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37.連携イベント(ある冒険者達③)


 草原エリアでは、イベント用素材となる“発酵ゼリー”を求めて、多くの冒険者たちが迷宮一階層へと挑んでいた。


 中でも一際目を引くのは、重厚な鎧に身を包んだベテラン冒険者・佐伯と、その弟子たち、倉田、石原の三人組。

 彼らは中央の小高い丘付近でスライムを数体討伐した後、回収したゼリーを革袋に丁寧に詰めていた。


「倉田、石原、袋の縛りはしっかりと。せっかくのゼリー、こぼしてみろ、ただじゃ済まんぞ」


「は、はいっ!」


「もう溢れてますけど……」と倉田が苦笑するが、石原は額に汗をにじませながら袋の口を固く結んだ。


 その時だった。周囲の草を踏み割る、重たく鈍い音が近づいてくる。


「前方から何か移動してきます。それも複数!」


 倉田の声に、佐伯の表情が一気に引き締まった。


「……甲殻アルマジロの群れか。あれは、転移ポイントへ向かう道だな……塞がれたか」


 南の出口、二階層へ移動するための転移ポイント。そこへ至る道が群れに占拠されていた。


 一方、迷宮の管理室。モニターに映るその一幕を、紅葉が眉を寄せながら見守っていた。


「正面から突っ込むなんて……無茶だよ、あの人数で」


「しかし、他ルートは現在ファイアウルフの縄張りに接しています。撤退するには、最も敵の数が読めるこちらが安全かと」

 伊東が端末をタップしながら、補足する。


 その隣で、カーバンクルのさくらが耳に付けたインカムを揺らしつつ、ピコピコと操作していた。


「熱源反応、予想どおりですの。甲殻アルマジロ、5体。うち1体は特大型ですの」


「倉田ちゃんたち、巻き込まれないかな……ああ、でも動いた」


 紅葉は、直接顔を合わせていないが、久しぶりに見る同級生達(倉田、石原)に密かにエールを送っていた。


 迷宮草原――


 アルマジロたちの甲殻がごりごりとぶつかり合いながら、回廊のような隊列を組む。完全に包囲された形だった。


「倉田、石原。目くらましと打撃を連携する。無理するなよ。こちらが怪我をしては、ゼリーを運びきれん」


「「了解ッ!」」


 石原は魔導紙から《閃光の符》を引き抜き、佐伯の号令とともに地面へ投げつける。

 閃光が弾け、視界が白く染まる。その隙に佐伯は盾で1体のアルマジロを押し返かえしていた。


「石原、左へ回り込め! 包囲網を崩せ!」


「いける……!」


 石原の一撃が見事に脚部を打ち、アルマジロの隊列が一部崩れる。その瞬間を見逃さず、佐伯は叫んだ。


「今だ! 南東ルートへ抜ける!」


 三人は一斉に包囲網の隙間をすり抜け、茂みの斜面を滑るように駆け下りた。


 管理室では、さくらが大きく目を見開いていた。


「すごいですの……今の突撃、まさに“突破”でしたの! 佐伯さんの盾、惚れ惚れしますの!」


「ちゃんと仲間の安全を見ながら、極力殺さずに道を作ってる……流石だね」


 紅葉が息をつきながら、再び画面に目を戻す。

 画面には、荒い呼吸をしながらも、ゼリー袋を落とさずに握りしめる石原の姿が映っていた。


「……ああいう傷だらけになっても、必死に守ろうしている姿は、こうぐっとくるよね」


「彼らのようなチームが“フェア”に価値を与えてくれるのです。安全に食材を運んでくれる冒険者がいるからこそ、運営側も料理を提供できる」


 伊東の静かな言葉に、紅葉は頷いた。




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 甲殻アルマジロを突破して、無事二階層にたどり着いた三人は、まだ蒸気の立ちこめる屋台通りの前に立っていた。

 様々なテントが立ち並び、スライムの発酵ゼリーを使った限定料理の香りが、辺り一帯に漂っている。


「……あれ? もしかして俺たち“一番乗り”?」


 石原が額の汗を拭いながら言うと、倉田も破顔した。


「まさか本当に突破できるとは思わなかったよ……。でも、腹減ったなぁ……」


 すると、最奥のテントから小柄な料理人風の男が手を振って駆け寄ってきた。


「おおっ、お見事お見事! 発酵ゼリー、ご持参ですか? そりゃあ、こちらの“スライム・チャウダー”で決まりですな!」


 料理人は手際よくゼリーを受け取り、隣の寸胴鍋にそのまま投入する。

 ほどなくして、クリーム色のスープから柔らかな湯気とともに甘酸っぱい発酵の香りが立ち上った。


「うわ……これがゼリー……? ゼリーっていうより……とろみのあるスープ?」


 真白がスプーンですくってひと口。


「……なにこれ……! あったかくて、ちょっと甘くて、でも後味はスッキリ……すごいうまい!」


「お代はいい。怪我を押して運んできてくれたんだろう? それが一番の対価だ」


 佐伯は店主に小さく礼を言い、ゆっくりとスープを口に運ぶ。


「……胃が落ち着くな。こういうのが2戻る理由"になるのかもな」


 一方、迷宮管理室。

 モニター越しに三人の様子を見ていた紅葉は、ふっと肩の力を抜いた。


「ふふっ、いい顔してるね。無事に帰って、ちゃんと笑ってる」


「やっぱり、あの香りには抗えませんの。さくらも、ちょっとだけ味見したいですの……」


「すでに屋台から取り寄せています。あとで試食分、温めますよ」


 伊東がクールなまま手を動かしながら答える。


 画面の中では、倉田がスープの空きカップを抱え、空を見上げていた。


「……来てよかったなぁ……って、今思ってます。ぜったい、また来る」


 それを見届けながら、紅葉が小さく呟いた。


「……おかえり。また来てね、って言えるそんな迷宮もいいかなってこの頃思うよ」


 ほんのりと温まった管理人室には、スライムゼリーのスープよりも柔らかい、あたたかな空気が流れていた。

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