


「⋯⋯行く」


 それでも、彼女は止まらない。


 彼女にもトラウマはある。


 家族のゴタゴタで巻き込むだけ巻き込んで、挙句には弟含めた自身を助けた代わりに轢かれさせて大怪我を負わさたという事。


 治癒が異常なまでに早く、入院生活は僅か四日間という電撃退院をした後も知らぬ所で大惨事に巻き込まれていた現実。


「駄目だ。サナが言ってた『お姉さんみたいな人が襲われる』ってのは、つまり女性を多く狙ってるって事も考えられる。わざわざ連れてくと思うか?」


「それを言うなら年齢の事かもしれないでしょ?」


「尚の事、藍莉を連れて行けないだろ」


 どちらも該当している可能性がある藍莉を連れて行くという事は、十中八九巻き込まれて、死亡の可能性とリスクを跳ね上がる事となる。


 そんな事を准は許さない。


「なら、准が私を守りなさい。私もちゃんと貴方を守るから」


 肩に乗った頭は体重を掛けるのを止めて、准の顔を真っ直ぐと見直した。


 不甲斐ないと捉えられても仕方ない顔付きで、座る少年をただ見つめるのみ。


「僕は正義のヒーローじゃない。少なくても、守れるか自信なんて無いんだ」


「それでもお願い」


「仮に藍莉が死んだって仮定したとして、僕が生き残ったとして。その時、僕はまた飛び降り自殺しなくちゃいけなくなる。アレ、痛みが最初──」


「ちょっと待って?」


 言葉は掻き消された。


 小さく声を漏らした准は、ようやく藍莉の顔を窺ったが、その時には既に険しい表情となっており、彼女の手は力が籠められていく。


「私、それ知らないんだけど?どういう事?飛び降り?え?⋯⋯まさか。どうやって時間を飛ぶ方法に飛び降りがあるの?死んだって事?その後、また轢かれるつもりで?」


「まぁ、結果的には、そうなるかな⋯⋯。まぁ、今生きてるんだから問題ないだろ」


「何言ってるのよ!」


 肩を掴んで揺するようにする。


 下の階から既に陸上部部員の声が聞こえ始めているのにも拘わらず、悲しさが含まれた叫びは部室棟へと響かせた。


「自分の命を粗末にしないで」


「それしか無かったんだよ。あの時の状況から、後の祭りって分かってたから、ズルしてでも助けたかったんだ。⋯⋯悪い」


 ズルという自覚はある。


 仮に別の誰かが似た力があって助けたい人間が居るのなら、同じ選択を取る物もきっと居る。


 偶々、環境に恵まれただけの凡夫の少年は、罪悪感が無いわけでは無かった。


 けれど、そんな罪悪感よりも『大事な者を助けたかった』という気持ちが勝ってしまっただけの事なのだ。


「⋯⋯ごめんなさい。本来、私が説教するのは違うのよね、きっと。私が准を死なせたようなものだし」


 藍莉の罪悪感が増える。


 顔を俯かせて、謗りも妬みも甘んじて受けるといった様子にも窺えてしまった准は優しく言う。


「それは違う」


「どうして?」


 頭を優しく撫でる。


 それが意味のある行為か否かは准は知りえない。


 俯いたままの彼女の表情を見るまでは。


 それでも、准は続けていく。撫でる事を。


「自分で決めて、頼み込んで、してもらった事なんだ。そこに誰かのせいとかじゃない。⋯⋯強いて言うなら自分のせいだ」


「⋯⋯っ」


「それに、今の生活も嫌いじゃない。だから、もう終わった事だって割り切れる。⋯⋯終わった事なんだよ」


 何かを藍莉は言おうとした。


 それを言わせないようにするように、一人で勝手に終幕させていく准。


 言わせては平行線の一途を辿ってしまい、戻れない気がした。


「⋯⋯」


 彼女が果たして納得したかどうかはいずれわかる事だとして、立ち上がった准。


