44 結婚式
本文を訂正しました。ガーベラ・フォード。ミネルバの伯母様。
ローハン夫人。マリー・ローハンを同じ人物と扱っておりましたので、その部分を訂正してます。
44 結婚式 マリー・ローハン目線
前から決めていた通りの、静かな結婚式だった。
王都のアレクサンダーの屋敷に集まったのは、わたしたちローハン家とフォード家とルークだけ。
余計な飾りも、見栄もない。いくらでも豪華にしてあげられたのに、あえての「引き算」の式。
この引き算にわたしは、ミネルバの伯母のガーベラと二人、力を合わせて抵抗したけど、だめだった。
アレクが頑固すぎて……
けれど、これでよかった。
この二人には、その方がよく似合う。
司祭の穏やかな声が、静まりかえった広間に響く。
「アレクサンダー・ローハン。あなたは、この者を妻とし……」
ゆっくりと刻まれる、神聖な儀式。
……おかしいわね。あのアレクサンダーが、ひどく落ち着かない様子。顔を赤くして、熱烈な視線をミネルバに送っている。
逆に、ミネルバの方は凛として落ち着いている。本当、面白い組み合わせだわ。
こんな光景を見られる日が来るなんて、想像もしていなかった。
ルークの方へ目を向ける。
あちらも、珍しく真面目な顔をしていた。余計な茶化しは一切なし。ただ、まっすぐに二人を見つめている。
「いいわね」
小さく呟くと、隣にいた使用人が不思議そうにこちらを伺った。
構わない。わたしの独り言よ。
やがて、誓いは交わされる。
「これにて、お二人は――」
司祭の言葉で、二人は名実ともに夫婦となった。
拍手をする者は少ないけれど、この場には祝祭の心が溢れている。
それだけで、十分すぎるほどだった。
ガーベラが泣いているのを慰めようとしたら、わたしも泣いていた。いやだわ、年取ったのかしら……
涙を拭きながら見ると、ルークが幸せそうに笑いながら、アレクとミネルバ、そして娘のマーガレットに視線を送っている。
何を思っているのかしら。こうしてみると、彼も年相応に可愛いところがあるわね。
その後の昼食会も、実に穏やかなものだった。
司祭を交えた、ゆったりとした時間。
けれどデザートが終わる頃を見計らって、別室で待機していたルークの護衛が静かに現れた。
彼らは逃がさないと言わんばかりに、ルークを両脇から挟み込む。
「ああ、なんてことだ。もう時間か! またな、アレク。ミネルバ!マーガレットォ!」
最後まで言わせてもらえず、扉が閉まる。
皆、思わず吹き出した。多忙な合間を縫って駆けつけた親友と、それを引きずっていく苦労人の護衛たち。
その友情の形が微笑ましくて、胸が熱くなる。
こうして、アレクサンダーとミネルバは正式に結ばれた。
そして今夜、王城の夜会。
「ミネルバ・ローハン夫人」の、華々しいお披露目だ。
「さあ、ミネルバ。立って」
最後の微調整を終え、わたしは一歩引いた。
目の前に立つのは、完璧に仕上がった花嫁。
いや、違うわね。
もう花嫁ではない。ローハン家を背負って立つ、一人の「妻」だ。
「どう、アレク。わたくしの選んだドレスは?」
わたしが問いかけると、アレクサンダーは言葉を失っていた。
ただ、見惚れている。
瞬きすら忘れ、魂を奪われたかのように。
「あら」
思わず、口元が緩む。これは予想外。
いつもなら減らず口のひとつも叩く男が、
「素敵です」
と、震える声で素直に答えた。
「本当に?」
意地悪く聞き返してしまったけれど、彼は一切動じない。
「本当に、素敵だ」
繰り返す言葉。その視線には、揺るぎない愛が宿っていた。
あらまあ。これは、からかう方が野暮ね。
わたしは肩をすくめて見せた。
「いいわ。今日だけは黙っておいてあげる」
あとは、二人の時間。
ミネルバが少し困ったように、けれど嬉しそうに視線を泳がせる。
「あの、アレク……」
彼女が声をかけると、ようやく彼は呪縛が解けたように息を吐いた。
「ミネルバ。綺麗だ。……私は、本当に幸せ者だな」
その言葉に、ミネルバの頬が朱に染まる。
いいわね。私はそっと視線を外した。
夜会が始まり、大広間に足を踏み入れる。
人々のざわめき。集まる視線。
そして「あれが……」「ローハン家の新妻か」「なんて美しいんだ……」
さざ波のように広がる感嘆。
私は静かにそれを享受していた。
当然よ。あの子を世界で一番美しく見せるために、わたしがすべてを整えたのだから。
「どう?」
隣に立つアレクサンダーに、小さく囁く。
彼は一度だけ、深く頷いた。
「完璧だ」
短い言葉。けれど、それこそが最高の賛辞。
「でしょう?」
視線の先で、ミネルバが堂々と、そして優雅に立っている。
誰にも、何ものにも負けない、誇り高い姿で。
その夜会は、最初から最後までミネルバのための独壇場だった。
そしてそれを作り上げたことに、わたしはこの上ない満足感を覚えていた。
これでいい。これが、ローハン家の流儀。
「次は、どんな場を用意してあげようかしら」
わたしの楽しみは、まだまだ尽きそうにないわ。
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