16.来夢迷宮
紅葉は期限ぎりぎりまで悩んで『来夢迷宮』とした。
考えに考えた挙句で、なんの捻りもないのだけど。
伊東さんに伝えるとライム迷宮ですか……。
と別にこれといって可も無く不可もない、薄い反応だったよ。
当初、色んな所からもっと良い名は無かったのかと突かれたが、候補に挙げられたキラキラしいのは自分らしくないと思った結果だ。
もう名称については触れるまい。走り出したら止まらないぜっと勢いに乗って突っ走ろう。
「来夢迷宮へようこそ!」
「ようこそいらっしゃいませなの」
「「ようこそ、お越しやす!」」
開店してから一週間も経つ頃には、さくら達従魔の接客業も大分落ち着いてきた様子。
紅葉、カーバンクルのさくら、狛犬のアギョウとウンギョウ達は、朝一でやって来たお客様御一行を出迎える。
やってきたお客さんの中には、従魔が接客していること自体が物珍しいらしく、入場手続きの前に彼女達を取り囲んで、ワイワイキャッキャッと異様な盛り上がりが発生することもある。
愛くるしいさくらはもちろんの事、見た目厳ついから結構怖がられやすい、狛犬の『アギョウ・ウンギョウ』達も、「あっ狛犬さんだ」と詰め寄ってくる人達にはタジタジになってたりする。
そのうち、従魔達をモデルにしたグッズを作ってもいいかもしれない……
両目が¥¥になりそうだ。
写真撮影が始まったリして、時間が限られてるのに、いいんか? と毎回思うんだ。
三匹がそんな状態に慣れるのは、まだまだ時間がかかりそうだ。
「おはようございます」
「今日も期待しとるで!」
「どーもです」
「よろしくお願いします」
続々とやってくるお客さん達から声が掛かる。
来夢迷宮は、まだまだ経営が安定していないため、従業員を雇う余裕はない。
対応できる人数に限りがある為、人数制限を設けている。
午前と午後に分けて、しばらくは予約客のみを受け入れる形にした。
午前中のお客が全て迷宮内に入ったのを確認すると、迷宮入口に満員の標識を出しておく。
見た目では分からないが、予約客以外が中に入れないような仕掛けも起動させておく。
入ってきても、やんわりと外に押し出される仕掛けとなっている。
「さて、それじゃ皆行くよ!」
しばらくは従業員を増やす事も出来ないから、当分は一人と三匹でやっていくしかない。
「山野さん。僕を忘れるとは酷いじゃないですか……」
「あっ済みません……別に忘れてたわけじゃないですよ」
嘘です。入場者数をチェックしていた伊東さんを危うく置いてくとこでした……
「伊東さんにはいつも感謝してるんですから、今日も頼らせていただきますよ!」
「笑って誤魔化してもダメですよ。私は地味に傷つきました」
伊東さんは開業するまでの担当者だと思っていたけど、しばらくはアドバイザー的な位置で、週一で顔を出してくれることになった。
殊の外、経営状況が気になるらしく、困った事がないか目を光らせてくれている。
力作業を時々手伝ってくれるのがホントに助かります。




