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春の避暑地で  作者: 朝山 みどり


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39 マーガレット目線

 39 マーガレット目線


 年が明けた。そろそろこの国ともお別れだ。そしてそれがとても残念だ。



 父上にも母上にも会いたい。もちろんそれは本当だ。けれど、それ以上に、ここで過ごす日々が、あまりにも心地よかった。


 だから、叔父様が言ってくださったとき、思わず息をのんだ。


「留学の手配をしておいたよ」


 そう穏やかに告げられて、わたしは一瞬、言葉を失った。


「本当ですの……?」


「もちろんだ。ご両親の説得も済んでいるし、学院の手続きも問題ない」


 あまりにも整えられた状況に、ただただ驚くばかりだった。


 嬉しくて、でも少しだけ怖くて、それでも――やっぱり、ここにいられることが嬉しかった。


 その後、叔父様に三人の男性を紹介された。


「彼らは留学してきた者たちだ。仲良くしてやってくれ」


 最初は少し身構えた。けれど、話してみると印象が違った。


 新時代だとか、大きなことを言っていた人たち。フローラ様のグループにいた人たちだ。


 もしかしたら苦手かもと、ちょっと嫌だったけど、実際は落ち着いていて、無理に主張することもない。


 むしろ、よく周りを見ている人たちだった。決めつけはよくないわね。



 それから自然と、三人のうちの誰かが、わたしのそばにいるようになった。


 特別に何かをするわけではない。ただ、気がつけば隣にいて、必要なときに手を差し伸べてくれる。


 残りの二人は、叔父様の後ろをついて回っていることが多い。


「三人とも、それなりだな。次代は安心だ」


 叔父様がそう褒めていた。


 その言葉に、わたしも少しだけほっとした。


 こちらでは、ミネルバは相変わらず人気者だ。


「字を教えてほしい」と頼まれることが多くて、最初は戸惑っていたけれど――


「学院なら構わない」


 叔父様の許可が出てからは、週に二度、学院で教えている。


 教室の窓から差し込む光の中で、真剣な顔で文字を書く人たちを見ていると、不思議と心があたたかくなる。


 あの音楽家の方たちも、習いたいと叔父様に頼んだらしい。そく却下だったとか……


 伯父様ったら。




 そして、季節は確実に巡っていく。


 冬の終わりに、わたしたちは国へ帰る。


 それはもう決まっていることだった。


 ただ、あの三人は、もう少しこちらに残るらしい。


 その話を聞いたとき、少し羨ましかった。


 叔父様がこっそりと、ルーク様に三人のことを頼んでいた。


「帰るな――」


「帰らないでおくれ!」


 それに対して、叔父様は即座に言い返す。


「帰る!」


「意地でも帰る!」


 そのやり取りが、何度も何度も繰り返される。


 本気なのか冗談なのか、わからない。


 けれど、どこか楽しそうで――


「ふふ……」


 ミネルバが笑いながらその様子を見ている。


 わたしもつられて、くすりと笑ってしまった。


 そして、わたしたちは、春を追いかけるように旅立ち、そして追い越した。


 春の花が咲き始めた我が家。


 懐かしい香り。


 扉が開いて、父上と母上の姿が見えた瞬間。


「っ」


 胸がいっぱいになった。


 父上に子供みたいに抱っこされて馬車から降りて、そのまま抱きしめられた。


 わたしも一杯力を込めて父上を抱きしめて、母上も一緒に抱きしめた。


「父上! 母上!」


 声が少し震えていた気がする。


 だけど、なんどもお二人を呼んだ。



 温かくて、懐かしくて


「マーガレット……」


 母上の声が優しくて、余計に涙が出そうになる。


 大人になったつもりだった。


 少しは成長したと思っていた。


 けれど、こうして抱きついてしまうあたり、まだまだ子供なのかもしれない。


「恥ずかしいですわ」


 そう小さくつぶやくと、父上が優しく笑った。


「それでいい」


 その一言で、胸の奥がじんわりとほどけていく。


 帰ってきた。


 本当に、帰ってきたのだ。


 それでも、あの場所で過ごした日々は、確かにわたしの中に残っている。


 あの人たちも、あの時間も。


 春の向こう側に置いてきたわけではない。


 きっと、またどこかで繋がっている。


 そう思えるくらいには、わたしは、少しだけ大人になれたのだと思う。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

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