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20.仔うさぎと冒険者達

「あの仔達諦めちゃったかな?」


 仔うさぎ達のデビュー戦を楽しみにしていたんだけど……

 当の本人達は草むらの中へと消えてしまった。


 実際に冒険者と対峙したら怖気づいてしまったのかもね。


「いえマスター。諦めるのはまだ早いでごわす」


 そう言いながらアギョウが画面の一角を指差す。


「あっあんなところにいる」


 指摘された草むらへ目を向けると、ピンク色の丸い尻尾が等間隔でぴこぴこ動いているのが見えた。


「お手並み拝見というところですかね」


 隣を見ると、伊東さんは缶コーヒー片手に少々前のめり気味になっている。

 

 どちらからともなく、無言で頷き合い前方の画面へ視線を戻す。


 頭の中でゴングが鳴った……


 ピンク色の尻尾が一斉にばらける。


 上空から見下ろす視点で見ている紅葉達からはばっちり見えているが、冒険者達は恐らく気づいていない。


「というか……まだ言い合いを続けているわね冒険者達」

 

 一応ダンジョンの中ですが、周囲を警戒しなくていいのかね……


 三つのピンク尻尾は大きく迂回して、冒険者達の背後に回った。


 三方から仔うさぎ達に囲い込まれた形だ。


「ザザザザ」


 冒険者達に向かって草むらが一直線に割れて行くのが見える。


「キャー痛い」


 叫び声とともに修道女の女の子が派手に転がった。


「ミキどうした!」


 草むらから飛び出したピンクの物体が、屈んでいた修道女に体当たりをくらわし、草むらへと逃げた。


「いて、こいつ」


 修道女のミキとは反対側に立っていた健斗も、脛を蹴られうずくまる。 

 

 仔うさぎ達は的確に相手にダメージを与え、草むらに逃げ込む。


 蹴っては離れ、蹴っては離れを繰り返して、縦横無尽に飛び回り、冒険者達を翻弄して行く。


 あ~あれは無いわ……


 後ろ脚から繰り出される強烈な飛び蹴りを観て、紅葉は無意識に自分の脛をさすった。

 

 立ち上がって態勢を整えたかとおもえば、後頭部にいい蹴りをもらってつんのめる。


 顔面からスライディングした女の子は、背中を何回も蹴られている。


 少年達が手にしていた剣が蹴り上げられ、放物線を描いて草むらへ飛んで行った。


「あちゃー」

「ああなるとお手上げですね」


 モニター前で、思わず紅葉と伊東は声をあげた。

 

 辛うじて立っている少年は、腕をクロスしてひっしに防御しているが、仔ウサギ達の飛び蹴りはかなり強烈だった。


 派手な攻撃ではないが、ダメージは確実に蓄積されるし、地味に痛い。


「「雄吾何とかならないの」」


 メンバーの女性陣から必死な声がする。


「そっそうだな。角うさぎの蹴りはあの通り強力だ。いくら仔うさぎと言ってもな」


「俺と健斗だけならともかく。お前等が避け切るのは無理だろう」


「情けない限りだが、俺達はあの仔うさぎに対して対抗手段がない。盾さえ持っていれば何とかなったが、お手上げだな」


「今日のところは撤退する。反対する奴はいるか?」


 全員が頭を横に振った。

 リーダーの意見に思い当たる事があり過ぎるメンバー達は、其々が苦虫を噛み潰したような顔つきだった。


「ダンジョン舐めすぎてたわ」


 威勢の良かった健斗が、髪の毛をかきむしりながら一言呟いた。


「なら決まりだな。俺達パーティーは撤退する。戻って仕切り直しだ」


「俺がひきつけるから、お前たちは走って逃げろ」


「健斗、ミキたちを守りながら先に行ってくれるか?」


「ああ分かった」

 

「分かったわ」


「了解!」


 そこから先の対応は早かった。


 リーダーを残し、三人は緊急脱出路を目指して走り出した。


 仔うさぎ達もそんな彼等を理解したのか、逃げた三人を深追いすることはしなかった。


 一人残った人間に敬意を示すように、蹴りを集中的に浴びせつつ、逃げやすいように誘導している。


「あの仔うさぎ達賢いですね。残ったリーダーを脱出路に向けて誘導しているようですね」


「ええそんな感じですね」


 一人残った冒険者を、じりじりと追い詰めていく仔うさぎ達。


 上手く誘導されていると少年は気付いているだろうか。

 モニター越しの表情からは読み取れなかったが、防戦一方の少年の姿は緊急脱出路へ消えて行った。


 ともあれ仔うさぎ達のデビュー戦は、完全勝利で幕を閉じた。


 緊急脱出路を経て合流した少年、少女は、口々に「カッコ悪」、「秒殺って、うさぎ舐めてたわ」と悪態つきながらも、再戦に意欲を燃やすのであった。


 

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