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第6話 私のステータス

「きっ、君。もしかして『転生者』なのかい!?」


 その一言を聞いて私は絶叫した。まさかこんな最速で、しかも現地人に転生者である事がバレるなんて思ってもみなかった。


 この世界でそもそも転生者という存在が明るみになっていたこと自体驚きだったが、それ以上に最初から恐れていた不安が一気に私の脳内で錯綜した。

 異端な転生者狩り、拷問処刑、王国に連れ去られ何かしらの苦痛を与えられる。そんな悪い考えが最悪のタイミングで溢れてきた。


 何をされるのかも分からない恐怖で支配されて身動きが取れなくなってしまった。マスターに質問をされてたから、声すらも出せないほど硬直してしまう。


 他のお客も私の事をみんな見ている。下手に動くことも出来ず振り向く勇気もなく、ただそのまま無防備な背中を向けて──



「ててっ、転生者ぁ!? この嬢ちゃんが? すげぇ!!」


「……あれっ?」



 もうこの世界にやって来て何度目なのだろうか、固まったままでいる私の耳に予想外の反応が届くのは。


「初めて転生者見たぜ……」


「思えば黒髪で背のちっちゃい人間って、まんま転生者の特徴じゃねぇかよおい」


「てかそれなら、嬢ちゃんはこの村で一番最初に来てくれた転生者ってことじゃねぇか!」


 客人達は私が転生者だと分かった瞬間、更に色めきだって私のことを見てきた。興奮した彼らは私の話で大いに盛り上がっていた。


「もしかしてあんなに可愛いのも転生者だからか?」


「違いねぇ、そうに決まってらぁ。ありゃ王都にでも言ったら皇族達から求婚されてもおかしくねぇほどのべっぴんさんだぁ」


「にしても転生者だったんならエマちゃんに拾われて運が良かったなぁ。あれ多分、7つぐらいの子だろ? こっち来てから何事もなくて良かったな……」


 まるで芸能人にでもなったようで少し、というかかなり恥ずかしかった。

 ただ本当に安心した。ある意味、悩みの種だったことがこんな序盤で解消されたのだから。ましてや出迎えてくれた時以上に大喜びしてもらえたのが何よりも嬉しかった。


 安堵したせいで体の力が抜けていき、私はカウンターに顎を乗せつつだらんと肩を下ろした。


「よ、良かったぁ……転生者でも迫害されなくて」


 私が安心して座っていると向かいにいたマスターはハッと気がついたように肩を上げて、オロオロしながら私に何度も頭を下げながら謝ってきた。


「あっ、すまない! 私も初めて会ったものだからついね……不快にさせてしまったようだ。申し訳ない」


「ああそんな、大丈夫ですよマスターさん! マスターさんや皆さんが良い方達で良かったですし」


 人から謝られるということに慣れていないため、私はマスターにどう対応すれば良いのか分からないまま慌てふためいていると今度はエマの方が私に謝ってた。


「ごっ、ごめんね奏! 私、てっきり家出してきた子なのかと思っちゃってて……」


 2人から彼らに非のないことで謝罪されて段々と罪悪感すら抱き始めた。


「気にしないでエマちゃん! 大丈夫よ。それに──」



 その時、少し言葉が詰まってしまった。()()()()を今ここで言うべきか迷って、少しだけ私の声が途切れてしまった。

 胸の辺りで黒いモヤが渦巻いて心臓を締め付けるような感覚に襲われ、嫌な感情が蘇りそうになってしまう。


 ただ、それは今思い出すようなことでは無い。そう思った私は下唇を軽く噛んで血の匂いを嗅いでから、一呼吸おいて冗談交じりの返答をした。


「前の世界から転生して来たんだから、ある意味家出とも言えるし」


 下手くそな笑顔で取り繕おうとしたその時、魔石が青く点滅した。光を発した後に魔石はホログラム装置のように宙で小さくステータス画面を展開した。


