49 フローラの結婚式
49 フローラの結婚 ミネルバ視点
「とても似合っていますよ」
柔らかな声に振り向くと、ガーベラ伯母様が穏やかに微笑んでいた。
「本当に?」
フローラは少し不安そうに鏡をのぞき込む。その指先が、わずかにドレスの裾をつまむのが見える。
あの自信たっぷりの妹がこんなになるなんて……
「ええ、本当に。マダム・クロエの仕立てですもの。間違いありませんわ」
ガーベラ伯母様の言葉は、確信に満ちていた。
その一言で、フローラの肩からふっと力が抜ける。
伯母様は、この際だからとマダム・クロエに口をきいたのだった。
確かに、フローラとの間柄も、少しずつ変わっていいころかもしれない。
式場には、すでに多くの人々が集まっていた。
親戚たちのざわめき、祝いの言葉、控えめな笑い声。それらが重なり合い、春の陽だまりのような空気を作っている。
フローラの婚約者は、少し離れた場所で、緊張のあまり直立不動でアレクに挨拶をしていた。
「本日は……あの……お越しいただき、光栄です」
声がわずかに上ずっている。
アレクはいつもの調子で、口角をわずかに上げた。
「そんなに構えなくていい。今日は祝いの席だ」
「は、はい……!」
ますます恐縮してしまっている様子に、私は思わず口元を緩める。
大丈夫かしら……
けれど、彼のその必死さは、これからスペード家を建て直す覚悟の表れだろう。
アレクは、たとえ親族の集まりであっても特別な存在だ。
意識せずとも、周囲の視線がこちらに集まるのが肌で分かる。
そして、その隣に立つ私もまた、彼の一部であるかのように視線を浴びている。
今日の私の装いは、ゆったりとした灰色のドレス。体を締め付けないように特別に仕立てられたものだ。
布地の下にある柔らかなふくらみを、隠すつもりはなかった。
むしろ、新しい命を宿している誇りを、自然に見せられるような一着を選んだのだ。
「……二人目だそうですわよ」
小さな囁きが、耳に届く。
「まあ、本当?」「それにしても、お若いわ」「ええ、あんなに綺麗で……」
ひそやかな評価、羨望の混じった視線。
かつての私なら、こうした視線に萎縮していただろう。けれど、いまの私は不思議なほど落ち着いていた。
わたしはそっとお腹に手を添える。
命の重みが、確かにそこにある。
この子がいる。アレクが隣にいる。それだけで、背筋が自然と伸びるのだ。
卑下する必要も、気後れする理由も、どこにもない。
「相変わらず、目立つな」
隣から、アレクが低い声を寄せてきた。
「そう?」
わたしはわざと、首をかしげてみせる。
「本人はその気がないのが、なおさらだ」
呆れたような声音。けれど、その奥にわずかな独占欲と誇らしさが混じっているのを、わたしは敏感に感じ取っていた。彼に「誇らしい」と思ってもらえることが、何よりも嬉しい。
「アレクだって、見られているわよ」
「俺はいつものことだ」
当たり前のように言い切る彼に、わたしは思わず笑みをこぼした。
「じゃあ、わたしも同じね」
「……そういう問題じゃないだろう」
小さく息をつくアレク。そのやり取りさえ、心地よい。
周囲の視線がこちらへ流れてくるのは、わたしの立場やドレスのせいだけではない。
アレクがいるからだ。
彼が動くと、空気が変わる。
場の流れが、ほんのわずかに彼の方へと傾く。
抗いがたい引力のように、人の意識が引き寄せられていく。
そして、その隣に立つ私もまた、否応なく世界の中心に置かれるのだ。
「本当に、不思議な人」
小さく呟くと、アレクが怪訝そうに眉を寄せた。
「何がだ?」
「ふふ、なんでもないわ」
ただ、確かに感じていた。
この人が動くと、運命の流れさえも変わっていく。
わたしはその隣に寄り添いながら、静かに息を吸い込んだ。
彼と共にこの場所に立ち、この運命を受け入れていく。その覚悟は、もう揺るぎないものになっていた。
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