第12話 攻略対象との合同訓練~悪役令嬢を添えて~
まったく……いきなり合同訓練とか。
ザリーはろくでもないことを企む。
婚約者を一方的に奪った相手、ゴルディアンにどう話しかければいいんだろう?
ゴルディアンの好みも行動原理も知っている。
一対一なら、言いくるめる言葉の一つや二つは思いつく。
でも、皆の前でなんて無理だ。
しかも、他の攻略対象にも粉をかけられる余地を残しながら、だ。
ザリーは攻略対象も悪役令嬢も全員攻略しろなんて言っていたけど……。
絶対にアドリブが必要になる。
おまけに、今の私は一方的な恋心を募らせ、決闘までして婚約者を奪った異常な女という設定だ。
なんというか……。
エンラみたいなヤンデレ女じゃないか。
無理ゲーすぎる。
私は更衣室でジャージに着替えた。
男子は青ジャージ。
女子は赤ジャージ。
中世ヨーロッパ風の異世界なのに、そこだけ妙に日本の学校っぽい。
まあ、乙女ゲームの仕様だから仕方ない。
気が重い。
私、ミークはため息をついて更衣室を出た。
――
校庭には、すでに攻略対象の貴族令息たちが集まっていた。
悪役令嬢たちの姿は、まだない。
さて、どうするか。
まずは集音の魔法で、攻略対象たちの会話を拾ってみる。
いきなり飛び込むより、先に彼らの空気を確かめておきたい。
「ふふふ、ゴルディアン。君も大変な相手と婚約しなければならなくなったようだね」
暗緑色の髪をした色男が、隣の大男の肩に手を置いて微笑んだ。
ドラガン=ラ=ヴァレンベルク。
エンラの婚約者で、面倒見がよく、少々皮肉屋の攻略対象だ。
「がはは! モテすぎるというのも罪というものだな!」
豪快に笑ったのは、黄金の髪に黄金の瞳を持つ大男。
金ピカ王弟、ゴルディアン=フォン=ローデリア。
薄桃色の肌に、いかにも自信満々な笑顔。
……いや、笑顔のわりに顔色が悪い。
「大丈夫ですか? 顔が青いですよ?」
金髪の優しげな青年が、心配そうに声をかける。
ファルディオン=ヴァン=ベルクハルト。
丁寧な物腰が特徴の攻略対象だ。
「何を言う! とても良い顔色だろうが!」
「要はザリー嬢に振られたってことでしょ?」
横から遠慮のない一言が飛んだ。
ピンク色の髪をした小柄な少年、アルベルト=ナ=ローゼンフェルト。
回復魔法が得意な、病弱で生意気な攻略対象。
……相変わらず口が悪い。
「うぐぐ……!」
ゴルディアンがアルベルトの首に腕を回し、締め上げた。
「うるせー! そもそもザリーの奴と俺とじゃ、美意識が合わなかったんだよ!」
「ぐえぇ! 八つ当たりとかやめてよね!」
「あはは。それで、新しくやってくる愛の重さには耐えられるかな?」
ドラガンが楽しそうに笑う。
エンラの婚約者が言うと、妙な説得力がある。
……いや、重さが違う。
「あの、さ……俺、本当に大丈夫か?」
さっきまで豪快に笑っていた王弟が、とうとう弱音を吐いた。
「骨は拾ってやる」
銀髪に赤い瞳、浅黒い肌をした筋肉質の青年が、淡々と告げた。
ルビアン=ド=ヴェルメール。
通称『王国の盾』。
寡黙で冷静な、王国屈指の防御能力を誇る攻略対象だ。
「おいーーーっ! この王国の盾! 俺を守れ! 俺は王の弟だぞ!」
……。
攻略対象たちの会話を聞いて、私は絶望した。
もう完全に、エンラみたいなヤンデレ女だと思われている。
どう話しかければ正解なんだろう。
「あら? ミークさん、そんなところでどうかしましたか?」
振り返ると、グラシアーナが立っていた。
「あ、グラシアーナさん。面識のない殿方とお会いするのに、少し気後れしていまして……」
「ふふふ。大丈夫ですわ。皆さん、優しいお方ですし」
それは知ってる。
ゲームでは、悪役令嬢にいじめられる私を助けてくれるのが、あの攻略対象たちだ。
「私もフォローしますから。さあ、参りましょう」
グラシアーナのフォローか。
……あんまり当てにならない気がする。
「ごきげんよう、皆様」
グラシアーナは私の手を取ると、そのまま令息たちの前へ連れ出した。
ちょっと!
