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悪役令嬢に転生した元サムライ ~ゴミを宝に、宝をゴミに変える価値観革命~  作者: 竹屋 兼衛門


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第七話 これは命を賭けるべき決闘なのか?

ワシことザリーは今、ミークという娘と決闘の最中にある。


どういうわけか。


この娘――


本気でワシを殺すつもりらしい。


まるで理由が分からぬ。


しかも。


「貴女は、この世界に来るべきじゃなかった」


などと言っておった。


どうやらミークも、ワシと同じく別の世界から転生してきた者らしい。


そのうえ、ワシの知らぬ『この世界の理』まで知っている様子。


ならば――


いかに殺意を向けられていようとも、生け捕りにせねばならぬ。


やれやれ。


これほどの強者を相手にして、殺してはならぬとは。


なんとも厄介な仕事である。


とはいえ。


今は悠長に考えている暇などない。


まずは――


捕らえる。


生きたまま。


ワシは黒凪へ合図を送った。


ミークの獲物は剣。


対してワシは槍。


そして魔法とは、構えてから放つまでに多少の間がある。


前世でいう弓に近い。


ならば。


魔法を使う暇を与えず。


剣の届かぬ距離から。


槍だけを届かせる。


それが最も良い間合い。


「行くぞ、黒凪」


黒凪が地面を蹴った。


一直線には走らない。


右へ。


左へ。


蛇行しながら一気に距離を詰める。


ミークは――


動かぬ。


ならば。


このまま馬の勢いごと叩き込むのみ。


直前。


槍の軌道を変える。


ガキィンッ!


「なにっ!?」


ミークの剣が、槍を受け止めていた。


なんという反応速度。


ワシは途中で軌道を変えたのだぞ?


しかも――


動かぬ。


黒凪の突進。


ワシの腕。


槍。


それらすべての勢いを乗せてぶつけたというのに。


まるで岩を叩いたかのようだ。


なんという剛力。


だが。


離れる必要はない。


こちらが有利な間合いを保つ。


槍は届く。


剣は届かぬ。


黒凪でミークの周囲を回りながら――


再び。


「はっ!」


キィン!


さらに。


キィン!


もう一撃。


キィン!


