34 雪の世界で
34 雪の世界で
馬車が止まり、扉が開いた瞬間――冷たい空気よりも先に、視線を感じた。
見上げれば、そこにルーク様が立っている。
雪を肩に乗せたまま、じっとこちらを見ているその姿は、相変わらず絵になる……のだけれど。
「……分かりやすいわね」
思わず、小さくつぶやいてしまった。
その視線、完全にマーガレットに向いている。
わたしとアレクサンダーは、きれいに景色扱いだ。
「マーガレット」
名前まで呼んでしまった。
これはもう、言い訳のしようがない。
当のマーガレットはというと、ぱっと顔を輝かせて身を乗り出す。
「ルーク様!」
ああ、これはいけない。
このままだと、雪の上で感動の再会が始まってしまう。
――と、思った瞬間だった。
「おっと」
ひょい、と。
あまりにも自然な動きで、アレクが一歩前に出た。
まるでそこに最初から立っていたかのような、完璧な位置取り。
ルーク様の進路に、見事に入り込む。
「久しぶりだな、ルーク」
にこやかに声をかける。
その声音だけ聞けば、実に穏やかな再会の挨拶。
けれど、その足の位置は一歩も譲らない。
「……アレク」
ルーク様の声が、ほんの少しだけ低くなる。
わずかに目を細める。
その様子に、わたしは思わず口元を押さえた。
ああ、これは――
「邪魔をするな、という顔だな」
アレクサンダーが楽しそうに言う。
「するな、とは言っていない」
ルーク様が即座に返す。
「だが、どいてほしいとは思っている」
「正直でよろしい」
まったく悪びれない。
むしろ嬉しそうだ。
「長旅で疲れている姪に、いきなり雪の上で立ち話をさせるつもりか?」
「一言、無事を確かめるくらいは問題ないだろう」
「その一言が長くなる男だと、わたしは知っている」
「それは偏見だ」
「過去の実績だ」
ぴたり、と言葉が重なる。
一瞬の沈黙。
――次の瞬間、二人ともふっと笑った。
「変わらないな」
「そちらこそ」
軽く肩をすくめるルーク様。
その隙をつくように、視線だけがまたマーガレットへ向く。
ああ、本当に分かりやすい。
「……ルーク様?」
マーガレットが少し不思議そうに首をかしげる。
それだけで、彼の表情がやわらぐのだから、もうどうしようもない。
「無事でよかった」
今度こそ、まっすぐに言った。
その声には、さっきまでの応酬とは違う、はっきりとした温度がある。
アレクが、ちらりとその様子を見る。
そして、やれやれといった顔で一歩だけ引いた。
「ほら、言いたいことは言わせたぞ」
「助かる」
「貸し一つだ」
「覚えておこう」
軽く交わされる言葉。
けれど、そのやり取りには、長い付き合いの気安さがにじんでいる。
張り詰めたものは、どこにもない。
ただ、からかい合いながらも、きちんと互いの距離を知っている――そんな関係。
わたしはその様子を見ながら、ふっと息をついた。
なんだかんだで、ちゃんと信頼しているのだ。
「中へどうぞ」
ルーク様が改めて手を差し出す。
今度は、誰にも遮られない。
マーガレットがその手を取る。
その様子を見て、アレクサンダーが小さく笑った。
「さて、ようやく本来の役目に戻ったな」
「最初からそのつもりだった」
「どうだか」
また軽口。
けれど、その声はどこか楽しそうだ。
雪と灯りに包まれた街の中へ、わたしたちは歩き出す。
少し前を行く二人。
それを、少し後ろから見守るアレク。
そして――そのさらに後ろで、わたしは思う。
これはきっと、悪くない関係だ。
少なくとも、見ていて飽きないことだけは、間違いない。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




