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この街は今日も語る  作者: 紫芋
軽井椎奈は語り合う

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13/22

サナ・サカナ・■■■■■

どうも紫芋です。


好きな食べ物は300円する芋けんぴ。

嫌いな食べ物は100円の芋けんぴ。


先に言及しておきます。


程度にもよりますが、本編全体の中でも今回の章は比較的に一話分ごとが長めです。


理由は読めば分かります。


文字稼ぎと思われるのは嫌なので、言及しておきました。


 テスト期間も終わり、体育祭も終わった五月下旬頃のある日の夕暮れ。


 三人生徒は笑い話をしていた。


 変哲のへの字もない普通の会話。


 テレビに出ていた俳優の話や、隣の席のに居た生徒の話、女性向けの話だったりと、様々。


 そんな中、三人の内の一人がある事を呟いた。


「ねぇ、そういえば、この学校って七不思議に入ってるんでしょ?」


 現在三人が下りている坂と隣接している、築二十年の小学校。


「らしいね。私も聞いた事あるけど、嫌じゃない?小学校で噂話されるって」


「えぇ、そう?私は人気者感あって好きだよ?」


「それ、軽井だけだよ?」


「えぇ、そうかなー?」


「そうだってー。あ、見て。彼処の教室誰か居るよ?」


 一人の女性生徒が校舎に指を差す。


 夕暮れ時の太陽は校舎の裏に隠れるようにして、日を当てて、三人を包む。


「いや、居るでしょ。先生とかさ」


「⋯⋯ねぇ?何処に居るの?」


「軽井見えない?」


 一人の生徒が指を差した事でその方向に一様に注目する。


 まるで、示し合わせたように。


「あ、私も見えた。なんか、黒い服?なのかな?暗いせいで全然見えないや」


「えぇ?何処?」


 二人は既に視認している。


 もう一人の女子生徒も焦るようにして、顔をキョロキョロと左右に振りながらその存在を確認しようとした。


 しかし、どの教室もカーテンで締め切られており、分かりやすい筈の答えが分からずにいるのだ。


「三階の右から三番目の教室。ほら今、黒板の方かな?に向いてるじゃん」


 かなり詳細を語って貰い、目を凝らすようにして、三階右から三番目の教室を見つめる。


「あれ?カーテン開いてたっけ?」


 先程まで散々凝らして見ていた校舎。


 けれど、自身の知らぬ間に些細な変化でもあったように不審がる。


「何言ってるの?」


「本当にねー」


「ほんとほんと」


 多少のイラつきを感じたのか、ムスッとした様子で、これでもかと坂の端に設置されているフェンスに手を当てて、これでもかと凝視する。


 そして、太陽はゆっくりと静かに、確かに落ちていく。


「ていうか、軽井が一番見たがってそうだったのにさぁ」


「ほんとほんと」


「本当にねー」


「ていうか、軽井が一番見たがってそうだったのにさぁ」


「本当にねー」


「ていうか、軽井が一番見たがってそうだったのにさぁ」


「本当にねー」


「いや、さっきも聞いたって!二人共なんのイタズラ〜?」


「ていうか、軽井が一番見たがってそうだったのにさぁ」


「本当にねー」


「執拗いよ?あれ⋯⋯」


 怪訝そうに振り返ると、そこには誰も居らず、先程まで居た筈の学友は忽然と姿を消していた。


「なになに?どういう事?え?止めてよ冗談キツイって!⋯⋯っうわ!⋯⋯誰?」


 小さな女の子が居た。


 前を向き、彼女を見ているようで見ておらず、遠くを眺めているようにも伺えた。


 背丈からして小学生程度の子供であり、黒いヒラヒラのワンピースに白い長髪。


 異質な雰囲気が彼女の周りを漂わせる。


 そして、視線がようやく彼女の目と合った。


「ほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほん──」


「いやぁァァァァァァァァァァァァァァァ」


 口が開いていない。血が目から垂れ始めた。


 脳に直接響くような煩くも透き通って浸透していくような声は盛大なオーケストラですら真似出来ない音となって彼女を襲う。


 急いで坂を下り、持っている鞄が邪魔になっていると感じつつも手離さず、必死に振り返る事もせず、家へと辿り着いた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ〜。はぁ」


