18 夜空に浮かぶ灯籠に、永遠の愛をのせて
出会ってすぐ、星辰と慧雪は恋に落ちた。
互いに一目で惹かれ合ったのだ。
そして元宵節の夜、二人は町外れにある池の畔に出かけた。
夜空に飛んで行く色とりどりの灯籠が、幻想的な空間を醸し出している。
「きれいね」
闇を彩る灯籠を見つめ、慧雪は呟く。ふと、星辰がこちらを見つめていることに気づき慧雪は頬を赤らめた。
「どうされましたか……私の顔になにか」
「慧雪、改めて言う。私を救ってくれてありがとう。本当に感謝している」
「そんなこと……あたりまえのことをしただけです。それに、お礼なら師匠に伝えてください。私はただ、師匠に言われたことをしたのだから」
慧雪の謙虚な態度に、星辰は微笑む。が、ふと星辰は真剣な顔で慧雪に向き合った。
「慧雪、あなたに話さなければならないことがある」
何かしら? と慧雪は小さく首を傾げた。
「実は、私は焉国皇帝陛下の、弟なんだ」
そう言って、星辰は自分の身分をあかす玉佩を慧雪に見せる。
「星辰さまが、皇弟」
星辰の正体を知り、驚きはしたが不思議ではないと思っていた。
先日、星辰を心配して部屋に飛び込んできた人物、あの男も普通の人とは違う、どこか圧力を放つような気配を感じた。だから、星辰も尊い身分の者だろうと予想していた。
まさか、皇弟とは思いもしなかったが。
「慧雪、あなたを正妻として娶りたい。生涯、側室を持たず、一生あなたを大切にすると誓う」
慧雪は目を丸くする。
最初、何を言われたのが分からなかった。
娶りたい。
ようやく、星辰に婚姻を申し込まれたのだと理解した慧雪は、恐れ多いというように一歩下がって身を引く。
「田舎育ちの私と星辰さまとでは、つり合い……」
それ以上は言うなというように、星辰の指先が唇にあてられた。
「慧雪は私のことが嫌いかい?」
いいえ、と慧雪は首を振る。
「好きです。心よりお慕いしております」
「よかった。あなたに嫌われるくらいなら、私はこの池に飛び込んで死んでしまおうと思った」
「星辰さま!」
ふっ、と笑う星辰の指が、慧雪の指に絡む。その指に口づけが落ちた。
「そのくらい、あなたのことが好きだということだ」
星辰の唇が触れた指が熱い。その指に慧雪は視線を落とす。
「他の女子など興味はない。だから、あなた以外に妻を娶るつもりもない」
「本当に、私なんかで……」
「あなたでなければだめなんだ。愛してるよ、慧雪……心から愛している。あなたがいれば私は何も望まない」
「星辰さま、私も愛しています」
星辰の手が頬に添えられた。少しずつ相手の顔が近づいてくる。
慧雪は胸のあたりに手を添えた。
痛い。
あり得ないくらい、心臓の音がドキドキと鳴っている。
慧雪はゆっくりとまぶたを閉じる。
何度も何度も交わした口づけは、甘くて、けれど苦しいくらい切なくて、頭の中が真っ白になって、何も考えられなかった。
自分もこの先、星辰以外を愛することはないと思った。
「慧雪、願い事を書いた灯籠を飛ばそう」
「はい」
永遠の愛を誓う言葉を灯籠に書き、夜空に飛ばした。
灯籠はふわふわと夜空に舞い上がっていく。
慧雪の肩に星辰の手がかかる。そのまま抱き寄せられた。照れながらも慧雪は相手の胸に頭をもたれかける。
「ずっと星辰の側にいると誓います」
「慧雪、これをあなたに」
そう言って星辰は持っていた玉佩を慧雪に渡した。
「でも、これは大切なもの」
「慧雪、私は明日、陛下ともに都に戻らなければならない。けれど近いうち必ずあなたを迎えにくる。それまで待っていて欲しい」
慧雪は嬉しそうに頷いた。
思い合う二人の心は決して離れず、誓った愛は永遠に続くと信じて疑わなかった。
だが、運命は残酷だ。
何故なら二人が結ばれることはなかったから。
次に二人が会った時、慧雪は皇帝陛下の妃であったから。