まだ心の準備が!
「あの……ゴルディアン様」
さて、どう言葉を紡ぐ?
ゲームで鍛えた私の礼法パラメータは、もう相当高い。
普通のイベントなら、どんな選択肢を選んでも成功するくらいには。
だけど、今の状況で言うべき言葉の最適解が見つからない。
「初めまして、ゴルディアン様。ミークと申します」
……ダメだ。
結局、無難な挨拶しか出てこなかった。
「おっ……おう。余が王弟ゴルディアン=フォン=ローデリアである」
ゴルディアンも、どこかぎこちない。
無難すぎたか?
決闘で婚約者を強奪するような強烈な女らしくなかった?
私は彼の表情を観察し、次に言うべき言葉を探す。
「ははは。ゴルディアン、大丈夫だよ。ごらんの通り、彼女は比較的まとも寄りさ」
ドラガンが笑いながら口を挟んだ。
「そうですわ。ミークさんは少々エキセントリックですが、比較的まともですわよ」
グラシアーナも笑顔でうなずく。
……。
おい、グラシアーナ。
ちゃんとフォローしろ。
「てめぇ、ドラガン! 知っていて俺をビビらせようとしたのか!」
「人が悪い」
ルビアンが短く評する。
「そもそも、なんでドラガンは知ってたの?」
アルベルトが首をかしげた。
「エンラ嬢から密な連絡があるからね」
ドラガンは肩をすくめる。
「あー、そうか。悪いな。お前と同じ悩みを抱えられなくて」
「それは俺も残念だよ」
二人が顔を見合わせ、笑った。
周囲にも笑いが広がる。
……あれ?
どうやら、正解だった?
「この方が『勇者の末裔』のミークさんですわ」
背後から、聞き慣れた声がした。
……。
ええ?
ザリー?
いつの間に!?
しかも、それバラしちゃうの!?
「勇者だと?」
ルビアンの赤い瞳が、私を捉えた。
「ええ。魔王に対抗できる唯一の存在ですわ」
ザリーは涼しい顔で答える。
「おい、ザリー……それは秘密のはずだろう」
ゴルディアンが眉をひそめた。
「国王陛下と学園長には、許可をいただいておりますわ」
ザリーは皆を見渡した。
「一年前、オーク王国は魔王軍との戦争に敗れました」
先ほどまでの笑い声が消える。
「ミークさんがこの学園に招かれたのも、いずれ訪れる魔王軍の侵攻に備えるためですわ」
……その通りだけど。
いきなり危機感を煽るなぁ。
「こんな普通っぽい女の子が?」
アルベルトが私を見上げた。
「おいおい。今年の首席入学者だよ。実力は当然高いさ」
ドラガンが答える。
皆の視線が、私に集まった。
……ここは、私ももう少し危機感を伝えるべきかな。
「私の一族は貴族の位を剥奪されました。それでも、魔王軍に備えるために呼び戻されたんです」
沈黙が広がった。
私が平民なのは、皆も知っているだろう。
ゲームでは、それを理由に悪役令嬢たちからいじめられていたし。
でも、勇者の一族が爵位を剥奪されていたことまでは、ゴルディアン以外には知られていないはずだ。
……あ。
ドラガンが、やれやれとでも言いたげに肩をすくめている。
知ってたのか。
あえて言わなかったのかな。
「ザリー」
ゴルディアンが低い声で呼びかけた。
「それを俺たちに伝えて、何をさせたい?」
「貴方たちにも、同じ覚悟を持っていただきたいのです」
ザリーはまっすぐに答える。
「体を鍛え、技を磨き、魔法を高める。来るべき戦争に備えていただきますわ」
「……そんな話を聞いてしまったら、仕方ありませんね」
ファルディオンが穏やかに笑った。
「やりましょう」
「ファルディオン。私も頑張りますわ」
「ああ、グラシアーナ」
二人は手を取り合い、見つめ合った。
……今やんなよ。
「まあ、そんな状況なら当然だな」
ルビアンもうなずく。
「そうだね。特にアルベルトは頑張らないと」
ドラガンが隣の少年を見た。
「ええ? 俺?」
「君が一番鍛えないと駄目じゃないかな? すぐ死んでしまいそうだし」
「ひっどいなー!」
アルベルトが頬を膨らませる。
再び笑いが広がった。
しかし――。
ゴルディアンだけは、どこか不満げだった。
――
しばらくすると、悪役令嬢たちも集まり始めた。
最初に姿を見せたのはキルロットだった。
「ほう。僕も予定より早く来たつもりだったが……皆、相当やる気のようだね」
その後、フローラとエンラもやって来た。