「お帰り?どうしたの?そんなに慌てて」


 キッチンから母親が出てきた。


 当然である。


 音だけ聞いていても、大慌てで帰宅してきて、息を荒らげて、一向に中に入らずに玄関で休んでいる。


 家族ならば不安になって顔の一つも見せるというものだ。


 そして、そんな母親を見た彼女は急に泣き出して、靴を乱雑に脱いで、駆け寄って行く。


「お、お母さぁぁぁん」


「なになに?どうしたの?何かあったの?」


「ヤバいの!ヤバいの!居たのぉぉぉぉ〜!」


 自身の娘の背中を優しく擦る母親。


 ふくよかな体格は娘を包み込んでいる。


「はいはい。大丈夫。落ち着きなさい。⋯⋯何があったか話せる?」


「うん。あのね──」


「ほんとほんと」


「⋯⋯え?」


 彼女の表情は強ばっていき、母親の真後ろから聞こえたであろうその声の主をゆっくりと、見ていく。


「ほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんと」


「いやァァァァァァァァァァァ」


「どうしたの!」


 一気に後退りして、壁にぶつかった彼女は、そのぶつかった拍子に更に驚き、涙を流していく。


 取り乱した娘に母親は慌てて駆け寄るも、伸ばした手を払われてしまい、耳を塞いで、蹲る。


「ほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんとほんと」


 娘の耳にはその言葉が絡み付いて離れない。


  ━ ━ ━


空弩街あくどがい』のとある高校の登校時間は八時四十分までであり、在学生とその間に自転車、徒歩、バスを使って通学している。


 そんな中、桐江きりえじゅんは一人で登校していた。


 本来ならば、彼女の大洲おおしま藍莉あいりという長い茶髪に巻いているのか、癖毛か、或いは寝癖か不明瞭なウェーブが少し掛かった美人寄り(当校比)の彼女と一緒に通学する場面なのだが、彼女は隣には居ない。


 過去を跳躍して時間の流れを変えてから一週間以上過ぎた現在。


 彼女は弟の蒼太そうたを学校近くの交差点まで着いて行っており、最初の頃はじゅんも着いて行っていたのだが、彼女曰く。


「駄目よ?だって貴方、私より蒼太と喋るじゃない。せめてよく分からないロボットの内容を履修出来てから一緒に行きましょう」


 との事。つまり嫉妬の気持ちに准は、敗北を期したのだ。


 それと同時に准と一緒に登校する人物は限られてくる。


 睦生むつき嶺二れいじだ。彼は高校一年からの友人である故に何かと付き合いが良く、登校も比較的に一緒なのだ。


 そんな彼のバリエーションに富んだ会話内容は時に准を不快にさせる事もあれば、一緒に盛り上がる事もある。


 今日もその日なのだ。


「つまりな、パット入りも無しも、外見の違いはあってもな、結局詰まってるって事よ?分かるか?准」


「ムッくんの言いたい事は分かった。お前はカレーに蜂蜜が入っていようと、なかろうとも。カレーはカレーって言いたいんだろ?」


「そうだよ」


「けどさ、結局そんな大きさを気にするのって、揉んだ時の感触が理想と現実との間でのギャップが起きて、文句言ってるだけだろ?」


「バッカ!胸ってなぁな!女性ですら大きさは気にするんだぞ?」


「それは惚れた男がいた場合だろ?誰が他人に揉まれる為に気にするんだよ」


 その言葉は嶺二に電撃走る。


 驚い様子で、僅かに立ち止まってしまい、後方に居た生徒が慌てた様子で避けていく。


「なん⋯⋯だと?!嘘だ!女性は皆!等しく、慎ましい胸に苦渋を噛み締めて、筋トレとかするんじゃないのか?!」


「だとしたら今頃は、サッカーも野球も、果ては相撲すらも女性版が主軸となって、世間様の茶の間を盛り上げる事になるな」


「おいおい、野球と相撲は兎も角。サッカーは盛り上がってんだろ?」


「ん?そうだったか?」


「なでしこジャパンがな!」


「古いっ!十年以上⋯⋯前」


「准は見てねぇかもしれないが、ちゃんとサッカー界隈は女性側も盛り上がってんだぜ?」


「世間一般的に優勝とかそういう凄い功績立てないと盛り上がらないだろって話をしてるんだ。現に僕も今さっきサッカー界隈が盛り上がってる事を知ったし、なでしこジャパンが優勝するまで、女性サッカーが公にあるのを知らなかった」


「そんなもんかねぇ」


 嶺二が考えるようにして、上を向く。


 二人は校門を潜り、下駄箱から上履きを置いて中に入って行く。


 今日も律儀にお勉強の時間。そして、噂を聞く時間でもあるのだ。


 そう、彼女。牧原まきはら逸花いちかによって。


 校舎に入ってする事は教室に入る事。


 そして、現在の准は藍莉の彼氏というのが公となっているのだ。


 付き合って七日目にそれは発覚し、それから藍莉と親しい友人とも僅かに縁が出来たのだが、准にとっては少し陰鬱な時間でもある。


 少年は中学の時は普通の少年であったが、高校進学を機に様々な要因と原因により、『不可解なモノ』と立ち会う事が多くなり、普通であっても一般ではない少年へと称号を変えているのだ。


