23. 階層を増やしました
うわぁ緊張するなぁ……
紅葉の姿はとある会場の控え室にあった。
先程から手のひらに、人と書いては飲み込むという作業を繰り返している。
「山野様お時間です。そろそろ出番がきますのでご準備お願いします」
「はい」
「私が合図しましたら、こちら側から壇上へお願いいたします」
案内係の女性が指さす方向を確認して頷く。
開業していつの間にやら半年が経っていた。
自慢話になってしまうが経営は順調そのものでこれといった問題も起きていない。
その間リピーターとなった冒険者達から階層の増設要望が届き始め、ポイントも十分貯まったところで満を持してのお披露目と相成った。
今まさにオープンセレモニーというイベント中である。
「それでは、迷宮管理人の山野紅葉さんから、お言葉を賜りたいと思いますので、皆様温かい拍手でお迎えください」
「拍手~!」
と、拡声器を通して伊東さんが会場を盛り上げている声が聞こえてきた。
あの人は相変わらずだな……と思っていたら直ぐに出番がやってきた。
係の女性に促され舞台袖まで歩を進める。
とりあえずここで深呼吸を一回。何となく落ち着いた気がする。
紅葉は腹を括り緊張で顔を引きつらせながらも伊東の元へ向かって足を動かした。
壇上に上がるとパチパチパチと会場に拍手の音が広がって、後方の席から、『ドンドンパフパフ』と何やらラッパと太鼓のような音も飛び出してきた。
「よっ管理人さん待ってました!」
「紅葉ちゃんありがとー」
「紅葉ちゃん太っ腹!」
すこぶるいい感じの声援が前方から聞こえてきて、馴染みの常連さん達を見つけるとつい手を振ってしまっていた。
「こほん」
誤魔化し気味に咳払いをして受け取った拡声器に口を寄せる。
「本日は遠いところお集まりいただきまして誠にありがとうございます。かねてから皆様のご要望が多かった階層増設について前向きに検討しまして、来夢迷宮に三階層を無事オープンするに至りました。」
「一味違う階層に仕上がったと思います。グループでよりお楽しみいただける仕様になっていますので、どうぞ奮ってご参加ください」
挨拶が済んでお辞儀をする紅葉へ割れんばかりの拍手が贈られた。
壇上から降りて次に行うのはテープカット。
奮発しとりあえず見栄え重視で用意したテープに挟みを入れる。
ここでも拍手喝采だった。興奮のるつぼとはこのような状況のことをいうのかも。
来夢迷宮三階層に増設したのは合戦場である。
理由は単純に管理人紅葉は時代劇好きだったから。
集団戦なんて血が騒ぐし楽しそうじゃないというノリで……
ここまで進んだら残すはメインイベントのみ。
新階層を体験してもらう冒険者達とその様子を来場者に楽しんでもらう手筈となっている。
一旦休憩時間を挟むことにして、従魔達にも協力してもらいドリンクも付けた軽食を来場者達へ振舞う。
可愛らしい従魔達に当てられてキャッキャウフフの人だかりもあったりして、特設会場付近はちょっとしたお祭り会場だ。
休憩時間が終わると紅葉は伊藤と共にゲート前に移動した。
新階層を体験するグループはあらかじめ抽選で決めていたため、参加グループを激励してゲートから見送るためだ。
特設会場に設置した大型モニターへ次々と現れる迷宮の様子に皆一喜一憂だった。
もちろん中で暴れまくる冒険者達の活躍する姿も大いに盛り上がった。
イベントは大成功だった。
中でも食いつきが良かったのは、意外にも地元住民のおいちゃん達だった。
かなりの心を鷲掴みにしたと言っても過言ではない。
キラキラした熱視線浴びたんだよ…… 私ってば叔父さんキラーだったかもしれない。




