35 ルーク様とマーガレット
35 ルーク様とマーガレット
広場へ向かう道すがら、街の灯りはさらに密度を増していった。
家々の軒先だけではない。広場へ近づくにつれて、空中にまで光が浮かんでいる。
枝に絡むような灯り、吊るされた小さな光球、足元をやさしく照らす淡い灯火。
雪の白さを受けて、それらは何倍にも広がって見えた。
「すごい……」
マーガレットが、思わず立ち止まる。
その隣で、ルーク様がすぐに歩みを緩めた。
「足元、滑りやすいから気をつけて」
そう言いながら、自然に手を差し出す。
ほんの一瞬の迷いもない動きだった。
マーガレットは少し照れたようにしながらも、その手を取る。
そのやり取りを見て、わたしは思わず小さく笑った。
「本当に、分かりやすいわね」
隣でアレクが、ふっと鼻で笑う。
「あいつが、あんなになるとはな! 信じられん」
「人っていろいろな顔を持っていますから」
「さてな」
どこか楽しそうだ。
広場に着くと、空気が一気に変わった。
賑やかな声、香ばしい匂い、温かな湯気。
屋台が並び、人々が笑いながら行き交っている。
光の下で、そのすべてが少しだけ現実離れして見えた。
「何か食べる?」
ルーク様がすぐにマーガレットへ声をかける。
「えっと……」
周囲を見回し、目移りしているのが分かる。
その様子に、彼は少しだけ笑った。
「甘いものと温かいもの、どっちがいい?」
選択肢を絞ってあげているあたり、慣れている。
「温かいもの……がいいです」
「分かった。ここで待ってて」
そう言うと、彼はすぐに人混みの中へ入っていく。
「……早いわね」
思わずつぶやく。
「躊躇がないな」
アレクも同じことを感じたらしい。
ほどなくして、ルーク様は戻ってきた。
手には湯気の立つ紙椀と、小さな包み。
「熱いから気をつけて」
そう言って、まずマーガレットに渡す。
その指先が触れないように、微妙に角度を変えているあたりがまた細かい。
それから、アレクとわたしに。
「ありがとうございます」
受け取ったマーガレットの顔が、ほっとほどける。
「それと、こっちは後で」
甘いものらしい包みも、きちんと用意してある。
「美味しい」
わたしが呟くと、アレクが肩をすくめる。
「あいつが世話を焼くとは。雪国の幻想だ」
「そんな、仰り方。楽しそうですよ?」
「あぁ」
マーガレットが、ふうっと息を吹きかけてから一口。
「おいしい……」
素直な感想。
それを聞いた瞬間、ルーク様の表情がわずかに緩む。
ああ、本当に分かりやすい。
「ほら、こぼれる」
次の瞬間には、もう手を伸ばしている。
口元につきそうになった滴を、さりげなく指摘する。
マーガレットが慌てて拭う。
「すみません」
「気にしなくていい」
そのやり取りが、あまりにも自然で。
わたしは思わず、くすりと笑った。
「見ていて飽きませんね」
「同感だ」
アレクもこれには素直にうなずく。
広場の灯りが、二人の姿をやわらかく包み込む。
雪が静かに降り始めていた。
その中で、ルーク様は少しだけ位置を変える。
風を受ける方向に、自分が立つように。
マーガレットに雪が直接当たらないようにしているのだと、すぐに分かった。
「……本当に、かいがいしいこと」
わたしが小さく言うと、
「もう、止められないな。兄上になんて報告しよう」
とアレクが笑う。
「見たままですか?」
止めるつもりなど、最初からない。
むしろ――
こうして見ているのが、なんだか心地いい。
温かな湯気と、甘い香り。
賑やかな笑い声と、静かに降る雪。
そして、その中で少し過剰なくらいに世話を焼くルーク様と、それを受け止めるマーガレット。
その光景は、イルミネーションにも負けないくらい、やさしく輝いて見えた。
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