 その表情は先程まで暗い話をしていたと思えない程に朗らかな笑顔であった。


「じゃあ、行こうぜ。予鈴鳴っちまう」


 一歩、下の段差に脚を下ろして行く。


 しかし、後ろに引かれる感覚と体感がそれを阻止して、思わず振り返る。


「なんだよ?何かまだあるのか?」


「察しなさいよ」


 見上げた顔は泣きそうで、それでいて駄々を捏ねる子供のように頬を膨らませているようにも見えた准は呆れてしまう。


「⋯⋯これは、五時限目フケるしかないな」


 彼女の両腕が横に広がる。


 だから、准はゆっくりとしゃがんで抱き寄せられに行く。


 背中に触れている手の力が妙に強い。


 肩に顎が乗せられていた。そして、顎が上がる感覚と、彼女の目元は肩に乗せられて、震えていた。


 准は頭を優しく撫でて、二人の間に空いたスペース一気にゼロとする。


「ごめんなさい。貴方を殺しちゃって。私、ちゃんとするから。だから、貴方も生きてね」


「あぁ」


 髪が鼻腔を擽る。


 波のある髪は彼女の背中を覆い隠すように伸びており、それら含めて、准は撫でた。


「藍莉もちゃんと生きろよ?蒼太が居るんだ。だから、生きろ」


「当然」


 震える声に覇気は決してなかった。


 けれど、肩に付着した水滴は、もう落ちてこなさそうだと、確信を得た准は彼女の頭を上げさせた。


「あ、そうだ。ちゃんと、言っとかないと」


「なに?」


「僕も⋯⋯僕も藍莉と居られる事は嬉しいって思うよ」


「⋯⋯それだけ?」


 目を腫らした彼女が目を細めて言う。


「え?」


 予想外だった言葉に困惑して口が僅かに開いた少年。


「あの時はしてくれたのに⋯⋯」


「⋯⋯あぁぁ。あの時は雰囲気というか、流されたというか⋯⋯」


 目を逸らす少年。


 そう、あの時以来していないのだ。


「私が促したって言いたいの?」


「いや、そうじゃないけど」


「なら、また私からしてあげようか?」


 揶揄うように微笑んだ彼女。


「⋯⋯」


『それで良いのか?』という感情と『それで良いんじゃないか?』という感情は二律背反でせめぎ合って、最終的に。


「ん!」


 前者を取った。


 時間跳躍する前の誕生日の日以来のキス。


 お互いに目を閉じていたが、それは恥ずかしいからなのか、閉じるのが定石と何処かで習ったからなのか。


 どちらにしても、十秒以上の長いキスはようやく終えた。


「⋯⋯これで文句無いか?」


「⋯⋯下手くそ」


 破顔して正面に居る准に言い放った言葉。


「泣きますよ?」


「ふふ。なら、泣かないように練習。⋯⋯しときましょ?」


「⋯⋯そうだな」


 予鈴の鐘が鳴った時刻。


 二人は再びキスをした。


  ━ ━ ━


「これ、何で出来てるんだ?」


 小さなやじり。それを僕は受け取った際に発した最初の言葉はそれだった。


「聞かない方がいいぞ?」


「何処でこれを?⋯⋯如何にも危険な感じがするんだが⋯⋯」


 鋼、鉄等の有り触れた物で出来ていると思っていたが、そうでは無いのだと触れた瞬間に伝わって来る。


 何処からどう見ても遠巻きから見れば普通の鏃なのに。


「室町時代で巨大百足の退治が有名が居てな、その当時から、『物に宿る』ってのは伝わってたらしくてな。ちょっとした縁で貰ったけど、俺は使わないし、勿体ないでどうしようと思ってたんだが、丁度良いってなったから渡しておく」


「因みにどう使えと?」


 鏃を指先で摘むようにして持つ僕は決してそれに刺さらないように慎重にとしていた。


 けれど、それを笑うように頬が緩む朝倉あさくらさん。


 どうして、笑うんですかね?


