表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/43

32. 【来夢迷宮】草原を焦がす者たち

―ファイアウルフの誇り―

 ――視界に広がるのは、風が踊る果てなき草原。


 地平の彼方を仰ぎながら、俺は鼻先で微かな焦げの匂いを嗅ぎ取った。人間が近づいている。火薬と鉄の臭い。あと、剣の油。


(また、俺たちの縄張りに来たな……)


 俺――**紅牙こうが**は、群れの長。ファイアウルフの長兄として、この草原に生まれてからずっと群れを導いてきた。


 ここは俺たちの狩場。守るべき場所。誰にも好き勝手はさせない。


 俺たち兄弟たちは五頭。それぞれ炎の属性を持ち、連携して敵を追い詰める。単独でも強いが、群れになればそれは災害。赤い稲妻。燃える嵐。


(奴らに教えてやる。火を舐めた者がどうなるかを……)


■迷宮管理室・モニタールーム

「出たわね、ファイアウルフ群……」


 紅葉が草原エリアを映しているモニターへ視線を移すと、赤い影が風と共に現れていた。


 燃える鬣を揺らし、草を焼きながら駆ける五体のウルフ。目の前に現れた冒険者パーティに向かって、一瞬で包囲の陣を敷く。


「……紅牙、動き早いですの」

「群れで囲んで、戦闘開始後10秒以内に“動ける個体”を削りにいくごわす。……さすが熟練でごわ」


 ウンギョウが感嘆の声を上げている。


「いつ見てもすごい迫力だね。迷宮の外では遭遇したくない集団ね」


 紅葉のつぶやきに同意した従魔達は頷く。


■草原エリア・現地

 炎の風が唸りを上げた。紅牙の咆哮を合図に、群れが散る。火球を吐く者、足元から火柱を立てて敵を跳ね上げる者。


 敵は四人組の冒険者。盾役、回復、斥候、そして魔法使い。


(こいつら……油断がないな)


 紅牙は地面を蹴ると同時に、魔法使いの詠唱に火球をぶつけた。狙いは相打ち――術者を黙らせること。


 敵の盾がすぐに割り込んでくるが、次の兄弟が側面から足を狙う。そこにまた別の兄弟が火の息を吐きつける。


 そう、これが俺たちの戦い。一匹が道を作り、もう一匹が喰らう。最後に炎が全てを焼き尽くす。


(俺たちはただのモンスターじゃない。炎の意志だ。草原の守り火だ)


 炎は、何かを燃やすだけじゃない。照らすものでもあり、境界を示すものでもある。

 この草原に入っていいかどうか――それは俺たちが、牙で決める。


■迷宮管理室・観察中

「……すごい連携だねこれわ。ただのモンスターって扱いじゃもったいないわね」


 紅葉はモニター越しに紅牙を見つめながら、どこか感心していた。まるで訓練された軍隊。いや、本能で組まれた完璧な包囲戦術。


「紅牙って名前、誰が付けたんでやんす?」とウンギョウ。


「さくらだったよね 名づけは」

「はいですの。彼の者に初めて遭遇したとき、燃え盛る焔が何だか赤い牙だなと思えたんですの」


「……詩人だな、姐さんは」


「ウンギョウ照れますの!」


■再び草原エリア

 最後の一撃――炎の旋風が冒険者たちを包む。しかし、盾役がそれを庇い、パーティは撤退した。全滅は免れたが、傷だらけで走り去るその背中。


 紅牙はそれを追わない。いや、追ってはいけないと本能で知っている。


(勝てばいいわけじゃない。帰すこともまた、俺たちの“狩り”だ)


 この草原が試練の地であり、恐れと成長の境目であるために。

 だから、今日もまた、牙を研ぎ、炎を纏う。


(次に来る時は、どう成長している? 見せてみろ、人間)


 空を仰ぐ。炎の鬣が、草原を揺らした。


◆補足データ(モニター表示)

モンスター名:ファイアウルフ(紅牙)

種族ランク:B

属性:炎

備考:群れ単位で連携戦闘を行う知的存在。リーダー格の紅牙は判断力・指揮能力共に高い。

主な行動パターン:包囲・分断・連携ブレス/斥候狙い・後衛叩きに特化

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