 巻き込ませないという名目で友達付き合いを、敢えて悪くして、印象や影を薄くしている。


 しているのだが、彼女達には全くもって関係の無い事で、今日も教室に入れば当たり前のように声を掛けて来るのだ。


「おっはよー!桐江くんに睦生くん!ねぇねぇ、聞いた?聞いた!ヤッバイんだよ!おっそろしいんだよ!聞いて!」


 その元気溢れるフレッシュな彼女は愉快素敵な笑顔でボブヘアを弾ませているように走って来た。


「おい、牧原。朝からウザ絡みするな。悪ぃな嶺二に⋯⋯桐江」


 武島むとう颯悟そうごが何時もの如く、逸花の背後に立ち、首根っこを掴む。


 見慣れた光景と見知った関係。


 お世話係兼保護者のようなポジションになりつつある彼は今日も高い身長で逸花を見下ろす。


 ショボくれそうになっている逸花を見た嶺二は急かしたように前に出て行く。


「いやいや、良いって!んで、何を聞いて欲しいんだよ?」


 彼のお人好しは始まった。


 准にとっても有り難く、そして、欠点でもあるお人好しが、今日も炸裂する。


「実はね!一週間くらい前に、車に轢かれた人が居たらしくて、全身ズタボロになったの!」


「普通だな⋯⋯」


 颯悟が彼女の背後でそう言うと、指を立てて横に振る。


 しかし、カウボーイか何かと思い込んでいるのだろう。


 息を吐いて「ふぅ〜」と人差し指に当てているのだ。


「ノンノン。それからよ?それからね、その車で轢かれた人はなんと!二日で回復したんだよ!」


「スゲー。で?何処の誰が?」


 一見関心がありそうな顔をして上で、真顔で質問してきた嶺二。


 それを聞いていた准は苦い顔をしていた。


「知らなぁい。でも会って見たいよねー!凄い事だしさ!」


(牧原。それ、僕だ。良かったな、会えたじゃないか。まぁ、質問厳守にさせてもらうが⋯⋯)


 一週間以上も前である事と、入院期間を偽られている事以外は本当である為、何も言えない准。


 あれから、その異常とも呼べる治癒能力に心当たりがあるか『虚象』に聞いたが、結局『知らぬ、分からぬ、関係ない』の一点張りであり、捜査は中止となってしまい、そのままである。


「もう、逸花ったら、そんな訳無いでしょ?どうせ、尾ヒレが付いて変な噂になったんだって」


 気が強そうな声が聞こえた。


 准がその方向を見ると、颯悟の横を歩いて行き、逸花に抱き着く女性が一人。


「えぇ〜。奏海かなみちゃんはそう思うの?」


 富宮とみや奏海かなみ


 藍莉の友人の一人であり、颯悟の幼なじみ。


 長袖を捲って、青色のシュシュで髪を結んで後ろ髪を垂らしている女子生徒でクラスメイトであり、逸花の保護者役にも近い立場に居る。


「ったり前だって。大体、交通事故って言っても、ちょっとの接触でも交通事故なんだから、大した怪我してない人が大袈裟に言ったんだよ」


(僕の轢かれた瞬間を見せてあげたいな⋯⋯。絶句もんだったって言ってたぞ⋯⋯)


 藍莉と蒼太の双方が揃って、そう発言していた事である。


 けれど、准からしてみれば藍莉はガードレールと車のサンドイッチで蒼太は頭部を打ち付けて亡くなっているのだと、聞いていた。


 そう考えれば、どちらが悲惨だったかは言うまでも無い。


「わっかんねぇぞ?世の中にゃあ、とんでもねぇ事があるって聞くしよぉ〜」


「また、オカルト?紫島?」


「オカルトじゃあねぇー!ミステリーだ。なんべん言やぁ分かるんだよ」


紫島しじまくんの場合は、実際あったらあったで、どっちでも良さそうだね」


「言うじゃあねぇか、コッコ。夏休みに待っとけよ?家に押しかけてツアー行かせっから」


「はい!?止めてよ!?」


「紫島くんは元気ハツラツだね〜」


「牧原が言うかよ?」


「本当ですよね」


 紫島しじまりく


 俗に言う活発で明るい奴であり、准が煩い奴認定しているクラスメイトで、藍莉の友人であり、オールバックが最近のトレンドなのか、前髪も後ろに流して、ワックスで固めている。