「あっ、魔石鑑定の結果が出たよっ、て──うわあぁぁぁぁぁぁ!!」



 そのステータスを見たマスターは声をひっくり返して驚いた。その反応を見て期待感を持った男達の視線も魔石に全て集まった。


「けっ、結果はどうでしたか?」


 この反応はもしかしたら良い結果が出たのかもしれない、そうであって欲しい。そう願いながら私はマスターに結果を問う。

 マスターは震えた声でステータス画面に表示された情報を開示していく。


「身体能力と魔法適正は少し高いが、平均的なんだ。だけど……剣技のレベルが信じられないほど高い!」


 私と酒場の皆は更に期待で胸を膨らませてマスターの反応を伺った。マスターは何回か読み直した後に記載されている文を読み上げる。


「身体能力が伴わないハンデはあるけど、ここには奏ちゃんがベルゼビュート王国の近衛騎士レベルの強さと出ている」


 それを聞いた周りの者達はジョッキやテーブルをひっくり返すほどに驚き、サプライズでも受けたかのように大騒ぎし始めた。

 ただこの場で私だけがイマイチピンと来ていなかった。


「えーっと、エマちゃん。それってどれぐらい凄いことなの?」


「この国の騎士は剣が強いことで有名なぐらいの実力者達なの! 奏は多分、剣を振るだけで大型魔獣も倒せるぐらい強いってことだよ……」


「ええぇぇぇそんなにぃ!?」



「しっ、しかもそれだけじゃない。ずば抜けてはいないが魔法も訓練次第で中型魔獣討伐レベル、空を長時間浮遊できるユニークスキルまである!」


 ユニークスキルは私の予想通りのものだった。さっきまで飛べていた時点でこれは察しがついていたが、改めて聞くとやはりとんでもない事だった。


「そして何より、成長性が1番高いんだ! 特に身体機能や魔法なんかは1番伸ばせるよ──奏ちゃん?」


 マスターは私の方を見ると、顔色を変えた。不思議そうな目をして私のことを見つめている。エマも、どうしたのと声をかけて私のことを何故か心配していた。


 その理由はすぐに分かった。私は無意識の内に泣いていたのだ。

 思考より感情が先に進み過ぎて私自身も理解が追いつけなかったが、私はどうやら喜びの涙を流していたようだった。


「え……あっ、ごめんなさい。その、嬉しくて」


 心配そうに皆から見られる中、涙を拭いながら掠れた声で大丈夫だと伝える。

 ただあまりに喜ばしいことが多すぎて、涙は収まるどころかむしろ勢いを増して目から溢れ出していた。


 申し訳なさからさっさと止まってくれと思いながら、必死になって涙を取っていく。


「私、こんなに出来ることがあるんだって、思ったら……嬉しくて、ごめんなさい」


 涙で視界が悪くなってきていたその時、突然私の体がフワッと持ち上がった。


「わっ、えっ……ふぇ!?」


 瞬きをしながら周りを見ると、後ろで騒いでいた男達が私の体を持ち上げて店の中央まで運んでいたのだ。


 彼らは私に気を遣ってくれたのか、私を励ますようにニッコリと満面の笑みを浮かべて私の顔を見ていた。


 すると突然、彼らは私の体を上に投げ出した。


「うわぁぁぁ!!」


『バンザーイ、バンザーイ! 奏ちゃん、バンザーイ!!』


 何か打ち合わせた訳でもないのに彼らは一丸となって私を胴上げしてくれていた。その様子をエマとマスターは穏やかに笑いながら見守っていた。


 感動の涙は収まり、代わりに笑いと喜びが私の胸から飛び出してきた。手足を広げて、されるがままに私は胴上げで何度も宙を舞った。


「あははっ、バンザーイ! バンザーイ!!」



 転生から数時間しか経過していないが、私はこの世界で1つの事実を見つけた。それは言葉で言い切れないほどに素晴らしいこと。


 この世界は、幸せで溢れている。

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