22 婚約式の準備 フローラ目線
春のあいだ、王都ではずっと同じ話題が流れていた。
ミネルバお姉様の婚約式。
誰もがその話をする。
どこへ行っても、あの婚約式が華やかだったとか、次は結婚式だとか、そんな話ばかりだ。
正直に言って――うんざりしていた。
わたしが庭園で友人たちと話しているときも、同じことを言われた。
「そろそろ、婚約式だね」
その言い方が、なんだか胸に引っかかった。
お祝いの言葉のはずなのに、わたしは少し腹が立った。
だって、婚約式の準備はちゃんと進んでいるのに、最近どうも様子がおかしいのだ。
父も、テリウスも、難しい顔ばかりしている。
何を考えているのか聞いても、
「仕事のことで少しな」
そう言うだけで、はっきり教えてくれない。
そんなある日、友人の一人が笑いながら言った。
「それにしても、着るものの影響って大きいよな」
「なにが?」
わたしが聞くと、その人は肩をすくめて言った。
「いやさ、お姉さんって、いつも灰色の固い生地のドレスだっただろ?」
みんながくすっと笑う。
「俺たちの間じゃさ、あの服って脱いでも立ってるんじゃないかって話してたんだ」
思わず笑ってしまった。
確かに、お姉様のドレスはいつもそんな感じだった。
重くて、地味で、まるで罰でも受けているみたいな服。
けれどその友人は、少し真面目な顔になった。
「だけどさ」
そこへ別の友人が言った。
「フローラ。お姉さん、婚約式のとき綺麗だったね」
わたしは思わず目を瞬いた。
「え?」
「ほんとだよ。やっぱり恋をすると綺麗になるんだな」
そして笑って続けた。
「次は君たちの婚約式だろ。早くお祝いしたいな」
わたしは笑ってみせたけれど、胸の奥が少しざわついた。
婚約式の準備は、確かに進んでいる。
でも、どうも様子がおかしい。
父やテリウスの仕事関係――
つまり、いわゆる古い時代の人たちから、断りの返事が届くのだ。
予定が入っているからとか、都合がつかないから。
そんな理由ばかり。
逆じゃない?予定が入っていたら変更して出席するもんじゃないの?都合をつけるのではないの?
しかも、ドレスメーカーまで忙しそうだった。
予約を取りに行ったとき、職人たちは慌ただしく動き回っていて、
「少しお待ちください」
と何度も言われた。
どうしてだろう。
そんな大きな催しがあるのだろうか?
王都で、なにか大きなパーティーでも開かれるのかもしれない。
でも、それならそれでいい。
わたしはそう思った。
古い人たちが来ないなら、来ないで構わない。
だったら、新しい時代の仲間たちで、こぢんまりした会にすればいい。
形式ばった式なんて必要ない。
わたしたちらしく、楽しい集まりにすればいいのだ。
そう思って、友人たちに話すと、すぐに返事が返ってきた。
「楽しみにしてるよ」
「ついにだね」
「楽しく過ごそうぜ」
その言葉を聞いたとき、胸がすっと軽くなった。
そうだ。
大切なのは、誰が祝ってくれるかだ。
古いしきたりや、うるさい人たちじゃない。
わたしたちのことを、本当に祝ってくれる人たちだ。
わたしは窓の外を見た。
春の光がやわらかく庭に落ちている。
きっと、楽しい式になる。
そう思った。
これから始まるのは、新しい時代なのだから。
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