 サッカー部でもある為か、嶺二や颯悟とは、よくウマが合うらしく、帰り際に一緒に放課後に出かけていると嶺二経由でよく話題に出る人物。


 今現在もクラス二大騒音。逸花と陸は会話を愉快に弾ませている。


 そんな騒がしい、喧しいでお馴染みの陸がコッコと呼んだ人物は幸坂こうさか浩太郎こうたろう


 眼鏡を掛けたインテリで大人しめの印象を受けるが、コミュ力有り、討論百点、テストの成績上位層組という准からすれば微笑ましい限りの存在である。


 前髪を邪魔にならないようにと横に流している彼だが、前髪を下ろした際は普通にイケメンであった為、准は密かに対抗心を燃やしているのだ。


 そして、嶺二と准を除いた彼等彼女等に対して、准は密かにある名称で呼んでいる。


「おはよう」


「あ〜藍莉ー!おっはよー」


「ええ、おはよう逸花。奏海」


「おはよう、藍莉。また彼氏くんほっぽりだしたの?」


「そうなのか?藍莉?」


 逸花、奏海、陸、颯悟、浩太郎の五人が一斉に藍莉の方へと向いた。


 嶺二は前の席である為、鞄をロッカーに詰めて、教材を机に置きに行ってしまい、後方の席である准は嫌でも耳に入ってくる座席の為、聞き耳を立てていた。


「違うわよ。私の事情で遅れさせる訳には行かないでしょ?だからよ」


 藍莉が准の真後ろで会話を弾ませて、仲間内でワチャワチャとしている。


 それに対して、准は呟いてしまったのだ。


 そう、彼等彼女等の名称を。


「大洲戦隊ヤカマシンジャーが⋯⋯揃っちまった」


 構成員は牧原逸花、武島颯悟、富谷奏海、紫島陸、幸坂浩太郎、そして大洲藍莉を中心に組まれたそれはそれは教室一室を、瞬間最大風速五十キロという家屋倒壊級の驚異的な風を呼び込み、皆を快活と笑顔に誑し込むエキスパートである。


 ある者は言う。


「牧原さんは〜元気なの!だから、こっちも元気になるって言うか〜。あ、富谷さんはね、優しいの〜。大洲さんは綺麗で、基本いい事言うよねって感じ〜って言うか〜」と。


 ある者は言う。


「颯悟ッチ!紫島ッチ!野球やろうぜー。え?幸坂くんもやるの?」と。


 今日もクラスは大盛り上がり。そして溜め息は溜め息。


 こうして、今日も何気ない日常は開始される。


「聞こえてるわよ?」


 ほんの少し、語気の強い声は確かに後方から聞こえてきた。


 スマホを取り出そうとポッケに手を突っ込んだ時、頭に手を置かれてしまい、硬直する准。


「聞かなかった事にして」


「い・や」


「ハートマークが語尾に付いてない⋯⋯」


 准もその大洲戦隊ヤカマシンジャーの仲間入りを果たす日が来るのかもしれない。


  ━ ━ ━


 お昼休みとなった。


 昼休みに生徒達のやる事と言えば決まっている。


 お弁当や学食で昼ごはんを舌鼓して、余った時間で遊び騒ぎ、五時限目の授業に精進する事。


 そうだと准も思っていたのだ。


 藍莉達、大洲戦隊ヤカマシンジャーは皆、学食で腹を満たすという使命に走っており、教室には居らず、三十二人居る筈のクラスメイトは僅か十人しか居ない状況となっている。


 そんな中、聞き慣れない声がした。


「あの、すみません。大洲先輩います⋯⋯か?」


 その言葉は弱々しく、目に隈を作って覇気のないのが誰から見ても明らかな女子生徒が准達のクラスを訪ねてきた。


 これが切っ掛け、始まりとなるとは、この時の准はまだ知らない。


「大洲さんなら学食だよ?」


 一瞥もしない准と優しく答える嶺二。


 嶺二の席が前から二番目の廊下側である事と、目線が合って事でこうなってしまう。


 一方の准は弁当に目を向けて、相手にしない。


「そ、そうですか」


「伝言なら伝えとくよ?」


「あ、あの。その。変な事を言うかもしれないんですけど⋯⋯。あの⋯⋯」


 言葉を詰まらせていき、何かを察したように嶺二は立ち上がって、女子生徒の傍に寄る。


「何が言いにくい事なら、女子生徒に代わって貰うけど?」


「いえ、そういうのじゃなくて⋯⋯です。あの!弟さんの学校、危ないかもって⋯⋯」


「どういう事だ?」


 ここでようやく准が顔を上げて、眉間に皺を寄せて声を掛けると同時にその姿を見た。


 ブロンズ色に染めた髪に、伸びた髪は耳よりも僅かに下辺りで二つ結びにしており、赤いヘアゴムで結んでいる。


 准が反応した事により、嶺二と女子生徒は驚いた様子で声のした方向へと向きを変えた。


「え?あ、あの。その、昨日、私。変な、変な⋯⋯うぅ」


「あ〜あ。准が泣かせた」


「え?!これ、僕のせいか?」


「ごめんなさい。違うんです。うぅ、はぁ、ごめんなさい」


「取り敢えず、座れよ。泣かれても分かんないし」


「は、はい」


 横の席にしまわれている椅子を引っ張り出して嶺二の隣に座らせる。


 そして、涙は既に止まっており、拭う事を止めた女子生徒は隣と前に居る二人を交互に見ていく。


「あ、あの、軽井かるい椎奈しいな、一年です。バスケ部で大洲先輩と知り合ったんですけど⋯⋯」


(なぜ止まる⋯⋯)


