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悪役令嬢に転生した元サムライ ~ゴミを宝に、宝をゴミに変える価値観革命~  作者: 竹屋 兼衛門
第二章

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12/14

第12話 攻略対象との合同訓練~悪役令嬢を添えて~

まったく……いきなり合同訓練とか。


ザリーはろくでもないことを企む。


婚約者を一方的に奪った相手、ゴルディアンにどう話しかければいいんだろう?


ゴルディアンの好みも行動原理も知っている。


一対一なら、言いくるめる言葉の一つや二つは思いつく。


でも、皆の前でなんて無理だ。


しかも、他の攻略対象にも粉をかけられる余地を残しながら、だ。


ザリーは攻略対象も悪役令嬢も全員攻略しろなんて言っていたけど……。


絶対にアドリブが必要になる。


おまけに、今の私は一方的な恋心を募らせ、決闘までして婚約者を奪った異常な女という設定だ。


なんというか……。


エンラみたいなヤンデレ女じゃないか。


無理ゲーすぎる。


私は更衣室でジャージに着替えた。


男子は青ジャージ。


女子は赤ジャージ。


中世ヨーロッパ風の異世界なのに、そこだけ妙に日本の学校っぽい。


まあ、乙女ゲームの仕様だから仕方ない。


気が重い。


私、ミークはため息をついて更衣室を出た。


――


校庭には、すでに攻略対象の貴族令息たちが集まっていた。


悪役令嬢たちの姿は、まだない。


さて、どうするか。


まずは集音の魔法で、攻略対象たちの会話を拾ってみる。


いきなり飛び込むより、先に彼らの空気を確かめておきたい。


「ふふふ、ゴルディアン。君も大変な相手と婚約しなければならなくなったようだね」


暗緑色の髪をした色男が、隣の大男の肩に手を置いて微笑んだ。


ドラガン=ラ=ヴァレンベルク。


エンラの婚約者で、面倒見がよく、少々皮肉屋の攻略対象だ。


「がはは! モテすぎるというのも罪というものだな!」


豪快に笑ったのは、黄金の髪に黄金の瞳を持つ大男。


金ピカ王弟、ゴルディアン=フォン=ローデリア。


薄桃色の肌に、いかにも自信満々な笑顔。


……いや、笑顔のわりに顔色が悪い。


「大丈夫ですか? 顔が青いですよ?」


金髪の優しげな青年が、心配そうに声をかける。


ファルディオン=ヴァン=ベルクハルト。


丁寧な物腰が特徴の攻略対象だ。


「何を言う! とても良い顔色だろうが!」


「要はザリー嬢に振られたってことでしょ?」


横から遠慮のない一言が飛んだ。


ピンク色の髪をした小柄な少年、アルベルト=ナ=ローゼンフェルト。


回復魔法が得意な、病弱で生意気な攻略対象。


……相変わらず口が悪い。


「うぐぐ……!」


ゴルディアンがアルベルトの首に腕を回し、締め上げた。


「うるせー! そもそもザリーの奴と俺とじゃ、美意識が合わなかったんだよ!」


「ぐえぇ! 八つ当たりとかやめてよね!」


「あはは。それで、新しくやってくる愛の重さには耐えられるかな?」


ドラガンが楽しそうに笑う。


エンラの婚約者が言うと、妙な説得力がある。


……いや、重さが違う。


「あの、さ……俺、本当に大丈夫か?」


さっきまで豪快に笑っていた王弟が、とうとう弱音を吐いた。


「骨は拾ってやる」


銀髪に赤い瞳、浅黒い肌をした筋肉質の青年が、淡々と告げた。


ルビアン=ド=ヴェルメール。


通称『王国の盾』。


寡黙で冷静な、王国屈指の防御能力を誇る攻略対象だ。


「おいーーーっ! この王国の盾! 俺を守れ! 俺は王の弟だぞ!」


……。


攻略対象たちの会話を聞いて、私は絶望した。


もう完全に、エンラみたいなヤンデレ女だと思われている。


どう話しかければ正解なんだろう。


「あら? ミークさん、そんなところでどうかしましたか?」


振り返ると、グラシアーナが立っていた。


「あ、グラシアーナさん。面識のない殿方とお会いするのに、少し気後れしていまして……」


「ふふふ。大丈夫ですわ。皆さん、優しいお方ですし」


それは知ってる。


ゲームでは、悪役令嬢にいじめられる私を助けてくれるのが、あの攻略対象たちだ。


「私もフォローしますから。さあ、参りましょう」


グラシアーナのフォローか。


……あんまり当てにならない気がする。


「ごきげんよう、皆様」


グラシアーナは私の手を取ると、そのまま令息たちの前へ連れ出した。


ちょっと!


