焔の答え
その夜、マリィはマッチを擦った。
小さな炎が灯り蜥蜴が現れる。彼女はその蜥蜴に、初めて弱音を吐いた。
「ねえ、サラマンダー。私間違ってたのかな。精霊を呼んだら、こんなことになるなんて思わなかった」
蜥蜴は尾を巻いてじっとマリィを見ていた。炎が、ゆらりと揺れた。
「お前は何も間違っておらぬ」
声がした。低く、乾いた声。マリィは顔を上げた。炎の中の蜥蜴が、少しだけ大きくなっていた。
「精霊は、呼ぶ者の心を見る。お前の心は清い。ゆえに我は来た。教会がどう歪もうと、それは人間の業。お前が背負うことではない」
「でも、シルヴィが狙われてるかもしれない」
「ならば、伝えよ。同じ炎を持つ者として。……お前には、それができる」
マリィは炎を見つめた。それから、立ち上がった。
「そうだね。まずは、シルヴィに手紙を書こう。それから、フィーナにもグレタにも。……教会がどう動こうと、私たちは私たちのやり方で精霊と向き合ってきた。それを、曲げるつもりはない」
彼女は机に向かい、蝋燭に火を灯した。マッチを擦って、ではなく指先でそっと芯に触れて。パイロキネシスは、まだ完全には戻っていなかった。けれど、小さな火を灯すくらいならできた。
手紙を書きながら、マリィは思った。
精霊教の教えは本来単純だった。精霊を崇め、ただ待て。それが歪んだのは人間が精霊を「手に入れたい」と思ったからだ。所有したいと思ったからだ。
けれど、精霊は所有するものではない。炎も、水も、風も、大地も。それらはただそこにあるものだ。人間が勝手に「使いたい」と思っているだけ。
サラマンダーが言った。「精霊は、呼ぶ者の心を見る」と。
ならば、私はただ、私の心を清く保とう。教会が何と言おうと、他の宗派が何をしようと。
マリィは手紙の最後に、こう書いた。
*「私たちは、精霊を道具にしない。それが私たちの答えです」*
封をして、窓辺に置いた。夜風がそっとカーテンを揺らした。どこからか、フィーナの鞴の音が聞こえた気がした。それは気のせいだったけれど、マリィはなぜだか心強かった。
炎と水と風と大地。四人の少女は、まだ離れている。けれどその掌には同じものがあった。何も残っていない、空っぽの掌。そこから何かを生み出す力。
教会は、それを「術」と呼ぶのだろう。けれどマリィは知っていた。それは術なんかじゃない。ただ、手放すこと。ただ待つこと。ただ、信じること。
窓の外、夜空に星が瞬いていた。あの星のどこかに、光の精霊がいるのだろうか。闇の精霊がいるのだろうか。
マリィはマッチを一本擦ってみた。小さな炎が灯る。その中に、蜥蜴が現れてくるりと尾を巻いた。
「おやすみ、サラマンダー」
「おやすみ、小さき者よ」
炎が、そっと消えた。