 そう突っ込もうとする准は、食べ終わった弁当をしまいながら、言葉を紡ぐ。


「それで?なんで弟くんの話になるんだよ?」


「その弟さんが居らっしゃると聞いて、小学校も聞いて⋯⋯。その小学校の横にある坂道が友人と私の通学路なんですけど⋯⋯」


「あーあるね。偶にデパートによる時に使ってるよ」


 フェンスで小学校側を塞いで、反対は集合住宅が広がっている場所。


 運動会等がある際はグラウンドで見れない代わりに坂で棒立ちして観覧している場合もあるその坂は、以前蒼太の送迎に着いて行った際に、准も通った事のある変哲も無い道である。


「それがどうしたんだ?普通の坂だろ?」


「違うんです!学校の方なんです。私達、昨日もその坂通ったんですけど、校舎を二人が眺めてたら、消えちゃって、それで⋯⋯」


「え?消えた?何言ってるの?」


「⋯⋯ちょっと悪い、嶺二。コイツ借りる」


「え?いや、気になるって!」


「お前、()()()()()()()()()()()()()?」


「⋯⋯そうだったな。そっか悪いな、頼んだ」


「え?あの⋯⋯」


「その話。詳しく聞かせろ。後輩」


「え?あの、はい」


 二人は教室を出て、グラウンドと食堂近くにあるベンチに腰掛けて、准は話を聞く事とした。


 あまりベンチを使う生徒も多くは無く、暑くなっていく時期には特に使われないそのベンチは、グラウンドで今も騒ぐようにサッカーをしていたり、陸上部の走り込み練習を一望出来る。


 後方には体育館と食堂、多目的ホールが隣接している施設があり、窓越しから二人の様子を伺えてしまうものの、准はここ以外で嶺二に聞かれずに話を進めれる場所は部室棟以外に知らない。


 また、准も確かめたい事が出来てしまい、こことなったのだ。


 椎奈の話は決して懇切丁寧という訳でも、要領を得る内容でも無かった。


 けれど、その真剣でありつつも怯えたようにも見える彼女の言葉を聴き逃しのないようにと、真面目に聞いていた准。


 そして、全て聞いた准が最初に放った一言は。


「メッセージで済ませれるくね?」


 極論、これであった。


 別段、心配していない訳ではないのだ。


 けれど、何故『先輩の弟さんの通う小学校は、危険がある』を直接言い来たのかが、准には分からなかったのである。


 そう、何故()()()()が分からない。


「家にも出るんです!」


「はえー」


「真剣に聞いてください!」


 怒る素振りで見上げる彼女には一瞥もしないで、明らかに呆然とした様子で准は指を差した。


「それってあの子か?」


「え?」


 彼女から見て右方向、准達が今居る位置に向かう際に入って行った場所でもあり、食堂の窓からバッチリ見える箇所に黒いワンピースの少女は確かに居るのだ。


「⋯⋯嘘」


 立ち上がった彼女は後退りして、うっかり准とぶつかる。


 それを意に返さずにその少女を見ている准は考える素振りをした。


「普通の人には見えないのか」


 振り返り、食堂内を見るも食堂の中で誰かしらが少女に着目している様子は無く、グラウンドでも同様に気が付いているといった様子は無かった。


「先輩、見えるんですよね?どうにか出来ないんですか?」


「僕が霊媒師か悪魔祓いに見えるのか?」


「この際、なってください!」


「どの際だよ。⋯⋯それにこの子の場合、騒音がするだけで無害なんだろ?」


「立派に害ですよ!」


 地団駄を踏んで、准を睨む椎奈。


 それを馬鹿を見る目で見つめた准は溜め息を零す。


 彼女が言うには、家に居る間ずっと煩いという訳では無く、遭遇時の一回、帰宅後の一回と、次の日となった今日、登校した時に小学校近くを通ろうとした三回のみ。


(明らかに小学校かコイツ自身に何かあるんだよなぁ⋯⋯)


 過去の経験則。それを踏まえた上での判断である。


 勿論、確信的情報は何一つとしてない訳だが、それでも、一つの事実があった。


「命取られなくて良かったな。まぁ、残り二人は知らないが⋯⋯」


 そう、生きている事だ。


 准の知っている『幽霊』は基本的に姑息であり、冷徹であり、非情である。


 心はあるのに心を通わせず、活動しているのに活動を悟られないようにして、人を襲う時は先手必勝を必然としており、無差別から特定の場所に入った場合と多岐に渡って活動しているのだ。


