47 アレクサンダーの訪問
テリウスの家名を訂正しました。フォード→マクミラン
47 アレクサンダーの訪問
テリウスの父親のローレンス・マクミランに手紙を出した。
内容は単純だ。「貴殿の牧場を、共により発展させないか」――それだけでいい。
数日後、返事が来た。
「すぐに話し合いたい」
早い。そして――迷いがない。
「いい返事だな」
わたしがひとりごちると、隣でミネルバが首をかしげた。
「もう決まったの?」
「半分な」
「半分?」
「会えば分かることだ」
マクミラン家に向かう馬車の中で、計算を組み直す。
土地は十分。人手も優秀。あそこの牧場は、やり方次第で莫大な金を生む。
問題は、相手がこちらの意図を瞬時に理解できる器かどうかだ。
到着すると、ローレンス・マクミランが直々に出迎えた。
「ようこそ、お越しくださいました」
「当然の申し出を受けていただき、感謝します」
応接室に通される。余計な前置きは不要だ。
「提携の件だが――」
ローレンスが口を開きかけたところで、用意していた資料を差し出した。
「……これは、新しいですな」
「考え抜きました」
「しかし、よろしいのですか? この計画だけをわたしが奪ってしまうかもしれないとは考えなかったのですか?」
「計画書だけでは成功しない。肝心な部分はわたしの頭の中だ」
「ほう、自信がおありだ」
「なければ、わざわざ足を運びません」
「確かに。道筋は完璧ですが、肝心の『中継ぎ』が抜けている。承知いたしました、ローハン殿。共にやりましょう」
「ええ、マクミラン殿。成功させましょう」
ローレンスが椅子に深く座り直し、わたしを試すように目を細めた。
「このようなことを、どうやって思いつかれたのですか?」
「人は常に遊ぶ場所を求めている。特に、これからは中流階級だ」
「なぜ、中流に目を?」
「貴族は遊び慣れている。中流階級は違う」
わたしは指先で机を軽く叩いた。
「金はある。だが、その有効な使い道を知らないのだ」
ローレンスが深く頷く。
「なるほど。だからこそ、こちらが使い道を用意してやるわけですな」
「その通りです。牧場は広い。適度に運動できる。豊かな食もある。そこに体験を組み込む」
「体験、ですか」
「見るだけでは飽きが来る。自ら手を動かし、何かに参加させれば、それは唯一無二の娯楽になる」
ローレンスが感心したように息を吐いた。
「極めて合理的だ」
「役割は明確です。そちらは場所と人手を。こちらは資本と仕組みを提供する。あなたのような男と組めたのは、幸運だ」
◆◇◆◇◆
プレオープンの初日。
わたしが事前にあちこちで話題を振りまいておいた甲斐もあり、多くの客が詰めかけた。
「すごいわ、広い……」「牛が可愛いわね」「牧草が風になびいている」
反応は上々だ。
「こちらでバター作りが体験できます!」
案内役のスタッフが声を張り上げる。子供が親の手を懸命に引っ張るのが見えた。
「お父さん、やりたい!」
横でミネルバが小さく笑う。
「バターを作れるなんて素敵ね」
「客が引けたらやってみるといい。自分で作ったものをパンに塗る。それだけで価値が跳ね上がる」
しばらく歩くと、焼き菓子の香ばしい匂いが漂ってきた。
「これ、美味しいわ」
ミネルバが差し出された試食を口にする。
「材料の鮮度が良い。そして、あの牛の牛乳。クリーム。この開放的な景色が最高の調味料になる」
「味だけじゃないってこと?」
「ああ、五感すべてで満足させるのが正解だ」
人は正直だ。良いもの、そして新しい体験には惜しみなく金を払う。
ローレンスが歩み寄ってきた。
「成功ですね」
「予想以上です」
私が答えると、ミネルバが横から楽しそうに言った。
「本当に楽しい場所ですね、ここは」
ローレンスが、柔和な笑みを浮かべた。
「……それは良かった」
周囲を見渡せば、客に混じって視察目的の者も紛れている。すぐに模倣者が現れるだろう。
だが問題ない。立地と環境、この二点においてここが最善だ。
もし相手がマクミラン家でなければ、わたしはこの土地を無理にでも買い叩いていただろう。
だが、この男はそうはいかない。今のわたしでは、真正面から戦って勝てる相手ではないのだ。
勝負すれば双方が病弊する。その時点でどこかに食われる。だから、手を組んだ。
結果として、これは最良の選択となった。
この男から学べることは多い。それに、この事業はスペード家へのこれ以上ない復讐にもなる。
ローレンスも、スペード家のことなどおくびにも出さない。とっくに切り捨てているのだろう。
平和を絵に描いたようなこの光景の中、わたしたちは視線を交わした。
お互いの瞳の奥にある、共通した、冷徹な本質を確信しながら。
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