「耐性付けるなら自分を、殺したいなら相手に刺す。これだけだ」


「手軽だな」


 てっきり、『儀式に使え』とか『これを装着しろ』とかそういった物かとばかり思っていた僕は、呆然とそれを眺める。


 危険な香りはする。けれど、それと同時に惹き込まれる感覚も確かにある鏃は、鈍く光っていた。


「自分を刺すっていうのは止めとけよ?」


「刺さないって」


「いや、場合や状況は二転三転が定石なのが『有り得ない事象』なんだぜ?身をもって体感しただろ?」


 既に三回程、『怪異』や『不可思議』といった事柄や事象に遭遇している僕。


 状況が思い通りになった試しは確かにないし、これからもそうとはならない。


 目の前で雑魚寝している男の言い分は自然と正しいと思考は誘導でもされるようにサラッと通った。


「⋯⋯仮に僕に刺したらどうなるんだ?」


「世界のレールからちょっと外れるってのが分かりやすい表現方法だろうな。社会のレールから外れるのとはまた違って、そもそも認知されにくくなる。そうなると、アイツに施した処置も無になる。わかってるな?」


 意味が全くわからない。けれど、最後の言葉と意図はしっかりと伝わっているから、僕は刺さないようにしなければならないと、固く決断した。


 そう、アイツの為にも、してはならない。


「じゃあなんで渡すんだよ⋯⋯」


「何かあった時の為だ。本当にヤバいとなった時の為の一時処置。対処、対応。言い方なんてなんでもいいが、それでもお前を助けた俺の為と思ってくれ」


「ん?なんでそうなる?」


「俺が助けた人間は、等しく老衰で死んでくれなきゃ困る。助けた意味が薄れるからな」


 起き上がった男。それを見上げる僕は悔しいかな。


 少し、微笑むその男が羨ましく思えた。


「⋯⋯何かあるのか?」


「あるさ」


「なにが?」


「気持ちの問題しかないだろ。少年」


「⋯⋯気持ち」


「まぁ、今は御守りぐらいの感覚で持っている事だ。俺が居る間はそれは使わなくていいようにはしてやる」


 居る間。そうは言うが、この男の姿を見ない時間がある。


 必要な時に限り、何故か居なかったり、居ても何処か用事のように去って行く時がある。


 何かあるのは知っているが、それにしてもだ。


「そうは言うが、アンタ時々どっか行ってるだろ?アレなんだ?」


「俺は旅人だぜ?そりゃ、ここだけじゃなくて色んな所に行って冒険の百や二百はするさ」


 なんで百、二百なんだ。普通、一、二くらいだろ。


 旅人とこの男は名乗っているが、風貌だけ見ればそれには見えない。


 ボロボロの黒いジャケットに、鞄の類も無し。


 手持ち無沙汰にも程がある。


 けれど、この男。飛べるし、光線出すし、他にも様々とやりたい放題で、ハッキリ言って鞄が無くても何かしらの物はあって、それで荷物を収納しているようにも考えられる。


 結局、僕はその男の事が何一つとして知り得ないし、彼もそれを教える気が無いのだろう。


「その間に死んだらどうするんだって言ってんだ」


「死んだらとか考えてる時点で意志が弱いぞ?少年」


「僕はあんたみたいに強くないんだ」


 一般人かつ普通の人間に何を求めていらっしゃるのかって話だ。


 死ぬ事を想定する事の何がいけないのか。


 男は僕を見て、「ふっ」と軽く鼻で笑うと高らかに言う。


 そう、高らかに。


「安心しろ。神々も魔神も、怪獣怪人異星人幽霊悪魔も人も。誰もがそう言う。皆等しくな。だから、お前だけじゃない」


「⋯⋯」


 正直、誇大妄想でも入ったのではないか?