 そんな姑息であり、冷徹であり、非情が必然的な『幽霊』相手にまだ生きているという事実が准にとっては気の抜ける程に優しい案件にしか見えずにいる要因となっている。


「なんで落ち着いて居るんですか?!というか、如何にも危ないですよね?こ──ッうわぁぁぁ!」


「うわっ!ビックリしたっ!⋯⋯止めろよ、突然の大声なんて、犯罪にも等しいぞ?」


 突然の悲鳴にも似た絶叫はグラウンドに響き渡り、それを聞いたおよそ数十人の生徒は一斉に准と椎奈へと視線を移した。


 けれど、彼女はそんな事は気にも止めず、怯えた様子で准の方を震えるように指差している。


「先輩、先輩のよよよ、横」


「え?」


「ほんとほんとほんとほんとほんとほん──」


「⋯⋯⋯⋯」


 少女が椎奈とは反対の位置、准の横に佇むようにして居た。


 黒いヒラヒラのワンピースに、白い襟とボタンは僅かに血で汚れており、赤いリボンがよれているのが准の目からよく窺えて見える。


 何よりも白い長髪の髪と黒い瞳からは印象深く刻み込むように、血が垂れ始めていた。


「ぎゃぁぁぁぁ!なんで?!さっきまでアッチに居たのに?!」


「⋯⋯血出てるじゃん」


 ポッケの中を弄る准なのだが、「やべ、無い」と一言零して、至って平時と変わらない様子を見せている。


 一方の椎奈はそれどころではなかった。


「何言ってるんですか?逃げましょうよ?先輩!!」


 あくまでも先輩と共に逃げるという前提で行動しようとしており、ベンチの端で縮こまりはするものの、動こうとは決してしなかった。


「ほんとほんとほんとほんとほんとほんっ」


「ちょっと静かにしてくれ。お前の話してるんだから」


 少女の髪が崩れる程に撫で回す准は、面倒臭そうな雰囲気だけは崩さずに、一瞥だけして言う。


 少女の声が止んだ。


 目から血が垂れなくなっていき、残ったのは目元の血の轍のみ。


「⋯⋯⋯⋯うん」


「嘘?!」


 顔だけひょこっと出して、驚愕の表情を浮かべる椎奈。


 しかし、彼女はまだベンチの端でしゃがみ込んで震えている。


「おまえ、名前は?」


「サ⋯⋯⋯⋯ナ」


「じゃあサカナで」


「先輩!何、ふざけてるんですか!」


 思わず突っ込む椎奈。


「ふざけてねぇよ!サとナの間があったから、名前に悩んでたかもしれないだろ?だからどっちとも取れるように『カ』を入れたんだろうが!」


「何言ってるんですか?馬鹿なんですか!幽霊で遊ばないでくださいよ!死んでも責任持てないんですよ?」


「おいおい、僕が死んだら、四十五日の間は夢に出て恨み節吐きまくるぞ?」


「嫌ですよ!勘弁してください。私の安息と安眠をどうしたいんですか?!」


「ふっ。お前の安息は僕が貰ったぜ」


「最低です、鬼畜、悪魔、外道の鏡!」


「おい、後輩。世の中には僕以上の畜生と悪魔と外道が居るかもしれないんだぞ?勝手な憶測だけで、僕を決定付けてくれるな。出会って数分で何がわかるんだよ、ちんちくりん」


 その言葉に准奈はキレた。


 チョロ見せ程度の顔出しだったのが、勢い立ち上がり、一気に准に近付く。


「ちんちくりんんん!?何ですか?!何なんですか?!私の体型が小さいっていうんですか?!平均よりは高いですよ!」


「童顔じゃん、お前」


「私のコンプレックスゥゥ〜」


 顔は手で隠されてしまい、恥ずかしそうにしている椎奈。


 それを見て、悲しそうなフリをする准。


「悪い、軽井⋯⋯童顔」


「私の名前消えてる?!蘆屋道満みたいなイントネーションで言わないでください。アイデンティティまで奪ってどうしたいんですか?!気怠げ人間。陰獣!先輩と付き合ってるって聞きましたけど、大洲先輩がなんで先輩と付き合えてるのか謎になってきましたよ」


