26 園遊会での出会い
ミネルバは、祖母から受け継いだ淡いピンクのドレスに袖を通した。
胸元や袖に並ぶリボンは、昔の仕立ての名残をとどめているが、今の彼女に似合うようにいくつか外され、形も整えられている。
脇を少し詰めたことで、少女の身体にしっとりと馴染み、落ち着いた気品をまとわせていた。
アレクサンダーはミネルバを見つめ、短く、しかし確かな声で言った。
「きれいだ」
それだけを告げて、彼は手を差し出す。
ミネルバはわずかに頬を染め、その手を取った。
王宮の庭園では、園遊会に集まった人々がゆったりと談笑しながら、王族の入場を待っていた。
やがて、楽団の音色が変わり、王族が姿を現す。
その瞬間、会場の空気が一斉に引き締まり、古い時代の最敬礼が波のように広がった。
王族とともに入場してきたルークは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら、アレクサンダーのもとへ歩み寄る。
「アレク、世界中を探した相手を見つけたな。それもすぐ近くで」
その言葉は周囲の耳に届き、あちこちで微笑みが生まれた。
瞬く間に噂は広がり、園遊会の空気はさらに華やいでいく。
アレクサンダーは小さくため息をつき、困ったようにルークを振り返ったが、ルークはまるで気にしていない。
そんな折、新興商会の男がアレクサンダーに話しかけてきた。
遠方の農地から王都へ野菜や果物を運ぶため、街道の川に橋を架けたいという。
橋ができれば物流が速くなり、市場も広がる──男は熱心に語った。
ルークはその話を聞きながら、口元に笑みを浮かべる。
民の力とは、こういうものだ。
役所の計画よりも、よほど早く、現実的に動いていく。
アレクサンダーは真剣な表情で話を詰めていく。
必要な資金、土地の権利、王都の市場との関係──会話は次第に実務的なものへと変わっていった。
ルークはその横で、気楽に周囲を眺めていた。
そのときだった。
若い令嬢たちが、緊張した面持ちでミネルバの方へ向かっていくのが見えた。
ミネルバは侍従に何か指示を出している。
ルークは何気なく令嬢たちを眺めた。
まだ社交界に慣れていない娘たちが、憧れを胸に歩いてくる。
人生はこれからだ──そんな詩的な言葉がふと頭に浮かび、ルークは自分で苦笑した。
だが、次の瞬間。
ルークの視線が、一人の令嬢に吸い寄せられた。
水色のドレス。
ふんわりと膨らんだ袖。
楽しげな笑顔。
巻き毛を彩る、ドレスと同じ色のリボン。
ルークは思わず目を見開いた。
まるで電流が走ったようだった。
彼女以外の存在が、ふっと消えた。
周囲の声が遠のき、世界が静かになる。
さっきまで笑っていたルークは、ただ黙ってマーガレットを見つめていた。
その視線に気づいたアレクサンダーが横目で友人を見る。
ルークの表情を見て、ほんの少しだけ口元がゆるんだ。
友人が何を見ているのか、すぐに理解したからだ。
マーガレットはまだ気づいていない。
ミネルバに何か話しかけている。
ミネルバは少女たちに囲まれ、楽しげに会話をしていた。
園遊会のざわめきの中で──
新しい物語が、静かに幕を開けた。
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