第12話 陽炎と九死
リリイ、ピンチ!
ドラクのフラッグは無傷だった。
俺が放った「黒破震」はフラッグの上を通過し、後ろの壁を破壊している。
「馬鹿な…正確に狙った…!狙ったのに!」
「炎・幻影魔術 茜陽炎。炎の初級魔術だ」
ドラクは服についた土埃を払いながら言う。
「か、陽炎だと…」
「そうだ。対象の位置をズラして見せる…ただそれ
だけの魔術だ」
位置をズラして見せる…だと?
「そんなのに俺が騙されるわけ…」
無意識に口から言葉が零れていた。
そう思うのも当然だ。俺の攻撃はズレ過ぎている。
それだけズラして見せてたということだ。それなのに俺が気づかない筈が…
「俺が幻影魔術を使ったのは君が攻撃する直前だっ
た。しかも君は魔術が使われた瞬間を見ていない
のだから気付けなくても無理はない」
「ま、まさか…あの時…」
俺の詠唱を妨げた、火の壁を作った時…!あの時に俺の視線を切って幻影魔術を使ったってのか!
目眩ましを食らった直後にそんなこと出来んのかよ!?
「本当に危なかった。君があと数ヶ月…いや、数
週間長く特訓していれば、結果は変わっていた
だろう」
「…結果は変わっていた、だと?もう勝った気か
よ!」
まだ俺には魔力が残っているぜ!
どっちみち相手の陣地はすぐそこだ。もう防御魔術はない!飛び込んでこの魔剣でフラッグを叩き斬ってやる!
一直線にフラッグへ向かい剣を振り抜く。
「それはやらせない」
パッ!
ドラクの転移魔術によって自陣付近まで戻された。
くそぉぉぉ!後一歩の所…だったの…に…
あっ…
あ、足に力が入らない…
それだけじゃない。体中の力が入らない。
この感覚はあれだ、特訓中に何度もなった。
魔力切れ…だ
かろうじて立っていられるが…それで限界だ。
「見事だったぞリリイ君!しかし、これで終わり
だ!」
ドラクはそう言って火球を撃つ。
「っ…!アナクの魔神ッ!!」
「グオオオオオォォォォ!!!」
俺の叫びに応じて魔神は火球を打ち落とす。
「魔力消費無しで動けるのか!?」
ドラクが驚いているが、俺も驚いてる。
良かった、まだ終わった訳ではないらしい。
アナクの魔神でフラッグを守り続けて、魔力を回復する。
まだだ…まだ勝機は…!
「アナクの魔神…そちらの対処が先か…」
ドラクはそう呟くと、
「火魔術 烈火不知緋!」
ドラクの両手の術式から出た火がいくつにも分裂し、増殖しながら火の波となって向かって来る。
「頼む!アナクの魔神!」
さっきと同じように打ち落していくが、段々と押されていく。
「グアアアアァァァ!!!」
「魔術によるダメージはないようだ…しかし!攻撃
による衝撃は受けるようだな!」
その言葉の通り、魔術の衝撃で拳が弾かれる。その隙をついて火球がフラッグに迫る。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は僅かに回復した魔力をアウローラで増幅させ、浮遊魔術でアウローラを浮かせ、火の波へ突き刺す。
ドスッ!
アウローラはすぐそこに落ちる。
「ハァ…ハァ…守りきったぜ!」
「…面白い。面白いじゃないかリリイ君!」
「ならば!この攻撃はどうするッ!!」
…なんかドラクのテンションおかしいぞ。
「火魔術 赤龍咆哮焔!!」
…っ!ドデカイ火の龍が向かって来る!
何とかしないと俺も呑み込まれて…死ぬ!
アナクの魔神で抑え込むか…!それしかない!
だが、魔神は動く気配を見せない。
「アナクの魔神!!!た、助けてくれぇぇぇ!!」
俺の情けない叫びも虚しく、魔神は動く様子をみせない。
な、なぜ動かない!?
「ぐううぅぅぅぅぅぅ」
???
闘技場全体にまるでお腹が鳴ったかのようのな音が鳴り響く。
えっ…まさか腹すいた…とか?
暴食の巨人ってそういう…
もう龍はすぐそこに迫っている。
あ 死んだ
魔力はない。体のあちこちについた火傷が今になって痛む。力も入らないからすぐそこに落ちてるアウローラを回収することすらできない。
万策尽きた。
「諦めないでッ!!!リリイ!!!!」
リリンの声が聞こえる…
…くそっ!そうだよ…諦めてる場合じゃない!
震える体に鞭を打ってアウローラを回収しようとする。
「くそぉ…こんな簡単に…死んでたまるかぁ…!」
ドサッ!
倒れ込みながらもアウローラをどうにかして掴む。
生きる希望を得た
次の瞬間
火の龍が俺を呑み込み、焼き尽くした
「リリイーーーー!!!!」
リリンの悲鳴に似た絶叫は闘技場の壁の破壊音に掻き消されていく。
リリイの命運は尽きてしまったのか…?
次回でフラッグバトル編は終了です。
次回もよろしくお願いします。