 そう思わざるを得なかった。


 神様って。魔神ってなんだってなるし、怪獣もそうだが、怪人って何処で出会えるのか、お目にかかって見たいな。写真撮りたいし。


 男はそんな酷い妄想を口にするけど、至って真剣な顔付きで僕に向けて言葉を紡ぐ。


「自分が特別なんて思い上がるのは、特別な相手とだけにしておけ。俺のようなマジもんの特別と比較するな」


 結局は自分語り。余程寂しい人間のようだ。


 それと同時に、僕はそんな男に慰められている。


「なんだ、その顔?」


「こうにもなるさ⋯⋯」


「自分の人生、生きやすくする為に他人と比べるぐらいなら可愛いもんだが、蔑める為に比較するな。それは、自分だけじゃなくて、他人すら殺すぞ?」


「大袈裟だな⋯⋯」


「大袈裟でいいのさ。絵本の世界ですら大袈裟なんだ。でも子供はそれを聴いて、視て、情緒を学ぶ。同じさ。俺はお前に大袈裟に物を言う。だから、お前は自分の為に。⋯⋯苦楽の為に特別を探せ。自分のだけのな」


「何言ってるんだ?アンタは?」


 いよいよ、カッコつけのような事を口にし出した。


 それが堪らなく、身体を冷えさせた。


「ふっ。餓鬼だな。俺もこんな時代があったから、そこまで言わねぇけど⋯⋯」


「ん?」


「サービスで一個教えとく」


「何さ?」


「この先の人生。天秤に掛ける物事があったとして、それを選択するのが少年だったとする。その時が来たら────────」


 あれ?どうして、聞こえないんだろう?


 そうか。これは、夢だ。あの日を最後にあの人と、直接会う事は無くなったんだ。


 今思えば、もっと、話くらい聞いとけば良かったな。


  ━ ━ ━


 軽井かるい椎奈しいなはバスケットボール部出あるが、そんな彼女は本日部活を休んだ。


 体調不良を理由にしていたのだが、明らかに様子がおかしいと皆から言われていた事と、顔色の優れなさが幸を奏した結果。


「本当に⋯⋯行くんですか?」


「いや、お前はサボらずにこの子連れて来てくれれば良かったんだけどね?」


「そういう先輩は、ゴーストバスター先輩を呼んでくれたんですか?」


「呼びたかったけど、ご事情で早退なされたんだよ。だから居ない」


「はいいいいい!」


 頬に手を当てて、軽い悲鳴が上がった。


 通学鞄をボトッと落としてしまい、中に入っている荷物の軽さが音として表れた。


「なにしてんの?拾えよ」


「だだ、だって!先輩の嘘つき!ハゲ!うわぁぁぁん私の人生終わったぁぁぁ。私の友達の人生も終わったぁぁぁぁぁぁぁ!」


「勝手に終わらせんな。⋯⋯てかおい、誰がハゲだ!!」


 そうして、校門前で待ち合わせをしていた准と椎奈と後ろをひょこひょこと着いてくるだけのサナは小学校へ!