どうやらザリーは、悪役令嬢たちには少し遅れて来るように伝えていたらしい。
……なるほど。
先に攻略対象たちと私を顔合わせさせるつもりだったのか。
本当に、何をどこまで考えているんだか。
「さて、皆様」
全員がそろったところで、ザリーが手を叩いた。
「今日は校外を一周し、皆様の持久力を確認いたしますわ」
――
「ふっ。ザリー。君と体力の勝負をするのは初めてだったね」
準備運動を終えたキルロットが、不敵に笑った。
「しなかっただけですわ。貴女が勝つのでしょうから」
「では、今回くらいは勝たせてもらおう」
「それよりも、ミークさんに抜かれないように頑張ってくださいまし」
「彼女は十分後に出発するのだろう? しかも追いついた者を回収しながら走ると聞いた。さすがに僕たちには届くまい」
「あら? 私の目算では、ゴールまでに貴女と並ぶくらいのハンデですけれど」
キルロットの笑みが消えた。
「……そこまでかい?」
「ええ。ですから、負けないように頑張ってくださいね」
ザリーは楽しそうに微笑んだ。
……。
ちょっと待って。
本人のいないところで、何を勝手に期待値上げてるんだ。
――
十分後。
私は走り出した。
後ろにはリアカー。
空っぽのリアカーだ。
今は、まだ。
最初に追いついたのはアルベルトだった。
「はい、回収」
「ええっ!? 早すぎじゃない?」
「あなたが遅いんですよ」
「俺だって、回復魔法を使えばもっと走れるのに」
「あなたの魔力は、もっと別のことに使うべきです。ささ、乗ってください」
「……はーい」
アルベルトは不満そうに口を尖らせながら、リアカーに乗り込んだ。
次に見えてきたのはフローラだ。
「はぁ、はぁ……申し訳ありません……」
「まあ、アルベルト様よりは頑張ってます」
「まあ……アルベルト様よりは……」
「ひどくない?」
荷台から抗議の声が飛んできた。
「ひどいのはあなたの体力です」
「ぐむぅ……」
フローラも乗せ、さらに走る。
しばらくすると、グラシアーナとファルディオンが見えてきた。
二人は仲良く並走している。
「ああ……ここまでですか」
グラシアーナが肩で息をする。
「ちょっと、ファルディオン様。こんなときまでイチャイチャしないでください」
「二人で高め合いたいと思っているのですが……」
……まあ、ファルディオンらしい考え方ではある。
ゲームでは、食事までグラシアーナに合わせて、あの太ったファットディオンになっちゃう人だし。
「これではグラシアーナさんが、ファルディオン様の足を引っ張っています」
「わ、私、そんなつもりでは……」
グラシアーナが悲しそうに目を伏せた。
「魔王軍の脅威に備えるためなんです。もっと別の方法で高め合ってください」
「……そうだね」
ファルディオンがうなずく。
「すまない、グラシアーナ。私が間違っていたのかもしれない」
「いいえ、私の考えが足りなくて……」
「もう! さっさとリアカーに乗ってからやってください!」
二人そろって、荷台へ。
……まったく。
次に見えてきたのはドラガンだ。
ん?
何か抱えている?
……エンラだ。
エンラを抱えている!
しかも、お姫様抱っこ!?
「ああ、すまない、エンラ嬢。どうやら追いつかれてしまったようだ」
「いいえ、ドラガン様。転んでしまった私が悪いのです」
「あのー。そういう人のために私が回収してるんですけど」
「はは。エンラ嬢がどうしても、ザリー嬢とキルロット嬢の勝負を見たいと言うのでね」
うーん。
困っている人を見捨てられない。
こういうところがドラガンらしい。
でも、だからこそエンラに懐かれて、利用されちゃうんだよなぁ。
あーあ。
エンラなんて、目がハートになっちゃってる。
「エンラさん。浮気ですか?」
「ああ、私は悪い女……」
エンラがうっとりと目を閉じた。
「ドラガン様とザリー様との間で、思いが揺れてしまっていますわぁ……」
これでは悪役令嬢というか、ただの悪女だ。
「……いいんですか? ドラガン様」
「うーん。俺としては、エンラ嬢の愛を支えてくれる人が増えるのは……ありがたいかな?」
「まあ、重すぎますしね」
「ははは……」
ドラガンは力なく笑った。
……もしかして、同情すべきなのはゴルディアンじゃなくて、ドラガンの方なのでは?
