表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の避暑地で  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/50

12 二人の時間

翌朝。


まだ朝露の残る時間に厩舎へ行くと、空気が少しだけ違っていた。



けれど今日は、夫人が笑いながら言った。


「今日は主人とゆっくり散歩することにしたの」


マーガレットもなぜか妙に明るい声で言う。


「わたしも母と行きます!」


わたしは少し不思議に思った。


「では、わたしは……」


そこまで言ったとき。


後ろから声がした。


アレクだった。

「遠乗りをされるのでしょう」


振り向く。


アレクサンダーが馬の手綱を持って立っていた。


朝の光の中で、青い目が少し細くなっている。


「よければ、お供します」


その瞬間。


マーガレットが後ろでうなずいたのが見えた。


すごく大きく。


夫人も、にこにこしている。


なぜか二人とも満足そうだった。


こうして。


今日の遠乗りは、なぜかわたしとアレクサンダー様が二人で走ることになった。


馬に乗って屋敷を出る。朝の道はまだ静かだ。


草の匂い。冷たい空気。


そして、隣を走る馬の足音。


なんだか少し恥ずかしい。


けれど。


とても嬉しかった。


しばらく二人で並んで走る。


やがてアレクが言う。


「昨日のことですが」


わたしの心臓が少し跳ねた。


マーガレットの言葉が思い出される。


求婚みたいでした。


思わず顔が熱くなる。



「驚かせてしまいましたか」


わたしは少し考えてから答える。


「……いいえ」


そして正直に言った。


「むしろ……嬉しかったです」


言った瞬間、自分でも驚いた。


こんなことを、こんなに素直に言えるなんて。


前のわたしなら、きっと言えなかった。


アレクは少し驚いた顔をした。


それから、静かに笑った。


「それはよかった」


しばらく走る。


馬のリズムが心地よい。




「わたしは、あなたが好きです。ミネルバ」


馬が小さく息を吐く。


朝の空気が冷たい。


なのに、胸の奥が温かくなる。


こんなふうに言われるなんて、思ってもいなかった。


わたしは少し笑った。


「わたしもです」


わたしが言う。


「わたしも……アレクが好きです」


言ってしまった。


でも、恥ずかしいより先に、嬉しさが来た。


前の世界では、こんなことはなかった。


好きと言うことも。


好きと言われることも。


そして、それをまわりが笑って認めてくれることも。


全部、なかった。


馬をゆっくり歩かせる。


丘の上に出ると、湖が見えた。


朝の光の中で、静かに光っている。


わたしはその景色を見ながら思う。


なんだか。


まるで、全然別の世界にいるみたい。


実家でのわたし。


妹の影に隠れていたわたし。


母の言葉にうなずくだけだったわたし。


そのわたしが、どこか遠くにいる。


いまのわたしは、ここにいる。


馬に乗って。


好きな人と並んで。


好きと言って。


好きと言ってもらえて。


それを、誰も止めない。


風が吹く。


湖がきらきら光る。


わたしは思う。


もしかしたら。


過去のわたしを、少しずつ脱いでいるのかもしれない。


古い服をそっと脱ぎ捨てるように。


そして、新しいわたしが、ゆっくり育っている。


そんな気がした。


隣を見る。


アレクが、こちらを見ていた。


「どうしました?」



「ただ……とてもいい朝だと思っただけです。アレク」



「そうですね」


湖の光が、ゆっくり広がっていた。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