「君、人のドラマを聞く態度じゃないぞ?聞きたいなら払ってもらおうじゃないか、え?」


 人差し指を椎奈の方へと差す。


 言葉と動作に多少、たじろぐ彼女。


「何をですか、お金ですか?私、財布の中身無いですよ?」


「違う。元より期待すらしてない」


「じゃあ、親の預金通帳⋯⋯とか?」


「お前、怒られろ」


「じゃあ何を払えって言うんですか?」


「⋯⋯覚悟だろ」


 先に言っておくが、少年は至って真剣かつ真面目に言ったつもりである。


『幽霊』と向き合う、祓うというのは、一種の覚悟無くして向き合えない事柄であり、専門家であろうと素人であろうとそれは変わらない。


 少なくても、准からすれば覚悟無しで『幽霊』と向き合った事こそ無いが、覚悟あってもどうにもならない事があるのもまた事実であると知っている。


 だからこそ、放った言葉なのだ。


「え?キモ。何この人、普通にカッコつけて言う事がコレって引きますよ?」


 しかし、椎奈がそんな准の事情を一から十まで知っている訳は当然無い。


 純粋に苦笑いで誤魔化そうとすらしている彼女は、むしろ少年に対して同情的になろうとすらしていた。


「ちょっとぉ?真面目な話よ?何引いてるの?」


「いやいや、引くなって言う方が無茶でしょ。先輩、マジで引くわ〜」


 少年が真面目に言っていたと知ってしまった事で、同情心も折れてしまい、本当に憐れんでいる軽井椎奈なのである。


「おいぃ!?その憐れむような態度を取るな!この子を押し付けるぞ?!良いのか!」


 そう言って、白髪の少女の脇を掴み、持ち上げると軽井の方へと向けて歩き出す准。


 少女はされるがままであり、腕はぶら下がっていた。


「ぎゃぁぁぁぁぁあ!持ち上げてるぅぅ。なんて事してるんですか?!呪われますよぉぉぉ!」


「おい、失礼だぞ?たとえこの子が百年か三百年前の子供だったとしても、中身は子供ぞ?」


「なんで二百年飛ばしたんですか?!⋯⋯止めてください!押し付けないで、近寄らせないでください!ごめんなさい!かっこいい良かったですッ!引いてごめんなさい!」


 すると、ジワジワと近寄っていた准の動きは停止して、足音が無くなった事で椎奈は閉じていた瞼を開けた。


「⋯⋯何処が、かっこよかった?」


 少女の背後からひょこっと顔を出して聞いてくる准。


「⋯⋯⋯⋯やっぱりこの先輩、ウザ」


 その言葉は心の底からのものであると少年は理解してしまった。


 その後輩からの悪態に、准はベンチに座り込んでしまい、脚に乗せられっぱなしとなっている少女は、そっと頭を撫でてくれていたのであった。


  ━ ━ ━


 話をするべく、ベンチに座った准と少女・サナ。


 立ったままで警戒している椎奈はその二人から僅かに離れた位置でひたすら待っていたのだ。


(私から話し掛けたら殺される。こんな子供でも、二人を消せるって事でしょ?嫌だ、私まだ死にたくない)