ドラガンとエンラも回収し、さらに走る。
やがて、ゴルディアンとルビアンの背中が見えてきた。
「本当に追いつかれるとは……これが勇者の血統か?」
ルビアンが振り返る。
「おいおい。聞いていた勇者のスペックを超えてるぞ」
ゴルディアンも目を丸くしていた。
……でも、ちょっと意外だ。
ルビアンが、ゴルディアンと同じくらいの位置にいるなんて。
ゲームなら、キルロットに近い実力だったはずなのに。
……あ。
そっか。
ゲームではキルロットがルビアンをライバル視して、互いに競い合っていた。
でも今は、その関係が変わっている。
だから、鍛え方にも差が出たのか。
……ちょっとガッカリだ。
「はいはい。お二人ともリアカーにどうぞ」
「……俺まで乗るのか?」
ゴルディアンが不満そうに眉を寄せた。
「そういうルールですから」
「ふん……」
王弟まで荷台に乗り込んだ。
さすがに重い。
車輪が地面を軋ませる。
でも――まだ走れる。
ゴールが近づいてきたころ、前方にザリーの姿が見えた。
「思ったより遅いですわよ? ミークさん」
「えっ?」
ザリーは軽やかに跳び上がり、リアカーに乗り込んだ。
「ちょっと!?」
「さあ、キルロットまでもう少しですわ。貴女の全力を見せてくださいまし」
さらに重くなったんですけど!?
前を走るキルロットが振り返った。
「まさか……ザリーの言うとおり、僕を捉えるとはね」
その口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。
「だが、負けるつもりはない!」
キルロットがラストスパートをかけた。
……よーし。
こっちも本気だ!
「うおおおおおっ!」
私は地面を蹴った。
リアカーが大きく揺れる。
「わっ! わっ! わああっ!」
アルベルトの悲鳴が響く。
構うもんか!
私はキルロットを追う。
あと少し。
もう少し。
あと一歩――!
ゴール。
……。
届かなかった。
キルロットの勝ちだ。
――
「素晴らしい走りだった」
息を整えたキルロットが、私に手を差し出した。
「ええ。あなたも」
私はその手を強く握り返す。
……悔しい。
でも、悪くない気分だ。
「ふふふ。これで皆様の現在の体力は、ある程度把握できたかと思います」
ザリーが満足そうに微笑んだ。
「では、ミークさん。今後は貴女がリーダーとなり、皆様の能力を向上させる訓練計画を立ててくださいまし」
……はい?
「お前ではないのかよ」
ゴルディアンが、私の代わりに聞いてくれた。
「私も……リーダーはザリー様が良いですわ」
エンラも不満そうだ。
「ミークさんの強さは、もうお分かりでしょう?」
ザリーは平然と答える。
「ならば、彼女の鍛え方を教えていただくのがよろしいかと」
「そうだな。実力者がリーダーであるべきだ」
ルビアンがうなずいた。
「ああ。僕も賛成だ。彼女に教えを請いたい」
キルロットまで賛成する。
「えええ? まあ、キルロット嬢がそう言うなら……俺も」
アルベルトが渋々手を上げた。
……ちょっと待って。
リーダーに指名された本人には、拒否権がないんですか!?
「でも! 私は!」
エンラだけは納得していない。
「まあまあ、エンラ嬢。ザリー嬢にも何かお考えがあるんだろう」
ドラガンがなだめながら、ザリーに目配せした。
ザリーはエンラの手を取る。
「そうですわね。私は貴女とは、ずっと対等な関係でありたいのです」
「……対等?」
「ええ。ですから、貴女の上に立つことはしたくありませんわ」
「まあ……ザリー様……!」
エンラの頬が赤く染まった。
「そういうことでしたら……分かりましたわ!」
……。
納得するんだ。
それで。
「では、続きは会議室で話し合いましょう」
ザリーが促すと、皆は校舎へ向かって走り出した。
……あれ?