まだ心の準備が!


「あの……ゴルディアン様」


さて、どう言葉を紡ぐ?


ゲームで鍛えた私の礼法パラメータは、もう相当高い。


普通のイベントなら、どんな選択肢を選んでも成功するくらいには。


だけど、今の状況で言うべき言葉の最適解が見つからない。


「初めまして、ゴルディアン様。ミークと申します」


……ダメだ。


結局、無難な挨拶しか出てこなかった。


「おっ……おう。余が王弟ゴルディアン=フォン=ローデリアである」


ゴルディアンも、どこかぎこちない。


無難すぎたか?


決闘で婚約者を強奪するような強烈な女らしくなかった?


私は彼の表情を観察し、次に言うべき言葉を探す。


「ははは。ゴルディアン、大丈夫だよ。ごらんの通り、彼女は比較的まとも寄りさ」


ドラガンが笑いながら口を挟んだ。


「そうですわ。ミークさんは少々エキセントリックですが、比較的まともですわよ」


グラシアーナも笑顔でうなずく。


……。


おい、グラシアーナ。


ちゃんとフォローしろ。


「てめぇ、ドラガン! 知っていて俺をビビらせようとしたのか!」


「人が悪い」


ルビアンが短く評する。


「そもそも、なんでドラガンは知ってたの?」


アルベルトが首をかしげた。


「エンラ嬢から密な連絡があるからね」


ドラガンは肩をすくめる。


「あー、そうか。悪いな。お前と同じ悩みを抱えられなくて」


「それは俺も残念だよ」


二人が顔を見合わせ、笑った。


周囲にも笑いが広がる。


……あれ?


どうやら、正解だった?


「この方が『勇者の末裔』のミークさんですわ」


背後から、聞き慣れた声がした。


……。


ええ?


ザリー?


いつの間に!?


しかも、それバラしちゃうの!?