 ではなく、准の家へと向かう事になった。


「なんでぇぇ?!はっ!⋯⋯先輩の変態!下着に興味ないとか嘘じゃん!私の初めてがぁぁあ!」


「違ぇぇよ!てか止めろ!公衆の面前で止めろ!マジで止めて下さい!」


 帰宅部所属の生徒達からそれはそれは可哀想なものを見る目で見られて、通りかかった主婦方からはコソコソと口添えが始まった。


「んんん!すんふぁん!!」


「お黙り!」


 焦燥感に釣られて、嫌な汗が吹き出て来る准は、椎奈の口元を抑えるようにして無理矢理黙らせる。


「はじめて?」


「大丈夫だぞ?お姉ちゃんは頭が悪いから発作みたいに、たまぁ〜にだけどおかしな事言うんだよ」


 あどけない様子を全面に本当にその手の知識が皆無のサナは不思議そうに二人を見つめており、何よりもその視線が准には痛かった。


「ぷはっ!⋯⋯なんで先輩の家なんですか?!私、入らなくてもいいですよね?」


「まぁ、いいけど」


「え?!本当ですか?」


「用があるのは僕だけだから」


 そう、『幽霊や怪物限定』だが、有効性のある物を探そうと家に一度帰宅している准。


 どの道、小学校に行くのは夜からであり、時間は多くある。


 焦って探す必要も無いが、先に見つけておくに越した事は無いとして、家までの道を歩く准達。


「というか、先輩。連絡先交換して下さい。私、何処で待ち合わせか忘れてて結構ピンチだったんですよ?」


「無い。ゴーストバスター先輩に命と引き換えに消された」


「はい?」


 首を傾げて、苦い顔をする椎奈。


 その様子に一瞥もしないで、前を歩く准はふと後ろを向いた。


 トボトボと二人からは距離を開けて、決して邪魔にならないようにとしているサナが歩いている。


 その様子に少し目を細めて、手を伸ばす。


 傍から見れば、何も無いところで手を伸ばしているようにも見える。


 しかし、一人の後輩には確かに伝わっており、准もそれで良いと納得出来ていた。


「サナ。隣に来いよ」


「⋯⋯うん」


 夕暮れに鳴いた烏により、掻き消えそうな微かなで弱い声の主は、走りながら准の近くに行く。


 准は近くにやって来た小さな手を取った。


「こっちの方か良いだろ?」


「⋯⋯うん!」


 それを見ていた椎奈は准の顔を見て、何かを察したように言う。


「先輩、もしかして、子供に甘い感じですか?」


「お前も子供だったらもう少しだけ、甘くしたんだけどな」


「いりませんよ〜だ!」


 舌を出して、彼女の手はブレザーのポケットへとしまわれた。


 それを見て、もう片方の空いた小さな手は伸ばす事を止めてしまい、垂れ下がったままとなってしまう。


 一時間掛けて帰って来た准達。


 厳密に言えば、少年の家に帰って来たのだが、玄関前で辺りをチラチラと見回していく椎奈。


 それを不快そうに見る准。


「先輩の家、普通ですね」


「いや、まだ玄関に入ってもないじゃない。何が分かるのさ」


 スマホを暇つぶしのように見ている椎奈だが、ハッとなり、急かすようにして准へと問い掛けた。


「⋯⋯夜まで待たなきゃなんですよね?帰ったら駄目ですか?」


「今更?ここまで来て?なんで言わないのさ」


 言う機会は恐らくあったのだが、椎奈目線で見れば、言うタイミングというのが無かったのだろう。


