13 おもしろくなりそうな予感
「罪人に仕えていた下女が女官長になるなんてあり得ないです!」
「主に口答えするのは罪です。誰か」
常夜の呼びかけに、太監が動く。
「主に逆らった者はどうなるのか言ってみなさい」
「は、はい……丈刑です」
「では、その者に30回の丈刑を与えなさい」
「はあ? どうして下女のあんたが勝手に決めるのよ。偉そうに!」
もはや小鈴の言葉など無視だ。
常夜は周りをぐるりと見る。
「雪答応さまの言いつけを守れない者、仕事をしない者、掟に従えない者、裏切った者、使えない者、和を乱す者はこの宮から出ていってもらいます。代えなどいくらでもいることを忘れないように。有能な者以外、雪答応さまに仕える資格はありません」
その場にいた侍女や太監たちが、いっせいに跪いた。
「お許しください! 私は小鈴に脅されたんです。自分に従わないと、ここから追い出すとか、給金を減らすとか言われました。だからしかたがなく」
「そうです! 故郷に病気の母がいます。ここを追い出されては他に行くところがありません。これからは、答応さまによくお仕えいたします」
慧雪を見下してきた太監は、ごまをするようにご機嫌をとる。
「そう、おまえの働きに期待しているわ」
「ありがとうございます!」
自分は罰を受けないと分かった大鑑は、ほっと胸をなで下ろす。だが、やはりただではすまなかった。
「燕子」
慧雪は少年大鑑を呼び寄せる。
「はい、ここに」
「今日からあなたがこの宮の首領大鑑よ、彼らをよくまとめていきなさい」
「え! わ、私がですか? 私はまだ見習いで……経験も……」
燕子は他の大鑑を見る。
先日、自分に酌をしろと言っていた先輩たちを、使うようになるのだ。立場が大きく逆転する。
「雪答応さまの命令よ。従うの? 従わないの?」
常夜の言葉に、燕子はごくりと唾を飲みその場に膝をつく。
「これからも答応さまのために、忠誠を尽くすことを誓います」
「以上よ。はやくその女を連れて行きなさい」
太監が小鈴を捕らえ、この場から引きずりだそうとする。
「答応さま!」
救いを求めるように、小鈴は慧雪を見る。
「どうかお許しください。もう二度と逆らいません。答応さま! どうか情けを! 宮中から追い出されたら、私は行くところがないのです」
泣き声で訴える小鈴を見下ろし常夜は笑いを刻む。
「宮中に優しさは必要ないのでしょう?」
「小鈴、行くところがないのなら宮中から出すのは許してあげましょう」
「あ、あり……」
「常夜の代わりに、あなたには辛者庫に行ってもらうわ」
「え?」
喜びも一転、小鈴は絶望の表情を浮かべる。
「そんな、あんまりです!」
その後、板打ちで傷を負った小鈴は暁月宮から追い出され、辛者庫に送られた。
「雪答応さま、私のような者に情けをかけてくださり、ありがとうございます」
「常夜、あなたが有能で、細やかな気配りができる女官だと聞いたわ」
「もったいなきお言葉。これからは心をこめて答応さまに仕えさせていただきます。このご恩は一生忘れません」
「常夜……」
慧雪は懐かしさに思わず涙ぐむ。
柱の陰で慈桂はこの様子を見ていた。
その足で慈桂は紅貴妃の元に向かい見てきたことを伝える。
「雪答応が新しい侍女を辛者庫から連れて来た? 常夜ですって?」
紅妃は眉根を寄せた。
「なぜ、雪貴妃の侍女だった常夜が、雪答応に仕えるというの」
紅貴妃は手にした扇で口元を隠して笑う。
「罪人の妃と同じ封号を待つ雪答応と、その罪人に仕えていた侍女。何だかおもしろくなりそうな予感ね」