ザリーは来ないの?
まあいいか。
私にはこれから、訓練計画という無理難題が待っている。
ああ、もう。
胃が痛い。
――
ワシは、皆が校舎へ向かって走っていくのを眺めていた。
「なあ、ザリーよ」
声をかけてきたのは、ゴルディアンだった。
どうやら、彼も残っていたらしい。
「あのミークというのは……別に俺に恋などしていないよな」
「ふふ。色恋など、貴方にはまだ早い話でしたようですわね」
「俺にだって分かるさ」
「……そうですか。いつの間にか大人になられていましたのね」
「いい加減、俺を子供扱いするのはやめろ」
あの腕白小僧が、色恋を分かるようになったか。
少々寂しくもあるな。
「……なあ。なぜ、あいつに俺の婚約者の座を譲った?」
「それは……やはり美意識が合わなかったからでしょうか?」
「それは分かってるさ。俺を振った理由はな」
ゴルディアンは腕を組んだ。
「もう一つの方はどうなんだよ?」
「……ミークさんを、貴方の婚約者に推した理由ですか?」
「そうだ」
うーん。
その場の勢いで推したのだが……。
まあ、ゴルディアン殿にその気になってもらうよう、少し嘘をつくか。
「……ミークさんを抑えるなら、貴方であるべきだと思ったからですわね」
「俺が抑えるだと?」
「ええ。貴方の我の強さは、私でも敵いませんでしたもの」
「……ふっ。それは大げさだろう」
ゴルディアンは鼻で笑った。
「お前と衝突したのは、お前が黄金の美しさを認めないことくらいだったろうに」
「あら? 私は黄金の美しさも認めていましてよ?」
「だったら、なぜ?」
「他の美しさもあるというのに……貴方が黄金の美しさしか認めないだけの話ですわ」
「黄金が一番美しいのだ。ならば、他の美しさなど気に掛ける必要はあるまいよ」
まったく。
やはりワシとは合わぬ御仁だ。
だが――。
「そんな貴方だからですわ」
「……何?」
「他の殿方なら、ミークさんの美しさに負け、彼女を一番にしてしまうでしょうから」
「あの女が? 美しい?」
ゴルディアンは怪訝そうに眉を寄せた。
「……そんなふうには見えんがな」
「ミークさんの、この国の人々を守りたいと願う心。その覚悟」
ワシは、皆が走っていった道を見つめた。
「私には、黄金よりも眩しく見えるのですよ」
「はっ。お前は、その美しさに負けたとでも言うのかよ」
……。
そうかもしれんな。
ワシが魔王攻略に動く覚悟を決めたのは、ミークさんの気概に惚れたからかもしれん。
「貴方なら、負けないでしょう?」
「くだらん」
ゴルディアンはそっぽを向いた。
「だから……ミークさんのこと、お願いしますわね。ゴルディアン」
しばし、沈黙が落ちた。
「……俺は、お前と黄金郷を作りたかった」
その声は、先ほどまでの豪快なものではなかった。
まったく。
ワシは、それが嫌だと言っているのに。
「魔王軍が……時代が、それを許しませんわ」
「……分かっている。だが……俺は」
「分かっているなら、役目を果たしてくださいまし。もう大人なのでしょう?」
「くっ……分かってはいるがよぉ……」
まったく。
何が子供扱いするな、だ。
子供のまんまだ。
「もう……」
ワシは小さく息をついた。
「貴方は王族です」
ゴルディアンが顔を上げる。
「そして、勇者の一族から爵位を奪ったのは王家の決定。その責任も、王族として果たしてくださいまし」
「あー、もう!」
ゴルディアンは黄金の髪をかき上げた。
「分かったよ! やってやるさ!」
そう言い残し、会議室へ向かって歩き出した。
……。
これで、ミークさんが知る最善の道は残せたでしょうか。
八十万人もの犠牲を払って、勝利する道。
ワシが失敗したときのために、残しておかねばならぬ道。
汗ばんだ頬を、風が撫でていく。
さて。
これからは、ワシ自身の道を進もうか。
犠牲者は、一人も出さぬ。
戦争そのものを未然に防ぐ。
ゲームには存在しない――
『魔王を攻略する』道を。




