18.迷宮管理の一日
午前の予約客が全て迷宮内へ進んだのを確認すると、紅葉と従魔達と伊東の一行は迷宮最深部へと向かう。
入口には満員の立て看板も設置しているから、飛び入りでやって来るお客を心配することもない。
無理に入ろうとした客は、やんわりと外に押し出される仕掛けを施している。
「それじゃ行きますかね」
やや入口から離れた場所の壁に紅葉が手を翳す。
ゴゴゴゴと小さく音が聞こえると壁がスライドして、エレベーターが下りてきた。
操作出来るのは、管理者権限で今のところ紅葉だけとなっている。
エレベーターと言っても、どこかのメーカーが出張って作った物ではない。
迷宮ポイントを消費したが、気が付いたら壁の中に勝手に出来上がっていた。
サッチーからの連絡で便利なものが出来たなと思った。
安全性は折り紙付きと迷宮管理協会が言い張るので、今のところは信用するしかない。
全員乗り込むとエレベーターは、一気に迷宮最深部の制御室へ移動した。
部屋に入ると最初に目に飛び込んでくるのは、壁一面を占拠する大型モニター。
同じ大きさのディスプレイが、いくつも設置されている。
これらは迷宮管理の必須アイテムとして協会から送られてきた。
各ディスプレイは任意の場所を映し出すようになっていて、操作によっては全画面表示のように、一つの画面にして映像を映し出す事も可能である。
部屋に入った紅葉は真っ直ぐに進むと、中央に設置しているちょっと豪奢な椅子へ腰掛けた。
長時間過ごす事を念頭において、疲労を感じさせない高級仕様となっている。
紅葉の横には伊東のためのちょっとお高い椅子も用意されている。
紅葉が座るのを確認すると、伊東もその椅子へと腰を下ろす。
「さくら、全モニターをチェックしてくれる?」
「はい。紅葉様」
カーバンクルのさくらはモニター前に陣取ると、頭にインカムを付け「テステス」と可愛いらしい声を出しながら、右手で手元のパネルに並ぶアイコンを順番にタッチしていく。
それに合わせてモニターに迷宮各所が映し出されて行く。
今はまだ冒険者のいない迷宮内が次々とモニターにアップされる。
モニターの一つに目を向けると、思い思いの装備を付けた冒険者達が映し出されている。
いくつかの集団がまとまっていることからスタート地点と思われる。
「さくら、①の画面を出して、大画面でね」
「はい。紅葉様」
さくらがアイコン①をタップすると、スタート地点の冒険者集団が大画面表示で映し出された。
大画面表示となると、等身大の大きさとなりまるで目の前にいるかのよう。
一団の頭上にアングルが固定されるとポップ画面が現れグループ名が表示された。
最初に迷宮へと入るトップバッターの集団だった。
紅葉が座っている椅子にも、小型のモニターがあって、冒険者グループの簡単なデータをそこで確認することが出来た。
「最近よく来てるグループだね……」
紅葉の覗いている小型のモニターでは、更に個人情報を見る事が出来る。
冒険者達の頭上には名前と設定職業が表示されている。
登録時の名前になるため、偽名も可能だが、本名は必ず紐付けされている。
紅葉であれば、『もみじ(山野紅葉)、迷宮管理人』と見えるはずだ。
迷宮内でルール違反があれば、管理者権限で司法行政に突き出す事も可能である。
その一団は扉前に設置されているモニターを注視している。
モニターには数字が表示され、カウントダウンが始まった。
それに合わせ冒険者達は一斉に声を揃えて『5.4.3.2……』とカウントしている。
「いつ見ても、始まる前の緊張感はいいですね~」
隣の席からボソッと伊東の呟きが聞こえた。
紅葉はそんな伊東に同意して頷く。
「「「「「いち~!!!! 」」」」」
扉が開くと集団は駆け抜けて行った。
後続の集団はそれから少し時間をおいて、同じようにスタートさせ、何回か繰り返し全ての冒険者が迷宮へ吸い込まれて行った。
「アギョウ、ウンギョウ、魔獣達に変わりがないか健康チェックお願い!」
「「あいあいさー 」」
迷宮管理の醍醐味というべき実況中継を堪能しよう。
「あっ伊東さん何か飲みたい物あります?」
紅葉はいそいそと茶菓子と飲み物を用意して、目の前の画面に向き直った。