 トントン拍子に進む現状(ともだちの)救出。


 何よりも、未だにそれに乗り切れていない椎奈。


「『あの人』はお姉さんが来ないと、多分お顔、見せない」


「僕だけじゃ駄目なのか?」


「⋯⋯うん」


 サナの一言は椎奈の強制出動命令であった。


 苦い顔をして、唸るような声を出してしゃがんでしまう椎奈は頭を抱えてしまう。


「うっそぉ⋯⋯。逃げていいですか?」


「友達見捨てんのか?」


「そうですよね。あ!⋯⋯警察に言うとかは!」


「⋯⋯言っても信じてくれるのかな?僕は駄目だった」


「⋯⋯分かりました。行きますよ。お母さんに連絡します。中入っていいですか?」


「あぁ、良いぞ」


 ノロノロと疲れた様子で准の家に入った椎奈とサナ。


 中に入り、早速准がした事は探し物であった。


 押し入れへと小さな箱に入れて放置しっぱなしとなったそれを探すべく、部屋に入って行く准。


 そして、二人きりとなった椎奈とサナ。


 リビングにあるソファに勝手ながらも座り込んでいる。


 真正面にあるテレビを付ける事も出来たのだろう。


 けれど、それどころではなかった。


 チラチラと視線を向けては外す椎奈とそれに気付いても何も言わないサナ。


 高校生の彼女にとって、小学生の子供と戯れる事は容易であり、引き受ければ簡単にOKを出すのだが、初邂逅が良くなかった。


 驚愕の出会いと家への侵入と脅かし要素という三文句が未だに椎奈の脳裏に過ぎってしまい、会話をするという発想は出てこなかったのだ。


「⋯⋯」


「⋯⋯」


「⋯⋯お姉さん」


「うわっ!⋯⋯はい?なんですか?」


 真横からの語り掛け一つで真っ青となる顔色と背中をなぞられた時のようなゾワゾワ感が椎奈を襲う。


 声の方向を向くと、体育座りで律儀に待っている少女が一人。


 椎奈の方へと顔を向けて待っていた。


「サナ、もう悪い事しないから⋯⋯何かお話して」


「お話って言っても⋯⋯、どうしよう」


 現代女子高生の彼女にとって、話題の提供自体は何も苦では無い。


 けれど。


「⋯⋯喋ったら殺すとかない?先輩居ないから今なら⋯⋯とか?」


 殺される恐怖が付き纏う。


 友人二人が忽然と姿を消したというのを体験している身からすれば、『あの人』がやった事であろうと『少女』がやった事であろうと、感じる恐怖に違いは無い。


 怯え、警戒を解かない彼女を見つめる少女の瞳。


 そこには、憐れみもなければ、同情も優しさも無い。


「うん。何もしない」


 無だった。


 彼女は見ている。手を繋いで帰る際の少女の姿を。


 笑ってはいなかった。怒り、驚嘆もなければ、文句を言いたそうな表情でもなく。


 何も無く、真顔なのだ。それが彼女には分からなかった。


 理解の外の存在が、理解出来ない表情をしている。


 普通の子供は手を繋ごうとすれば何かしらの表情を露わにするものだが、少女にはそれがなかった。


 笠辺かさべ沙耶さやが表情を出せない、出す事が苦手な存在ならば、サナは表情を出す事を恐れているように、無理して固めたセメントのようなもの。


 口角が上がりそうになるのを、途端に止めて真顔になるのを、眉が上がり、すぐに下がるのを、走ろうとして、一旦止まりかけて、また走った歪な動きをした少女を彼女は見ている。