ことごとく剣に弾かれる。


それ自体はよい。


強者ならば、その程度はする。


妙なのは――


ミークの目だ。


こちらを見ておらぬ。


一度も。


それなのに。


ワシの槍をすべて防いでいる。


……。


なるほど。


前世にも、このような者がおった。


剣豪。


剣聖。


そう呼ばれた者たち。


目で見ずとも相手の気配を読み、剣を合わせる。


そのような達人と稽古をしたことがある。


まさか。


この世界でも出会えるとはな。


ふふ。


面白い。


ワシもこの世界へ来てから、ただ遊んでいたわけではない。


この身体で。


この世界の武器で。


さらに研鑽を積んできた。


ならば――


どこまで通じるか。


試してみたくなるではないか。


ワシは笑いながら、さらに槍を振るった。


――


「ええっ!? なになに!?」


遠見の魔法に映る光景を見ながら、エンラが声を上げた。


「ザリー様とミークさんが戦い始めちゃいましたわよ!? どういうこと!?」


グラシアーナがヴィジョンへ顔を近づける。


「まさか……また決闘でしょうか?」


「でしたら、さっきの火事も決闘の攻撃だったの?」


「でも……」


グラシアーナは首を傾げる。


「ミークさんが炎の魔法を放ったところは見えませんでしたわよ?」


その通りだった。


ミークは自分のいる場所から炎を放ったのではない。


離れた森の中へ、直接魔法を発生させていた。


それを可能にしたのが――


『勇者の剣アリオス』。


所有者を中心とした半径百メートル以内なら、ほぼどこからでも魔法を発生させることができる。


だが。


その能力を知らない者から見れば――


森が突然燃えた。


そうとしか見えない。


エンラの顔が険しくなる。


「見えない魔法だったのかもしれませんわ」


「確かに、そのような魔法もありますけれど……」


「でしたら危険すぎますわ!」


エンラが勢いよく立ち上がる。


「私が行って止めなくては!」


グラシアーナが目を丸くした。


「エンラさんが?」


「ええ」


「止めるんですの?」


「もちろんですわ」


「……無理では?」


「こう見えても私、攻撃魔法は得意でしてよ」


「貴女が得意なのは拷問魔法でしょう」


「同じことですわ」


「同じではありませんわ!」


「拷問魔法で二人とも拘束して差し上げます」


「でも……あの火事が決闘と関係あるのかも分かりませんし……」


「ああもう!」


エンラがヴィジョンを睨む。


「音声がないから何も分かりませんわ!」


そしてグラシアーナへ詰め寄る。


「グラシアーナさん! 音声! 音声も出してくださいな!」


「無理ですわ」


「音声!」


「無理です」


「音声!」


「何度言われても急にできるようにはなりませんわ!」


「もう!」


エンラは勢いよく振り返った。


「馬車を用意なさい!」


使用人たちが慌てて走り出す。


そして。


エンラはグラシアーナを指差した。


「貴女も準備なさい!」


「ええええっ!? 私もですの!?」


「当然でしょう。移動中も映像を見なければなりませんもの」


「そんなぁ……」


グラシアーナは、自分が魔法による遠隔中継など思いついたことを少し後悔し始めた。


二人のやり取りを聞いていた他の観客たちも。


馬。


馬車。


その他の移動手段。


思い思いに準備を始めた。


――


「ザリー!」


ミークが剣を振り上げる。


「やっぱり貴女の馬術も……槍術も……」


その目が細くなる。


「この世界のものじゃない!」


ほう。


ようやく攻めてくるか。


先ほどから守ってばかりだったミーク。


いよいよ、この娘の剣術が見られる。


楽しみだ。


まず――


馬が動いた。


一歩。


距離を詰める。


人が剣を振るう時のように。


足を踏み込み。


胴を捻り。


その動きが馬上のミークへ伝わっていく。


腰が回る。


肩。


腕。


そして――


剣!


ガキンッ!


受けた。


剣の軌道そのものは見えた。


馬上の特殊なものではない。


人が地上で使う。


この世界の剣術。


だから槍を合わせることはできた。


だが――


「ぐっ……!」


なんという衝撃!


上半身が吹き飛ばされそうになる。


ワシは両脚で黒凪の鞍を強く挟み込み、どうにか耐える。


これは。


まともに二撃目を受けてよい威力ではない。


「死ね、ザリー!」


ミークが剣を振り抜く。


そして。


その勢いを殺さぬまま――


再び振りかぶった。


まずい。


そう思った瞬間だった。


ドカッ!


黒凪がミークの馬へ頭突きを食らわせた。


「ぐあっ!」


なぜかミーク自身が苦痛の声を上げる。


そして一瞬、身体を引いた。


デカした、黒凪。


助かった。


ひとまず危機は脱した。


だが――


「なぜ貴女が苦しむ!?」


ぶつかったのは馬同士だぞ?


なぜミークが、自分を殴られたかのように痛がる?