「勇者だと?」


ルビアンの赤い瞳が、私を捉えた。


「ええ。魔王に対抗できる唯一の存在ですわ」


ザリーは涼しい顔で答える。


「おい、ザリー……それは秘密のはずだろう」


ゴルディアンが眉をひそめた。


「国王陛下と学園長には、許可をいただいておりますわ」


ザリーは皆を見渡した。


「一年前、オーク王国は魔王軍との戦争に敗れました」


先ほどまでの笑い声が消える。


「ミークさんがこの学園に招かれたのも、いずれ訪れる魔王軍の侵攻に備えるためですわ」


……その通りだけど。


いきなり危機感を煽るなぁ。


「こんな普通っぽい女の子が?」


アルベルトが私を見上げた。


「おいおい。今年の首席入学者だよ。実力は当然高いさ」


ドラガンが答える。


皆の視線が、私に集まった。


……ここは、私ももう少し危機感を伝えるべきかな。


「私の一族は貴族の位を剥奪されました。それでも、魔王軍に備えるために呼び戻されたんです」


沈黙が広がった。


私が平民なのは、皆も知っているだろう。


ゲームでは、それを理由に悪役令嬢たちからいじめられていたし。


でも、勇者の一族が爵位を剥奪されていたことまでは、ゴルディアン以外には知られていないはずだ。


……あ。


ドラガンが、やれやれとでも言いたげに肩をすくめている。


知ってたのか。


あえて言わなかったのかな。


「ザリー」


ゴルディアンが低い声で呼びかけた。


「それを俺たちに伝えて、何をさせたい?」


「貴方たちにも、同じ覚悟を持っていただきたいのです」


ザリーはまっすぐに答える。


「体を鍛え、技を磨き、魔法を高める。来るべき戦争に備えていただきますわ」


「……そんな話を聞いてしまったら、仕方ありませんね」


ファルディオンが穏やかに笑った。


「やりましょう」


「ファルディオン。私も頑張りますわ」


「ああ、グラシアーナ」


二人は手を取り合い、見つめ合った。


……今やんなよ。


「まあ、そんな状況なら当然だな」


ルビアンもうなずく。


「そうだね。特にアルベルトは頑張らないと」


ドラガンが隣の少年を見た。


「ええ? 俺?」


「君が一番鍛えないと駄目じゃないかな? すぐ死んでしまいそうだし」


「ひっどいなー!」


アルベルトが頬を膨らませる。


再び笑いが広がった。


しかし――。


ゴルディアンだけは、どこか不満げだった。


――


しばらくすると、悪役令嬢たちも集まり始めた。


最初に姿を見せたのはキルロットだった。


「ほう。僕も予定より早く来たつもりだったが……皆、相当やる気のようだね」


その後、フローラとエンラもやって来た。


どうやらザリーは、悪役令嬢たちには少し遅れて来るように伝えていたらしい。


……なるほど。


先に攻略対象たちと私を顔合わせさせるつもりだったのか。


本当に、何をどこまで考えているんだか。


「さて、皆様」


全員がそろったところで、ザリーが手を叩いた。


「今日は校外を一周し、皆様の持久力を確認いたしますわ」


――


「ふっ。ザリー。君と体力の勝負をするのは初めてだったね」


準備運動を終えたキルロットが、不敵に笑った。


「しなかっただけですわ。貴女が勝つのでしょうから」


「では、今回くらいは勝たせてもらおう」


「それよりも、ミークさんに抜かれないように頑張ってくださいまし」


「彼女は十分後に出発するのだろう? しかも追いついた者を回収しながら走ると聞いた。さすがに僕たちには届くまい」


「あら? 私の目算では、ゴールまでに貴女と並ぶくらいのハンデですけれど」


キルロットの笑みが消えた。


「……そこまでかい?」


「ええ。ですから、負けないように頑張ってくださいね」


ザリーは楽しそうに微笑んだ。


……。


ちょっと待って。


本人のいないところで、何を勝手に期待値上げてるんだ。


――


十分後。


私は走り出した。


後ろにはリアカー。


空っぽのリアカーだ。


今は、まだ。


最初に追いついたのはアルベルトだった。


「はい、回収」


「ええっ!? 早すぎじゃない?」


「あなたが遅いんですよ」


「俺だって、回復魔法を使えばもっと走れるのに」


「あなたの魔力は、もっと別のことに使うべきです。ささ、乗ってください」


「……はーい」


アルベルトは不満そうに口を尖らせながら、リアカーに乗り込んだ。


次に見えてきたのはフローラだ。


「はぁ、はぁ……申し訳ありません……」


「まあ、アルベルト様よりは頑張ってます」


「まあ……アルベルト様よりは……」


「ひどくない?」


荷台から抗議の声が飛んできた。


「ひどいのはあなたの体力です」


「ぐむぅ……」


フローラも乗せ、さらに走る。


しばらくすると、グラシアーナとファルディオンが見えてきた。


二人は仲良く並走している。


「ああ……ここまでですか」


グラシアーナが肩で息をする。


「ちょっと、ファルディオン様。こんなときまでイチャイチャしないでください」


「二人で高め合いたいと思っているのですが……」


……まあ、ファルディオンらしい考え方ではある。


ゲームでは、食事までグラシアーナに合わせて、あの太ったファットディオンになっちゃう人だし。


「これではグラシアーナさんが、ファルディオン様の足を引っ張っています」


「わ、私、そんなつもりでは……」


グラシアーナが悲しそうに目を伏せた。


「魔王軍の脅威に備えるためなんです。もっと別の方法で高め合ってください」


「……そうだね」


ファルディオンがうなずく。


「すまない、グラシアーナ。私が間違っていたのかもしれない」


「いいえ、私の考えが足りなくて……」


「もう! さっさとリアカーに乗ってからやってください!」


二人そろって、荷台へ。


……まったく。


次に見えてきたのはドラガンだ。


ん?


何か抱えている?


……エンラだ。


エンラを抱えている!


しかも、お姫様抱っこ!?


