36 若いってことは
36 若いってことは
広場の賑わいに身をゆだねていると、不意に、空気の流れが少しだけ変わった。
笑い声とざわめきの中に、妙に鋭い声が混じる。
「……あちら、何かありそうですね」
わたしが視線を向けると、広場の一角――小さな舞台の前に、人だかりができていた。
近づかなくても分かる。
揉めている。
中心にいるのは、若者たち。
どうやら二つのグループに分かれているらしい。
片方は色とりどりの衣装をまとった一団。楽器らしきものも持っている。もう片方は、揃いのマントに身を包んだ、どこか気取った雰囲気の面々。やはり楽器を持っている。
「順番の問題、かしら」
耳を澄ますと、断片的な言葉が聞こえてくる。
「先に申請したのはこっちだ!」
「いや、正式な許可はこっちが先に取ってる!」
どうやら、舞台を使う順番で揉めているらしい。
「……冬の夜に、ずいぶん熱いこと」
思わず呟くと、アレクが苦笑する。
「若いな」
簡潔すぎる感想。
けれど、妙に納得してしまう。
その間にも、声はだんだんと大きくなっていく。
「おいおい、押すなって!」
「そっちが、どかないからだろ!」
一触即発、というほどではないが、このままでは収まらない空気だ。
「危ないですね……」
マーガレットが不安そうに言う。
すると、その隣でルーク様がわずかに眉をひそめた。
「少し離れよう」
そう言いながら、自然にマーガレットの立つ位置をさりげなく変える。
人だかりから一歩引いた、安全な位置へ。
その動きはあまりにも自然で、まるで最初からそうなるように考えられていたかのようだった。
「……本当に、抜かりがないわね」
わたしが小さく言うと、
「そういう男だ」
とアレクが肩をすくめる。
その視線は、騒ぎの中心へ向けられていた。
「さて、どう収めるか」
興味深そうだ。
一方で、若者たちの言い争いは、少しずつ形を変え始めていた。
「じゃあ、実力で決めるか?」
誰かがそんなことを言い出す。
それに対して、
「望むところだ!」
「いいだろう」
そこでアレクが、すっと前に出た。
止める間もない。
人垣を自然に割りながら、その中心へ入っていく。
「……行きましたね」
わたしが小さく言うと、
「行くと思った」
ルーク様が即答する。
その声は落ち着いているが、視線はしっかりとアレクを追っていた。
中心では、まだ言い争いが続いている。
「順番は譲れない!」
「こっちだってだ!」
そこへ、アレクサンダーが割って入る。
「少し静かにしろ。話が見えん」
声を張ったわけでもないのに、不思議と場が静まった。
「……誰だ?」
若者の一人が訝しむ。
「通りすがりの大人だ」
さらりと答える。
「その書類、見せてもらえるか」
指先で示されたのは、舞台使用の許可証らしきもの。
一瞬ためらいがあったが、勢いに押されたのか、双方のリーダーらしき若者がアレクに渡した。
アレクはそれを受け取り、さっと目を通す。
その横顔は、さっきまでの軽口を叩いていた人物とは思えないほど、静かで鋭い。
「……なるほどな」
短くつぶやく。
「どういうことだ?」
すぐに問いが飛ぶ。
アレクサンダーは紙を軽く振った。
「事務局のミスだ。双方とも一番目だ」
「は?」
「話し合うしかないが……どうだ?こうしたら」
「二番目にやる側が最初の者の演奏時間を決めるというのは?」
「は?」
「つまり、最初のやつは一分とか五分とか」
「あぁ、そうだな。どうする?」
「じゅんけんでいいな」
「君と君。じゃんけんして」
「そちらが一番だ」
落ち着いた服装のリーダーが引きつった顔になった。
「そちらが二番だ。時間を決めて」
派手な服装できらめく彼も引きつった。
「えっと……なにを演奏するの?」
落ち着いた服装のリーダーが楽譜を見せながらなにか言った。
「では、十五分だな。準備、手伝うよ」
そこでアレクは戻ってきた。
「片付いたな」
軽い口調。
「さすが、叔父様」
マーガレットが素直に声を上げる。
その横で、ルーク様が小さく笑った。
「さすがだな、アレクサンダー。期待通りだ」
素直な称賛。
けれど――
「期待?」
「あぁ、期待だ」
ルーク様のその声にアレクは嬉しそうじゃなかった。
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