 何よりも、呼び掛けられた時の声色は確かに嬉しそうだったのを聞いていた彼女は、『幽霊』が純粋に不気味で謎の存在である事が怖いのだ。


 理解出来ないなりに、理解しようとする自分含めて、彼女は怖いのだ。


「⋯⋯怒らないで下さいね?あの⋯⋯なんで、そんなに笑おうとしないのかな?って⋯⋯あ、ごめんなさい。悪気があったんじゃなくて、好奇心がそう言わせて⋯⋯え?」


 何かしらの挙動を取ろうとして、止めて、顔を埋める少女。


「⋯⋯」


 背丈の小さいその女の子は人では無い。


 彼女はそれを理解している。してしまって居たからこそ、それを否定しようとしている自分もいる。


「どうして、そんなこと言うの?」


「⋯⋯私、学校じゃあよく空気読もうとするから、それでかな?なんか、察しちゃいまして。えへへ」


「お姉さん」


「はい」


「サナのお話、聞いてくれる?」


「はい」


 小さく頷く彼女はそれ以上に何も言えなかった。


 ただ、ひたすら少女の話を真摯に聞き、感情を揺らめかせるに留まるばかり。


  ━ ━ ━


 部活終わりの十八時四十分頃。


 部室棟の二階の一室で帰宅準備を済ませて帰ろうとしているサッカー部員の中に、そのマネージャーと話している人物達が居た。


「ねぇ、紫島しじま!私達で藍莉を説得しない?」


「なぁんで俺が?」


 サッカー部が使用している一室の外の廊下で話している紫島しじまりくは疲れた顔で自身に指差すも、それを払うようにする奏海。


「達って言ったの!浩太郎こうたろう、お願い!」


「えぇ、僕もですか?⋯⋯僕的には、藍莉さんと桐江きりえくんはアレで丁度いい気もしますけど⋯⋯」


 幸坂こうさか浩太郎こうたろうは文化部所属ではあるものの、仲の良いメンバーと帰る為、部活がある日は部室棟へと足繁く顔を出しており、捕まってしまったのだ。


 富谷とみや奏海かなみによって。


「ウッソよ!だって、アイツ!藍莉の事、何も考えてない。私、中学校一緒だったけど、アイツ。⋯⋯あんなんじゃなかったし」


「そっか。お前らは一緒の中学だったのか」


 りくが何気なく言う一言。


 それと同時に、扉を開けてある人物が出てきて、陸、浩太郎、奏海の近くに来る。


「⋯⋯俺は奏海の意見に賛成だ」


颯悟そうご?!」


 浩太郎が意外そうに声を上げた。


 武島むとう颯悟そうごは本来、そういった事にはノータッチであったのだが、今回は違う。


 真剣な面持ちで三人に声を掛けて来たのだ。


「⋯⋯俺も言いたい事はあるんでな」


「はぁ〜。まぁた颯悟の奴⋯⋯」


「まぁまぁ」


「コッコ。俺達の甘やかしのせいだぜ?これは」


「ですかね?僕、甘やかした覚えは無いですけど」


『むしろお前だけだ』と言いたげな浩太郎。


 その背後で背中に乗りかかるようにして飛び出して来た人物が一人。


「なになに〜!何が甘いスイーツなの?」


「うわぁぁ!⋯⋯はぁ〜、なんだ牧原まきはらさん。驚かせないでくださいよぉ」


「ん?」


 浩太郎の背中に乗り込んで来た逸花いちか


 咄嗟の事態に慌てた様子で叫んだ浩太郎は急ぎ、陸の方へと向い、荒い息を吐いていく。


「あ、丁度良かった。逸花。藍莉知らない?」


「藍莉ぃ?帰ったよ?弟くんのご飯とかあるからって」


「まぁ、そうだよね⋯⋯」


 藍莉と逸花は同じバスケットボール部。


 自然と会える機会が一番多く、現在は部活終わりは前もって持ってきていた体操服のジャージを着て、そそくさと帰るのが日課となっているのが、藍莉の現状である。


「家行くぞ」


「「はぁ〜?!」正気ですか?颯悟?!」


『気でも狂ったか?』と言いたげな浩太郎と陸。


 そして、つい口に出してしまう浩太郎に颯悟は頷く。


「正気だ」


「いやぁ〜。正気ではないだろ」


 若干引いている陸に同調するように強く頷く浩太郎。


 そして、一向に状況と話が掴めない逸花である。


「ん?どゆこと?藍莉ん家に行くの?なら、私も行きたーい!」


 そう、彼女にとっては面白くもない話をするかもしれないと知らずに、ただ乗っかるのみ。


 無邪気な子供のように。


「どうしたの?」


「嶺二、お前も来るか?」


 顧問に呼ばれていた嶺二も部室棟へと入り、話し込んでいるメンバーが怪訝そうな顔を浮かべているのを目撃し、声を掛けた。