いや。


答えを待っている暇はない。


ワシは再び槍を振るった。


――


「ザリー!」


背後からキルロットの声が飛んできた。


「あれは騎士魔法――『人馬一体』だ!」


「知っているのか、キルロット!」


「ああ! 聞いたことがある!」


キルロットはミークと馬を睨む。


「馬の五感と思考を自分と繋ぎ、まるで一つの身体のように操る伝説の魔法だ!」


一つの身体。


……なるほど。


だから。


ミークはこちらを見ていなかったのか。


馬の目を通して、ワシを見ていた。


そして。


便利なだけではない。


馬が痛みを感じれば――


ミークも痛む。


それが代償か。


伝説と呼ばれるだけのことはある。


ならば。


「審判!」


ワシは声を上げる。


「馬もミーク嬢の身体の一部というのであれば――」


槍を構えながら尋ねる。


「馬を攻撃しても卑怯とは申せませんわね!?」


ミークまで審判を見る。


「え?」


審判が狼狽した。


「ええ!? その……前例を確認しないと……私一人では判断が……」


もうよい。


答えを待つ必要もない。


ワシは槍を地面へ突き刺した。


そして――


ひねる。


土をすくい上げ。


ミークの馬の顔へ投げつけた。


「きゃあっ!」


ミークが悲鳴を上げる。


やはり。


馬自身は避けなかった。


目の前へ土が飛んできても。


顔を背けることも。

身体を逸らすこともない。


馬自身の判断はない。


すべてを判断しているのは――

ミークだ。


そこだ。


勝機が見えた。


ワシは黒凪から大きく身を乗り出した。


低く。


低く。


狙うは――


馬の脚。


槍を薙ぐ。


「くっ!」


ミークの武器は剣。


この低さでは――届かぬ。


馬が跳ぶ。


回避。


もう一撃。


また跳ぶ。


さらに。


また。


何度も。


何度も。


「くっ……だったら!」


ミークが叫んだ。


「踏み潰す!!」


馬が大きく跳躍した。


こちらへ。


ミークよ。


それは――


悪手だ。


地を蹴ってしまえば。


空中では、そう簡単に進路を変えられぬ。


これほどの力を持ちながら、このような手を選ぶとは……。


おそらく。


自分と互角以上の相手と戦った経験が、ほとんどないのだろう。


ワシは槍の石突を地面へ突き立てる。


それを支えに身体を起こす。


直後。


ドンッ!


馬の蹄が――


ほんの一瞬前までワシがいた場所へ突き刺さった。


今だ。


ここで決める。


ワシは槍を大きく天へ掲げ――


途中で持ち替えた。


穂先ではない。


殺す必要はない。


狙うのはミークでもない。


馬だ。


槍の石突を――


馬の額へ叩き込む!


バシンッ!


「がはっ!」


ミークの身体まで、大きく揺れた。


馬は数歩。


ふらふらと前へ進み。


一歩。


二歩。


そして――


脚を折り、地面へしゃがみ込んだ。


同時に。


ミークが天を仰ぐ。


指から力が抜ける。


『勇者の剣アリオス』が――


地面へ落ちた。


ワシは槍を下ろす。


「人馬一体とは申しますが――」


ミークを見る。


「一つになったからとて、違いまで消えるわけではありませんわ」


ミークは強い。


あまりにも強い。


だが。


その馬まで、ミークと同じ強さになったわけではない。


そこが敗因だ。


――


さて。


これでワシの勝ち。


ならば――


約束の品をいただこう。


勇者の剣アリオス。


ワシは黒凪の上から身体を傾け、それを拾い上げた。


「おお……」


美しい。


改めて見ても、実に見事な装飾――


「……なんだこれは?」


輝きが。


消えていく。


あれほど眩い光を放っていた剣が。


灰色へ。


鈍く。


あれほど美しかった剣が――


まるで道端の石ころのように変わっていく。


持ち主を選ぶ剣なのか?


「まだ……」


声がした。


見る。


ミークはまだ意識を失っていない。


「まだ……終わってない」


「私は……」


息を荒らげながら。


それでも、こちらを見る。


「まだ落馬していない」


……。


確かに。


馬は膝をついた。


だが、ミークはまだ鞍から落ちてはいない。


「おやおや」


ワシは石のようになったアリオスを見る。


「武器まで落として。それでもまだ戦えると?」


「たとえ……」


ミークの身体が震える。


「アリオスがなくても……」


鞍の上で身体を起こそうとする。


「負けられない」


腕が震える。


脚が震える。


「ここで私が負けたら……」


それでも。


鞍の上で、身を起こす。


「多くの人が死ぬ」


ふらつく。


倒れそうになる。


だが――


踏みとどまる。


「だから……」


ミークが顔を上げた。


その目から。


まだ闘志は消えていない。


「絶対に――」


一度。


大きく息を吸う。


「負けられない!」


……。


やれやれ。


まだ立つか。


ミークが空になった右手を前へ出した。


「闘気槍――」


赤い光が集まり始める。


掌へ。


赤く。


強く。


その光は伸び。


凝縮され。


輪郭を得ていく。


やがて――


一本の赤い槍となった。


「オーラ・ランス」


ミークは両手でその槍を握る。


「勇者の剣アリオスより……数値は何段も落ちるけど」


息は荒い。


身体も傷ついている。


それでも。


赤く輝く槍を持ち上げた。


「たとえ――」


槍の切っ先を。


真っ直ぐワシへ向ける。


「私が勇者じゃなくなっても……」


その目だけは。


少しも折れていなかった。


「私は――」


赤い槍が炎のように輝く。


「この国を守る!」


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