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春の避暑地で  作者: 朝山 みどり


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21/50

21 スペード家



スペード家は、もともと古い伯爵家だった。


しかし、先代伯爵が亡くなり、ミネルバの父が爵位を継いで間もない頃、王都で大きな投資話が持ち上がった。


南方の港の開発。

香料や絹の交易権。

王室関係者も関わっているという噂まで流れていた。


若く、まだ伯爵としての経験の浅かったミネルバの父は、その話に大金を賭けた。


領地の収入だけでは足りず、

資産を動かし、さらに借財までして資金を集めた。


だが――それは詐欺だった。


主導していた商人たちは国外へ逃亡し、資金は回収不能。

王都では被害を受けた貴族が続出し、大騒ぎになった。


スペード家は特に被害が大きかった。

借財は膨らみ、領地経営も危うくなった。


通常であれば、この規模の破綻は爵位の返上に近い処分になる。


実際、王宮では

「スペード家は貴族の体面を損ねた」

という意見が強かった。


しかし、そのとき思い出された人物がいた。


先代伯爵夫人――スペード姉弟の母である女性だ。


彼女は、ただの伯爵夫人ではなかった。


高位貴族の名門出身で、

王室とも縁のある家系の女性だった。


外交で功績のあったスペード伯爵とは、お似合いの組み合わせで祝福されて結婚した。


若い頃から社交界での評判も高く、

気品と知性を兼ね備えた婦人として知られていた。


王室の女性たちや、幾人かの高官たちは彼女をよく覚えていた。


会議の席で、誰かが言った。


「先代伯爵夫人の家柄を思えば、

 スペード家を完全に潰すのは気が引ける」


別の者も言った。


「家の名誉は守るべきだ。

 だが、この失態をそのままにするわけにもいかない」


そこで決まった処分が――


「伯爵位の返上。

 子爵としての存続」


つまり、家は残すが、格は一段落とすという裁定だった。


この決定の裏に、

先代伯爵夫人への配慮があったことは外には公表されなかった。


そして何より――


スペード子爵本人にも知らされなかった。


表向きの理由はただひとつ。


「財政破綻により貴族の名誉を損なった責任」


それだけだった。



爵位を失ったことで、

スペード家は表向きには「救われた」ように見えた。


だが、ミネルバの父にとっては違った。


彼はもともと誇り高く、

家の名誉を何より重んじる男だった。無理な投資も家格をあげようと思ってのことだった。


その彼が、家格を落とした。


その事実は、彼の心に深い傷を残した。

劣等感は日に日に大きくなり、

彼はそれを隠すように、以前よりも居丈高に振る舞うようになった。


そして、それから間もなく貴族制度が廃止になった。


もう、取り返すことができなくなった。


彼の中で、何かが静かに崩れ落ちた。



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