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春の避暑地で  作者: 朝山 みどり


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48 二人の終わり

 49 二人の終わり


 テリウスとフローラの婚約は、形だけは続いていた。


 だが、その実態は、すでに終わっていた。


 フォード家にとって、この婚約は「解消しないこと」に世間的な意味があった。わざわざこちらから切り出す必要はない。放置しておけばいい――それが家の判断だった。


 結果として、二人は奇妙な関係を保つことになる。




「今日も素敵ですね。フローラ」


 テリウスが穏やかに言う。


「ええ、あなたも」


 フローラも同じように微笑む。


 並べば絵になる。会話も整っている。距離も近すぎず遠すぎず、理想的ですらある。


 けれど――そこに熱はなかった。それは周囲も知っていた。


 どちらが動くか、関心はそこにあった。




 ある日、テリウスが言った。


「帝国へ行く」


 唐突ではあったが、不自然ではなかった。


「もう少し学びたい」


 言葉を選んでいるようで、すでに決まっていた。




 フローラはしばらく彼を見ていたが、やがて小さくうなずく。


「そう。いつ戻るの?」


「長くはならない」


 どちらも、その言葉を信じていなかった。




 出立の日。


 屋敷の前に馬車が用意されていた。


 テリウスが乗り込む前に振り返る。


「では、行ってくる」


「ええ。お気をつけて」


 見送りに来ていたフローラは淡々と答えた。


 手を振ることも、引き止めることもない。


 その様子に、使用人たちはむしろ安心したような顔をしていた。




 これでいい。


 どちらも、そう思っていた。




 テリウスが去った後、フローラは徐々に社交から遠ざかっていった。


 静かで満たされない日々が続いた。




 ある日、フローラは母親に呼ばれた。


「分家の者と話が決まったわ」


 淡々とした口調だった。


「テリウスとは、双方納得の上で解消したわ」


「はい」




 こうして、フローラは新たな婚約を結んだ。




 相手の男は、心通わす女性がいた。しかし、本家の意向に逆らえない立場だった。


「すまない」


 彼はその女性に言った。


「家には逆らえない」


「分かってるわ」


 二人は手を固くにぎりあって別れの言葉を交わした。




 フローラとの顔合わせの日。


 男は静かに頭を下げた。


「よろしくお願いいたします」


「ええ、こちらこそ」


 フローラも同じように応じる。




 互いに、事情は分かっている。


 だが、それを口にすることはない。








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