「ああ、すまない、エンラ嬢。どうやら追いつかれてしまったようだ」


「いいえ、ドラガン様。転んでしまった私が悪いのです」


「あのー。そういう人のために私が回収してるんですけど」


「はは。エンラ嬢がどうしても、ザリー嬢とキルロット嬢の勝負を見たいと言うのでね」


うーん。


困っている人を見捨てられない。


こういうところがドラガンらしい。


でも、だからこそエンラに懐かれて、利用されちゃうんだよなぁ。


あーあ。


エンラなんて、目がハートになっちゃってる。


「エンラさん。浮気ですか?」


「ああ、私は悪い女……」


エンラがうっとりと目を閉じた。


「ドラガン様とザリー様との間で、思いが揺れてしまっていますわぁ……」


これでは悪役令嬢というか、ただの悪女だ。


「……いいんですか? ドラガン様」


「うーん。俺としては、エンラ嬢の愛を支えてくれる人が増えるのは……ありがたいかな?」


「まあ、重すぎますしね」


「ははは……」


ドラガンは力なく笑った。


……もしかして、同情すべきなのはゴルディアンじゃなくて、ドラガンの方なのでは?


ドラガンとエンラも回収し、さらに走る。


やがて、ゴルディアンとルビアンの背中が見えてきた。


「本当に追いつかれるとは……これが勇者の血統か?」


ルビアンが振り返る。


「おいおい。聞いていた勇者のスペックを超えてるぞ」


ゴルディアンも目を丸くしていた。


……でも、ちょっと意外だ。


ルビアンが、ゴルディアンと同じくらいの位置にいるなんて。


ゲームなら、キルロットに近い実力だったはずなのに。


……あ。


そっか。


ゲームではキルロットがルビアンをライバル視して、互いに競い合っていた。


でも今は、その関係が変わっている。


だから、鍛え方にも差が出たのか。


……ちょっとガッカリだ。


「はいはい。お二人ともリアカーにどうぞ」


「……俺まで乗るのか?」


ゴルディアンが不満そうに眉を寄せた。


「そういうルールですから」


「ふん……」


王弟まで荷台に乗り込んだ。


さすがに重い。


車輪が地面を軋ませる。


でも――まだ走れる。


ゴールが近づいてきたころ、前方にザリーの姿が見えた。


「思ったより遅いですわよ? ミークさん」


「えっ?」


ザリーは軽やかに跳び上がり、リアカーに乗り込んだ。


「ちょっと!?」


「さあ、キルロットまでもう少しですわ。貴女の全力を見せてくださいまし」


さらに重くなったんですけど!?


前を走るキルロットが振り返った。


「まさか……ザリーの言うとおり、僕を捉えるとはね」


その口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。


「だが、負けるつもりはない!」


キルロットがラストスパートをかけた。


……よーし。


こっちも本気だ!


「うおおおおおっ!」


私は地面を蹴った。


リアカーが大きく揺れる。


「わっ! わっ! わああっ!」


アルベルトの悲鳴が響く。


構うもんか!


私はキルロットを追う。


あと少し。


もう少し。


あと一歩――!


ゴール。


……。


届かなかった。


キルロットの勝ちだ。


――


「素晴らしい走りだった」


息を整えたキルロットが、私に手を差し出した。


「ええ。あなたも」


私はその手を強く握り返す。


……悔しい。


でも、悪くない気分だ。


「ふふふ。これで皆様の現在の体力は、ある程度把握できたかと思います」


ザリーが満足そうに微笑んだ。


「では、ミークさん。今後は貴女がリーダーとなり、皆様の能力を向上させる訓練計画を立ててくださいまし」


……はい?


「お前ではないのかよ」


ゴルディアンが、私の代わりに聞いてくれた。


「私も……リーダーはザリー様が良いですわ」


エンラも不満そうだ。


「ミークさんの強さは、もうお分かりでしょう?」


ザリーは平然と答える。


「ならば、彼女の鍛え方を教えていただくのがよろしいかと」


「そうだな。実力者がリーダーであるべきだ」


ルビアンがうなずいた。


「ああ。僕も賛成だ。彼女に教えを請いたい」


キルロットまで賛成する。


「えええ? まあ、キルロット嬢がそう言うなら……俺も」


アルベルトが渋々手を上げた。


……ちょっと待って。


リーダーに指名された本人には、拒否権がないんですか!?


「でも! 私は!」


エンラだけは納得していない。


「まあまあ、エンラ嬢。ザリー嬢にも何かお考えがあるんだろう」


ドラガンがなだめながら、ザリーに目配せした。


ザリーはエンラの手を取る。


「そうですわね。私は貴女とは、ずっと対等な関係でありたいのです」


「……対等?」


「ええ。ですから、貴女の上に立つことはしたくありませんわ」


「まあ……ザリー様……!」


エンラの頬が赤く染まった。


「そういうことでしたら……分かりましたわ!」


……。


納得するんだ。


それで。


「では、続きは会議室で話し合いましょう」


ザリーが促すと、皆は校舎へ向かって走り出した。


……あれ?


