32. 【来夢迷宮】草原を焦がす者たち
―ファイアウルフの誇り―
――視界に広がるのは、風が踊る果てなき草原。
地平の彼方を仰ぎながら、俺は鼻先で微かな焦げの匂いを嗅ぎ取った。人間が近づいている。火薬と鉄の臭い。あと、剣の油。
(また、俺たちの縄張りに来たな……)
俺――**紅牙**は、群れの長。ファイアウルフの長兄として、この草原に生まれてからずっと群れを導いてきた。
ここは俺たちの狩場。守るべき場所。誰にも好き勝手はさせない。
俺たち兄弟たちは五頭。それぞれ炎の属性を持ち、連携して敵を追い詰める。単独でも強いが、群れになればそれは災害。赤い稲妻。燃える嵐。
(奴らに教えてやる。火を舐めた者がどうなるかを……)
■迷宮管理室・モニタールーム
「出たわね、ファイアウルフ群……」
紅葉が草原エリアを映しているモニターへ視線を移すと、赤い影が風と共に現れていた。
燃える鬣を揺らし、草を焼きながら駆ける五体のウルフ。目の前に現れた冒険者パーティに向かって、一瞬で包囲の陣を敷く。
「……紅牙、動き早いですの」
「群れで囲んで、戦闘開始後10秒以内に“動ける個体”を削りにいくごわす。……さすが熟練でごわ」
ウンギョウが感嘆の声を上げている。
「いつ見てもすごい迫力だね。迷宮の外では遭遇したくない集団ね」
紅葉のつぶやきに同意した従魔達は頷く。
■草原エリア・現地
炎の風が唸りを上げた。紅牙の咆哮を合図に、群れが散る。火球を吐く者、足元から火柱を立てて敵を跳ね上げる者。
敵は四人組の冒険者。盾役、回復、斥候、そして魔法使い。
(こいつら……油断がないな)
紅牙は地面を蹴ると同時に、魔法使いの詠唱に火球をぶつけた。狙いは相打ち――術者を黙らせること。
敵の盾がすぐに割り込んでくるが、次の兄弟が側面から足を狙う。そこにまた別の兄弟が火の息を吐きつける。
そう、これが俺たちの戦い。一匹が道を作り、もう一匹が喰らう。最後に炎が全てを焼き尽くす。
(俺たちはただのモンスターじゃない。炎の意志だ。草原の守り火だ)
炎は、何かを燃やすだけじゃない。照らすものでもあり、境界を示すものでもある。
この草原に入っていいかどうか――それは俺たちが、牙で決める。
■迷宮管理室・観察中
「……すごい連携だねこれわ。ただのモンスターって扱いじゃもったいないわね」
紅葉はモニター越しに紅牙を見つめながら、どこか感心していた。まるで訓練された軍隊。いや、本能で組まれた完璧な包囲戦術。
「紅牙って名前、誰が付けたんでやんす?」とウンギョウ。
「さくらだったよね 名づけは」
「はいですの。彼の者に初めて遭遇したとき、燃え盛る焔が何だか赤い牙だなと思えたんですの」
「……詩人だな、姐さんは」
「ウンギョウ照れますの!」
■再び草原エリア
最後の一撃――炎の旋風が冒険者たちを包む。しかし、盾役がそれを庇い、パーティは撤退した。全滅は免れたが、傷だらけで走り去るその背中。
紅牙はそれを追わない。いや、追ってはいけないと本能で知っている。
(勝てばいいわけじゃない。帰すこともまた、俺たちの“狩り”だ)
この草原が試練の地であり、恐れと成長の境目であるために。
だから、今日もまた、牙を研ぎ、炎を纏う。
(次に来る時は、どう成長している? 見せてみろ、人間)
空を仰ぐ。炎の鬣が、草原を揺らした。
◆補足データ(モニター表示)
モンスター名:ファイアウルフ(紅牙)
種族ランク:B
属性:炎
備考:群れ単位で連携戦闘を行う知的存在。リーダー格の紅牙は判断力・指揮能力共に高い。
主な行動パターン:包囲・分断・連携ブレス/斥候狙い・後衛叩きに特化