 だが、突然の提案に首を傾げるのである。


「え?何処に?」


「藍莉の家に」


「何しに?」


「准との恋人解消を言いに」


「⋯⋯俺はパス。そういうのはしたくない」


 一気に不機嫌になった嶺二。


 それを見て、前へと歩き出す奏海。


「なんで!アンタとアイツ、仲良いじゃん!私と藍莉が仲いいようにさ!」


「それが?」


「藍莉がこのままじゃ、駄目になる!今日、五六時限目の授業出なかったよね?何してたと思う?」


「何してたのさ」


「ヤッてたんだよ。きっと」


「⋯⋯マジかよ」


 颯悟が苦い顔をするが、嶺二は飄々としており、見比べるように逸花は見ているのみ。


 陸が浩太郎に事情を聞こうとするも「後で説明します」と肩を叩き、納得したように頷く。


「え?別にヤる事自体、普通じゃない?」


「授業抜けてだよ?有り得ないでしょ!」


「確認とったの?」


 その言葉は嶺二の言葉。


 そして、嶺二の言葉に少し目を逸らす奏海。


「⋯⋯予想だけど」


「じゃあ、くっちゃべっただけかもなぁー」


 陸の正解である。キスも子供キッス止まりの二人。


 場所やムードがという言い分もあったが、何より、純粋な会話が楽しくて時間が過ぎて行っただけなのだ。


 童貞と処女を未だに捨てていない二人の風評被害でしかないのだが、それ事実かどうかは、聞くか見るかするしかないので分かるはずもなく。


「紫島は黙れ!」


 唐突な剣幕での言葉が陸を襲った。


「えぇ?!理不尽!コッコ!奏海が〜」


「はいはい。こっちおいで」


 言われるがまま、身長差二十センチある陸の背中を撫でる浩太郎。


 釣られるかのように逸花も頭を撫でる姿は小人に慰められる子供のようである。


「私は行く。颯悟も行くんでしょ?藍莉の家教えて」


「え?知らねぇけど?」


「え⋯⋯。知らないの?」


「あぁ。むしろお前が知ってるもんだとばかり」


 藍莉の前の住所すら知らないのだ。


 当然である。あんなゴミ屋敷を教えたがる思春期女子が何処に存在するものかと。


 部屋は服とゴミ袋の嵐。壁には黄ばんだ染みに酒瓶が散らかり、不定期に帰ってくる父親。


 誰であろうと見せたくは無い。


 そして、現住所は純粋に教えるタイミングが無いだけであり、決して教えるつもりがないという訳では無いのだ。


「逸花は?!」


「知らなーい!」


 縋るように聞いた奏海であるが、逸花も当然知らない。


 考え込む奏海。


「皆知らないのか。⋯⋯じゃあ、桐江んとこはどうだ?」


「アイツん家?」


 そして、向けられる視線は嶺二へと。


 そう、この中で一番准に親しいのは嶺二のみなのだ。


 他はただのクラスメイト止まりでそれ以外の事はない。


「嶺二、聞いてもいいか?」


「普通、ここで教えると思う?今の颯悟なら、殴り掛かるし、嫌だ」


「話するだけだって!頼む!」


「嫌だ!」


 食いかかる勢い。それが最もらしい今の颯悟の態度だろう。


 是が非でもと言った具合で嶺二に詰め寄る。


「じゃあ、お前も来てくれ。それで殴りそうになる俺をお前が止めてくれ」


「言っとくけど、本気で行くぞ?」


「構わない。りくとコッコもいるしな」


「え?僕達も?」


「桐江の家かぁ〜。見た事ないし、行ってみたい気もするけど⋯⋯」


「私もー!」


「本気ですか⋯⋯」


「本気だけど?」


「はぁ〜。分かりました。ストッパーで僕も行きます」


 呆れてしまった浩太郎。


 呑気な逸花と興味本位で行こうとする陸。


 この中で本当の意味でのストッパーは浩太郎のみとなってしまった瞬間である。


「⋯⋯はぁ。准に連絡⋯⋯あ。准の奴、スマホ無くしたとか言ってたな⋯⋯」


「行きましょう。アイツん所に」


 こうして、大洲戦隊ヤカマシンジャーは、リーダー不在の中、嶺二を含めて、准の自宅へと向かう事となった。


 その先の事も何も知らずに。

白米を食べていたら、おかずが欲しくなる。


これは七不思議に入りますか?


次回、人によりますがショッキングシーンを書きます。

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