 脳内は大パニックの大騒乱。


 俯いて視線を外せば、背後に移動してしまう可能性。


 なにか失言をすれば、心臓をかすめ取られる可能性。


 逃げようとすれば、追いかけ回される可能性。


 あらゆる可能性が執拗に付き纏う。


「で?サナっちは何用で来たの?」


「かる!止めてください先輩!殺されますよ?」


「だとしたら、とっくに殺されてる。持ち上げた時点でも軽口言った時点でな」


「だとしても、沸点の差でしょ?!」


「幽霊は心を持ってるけど、心を通わせないから沸点もクソもない。条件反射で殺すようなもんだ。システマチックにな」


「しすてまちっく?すいません先輩。歯磨き粉の話ですか?」


「ひょっとして、お前の方が巫山戯ふざけてるな?」


「私、真剣ですよ?」


「嘘吐け⋯⋯。まぁいいや。で、サナっちはなんでこのお姉さんを追い掛け回しているんだよ?好きなの?」


「⋯⋯危ないから」


「え?」


「おい後輩。お前、危ない奴扱いだってよ?」


「私、何か、したの⋯⋯ううん。したんですか?」


「あの校舎には、来ちゃダメ。お姉ちゃんはあの人のエサにされた」


「え?私、まだ食べられてないですよ?」


「ううん。選ばれた。だから、お姉さんのお友達もあの校舎にいる」


「⋯⋯嘘でしょ?!」


「⋯⋯サナっち。お前の言う『あの人』って誰だ?」


「サナを『死なせた人』」


「⋯⋯生きてるのか?」


「ううん」


「『幽霊』か?」


「うん」


「もしかしたら『悪霊』になってるかもな⋯⋯」


「『悪霊』と『幽霊』の違いが私には分からないんですけど?」


「端的に言えば、『幽霊』はシステマチックで、つまり条件次第で襲うけど、『悪霊』はその条件が自分本位過ぎるんだよ」


「何が違うんです?」


「うう〜ん。店にコンビニに、おにぎりがあるだろ?」


「はい」


「そのおにぎりはあと一つで、それを軽井が取ろうとすると『幽霊くん』も手を伸ばしていたとする」


 頷く軽井。


 普通に誰かに聞かせた場合の反応は大半は聞き流す程度だが、彼女は違う。


 当事者として、至って真剣に耳から頭に叩き付けようと必死になっていた。


「んで、『幽霊くん』の攻撃条件がおにぎりを『取る』事なら、お前はおにぎりを触らなければ攻撃は回避出来る」


「へぇ〜。それで、『悪霊』はどうなんですか?」


「おにぎりを取るかもって『悪霊』()判断した段階で攻撃する」


「はぁ?!理不尽じゃないですか!」


 憤りにも近い感情が彼女を襲う。


 それは声となって表現されて、後から表情は怪訝になる。


「理不尽なのが『悪霊』なんだ。『幽霊』と『悪霊』の違いは、その条件の緩さにある。まぁ、アレだ。調子に乗って干される芸能人が『悪霊』と思えばいい」


「すいません、先輩。最後のいります?」


「ノーコメントで」


 目を逸らす馬鹿な先輩。


 そんな少年からは視線を完全に外して、その隣に座る少女へと向かった。


 小学生低学年の見た目であるものの、何処か落ち着いている様子の少女を多少なりとも不気味に感じてしまう椎奈。


「それでどうして私が襲われるんですか?」


「お姉さんが『お気に入り』になったから」


「⋯⋯え?『お気に入り』?」


「『あの人』は『お気に入り』と遊ぶ為に、あそこに居る。そこ以外、居れないから」


「⋯⋯どうして助けてくれたんですか?」


「サナが気付いたら、お姉さんが襲われそうになってたから」


「え?それだけ?」


「うん。そう」


「⋯⋯」


 思わず准を見た椎奈。少年は縦に首を振るのみ。


 つまり、そういう事だ。


「あ、ありがとう、ございます」


「サナもごめんなさい。『あの人』、怖くて⋯⋯。お友達の人、助けられなかった⋯⋯」


「⋯⋯」


 俯いて悲しそうにする少女。


 けれど、准奈は何も言えなかった。


 否。掛ける言葉が見つからないのだ。


 その悲痛にも似た表情と空気をぶった斬るように准は少女を見て言葉を投げる。


「その友達はどうした?今の流れだと、『あの人』って奴に攫われたって感じに聞こえるけど、攫う条件はあるのか?」


「分からない。多分だけど、『遊んでる』から酷い事になってる」


「⋯⋯どうしよう、先輩!どうしたらいいんだろ?」


 嫌な想像は幾らでも出来る。


 だからこそ、彼女・軽井椎奈には焦燥感が募っていき、ソワソワした様子で准を見た。


「攫う方法は?『あの人』が直接見る事か?」


 けれど、准は軽井の表情を一瞥だけして、少女へと向き直る。


 しかし、准とて焦っていない訳ではない。


 いくら知り合ってもいない後輩といえども、危険な目に遭っていると知っていて、黙って聞いているだけでは無かった。


「ううん。見る事と見られる事のどっちも。『あの人』からは見られないけど、見たら見られるようになっちゃう。お姉さんはお友達が見たから巻き⋯⋯そえ?ってのになった」


「何それ?!とばっちりじゃん」


 何時もの通学路。


 何気なくしていた会話に当たり前の日々。


 けれど、その中に偶発的に見てしまった事と見られた事が重なって、巻き込まれた彼女は怒りを露わにする。


「だから、お姉さんが学校に近付かないように驚かせてた」


「うぅん。その『あの人』って奴が攫う人ってどんな人が多い?」


「お姉さんぐらいの人が多い。偶に大人の人とか」


 それを聞くと、溜め息を吐いて、立ち上がった准。


 何事かと思い、サナと准奈は少年を不思議そうに見つめた。


「仕方ない。頼りたくは無かったけど、頼るしか無いな」


「誰にですか?」


「当校ご自慢のゴーストバスター先輩にだ」


「え?!そんな人居るんですか?」


 椎奈の「そんな馬鹿な」と付け加えられた言葉に首を横に振り、自信満々に豪語する。


「ロボットみたいな人だけど。ちゃんと武力って意味じゃあ俺達よりも余っ程頼りになる」


「へぇ〜。知らなかった」


「ところで、その『あの人』ってどんな奴だ?」


「⋯⋯四十年くらい前に亡くなった『先生』」


 それを聞いた准奈が暗い表情をして、少女を見る。


 そして、それを肯定するような首の振り方をして、血の気の引いた顔を浮かべてしまう。


「⋯⋯それ、七不思議のやつじゃないですよね?」


「サナも聞いた事あるけど、多分そう」


「⋯⋯先輩。やめときましょ?」


「はぁ?!なんで?」


 突然投げ掛けられた言葉はベンチを離れて、歩き出そうとしていた准の動きを急停止へと導く。


 振り返って、不審そうに「何言ってんの?」と困惑した様子で中止を促した彼女へと投げ掛ける言葉。


「『空弩街あくどがい七不思議』を知らないんですか?!」


 不可解そうに見つめる椎奈。


 それがあまりにも大袈裟にも思えて、スンと冷めた表情をして、鼻で笑ってしまった准。


「知らん。いや、一個知ってる」


『翡翠色に光る象』こと『虚象』である。


 あの象も七不思議の『象願林そうがんばやし』で有名なものであり、嶺二から准は聞いていた。


「兎に角、まずはゴーストバスター先輩だ。行ってくるから、お前はその子と居ろ。放課後に合流だ」


「え?!待ってください!」


「じゃあなー仲良くしろよ〜」


「酷い!鬼畜!鬼!山姥ぁぁぁぁぁっ!」


「誰が山姥だぁぁっ!性別も違うじゃねぇか!」


 振り返って、声を張るだけだって、最後には校舎の方へと消えてしまった准。


 そして、泣きそうになっている彼女とそれを見つめて、呆然としているだけの少女はベンチに未だ、座ったっきり。

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