ザリーは来ないの?


まあいいか。


私にはこれから、訓練計画という無理難題が待っている。


ああ、もう。


胃が痛い。


――


ワシは、皆が校舎へ向かって走っていくのを眺めていた。


「なあ、ザリーよ」


声をかけてきたのは、ゴルディアンだった。


どうやら、彼も残っていたらしい。


「あのミークというのは……別に俺に恋などしていないよな」


「ふふ。色恋など、貴方にはまだ早い話でしたようですわね」


「俺にだって分かるさ」


「……そうですか。いつの間にか大人になられていましたのね」


「いい加減、俺を子供扱いするのはやめろ」


あの腕白小僧が、色恋を分かるようになったか。


少々寂しくもあるな。


「……なあ。なぜ、あいつに俺の婚約者の座を譲った?」


「それは……やはり美意識が合わなかったからでしょうか?」


「それは分かってるさ。俺を振った理由はな」


ゴルディアンは腕を組んだ。


「もう一つの方はどうなんだよ?」


「……ミークさんを、貴方の婚約者に推した理由ですか?」


「そうだ」


うーん。


その場の勢いで推したのだが……。


まあ、ゴルディアン殿にその気になってもらうよう、少し嘘をつくか。


「……ミークさんを抑えるなら、貴方であるべきだと思ったからですわね」


「俺が抑えるだと?」


「ええ。貴方の我の強さは、私でも敵いませんでしたもの」


「……ふっ。それは大げさだろう」


ゴルディアンは鼻で笑った。


「お前と衝突したのは、お前が黄金の美しさを認めないことくらいだったろうに」


「あら? 私は黄金の美しさも認めていましてよ?」


「だったら、なぜ?」


「他の美しさもあるというのに……貴方が黄金の美しさしか認めないだけの話ですわ」


「黄金が一番美しいのだ。ならば、他の美しさなど気に掛ける必要はあるまいよ」


まったく。


やはりワシとは合わぬ御仁だ。


だが――。


「そんな貴方だからですわ」


「……何?」


「他の殿方なら、ミークさんの美しさに負け、彼女を一番にしてしまうでしょうから」


「あの女が? 美しい?」


ゴルディアンは怪訝そうに眉を寄せた。


「……そんなふうには見えんがな」


「ミークさんの、この国の人々を守りたいと願う心。その覚悟」


ワシは、皆が走っていった道を見つめた。


「私には、黄金よりも眩しく見えるのですよ」


「はっ。お前は、その美しさに負けたとでも言うのかよ」


……。


そうかもしれんな。


ワシが魔王攻略に動く覚悟を決めたのは、ミークさんの気概に惚れたからかもしれん。


「貴方なら、負けないでしょう?」


「くだらん」


ゴルディアンはそっぽを向いた。


「だから……ミークさんのこと、お願いしますわね。ゴルディアン」


しばし、沈黙が落ちた。


「……俺は、お前と黄金郷を作りたかった」


その声は、先ほどまでの豪快なものではなかった。


まったく。


ワシは、それが嫌だと言っているのに。


「魔王軍が……時代が、それを許しませんわ」


「……分かっている。だが……俺は」


「分かっているなら、役目を果たしてくださいまし。もう大人なのでしょう?」


「くっ……分かってはいるがよぉ……」


まったく。


何が子供扱いするな、だ。


子供のまんまだ。


「もう……」


ワシは小さく息をついた。


「貴方は王族です」


ゴルディアンが顔を上げる。


「そして、勇者の一族から爵位を奪ったのは王家の決定。その責任も、王族として果たしてくださいまし」


「あー、もう!」


ゴルディアンは黄金の髪をかき上げた。


「分かったよ! やってやるさ!」


そう言い残し、会議室へ向かって歩き出した。


……。


これで、ミークさんが知る最善の道は残せたでしょうか。


八十万人もの犠牲を払って、勝利する道。


ワシが失敗したときのために、残しておかねばならぬ道。


汗ばんだ頬を、風が撫でていく。


さて。


これからは、ワシ自身の道を進もうか。


犠牲者は、一人も出さぬ。


戦争そのものを未然に防ぐ。


ゲームには存在しない――


『魔王を攻略する』道を。

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