17. 紅葉と従魔達の朝
紅葉は朝が弱い。
よくこれで会社勤めが出来ていたなと思えるほど……
「紅葉さま、もう朝なのです。起きるのです」
そんな紅葉を起こす役割は、もっぱらカーバンクルのさくら。
しかしこの可愛らしい声がけで、紅葉が起きる事は滅多にない。
微動だにしない様子を見て、さくらが次にとる手段は額の魔石を輝かせること。
額からキラキラ輝く七色のカラフルビームが発せられ、紅葉の顔面一杯に降り注ぐ。
十回中七回はその眩しさに耐えかねてようやく紅葉は起きるのだ。
だがしかし、今日はこれでも全く起きる気配がない。
さくらは、アギョウ・ウンギョウの狛犬コンビに目くばせした。
「「合点で姐さん!」」
こちらのコンビは力技に走る。
体重に物を言わせた物理的な戦法に切り替える。
机によじ登り、寝ている主人に交互にジャンプ。勿論起きるまで何度でも……
「グウェッ!」
およそ年頃の女性が出す声とは思えない、カエルが潰れたような呻きが聞こえ、ようやく彼らの主はベッドから起き上がる。
「「マスターおはようござんす!」」
「紅葉様、おはようなのです」
「……ああっ……おはよう……皆朝から元気やね……」
アギョウとウンギョウの力技で起きた日は、さすがに紅葉はヘロヘロになってしまうのだ。
グダグダ状態の紅葉を先頭に一向は洗面所へと向かう。
洗面所は、一人と三匹が一列になれるぐらいの大きさがあり、洗面所に届かない従魔達のために、紅葉は踏み台を用意してやる。素直に位置についた従魔達は左側に立つ紅葉を観る。
主が顔を洗い始めたのを確認すると、従魔達も一斉に顔を洗い始める。
従魔達はもとからそんな習慣は持ち合わせてなかったが、とにかく主と同じ事がしたい。
紅葉の真似をして、自分達専用のMY歯ブラシも持っている。
「紅葉ちゃん朝御飯できとうよ」
「はーい、今行くね」
奥の座敷から、紅葉の祖母静子から声が掛かった。
「じゃあ皆んなご飯食べに行くよ」
「ばあちゃんおはよう」
「おばば様、おはようなのです」
「「ばば様おはようでござる」」
「はいはい。皆おはようさん」
祖母への挨拶が済んだら、皆でちゃぶ台を囲んでご飯を頂く。
「「「いただきます!」」」
カーバンクルのさくらや狛犬のアギョウとウンギョウは、基本食事は魔素エネルギーだから、人の様に食べる必要は全くない。
とはいえ、食べても支障はないのでもの珍しさと、主の真似をしたいために食べるようになった。
魔素エネルギーが味気ない気がするようになって、戸惑いを感じるようになるのにそんなに時間は掛からなかった。
それは、従魔達自身でも驚くことであった。
「美味しいですの」
「「うまいでござる!」」
「そーかいそうかい。たんとお上がり」
従魔達の笑顔に、紅葉の祖母静子も満面の笑みで応える。
朝御飯を終え、歯を磨き身だしなみを整えたら、一人と三匹は迷宮に出勤する。
「さくら、アギョウ・ウンギョウ、今日もよろしくね」
「はいなのです」
「「ガッテン承知!」
アギョウウンギョウの返事が毎回変なのは、もう気にしない事にした。
本人達は至極真面目な顔で言っている。
迷宮に着くと、紅葉と三匹は手分けして掃除を始める。
迷宮内は自浄作用が働くから手間を掛ける必要はない。
主に行うのは、受付のカウンター周りと、外の通り道から迷宮入口まで繋がる小道位。
一通り掃除が終わった頃合いで、今日は週一で顔を出す伊東がやって来るのが見えた。




